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2019年10月20日日曜日

2019.10.20 長谷川慶太郎 『2020 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2020 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2019.10.31
価格(税別) 1,600円

● 長谷川さんの遺著。小気味のいい解説に接することが,これ以後できなくなる。謹んで拝読いたす。

● 現時点でのトピックだと,河野防衛大臣が習近平総書記を国賓で招くことに反対を表明している件。日本がそういう話をした後でも,中国海軍や空軍による領海,領空侵犯的な行為が絶えない。
 この状態で習近平首席を国賓で招くのはいかがなものかと,安倍首相に諫言するとかしないとか。それに対する賛意もTwitterなどにけっこう見られる。骨のある大臣だ,と。
 しかし,そのことだけに固着して他を見ないと,国益を損なうかもしれない。防衛省の部分最適と日本国の全体最適は一致しない。安倍首相が正しい。
 という言い方はもちろんしていないのだが,そう読める箇所もある。簡単に沸騰せず,全体を視野にいれながら部分を掘り下げて,なるほどと思わせる見通しを示す。
 これを読むことができなくなったということなのだ。

● 全体として,アメリカのトランプ大統領に辛口の評価。欧州(取りあげているのはドイツとイギリス)はどうでもいいという感じ。
 かつてのように,中国は近い将来に内戦状態になって大中国はなくなるという予想は撤回したようだ。習近平を評価しているように思えるが,かといって米中貿易戦争において中国に勝ち目はないと見ている。
 アメリカ抜きのTPPを取りまとめて発足させた安倍首相の大局観と手腕を高く評価する。日本外交史に残る成果だと。
 このとき,アメリカが抜けたTPPに何の意味があるのだと突っかかっていた民主党(当時)の役立たずがいたけれども,そういう議員はそもそも長谷川さんの視野には入っていないようだ。
 小池東京都知事が誕生したばかりの頃,小池知事を評価していた,っていうか,石原元知事への反発が小池知事への評価につながっていたのかもしれないが。今,ご存命なら何て言うだろうかね。

