ラベル ムラマ 村松友視 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ムラマ 村松友視 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2018年11月12日月曜日

2018.11.12 村松友視 『黄昏のダンディズム』

書名 黄昏のダンディズム
著者 村松友視
発行所 佼成出版社
発行年月日 2002.10.30
価格(税別) 1,600円

● 12人(うち,女性2人)の作家,俳優,歌舞伎役者を取りあげ,彼らが備えていた“ダンディズム”の淵源に迫ろうという試み。
 日本の大人の男性がすっかり「ガキっぽくなって」きたことへの反発が動機のようにも読める。いい年寄りが,昔に比べれば今の60歳は若いなどと喜んでいるのだから,たしかにガキ化が進んでいる。

● その12人は次のとおり。
 藤原義江,市川猿翁,山本嘉次郎,植草甚一,古波蔵保好,幸田文,森雅之,佐治敬三,武田百合子,今東光,嵐寛寿郎,吉行淳之介。

● 以下にいくつか転載。
 “自由”と“安物”が大好きで,年をとるにしたがって“新しいもの”が好きになってゆく。この境地こそ,まさに“黄昏のダンディズム”の真髄と言ってよいのではなかろうか。(p82)
 これは平成五年『婦人公論』四月号,すなわち古波蔵さんが八十三歳の折の文章だが,もはや“黄昏”までも武器にしはじめたようなセンスにあふれている。(p99)
 私は,東宝のプロデューサーの貝山さんから「狙撃」に森雅之を起用すると訊いたとき,なぜ快哉を叫んだのだろう・・・・・・そのこところを辿り直してゆくと,日本の大人の男性から森雅之がそなえているような魅力が,すっかり失せてきたという実感が根拠だったのではなかろうかと思った。日本の大人の男性が,あの頃からすっかりガキっぽくなってきていたにちがいない。(p131)
 なにかを求めて,いつもなにかを追いつづけていた彼(森雅之)の気持ち,その気持を舞台では出しきれずに,だから彼は芸談となるとそれからそれへと際限がなかった。しかし芸談はついに芸談である。それは実りのない花のようなものである。(小沢栄太郎 p134)
 百合子さんの文章は何しろ新鮮だった。“文章道”にとらわれていないばかりでなく,文章の内面から確固とした才能が滲み出てくる,不思議なテイストだった。私は,オリジナルな才能とはこういうことを言うのではないか,と思った。(p167)
 今東光の生涯を辿り直せば,そこに卒業笑魚や免状と無縁の学究精神が,鬼気迫るほどにあふれていることに気づくのである。(p190)
 間近で会った吉行さんは,“いい男”というよりも“立派な顔”として私の目に映った。若い頃のように色気が表面に滲み出ることなく,穏やかさがただよっているせいかもしれなかった。(p216)
 吉行さんの席の下はタバコの灰だらけになったものだった。話に乗ってくると,吉行さんは喫っていたハイライトの先の灰を,せせこましく落としつつける。(p221)
 “タクシーの運転手恐怖症”“スピーチが超苦手”“タバコの灰”“野太い声”それに“せっかち”というのは吉行像の死角だ。(p222)
 井原西鶴『好色一代男』の現代語訳の連載中,私は何度か吉行さんのセンスの芯に触れたという思いを味わった。吉行さんは古典の現代語訳をするさい,想像以上に資料を調べ緻密な仕事をするタイプだった。それは“病的”に近い執着力を感じさせ,読解力にも鋭いものがあったが,ある瞬間,調べぬいた事柄をポンと切り捨てる度胸もあった。対談にさいしても,馴染みの相手だからと無手勝流でいこうなどとはいっさい思わない。その日のテーマをきっちり絞り,相手を調べぬいて出向くのだが,現場ではそれにこだわることなく,話の流れに沿って遊んだものだ。(p224)

2014年5月23日金曜日

2014.05.23 村松友視 『銀座の喫茶店ものがたり』

書名 銀座の喫茶店ものがたり
著者 村松友視
発行所 白水社
発行年月日 2011.07.10
価格(税別) 1,800円

● 「私は,ゆったりと“銀ブラ”をこなすレベルでもなく,銀座に行きつけの喫茶店をもつコーヒー通でもない。銀座という呼称やグレードに対して,いささか腰の引けるタイプでもある」(p9)と書いているけれども,これはもちろんある種の矜持をこめたものだろう。
 行きつけの喫茶店はなくても,行きつけの鮨屋や料理屋や酒場はあるに違いない。本書の文章のそこここから,著者と銀座の長い関わりがうかがわれる。

● 46の喫茶店を訪れて,訪問記を「銀座百点」に連載。それをまとめたもの。各店の特徴や歴史,店構えや店内に漂う空気を捉えて,46通りのほめ方をしている。
 よくもこれだけ繰りだせるものだ。脱帽のほかはないプロの技だ。

2014年4月11日金曜日

2014.04.10 村松友視 『帝国ホテルの不思議』

書名 帝国ホテルの不思議
著者 村松友視
発行所 日本経済新聞出版社
発行年月日 2010.11.09
価格(税別) 2,400円

● ホテルにはときどきお世話になる。手っ取り早く快適さを味わいたかったら,ホテルに行くのがいい。観光地のリゾートホテルではなく,都会のシティホテル。
 余計なものがなく,スッキリ片づいている部屋。至れり尽くせりのサービス。美味しい食事。プールもサウナもいつでも使える。
 オープンスペースに置かれている椅子に腰をおろして,持参した本を読む。世の中にこれほどの贅沢があるだろうか。
 これで明日が来なけりゃ最高だ。明日は敵だ。とか思うわけですよね。必要なのはお金だけ。ホテルは天国だ。