● 以下に多すぎる転載。
 実体経済が振るわないなかでの金余りによって世界の株価の乱高下が頻繁に起こるに違いない。(中略)株価の乱高下が起こるとボラティリティ(銘柄の価格変動率)も大きくなる。個人の投資の面から見れば,株式投資で利益を稼ぐチャンスが拡大するということだ。しかし株式投資は投機ではない。(p3)
 中国からの輸入品の関税を払っているのは実際にはアメリカ国民である。(中略)トランプ大統領もそのことを知らないはずがない。だから関税の引き上げは,アメリカのダメージを上回る成果につながるとトランプ大統領は信じているのだ。(p17)
 主要な先端技術を制した国は世界の覇権を握ってしまうので今のうちに中国を叩いておきたい,という考え方がトランプ政権だけでなくアメリカの政界全体の総意となった。(p19)
 5Gで現在,世界最先端を突き進んでいるのはアメリカ企業ではなく中国企業のファーウェイ(華為技術)なのである。(p23)
 ファーウェイは海外での落ち込みを中国国内で補うという方針で進んでいるのだが,ファーウェイ製品は性能が高い割には価格が安い,つまりコストパフォーマンスが高いので海外でも依然として人気がある。(中略)資本主義市場経済の国の企業であれば,市場が求める以上,ファーウェイのスマホを取り扱わざるをえなくなるはずだ。(p45)
 ファーウェイは売上高の10~15%を研究開発費に振り向けている。(中略)だからこそ,コスパの高い製品を開発できるのだ。(中略)表向きにはアメリカ政府のファーウェイ排除に従っているような国においても実際にはいろいろな抜け道を考えてファーウェイ製品を使うはずだ。高い技術力を維持していく限り,ファーウェイはアメリカ政府の妨害が続いたとしても生き残っていけるだろう。(p47)
 中国が大幅な譲歩をしない限り,トランプ政権は現在の方針と施策を最後まで貫いていくだろう。また逆に貫くという姿勢をはっきり示さないと中国からの明確な譲歩も引き出せないと考えている。もちろん追加関税によってアメリカも返り血を浴びるが,アメリカは国力の大きさでその返り血の悪影響も吸収できるはずだ。(p48)
 中国がすぐにアメリカに明確に譲ってしまったら,中国国民はかつての南京条約と同じだと激しく反発するのが目に見えている。(中略)アメリカにあっさりと譲ったら,中国ではこの屈辱の歴史が蘇って習近平政権の基盤も揺らいでしまうという懸念がある。(中略)といって,中国が明確な譲歩をせずにこのまま米中貿易戦争を続けていくことができるかといえば,これも無理だろう。国力では軍事的にも経済的にもアメリカには絶対に勝てない。また,米中貿易戦争が持続すると,中国経済はどんどん落ち込んでいって中国国内がもたなくなる。具体的には失業が急増するということだが,もし失業者が1億人を超えたら中国国民は耐えられなくなるだろう。(p49)
 トランプ大統領は貿易交渉では多国間ではなく二国間交渉を好んでいるが,(中略)トランプ政権の二国間交渉というのは,相対で行う不動産取引のようなものだ。トランプ大統領は不動産業のビジネスマンだった。不動産業では,交渉相手の違う個別の案件同士には関連がない。(中略)しかし外交は違う。交渉相手が違ってもそれぞれの外交案件が密接に関連していることが少なくない。というより,すべての外交案件は多かれ少なかれ関連し合っていると考えておくべきだろう。このような認識がトランプ大統領にあるのかは疑わしい。(p66)
 トランプ大統領はすでに2020年の大統領選のモードに入っていて,支持者にアピールできる成果をできるだけ早く挙げたい。そういう姿勢であればあるほど外交の場では足元を見透かされる。(中略)日本はトランプ政権との貿易交渉で実利を得る基本合意を手にすることができた。まさにトランプ大統領の足元を見透かしたからだ。(p67)
 トランプ大統領は気まぐれだし人権問題にもさほど関心がないので,星条旗を持つ香港市民がトランプ大統領に香港の民主化への支援を期待しても空振りに終わる可能性は高い。(p77)
 トランプ政権の保護貿易体質はやはり今の時代にそぐわない。世界最大の経済大国であり,世界最大の消費市場を持つアメリカめがけて世界中から製品が押し寄せてくる。だが,どの国に対しても貿易赤字は許さないとなると,結局,貿易ができなくなる。それで最も不利益を受けるのはアメリカ国民だ。(p85)
 電力の大量消費時代になった現代では電力料金の安さはさらに重要になってきた。製造業の工場なら特にそうである。というのも最新の工場ではIT化,AI(人工知能)化,ロボット化が急速に進んでいるからだ(p91)
 軍事費を増やして組織改革を実施したからといって人民解放軍が軍隊として本当に強くなったのかどうかはわからない。というのも,今の人民解放軍は実戦経験がほとんどないからだ。(中略)実戦経験のない軍隊が弱いというのは軍事専門家の常識である。(p101)
 軍隊というものはその国の地形的な特色の影響を受けるものだ。中国は広い国土を持つから軍隊も広域に展開することになる。であれば軍隊の隅々まで統制を利かせるのも難しい。(p102)
 中国の歴史を振り返ると,西暦960年にできた宋朝以降,中国の軍隊が外国の正規軍と真正面から戦って勝利したことは1度もない。(中略)歴史は侮れない。予算を増やし組織改革を行い近代兵器を取り揃えたとしても,人民解放軍などそれほど恐れる必要はないのである。(p103)
 基軸通貨の機能維持が世界経済には欠かせないという認識のない人物がアメリカ大統領であってはならない。ところが,トランプ大統領は基軸通貨の機能を維持するという重大な責任を自覚しているかどうか疑わしい。というのもトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を敵視しているからだ。(中略)基軸通貨国である限り貿易赤字になる。つまり,アメリカは貿易赤字を通じてドルという基軸通貨を全世界に提供しているのだ。アメリカの貿易赤字がなくなると世界にドルが供給されなくなって世界経済はうまく動かなくなる。(p108)
 経済規模の小さな国や地域ではGDPに対する輸出比率はきわめて大きい。逆にいうと,経済規模の大きな国はアメリカ,中国,日本に限らず輸出比率は小さいのだ。こうした国では輸出が多少不振でも国内経済への打撃はそれほど大きくない。経済規模の大きな国の輸出が多少不振に陥っても国内経済への影響が小さいのなら,世界経済への影響も限定的だと考えられる。(p124)
 品質の高い製品を生産,販売するためには,素材・部品のところが非常に重要だ。素材・部品の品質が悪いと品質の高い製品もできない。その素材・部品の品質の高さを誇っているのがまさに日本なのである。(中略)それで韓国政府は慌てて,(中略)重要な素材・部品の20品目は1年以内に日本から調達しなくても済むようにする,という開発計画を表明したのだった。1年以内に開発できるような素材・部品なら韓国企業でとっくの昔に完成している。開発するのが非常に難しいから,これまで日本企業に依存してきたのである。韓国政府の開発計画は画餅に終わるだろう(p128)
 日本の技術力の高さはどこかの研究所や大学の研究開発で得られたのではない。中小の町工場の生産現場で小さな工夫を積み上げて少しずつ技術水準を上げていった結果だ。(中略)その主役は一握りの技術者や研究者ではなく現場の工場で働いている人々だ。このような人たちは長い現場経験と深い知識の両方を持っているので,短期間には養成できない人材でもある。だから海外の企業もなかなか追いつけない。(p130)
 トランプ大統領に対しては,気が変わったら何をするかわからないという声もある。(中略)しかしトランプ大統領が新しい日米貿易協定の基本合意をひっくり返すことはありえない。ひっくり返して困るのはもっぱらトランプ大統領のほうだからだ。(p138)
 中国はアメリカとの関係が悪化したときには露骨に日本に接近してくる。今回の日中首脳会談も例外ではない。(中略)日中の関係改善で最も印象的だったのは,習近平総書記が2020年春に国賓として訪日すると決まったことだ。(中略)2021年からのNEV規制でHVもNEVに入る可能性が出てきた。(中略)HVがNEVに入れば日本の自動車メーカーは中国市場で有利になる。NEV規制にHVが入る可能性が出てきたのは,やはり日中関係の改善が大きく作用したからである。米中貿易戦争によって中国は日本に秋波を送るようになってきたわけで,日本政府および日本企業としてはそれを大いに活用し自らの利益にしっかりと結びつけていけば良い。(p139)
 2017年1月に発足したアメリカのトランプ政権は直ちにTPP離脱を断行した。(中略)このとき,残った11ヵ国を取りまとめる努力を行ったのが日本にほかならない。2018年12月,日本の主導でアメリカ抜きのTPPを発効させた。まさに日本の外交史にとって特筆される大成果だ。(中略)日本はアメリカに代わって自由貿易の牽引役になったといえる。(p144)
 今や日本は元号を用いている世界で唯一の国になっている。では元号の意義は何か。やはり「歴史を一括りにしてそれを総括し特徴づける」という点で非常に有効な手段だということである。(p148)
 天皇の崩御に伴う大正から昭和への改元,同じく昭和から平成への改元が暗い幕開けだったのに対し,平成から令和への改元は祝賀ムードに溢れた。(中略)政府の見解では譲位による改元は例外的だとしているが,改元がこれほど明るく幕を開けるのなら,今後は譲位による改元のほうが定着するかもしれない。(p149)
 今後も天皇制は姿を変えてでも存続していかなければならない。それ以外には日本国民を統合することはできない。(p153)
 安倍首相はもうくたびれてしまっていて,自民党総裁の任期が終わるとともに首相も辞めざるをえないということなのだ。(中略)安倍首相が長期政権の延長を望んでいない以上,これから2021年9月までは憲法改正への意欲は衰えないとしても,ほとんどの政策については従来の方針の延長上で展開していくことになる。(p155)
 そもそも上場するのは株式市場から資金を調達するためなので,その企業が運転資金を大きく超える現預金を持っているならば株式市場はいらない。(中略)にもかかわらず1部にとどまるのは,企業としてのプレステージが高いとされる1部にいることそのものが目的化してしまっているからだ。そんな企業では肝心の株式市場の活用も後回しになる。(p168)
 特に大学の文系の授業内容はカルチャー教室で学ぶようなものとそう変わらないし,このネット時代であればほぼ独学できる。ということで,すでに新卒一括採用にこだわらないという意識が出てきている企業では,文系でもプログラミングくらいは教えてほしいと大学側に希望するようになっている。(p179)
 通年採用となると(中略)仕事が実力主義になっていくということだ。この実力主義には3つの特徴があって,まず実力があれば昇進し昇給していくので正規社員と非正規社員の差もなくなる。(中略)次に,実力主義になれば,その実力を評価してくれる企業に移りやすくなるから,大企業間であっても雇用の流動化が促進されていき,中途採用も増えていく。最後に,実力主義では賃金もそれぞれ違うので,一律に呻吟の引き上げを目指す春闘のような労働運動もなくなるのである。(p180)
 これまで日本では大企業の社長の多くが,口では実力重視といいながらも新卒一括採用と年功序列を強く支持してきた。そういう社長こそ年功序列のなかで社長にまで昇進したからである。実力主義だったら社長になれなかったかもしれない。また,実力主義だと経営者としての能力も問われることになる。(中略)大企業の社長もこれまでのようにぬるま湯に浸かってはいられない。(p181)
 トランプ大統領は目立つパフォーマンスが大好きである。(中略)だが,米朝の首脳は板門店で短時間会っただけで,実のある話は何もなかった。(中略)単なる政治ショーに終わったのである。(p196)
 北朝鮮のミサイル発射は完全な国連決議違反だから北朝鮮はますます国際的に孤立していく。また万が一,北朝鮮が核兵器を使いそうな気配になれば,アメリカの前に中国やロシアが動かざるをえず,北朝鮮に対して軍事的な制裁を行うことになるはずだ。いずれにせよ,アメリカ自身は軍事行動を起こすことなく,このまま兵糧攻めを続けて静観していれば良い。(p187)
 本来であれば,北朝鮮から拉致被害の慰謝料を受け取るべきだが,北朝鮮が日本に慰謝料を支払うはずがない。常識的には理不尽でも,拉致被害者を取り戻したいなら,ここは逆に日本が身代金を払わざるをえない。政治ではそういう理不尽なことがしばしば起こる。(p189)
 金正恩委員長も国交回復では韓国と同じ形での資金提供を日本に要求するに違いない。現在の日本の国家予算は約100兆円だから,資金提供は5%であれば約5兆円ということになる。(中略)この投資には日本企業にも大きなメリットがある。というのは北朝鮮は鉱物資源が豊富だからだ。(p190)
 日本政府は,韓国向けの輸出品の規制を強化したのではなく,これまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのだ。(中略)逆にいうと,輸入管理がしっかりしていれば日本政府は必ず許可する。(p194)
 韓国の反発が強いのは1つには,韓国経済もそれなりに大きく発展したにもかかわらず,半導体の素材・部品に象徴されるように韓国経済の生殺与奪の権を握っているのが日本であることに改めて気づかされたからだ。裏を返すと,韓国では経済人を除いて,一般国民はもちろん政治家でさえ,これまで韓国経済に対する日本の影響力の大きさに自覚的な人々は少なかった。(p197)
 日本がこれまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのに,それと引き換えに韓国は重要な軍事情報を得られなくなったわけだ。どう考えても韓国の損である。(p203)
 これまでの日本政府は韓国政府に甘かった。韓国政府が多少無理なことをいっても,結局,受け入れてイズム会うところが日本政府にはあった。それで味をしめて韓国政府は前言を翻すようなことをたびたび行ってきた。だが,さすがに日韓基本条約と日韓請求権協定を守らないのを日本政府は許すわけにはいかない。今後もこの姿勢を堅持していくべきである。(p204)
 イラン軍がイラン政府の統制下にあるのに対し,革命防衛隊はハメネイ師が統制している。しかしハメネイ師が安倍首相と会談する日に日本のタンカーを攻撃するというのでは,革命防衛隊はハメネイ師からしっかりとコントロールされていないことになる。この点でイランの政治体制には緩みがあるのだ。(p207)
 イランがホルムズ海峡を閉鎖できなことをほとんどの国は知っている。有志連合への賛同は各国にまったく広がらず,アメリカも軍事色の薄い「海洋安全保障イニシアチブ」に切り替えざるをえなくなった。(中略)賛同する国があったとしてもおそらくいつの間にか立ち消えになるだろう。(p209)
 多くの日本人はロシアと中国は同等の大国だというイメージを持っているかもしれない。だが,2018年のGDPで比べると,ロシアは中国の12%しかない。(中略)このまま一帯一路に関わっていくと,中国と対等のつもりだったのが,ロシアは中国の影響下に置かれるようになるだろう。(p214)