● 「銀座療法」という言葉がある。いや,ないけど,ぼくが作った。
 平日に銀座を歩くと,エネルギーをチャージできる。休日はお上りさんで埋まるわけだから,あくまで平日。 背筋を伸ばしてくれる街だと思う。シャキッとした人が多いしね。もし仕事で大きく自信を損なうような出来事に見舞われたときには,銀座療法がいい。銀座を無目的に歩く。その日は帝国ホテルに泊まる。これでだいぶ回復できる。
 ただし。懺悔するけど,帝国ホテルには泊まったことがないんですよ。敷居が高すぎる。

● 宿泊費はペニンシュラとかパークハイアットとかマンダリンオリエンタルの方が高いのかもしれないけど,帝国ホテルは別格というイメージがある。
 年季の入り方と客質が違うでしょ,的な。小金持ちの若いカップルとか,あぶく銭を掴んだ中年オヤジは似合わないでしょ,的な。あんた,ここに来る前に,もうちょっと頭と品性を磨きなさいよ,的な。
 実際には気安いところもあるのかもしれない。だけど,そういうイメージがあって,なかなか帝国ホテルには近づけない。

● その帝国ホテルの実力を従業員への取材を通してあぶりだそうとしたのが本書。読みごたえがある。多くのセクションにプロがいる。明日は敵だなんて言ってるふぬけたやつに読ませてやりたい。
 プロが育つ風土があるんでしょうね。それについていけない人は辞めていくんだろう。
 ホテルって従業員の勤続年数が短い,人材は使い捨て,いろんなホテルを渡り歩きながらボロボロになっていく,っていう負のイメージもぼくの中にはあるんだけれども,それだけで見てしまうのはあまりに幼稚なんでしょうね。

● 村松さんの文章だから,文章そのものも味わえる。たとえば「そんな各セクションの縫い目に生じる,見えにくい小波に眼差しと神経を向けようという意志が,ロビーマネジャーの発足には込められていたはずだ」(p77)なんてのを読むとゾクッとする。
 以下にいくつか引用。
 苦情を言う人もプライドをかけているだろうから,いったん苦情を口にしてしまうと,あとへは引けないことになりかねない。(p89)
 多用なカテゴリーのお客が存在し,団体客,バスで到着する人などさまざまだ。それらの人々が,それぞれのレベルの期待をもって帝国ホテルをおとずれている。その全員に同じサービスをすることよりも,それぞれの人の期待値を,まず見抜いて対処するべきだ,と菅野さんは言う。 「それで,それに紙一枚を乗せたサービスをしなさいと」 紙一枚乗せなさい・・・・・・これは見事な言葉だと感服した。(p93)
● ホテル内の会員制バー「ゴールデンライオン」でピアノを弾く矢野康子さん。
 お客さまの中には作曲家だとか,いろんな本物がいらっしゃいますよね。(p155)
● ベーカリーの金林達郎さん。
 パンというのは焼き上がって,小さいパンですと小一時間したところが,たぶんいちばんおいしいんだと思うんですね。それもちょっと冷めごろですね。(中略)ただ,温かいパンとうのはおいしくはないんですけど,うれしいのはたしかだろうと思うんですね。だから,そういう意味でのよろこびがお客さまにあるんだとしたら,温かいパンを切り捨てちゃうのもいかがなものかと」(p199)
 恥ずかしながら,知りませんでしたね。焼きたてが一番旨いんだと思ってましたよ。市中のパン屋に行くと,ただいま○○が焼きたてですとアピールしているしね。
 魚だって鮮度が旨さの基準じゃない。寝かせた方がいいという話を聞く。パンも同じだったのか。

● シューシャインのキンチャン。
 (このお仕事の醍醐味は)靴が栄養をもらってよみがえると言うんでしょうか。愛情をもってシューシャインしたら,靴はかならずそれに応えてくれるんです。靴がそのよろこびを表現している手応えを感じているときの,磨く側のよろこびというのは,ちょっとたとえがたいものがあるんですよ。(p273)
 この境地に至るまでに,どれほどの時間と汗(ひょっとしたら涙も)がこめられていることか。襟を正させるに充分すぎる。

● オペレーターの野尻三沙子さん。
 お客さまってほとんど,第一声にキーワードをおっしゃるんです。その最初のキーワードを絶対に聞き逃さないようにしないと。お客さまとの誤解があったりして,何かのミスにつながるのが,最初のキーワードを聞き逃していたことにはじまっているっていうケースが多いんです。しかもそれ,録音が全部残るんですね。だから私たちオペレーターの通話は,まったくごまかしがきかないんです。(p298)
 過酷だ。言いわけが効かない世界だ。裸の自分を見せつけられる。急速に人を育てるだろうなと思う。しかし,この環境に自分が耐えられる自信はない。たぶん,つまらないプライドを捨てられないだろうと思う。
 そうしたつまらないプライドって,子供の頃に勉強ができたとか,そこそこの大学を出ちゃったよとか,雑な言い方をすると教育が作ってしまっているかなぁ。