2017年5月25日木曜日

2017.05.25 長谷川慶太郎 『トランプ幻想に翻弄される日本』

書名 トランプ幻想に翻弄される日本
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2017.05.31
価格(税別) 1,000円

● これまでの著書ではトランプ大統領に期待感を表明していた長谷川さんの様子が,本書ではだいぶ変わっている。
 オバマケア代替法案の提出ができなかったこと,その過程で大統領の手腕に疑問を抱いたことが理由であるらしい。
 また,欧州では右翼が台頭し,EUは解体するのではないかと予想ていたところ,フランスではその事態を免れる結果になった。右翼が政権を握れば,自国の利益を保護するため,保護貿易に走ることになる。各国が保護貿易に走れば,戦争を惹起しやすくなると警告する内容になっている。

● 以下にいくつか転載。
 もはや保護貿易主義の政治によって国内の国際競争力のない産業を守るべきではないし、守れるはずもないのです。(p23)
 安倍政権がTPP11を進めるのは,いずれアメリカをTPPに引き戻すという狙いがあるからですが,TPPに経済的な合理性があるからこそ安倍政権のトランプ政権への発言力も強く,まら,そのためにトランプ政権もいずれTPPに復帰せざるをえなくなるでしょう。(p24)
 円相場を中長期的に見るなら,おそらく円安になるでしょう。なぜなら,やはり軍事的に不安定な北朝鮮問題があるからで,それが重石になって円安傾向になっていくということです。(p26)
 アメリカは今のところ,まず中国に北朝鮮を抑えるように要求しています。この中国が北朝鮮に対して影響力を行使できないなら,アメリカが直接乗り出すでしょう。となると今度は中国の出る幕もなくなります。(p26)
 値段が上がった商品は消費者が買わなくなるため売れ行きがドーンと落ちます。典型的な例が,衣料品チェーンユニクロによる2014年夏の5%,2015年夏の10%という2年連続の値上げです。その結果,ユニクロでは全体の客数が急激に落ち込んで深刻な客離れが起き,当然ながら利益も落ち込みました。(p33)
 このままだと百貨店は青息吐息どころか,消滅していくでしょう。ネット通販で買えるような商品を店頭で高く売っていたのでは誰も寄り付かなくなります。(p34)
 自由貿易体制であるTPP撤退に象徴されるようにトランプ大統領の主張は,第2次世界大戦後70年以上にわたって集積された世界の経済政策を否定するものだといえまう。トランプ大統領が否定を貫こうとすれば世界の経済政策と戦って勝利しなければなりませんが,アメリカの1つの政権だけでそんなことができるはずがありません。(中略)トランプ大統領は追い詰められています。(p38)
 社会保障制度はいったん仕組みができ上がると変えるのが非常に難しいということです。既存の制度にはどれも既得権益層がしがみついています。(中略)社会保障制度の場合,しがみついている既得権益層も最も多いため,変更への抵抗もいちばん激しくなります。(p50)
 授業の中身がお粗末だったり時代に合わなくなっていたりする大学は本来なら淘汰されなければなりません。たとえ古い歴史を持つ大学であっても教育レベルが下がっているなら,整理・統合を進めていくべきです。現状のままで大学授業料を無償化すると年間3兆5000億円の費用がかかります。(中略)政治が現在の大学教育のあり方を見直さないで,安易に大学授業料を無償化をしてしまうのは税金の無駄遣い以外の何物でもありません。(p81)
 TPPが消滅すれば世界は保護貿易へと向かうことになります。保護貿易だと各国の国内経済は一時的短期的には活気づくとしても,貿易量の急減によってすぐに縮小に転じてしまうのです。その結果,各国の国内経済が大幅に落ち込んで,国家間の紛争を招きやすくなります。(p87)
 そもそもIRを成功させること自体が非常に難しいのです。バブル期に全国にできたリゾート施設がほぼすべて失敗したことからも明らかでしょう。(p108)
 有能な経営者は,第1に取引相手の選択に長けており,第2に決断が早い。(p123)
 アメリカは自由主義市場経済ですから,原油生産についても政府が口を挟むことはありません。(中略)一方,OPECでは原油生産をしているのは各加盟国の政府なので,だからこそOPECという形でカルテルを組むこともできるのです。しかしアメリカの自由主義市場経済の力強さにOPECがカルテルで対抗できるはずがありません。(p149)
● 株式投資に関する具体的な質問にも答えている。著者の推奨銘柄は,みずほ銀行,三菱自動車など。IT関連には懐疑的。重厚長大がよろしい。
 この部分からもいくつか転載。 
 今は北朝鮮情勢が緊迫しています。だから株式市場でも一時的には多くの株が下がることがあるでしょう。そのときに割安になった銘柄をキャッシュで購入すればいいのです。(p28)
 本来,大混乱を引き起こすような金融政策は絶対に取ってはいけないのです。その点をモディ首相はわかっていないようですから,モディ首相であるうちはインドへの投資は避けたほうがいい。(p127)
 ただ話題になっているとか,面白そうだというような株に投資するのはやめたほうがいいと思います。だいたいは,いわゆる「ちゃぶついた投資」に陥ってしまいがちだからです。(p156)
 結論から先にいうと,誰にもわかるような中小型の有望な銘柄はありません。(中略)伸びる企業は技術開発に成功するところなのですが,多額の投資をして技術開発に失敗した場合,それなりに規模の大きな企業でないと持ち堪えられません。(p161)

2017年2月4日土曜日

2017.02.04 長谷川慶太郎 『長谷川慶太郎の大局を読む 緊急版 大転換』

書名 長谷川慶太郎の大局を読む 緊急版 大転換
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2017.01.31
価格(税別) 1,400円

● トランプ政権誕生を受けての緊急出版。大統領選挙でトランプの勝利を予想していた人は,圧倒的に少ない。長谷川さんはその代表格。
 この話題について長谷川さん以上に的確に語れる人はいないとなれば,目下は多忙を極めているのではないか。

● 以下にいくつか(というには少し多いが)転載。
 イギリスとアメリカの一般大衆の動きは明らかに既成政治に対する不満と一部エリート層に対する怒りが爆発したと判断したほうが良い。この根本的な理解がなければこれからの社会,政治,経済状況は的確に把握できないといっても過言ではない。 少し余談になるが,アメリカと日本のマスコミや識者のほとんどはこの大衆の動きを極度に軽く見ていたためにブレグジットも大統領選の予測も外してしまっているのだ。これはハッキリ申し上げて予測する側もいつも間にか権力側のスタンスに立っていたということである。(p1)
 ヨーロッパ大衆の反難民感情はますます高まり,右派勢力が台頭し政権を奪取。さらに銀行の不良債権問題がそれに拍車をかけて保護貿易に走り,EUは崩壊の道をたどり始める。(p2)
 クリントン氏も大統領選の敗因としてFBIによる再捜査の公表を挙げている。けれども公務で私用のメールを用いるという不正行為をしたのはクリントン氏だ。要するにアメリカの有権者に不信感を抱かせたのはクリントン氏自身にほかならない。疑われる原因を自分でつくっておきながら,それを無視して大統領選に負けた理由を他に求めるというのは普通の感覚では考えられないだろう。(p21)
 もし今回の選挙が一般投票で行われていたらクリントン氏が勝っていたかというと,それも違う。選挙戦術の立場から言えば,トランプ陣営は既成政治の打破を掲げて選挙人制の下で勝つための選挙運動を行ったからこそ勝ったのだ。この点でトランプ陣営はクリントン陣営よりも選挙のやり方が巧みだった。(中略)選挙人獲得数で圧勝したのだから,トランプ陣営は一般投票で大統領選が行われたとしても同様に,それで勝利できるような選挙運動を展開したに違いない。だから一般投票であろうがトランプ陣営は勝ったはずである。(p24)
 選挙での審判が降りても相変わらずトランプ氏について厳しい見方をしているわけだが,これはアメリカのマスコミに,既成政治を打ち破ろうとするデフレ時代の大きな動きについての認識がないことを示している。時代の変化にマスコミは取り残されているということだ。となると,早晩,今度はマスコミ自身に大きな変革を迫る波が押し寄せる。(p30)
 政治においては経済の重要性が増していく一方であって,むしろこれからの政治で不可欠なのが経営者の感覚なのだ。重要度を増してきた経済が経営者の経験を持つトランプ氏を大統領の座へと押し上げたという見方もできるだろう。(p39)
 トランプ氏が選挙戦を勝ち抜くにあたってツイッターを含むSNSの活用が大きな威力を発揮した。マスコミのほとんどは反トランプだったのだから,トランプ氏はネット戦術によってマスコミをも打ち破ったといえるだろう。(p51)
 今や各国とも法人税率を引き下げて企業を誘致する時代になっているのだ。法人税率が高いとこの国際競争に負けてしまう。(p59)
 自由経済には必ずスペキュレーション(投機)が伴う。逆に言えば,それが自由経済が活力を生み出す大きな源泉となる。(p64)
 アメリカでシェールオイルが採掘される限り,産油国の原産合意など何の効力もないのだ。(p91)
 近代の国家間戦争はエネルギーの取り合いから始まった。けれども今のように石油が余っていたら国家間戦争など勃発するはずがない。反対に平和が維持されていき,デフレもどんどん進行していく。産油国のような資源国は売り手だから,買い手のほうが強いデフレ時代に力がなくなっていくのは当然なのだ。(p92)
 そもそもデフレ時代に大きな政府を続けるのは不可能だ。大きな政府は放漫財政を許容する政府だから,デフレ時代になっても大きな政府のままだと巨額な財政赤字が累積し財政が機能不全に陥ってしまう。(p96)
 行政は規制を作るとそれが守られているかどうかも監視しなければならない。監視のためには人員や設備が必要だから,規制をつくればつくるほど人員も設備も増やすことになってしまうのだ。(p97)
 自由貿易の面ではTPPが包括的で幅が広いのに対し,二国間の通商交渉というのは幅が狭い。(中略)二国間の利害が直接ぶつかってしまうからだ。(p109)
 トランプ氏という人物がどんな能力に秀でているのかと言えば決断力である。この点,クリントン氏は足元にも及ばない。同時に,自分を変えることにも積極的だ。自己変身ができるということで,何にもこだわることなく自分の主張を機動的に変えられる。(p134)
 第二次大戦が完全に歴史となり,その戦後が完了したことで日本の国際的地位はこれからさらに上がっていく。反対に打撃を受けるのは,これまでつねに第二次大戦を持ち出して日本との外交交渉にあたっていた国々,すなわり韓国,中国,ロシアだ。(p140)
 二〇一五年のガソリン国内販売料は一〇年前より一四%減の約五三一一万キロリットルで,国内のガソリンスタンドの数は二〇〇〇年に五万三七〇四ヵ所だったものが,二〇一五年には三万二三三三ヵ所にまで減っている。ところが,国内精油所の精製能力は内需よりも約二割も多い。(p156)
 創業家が経済合理性よりも昔のカビの生えた大家族主義という考え方にこだわるなら,待っているのは出光の倒産しかない。(p159)
 今回のトランプ政権誕生は日本のメガバンクにとっては大きな追い風である。トランプ新大統領が打ち出している法人税率引き下げ,金融規制緩和,環境規制緩和,インフラ投資とった政策が三大メバガンクのアメリカにおける融資拡大のチャンスを広げるからだ。(p161)
 三菱重工に対して,「軍事,宇宙,造船,航空機という利益の出ない部分を切り捨ててエネルギー・環境と機械・設備システムに特価すれば超優良企業に生まれ変わる」という意見がある。確かにそんな考え方もあるかもしれない。けれども私はどこも切り捨てることなく現状のままで事業を継続していくべきだと思う。なぜなら総合的な技術を持っていることが三菱重工の最大の強みだからだ。(中略)しかも技術はいったん手放すと容易には戻ってこない。(p163)
 EV時代が本格化するのはもう二年ほどはかかるだろう。逆に言うと二〇一八年の終わりくらいには自動車の中心はEVになるということだ。EV時代を先頭に立ってリードしていくのはやはり三菱自動車以外にはないと思う。(p170)
 トヨタからはEVについての明快な戦略が伝わってこない。トヨタが主力車でEVへの転換を図るのならHVへのこだわりはきっぱりと捨て去るべきだ。実際,HVの時代は終わりにさしかかっている。技術的には行き着くところまで行って,これ以上手を入れるところがないからだ。部品も多くコストも下げられない。(p173)
 戦後の日本は自由貿易の旗印をずっと高く掲げてきた。その意味では自由貿易を体現する国だといえるから,日本が率先してTPPを批准するのは世界へのアピールという点できわめて重要なのだ。(p184)
 ロシアには,トランプ氏が大統領になったらどのような政策を取るかということについて分析した形跡がない。その最大の理由はロシア全体の知的な活動の水準が落ちていることにある。(p190)

2016年9月8日木曜日

2016.09.04 長谷川慶太郎 『「世界大波乱」でも日本の優位は続く』

書名 「世界大波乱」でも日本の優位は続く
著者 長谷川慶太郎
発行所 PHP
発行年月日 2016.09.15
価格(税別) 1,500円

● どの国でも,大方の予想を裏切る現象が次々に発生している。どうやら目に見えない潮流が生まれただけでなく,その影響が急速に強まってきたようである。(p1)

 世界のどの国も,必死の努力を払って危機対策に取り組んでいるが,最大の原因である「デフレ」の流れを阻止できない。
 その理由は,はっきりしている。どの国にも共通していることだが,現在の政治体制は「インフレ」時代につくられ,その維持に全力を挙げているからである。(p3)

 デフレの状況では,「買い手」が強くて「売り手」が弱い。「買い手」というのは,庶民であり,一般有権者である。一方「売り手」は官僚であり,企業経営者である。つまりエリート層だ。(p32)

● EU離脱後は,イギリス国内からEU諸国に製品を輸出する場合には関税がかかることになる。しかし,そのコスト負担を考えても,日本企業はイギリスにとどまったほうがいい。理由は三つある。
 一つは,英語である。(中略)語学の問題など大したことがないように思えるかもしれないが,実はこの問題が一番大きい。コミュニケーション能力はビジネスを左右する。(中略)
 二つめの理由は,文化的背景だ。(中略)日本人にとっては,フランスやドイツの文化を理解するよりも,イギリスの文化のほうが理解しやすい。(中略)
 三つめの理由は,イギリスの地形・風土だ。イギリスは山が少なく平野が多い。(中略)地震のない国であり,ハリケーンも少ない。(p22)

● ナチの負の遺産として,ドイツ政府は「移民の抑制」という政策をとりにくい。「ドイツは民族差別をする国ではありません。ドイツは開かれています」という姿勢を見せなければならない。(p35)

 伊勢志摩サミットで,安倍首相は「リーマン・ショック前夜の状況と似ている」と言って,リスクに警戒するように呼びかけた。それに対して,メルケル首相らが「そこまでのリスクとは言えないのではないか」と反論したとされる。
 当たり前だ。メルケル首相が「そのとおりです。実は,ドイチェ・バンクが危ない」などとは口が裂けても言えないし,また,政治家はそういうことを言ってはいけないのである。(p61)

 これまで,フランス一国でドイツに勝ったことはない。だから,フランスはドイツに対する潜在的な恐怖心のようなものを持っている。(p65)

 ロシア軍の軍人が民間の職を得られないのは,軍人の育成の仕方にも原因がある。ロシアの軍人は教えられたことだけを金科玉条のように守るので,融通が利かず,民間で働くのはかなり難しい。(p127)

 ロシア軍は,ソ連時代と同じように戦力の半分が核戦力だ。「核なき世界」が実現したら,核戦力がすべて必要なくなる。そこで働いている人間もすべて不要になる。(中略)「核なき世界」が実現した際に,一番ダメージを被るのがロシアである。アメリカはそれをわかっているから,「核なき世界」を進めようとしている。(p128)

● 上海電力は,江沢民系の会社だから,江沢民の了解なしに投資を決めることはできないはずだ。つまり,江沢民が了解したうえで,日本に資産逃避させているわけである。
 トップリーダーや国営企業経営者が信用していない国に日本企業がいつまでも期待をかけていても,仕方がない。(p84)

 中国の経営者たちが自国通貨を信用せず,売りに売っている。彼らが買っているのは,世界で一番価値のある国債,つまり日本の国債だ。(中略)極端に言えば,中国の経営者たちは,中国経済は破綻すると見ているのだ。だから,人民元を売って,目減りを覚悟で安全な日本円に換えている。その額は巨額だ。一ロット=一〇〇億円規模の「爆買い」まで出てきている。(p88)

 中国共産党の子弟たちがアメリカに留学し,中国には誰も帰ってこない。彼らはアメリカ国籍を取ってアメリカ人になりたいと思っている。自分の国に戻って,自分の国を良くしようという気持ちがない。(p112)

 中国は他の東南アジア各国に対しても,資金援助をすると申し出て鉄道建設の契約をとりつけた。しかし,中国には長期資金の余裕はなく,計画は実行に移されていない。
 ラオスだけでなく,タイもマレーシアもシンガポールも,「中国不信」に変わってしまった。文字どおり,「金の切れ目が縁の切れ目」ということだ。(p90)

 中国は国際裁判の判決にも従わないし,国際法も遵守しない。また経済協定に調印しても,まったく実行しようとしない。中国と約束を結ぶことは,ほとんど無意味になっている。
 その結果が世界に知られて,アメリカも東南アジア諸国も,中国をまったく信用しなくなった。(p93)

 中国リスクの最大のものは,中国の内部の対立だ。(中略)東シナ海,南シナ海への進出も,中央政府がやらせているというよりも,東海艦隊,南海艦隊が功を競って勝手にやっているだけだ。習近平には,それを止める力がない。(p96)

 北朝鮮から石炭を積んだ船が山東省や遼寧省の港に入ろうとしたが,中国は入港させていない。北朝鮮の生命線は鉱物資源の輸出であるから,中国の制裁によって北朝鮮は致命的な状況に陥っている。(p100)

● 一九七五年の第一回のフランス・ランブイエ・サミットから二〇一五年のドイツ・エルマウ・サミットまで,ずっとシェルパ(各国首脳の代理人や補佐役)による議論が主体で,首脳同士はほとんど議論していなかった。
 ところが,伊勢志摩サミットは違った。安倍首相がサミットそのものを思い切って改革したのである。(中略)先進国の首脳たちが積極的に議論をすることで,各国はより深い絆で結ばれるようになった(p115)

 なぜ,オバマ大統領が広島を訪問することになったのか。オバマ大統領の個人的な意向だといわれているが,それは違う。(中略)
 広島訪問が実現したのは,日本の地位が飛躍的に上がったからである。安保体制の正義で,日米関係はかつてなく緊密になっている。産業面でも,アメリカは日本頼みである。(p123)

 日本の部品は,大企業の製品から中小企業の製品に至るまで,世界中の生産ネットワークの中に組み込まれている。日本の力なくしては何も製造できない。
 日本で地震が起こるたびに,自国の製造業が工場を停止しているわけだから,世界の首脳たちもこの事実に気がついている。(P124)

 日本には技術力も長期資金も両方ある。世界を見渡しても,両方持っている国は日本だけだ。(p134)

● これからの世界平和の体制づくりには,三つのポイントがある。
 一つ目は,インフレ時代からデフレ時代への転換を制度面で行うこと。そこには税制も含まれる。
 二つ目は,デフレ時代に長期にわたって経済を発展させるにはどういう手段があるかを考えること。これにはインフラ整備しかないと言える。
 三つ目は,アメリカが世界の警察官の役割を降りたときに,G7が強調していかに世界の安定をつくりだしていくかという点だ。(p129)

 重要なことは,「熱い戦争」に至らないようにすることだ。それには,マーケットの力を使うしかない。路線転換をしなければ自国が滅びてしまうことがわかれば,彼らは宗旨替えをせざるを得なくなる。(p140)

 世界の趨勢を見ればわかるように,イデオロギーは影響力を失っている。もはやリベラルの時代ではなくなった。リベラルに固執していたら,国民の支持は得られない。日本だけでなく,アメリカでも同じ傾向が出ている。(p172)

● 治安を維持するには軍隊の組織ではなく,警察を使わなければならない。(中略)軍隊と警察の違いは,“地域密着度”だ。警察は地域に密着して仕事をするから,住民との協力関係を築ける。
 一方,軍隊は常に移動するという特徴を持っており,地域に根ざしてはいない。(p37)

● 米軍の建設大隊は,仙台空港をわずか二週間で完全に復旧させた。(中略)一方,松島の飛行場は自衛隊が精力的に復旧に取り組んだが,なかなか修復できず,結局,二カ月かかった。もちろん,これは他の国と比べれば非常に早いのであるが,アメリカには及ばない。(p160)

 残念なことに,日本海軍には土木技術的な知識があまりにも乏しかった。戦闘で戦うのが軍人だという考え方が強く,土木技術は軽視されていた。(中略)
 アメリカ陸軍の場合,ウェストポイントの陸軍士官学校の卒業生で,成績の良い人間はみな工兵科に入る。優秀な人間から順番に工兵になるという発想を,日本ではなかなかできない。(p162)

 日本海軍の場合は,兵学校の卒業生だけが幹部になって運営されていたから,いわば卒業生の仲良しクラブになってしまった。閉鎖的になるし,また勉強もしなくなる。(p166)

 第二次世界大戦で日本が負けた理由は,東アジアで中国と長期戦をやって,中国が屈服するまでにアメリカが参戦して太平洋戦争になったことだ。それをコントロールするだけの政治力がなかった。
 コントロールする政治力がなかった最大の理由は,明治憲法である。明治憲法では,内閣総理大臣は閣僚に対する任命権を持たなかった。(中略)
 第一次世界大戦の教訓だが,そういうタイプの憲法を持っている国はみんな敗れた。ドイツ,オーストリア=ハンガリー,ロシア,トルコ,みなそうである。
 そのときの教訓を日本は学ばなかった。(p175)

● 民進党の問題点は,政権の座にいた三年間で何を失敗したかについて,まったく言及していない点だ。(o173)

 民主党政権では,最後の野田政権はその前の二人に比べればまともなほうだった。というより,前の二人がひどすぎた。これは多くの国民の共通認識である。(p173)

● 災害時に一番重要なことは,「需給バランス」である。物資や人員が必要とされているところに,必要とされている量だけ供給されなければいけない。これが何よりも肝心だ。
 欲しいもの,足りないものと,支援物資の需給バランスを調整するんはコンピュータを使うしかない。(アメリカの)FEMAは,そのシステムを持っていた。(p181)

 筆者の働きかけがきっかけで,自衛隊員に災害出動手当がつき,それが制限されることなく支払われることになった。しかし現在では,筆者はこれは失敗だったと考えている。それは,自衛隊員に対して,働いたら働いた分だけの報酬を金で支払うのと同じだからだ。(中略)
 自衛隊を国防軍として処遇するとう観点が抜け落ちていた。自衛隊員には,金ではなく名誉で報いるべきだった。(p189)

2016年8月7日日曜日

2016.08.07 長谷川慶太郎 『2017年 世界の真実』

書名 2017年 世界の真実
著者 長谷川慶太郎
発行所 WAC
発行年月日 2016.08.07
価格(税別) 920円

● ヨーロッパ,ロシア,中国,アフリカ,アメリカ合衆国が抱えている困難や問題を指摘し,したがってこれから世界を引っぱるのは日本だ,という結論を提示する。
 世界でただ一つ,長期資金を貸せる余裕を持っている国が日本であり,その総理大臣である安倍の言うことは,みんな聞く。(p27)
● まず,ヨーロッパ。
 ヨーロッパの主要国は厳しい環境に置かれている。ドイツ,フランス,そしてイギリスも例外ではないのだが,上位クラスの銀行でさえ,日本のバブル崩壊後のようなありさまだ。(p4)
 最大手のドイチェバンクはこのまま行ったら,破綻するのが目に見えている。その大きな要因はフォルクスワーゲンだ。(p59)
 ドイツ外務省の中国課などは十一人しかいない。その中で中国語のできるのは三人だ。「大丈夫か」と言いたくなるほどお粗末な陣容である。ドイツのメルケル首相にしても,イリュージョン(幻想)でものを言っていることが少なくない。(p147)
● 次に,ロシア。
 ロシアの消費者物価上昇率は年間二〇%である。この物価高で,年金生活者はどうにもならないところまで追い詰められている。 それでも,プーチン大統領は八〇%ぐらいの支持率がある。これは現実でなく幻想によるものだ。幻想だから,いつ消えるかわからない。そのことはプーチンだって知っている。知らないわけがない。(p114)
 ここまでロシアが窮したのは,プーチンが突っ張り過ぎたのが一因ではあるけれど,結局,「ソ連時代の夢よ,もう一度」という思いが大きな原因である。つまり,アメリカと肩を並べる超大国になろうとした。それが認められないことを国際社会がもう一遍,強く主張しなければならない。(p118)
 ロシアの現状は本当に惨めなものである。インフラの崩壊にしても尋常一様ではない。一番劣化しているのが鉄道で,脱線事故があまりに多すぎて新聞ネタにもならないほどだ。それどころか,嘘のような実話がある。ウラジオストクとモスクワをつなぐシベリア鉄道の貨物列車は,盗賊が襲ってくるから携帯機関銃を持った護衛がつくのだ。まるでシベリア鉄道が国の統治下にない地域を走っているようなもので,馬賊が跋扈した満州事変直後の満州を彷彿とさせる。(p120)
● 北朝鮮,中国,韓国。
 円高が生じた最大の要因は中国からの資本逃避である。(p35)
 二〇一六年一月に北朝鮮は四回目の核実験を行なったが,三回目との最大の違いは,北朝鮮が情報統制に成功した点だ。中国への事前通告がなく,中国がまったく予測できなかった。(p91)
 二〇一六年三月,王毅外相は訪米してケリー国務長官と会い,北朝鮮への侵攻計画にOKを取りつけた。その後に習近平がアメリカへ行ったときは,オバマ大統領に直接打診してOKをもらった。こうして米中両国の合意はできている。ただし,「いつ,やるか」はわからない。 合意においてアメリカが条件に付けたのは,中国が長期間,北朝鮮を占拠しないことである。だから,習近平は金正恩を捕まえて権力を剥奪すれば,すぐに軍を撤退させるが,その前に中国の傀儡政権を北朝鮮につくる。(p102)
 最大の衛星国であり,第二次大戦の戦利品である東ドイツを捨てた翌年,ソ連は消えた。しかし,(中略)中国は北朝鮮を捨てず,金正恩を排除するだけだから,ソ連と同じ運命は辿らないだろう。(p144)
 金で買うときは「契約」「輸入」を手続きがいる。だいたい三ヵ月は最低必要で,通常は六ヵ月かかる。一朝有事の際にものを言うのは現物であって,契約ではない。「物」があれば即時にわたせる。「物」があるところは強いのだ。 北朝鮮がつぶれたとき,現物を握っている日本が隣にある。それが朴槿惠にもわかってきたから,「従軍慰安婦の問題は昔の話で,今さら蒸し返してもいかがなものか」ということになった。(p105)
 結局,韓国は日本に助けを求めることになるだろう。ただし,「助けて下さい」ではなく,「助けさせてあげよう」と偉そうな態度で言ってくるかもしれない。そういう感覚は中国も同じである。(p109)
 彼ら(韓国人)は日本人と同じ敗戦国民だけれど,自分たちは戦勝国民だと思っている。通州事件で殺された人の半分は朝鮮半島出身者であり,事実を振り返れば,敵は中国人のはずだ。しかし,自分にとって都合の悪いことは目をつぶる。都合のいいことだけを強硬に主張する。これは中国人や韓国人に共通する意識である。(p110)
 今後,パナマ文書の影響が出るのは新興国と共産国である。その一つが中国だ。これは大変だろう。習近平はどうするのかと思う。(中略)中国人は,習近平の姉婿が何をしているか,みんな知っている。(p155)
● アフリカ。
 アフリカについては難しい問題がある。人口が多い割りにレベルが低いことだ。白人以外の大学はエジプトとケニア,ガーナ共和国,モロッコの四つしかない。(中略)だから,すべてにわたって人材が足りない。その「穴」を外国人が埋めている。今,最も多くアフリカに入っているのはインド人だ。(p80)
 そういう政治情勢,社会情勢の不安定さは,外国人が行って解決しようとしても不可能だ。彼ら自身が必要に迫られ,行動する決意を固めてもらわないと,どうにもならない。(中略) これから何十年という時間をかけ,根気よく改善するしかあるまい。そころが,なかなか今期が持続しない。特に民間企業の場合,投資したらすぐ回収する方向に動くから,どうしても目先のことしかできない。(p83)
● アメリカ合衆国。
 アメリカの一般大衆は「世界の警察官」に飽き飽きしている。その背景には「世界は大きく変わった。もう戦争はできない。戦争にならないなら,なぜ,アメリカが世界の警察官の役割を果たさなければならないのか」という思いがある。(p33)
 アメリカではものすごい勢いで転職が進んでいる。逆に言うと,アイビーリーグの卒業生でも厳しい。昔は門前列をなすという状態だったのに,今は鼻も引っ掛けてもらえない。それほどアイビーリーグの権威が落ちてしまった。そのため,高い学費を払ってアイビーリーグを卒業してもいい就職先にありつけず,借金が残るだけの若者が増えた。こういう現実があるから,民主党で「州立大学の学費無料化」を打ち出したサンダース上院議員の票が伸びたのも無理はない。(p161)
 アメリカの製造業が辛いのは,労使関係の調整が難しいところだ。アメリカの労働組合は日本と違って手強い。(p172)
 アメリカが深刻に考えなければいけないのは,技術革新が遅れていることだ。一番遅れているのは薬で,特に効果の大きい新薬開発である。(中略)IT関連も空洞化が生じている。このままではグーグルでも厳しいだろう。グーグルはもっと研究開発に力を入れる必要があるのだが,それができないでいる。最大の理由は長期資金の不足だ。(p183)
 デフレ時代はものすごい経済競争になる。「武力を使わない戦争」と言ってもいい。それだけに,少しでも早く対応することがアメリカにとってプラスになる。 では,アメリカが何をすべきか。まず,リストラは避けられない。金融でも,製造業でも,企業が合理化され,労働組合は淘汰される必要がある。そこで見落としてならないのは,「リストラしなければ,新しい仕事ができない」ということである。「新しい仕事」の前提条件がリストラであり,リストラをやって初めて新しい仕事ができる。(p187)
● それでは,日本はどうすべきなのか。基本的には今の路線を進んで行けばいい。
 日本はGDPの三.五%を研究開発に向けている。アメリカは三%,ドイツは二%しか入れていない。他の小さな国はコンマ以下である。研究開発は今後も同様に続けていけばいい。(p194)
 戦後は財閥解体とともに財閥系企業も「個人保証のルール」が適用されるようになった。日本は企業のトップほど重い責任を背負う。だから,一生懸命に働く。それが日本の企業の生命力の源泉である。(p196)
 (自衛隊の)幹部の質はだいぶ良くなった。幹部候補生は防衛大学校の卒業生と同数を一般の大学から採用する。昔はほとんどが日東駒専だった。今は早慶が一人ずつで,あとは旧帝大の出身者である。(p198)
 エネルギー分野で急がなければならないのが二次電池である。この研究で先行しているのは東京電力だ。(中略) なぜ,東京電力が二次電池の開発をするのか。東京電力は現在の配電ネットワークを変えなければいけないと考えている。そのときに大事なのが二次電池だ。(p214)
 同時にやらなければならないのは設備の縮小である。(中略)手っ取り早いのはコンパクトシティだろう。人が集中して住めば水道だけでなく,医療にしろ何にしろ,コストを下げられる。 今,それを進めているのは青森市だ。(p218)
 特に理工系に顕著なのだが,技術水準が上がったので大学の四年間では足りず,最低でもマスターまで進んで初めて専門家になれる。中等教育の期間を減らし,高等教育の期間を増やすことが必要である。(p219)
● デフレは続く。しかし,デフレはチャンスである。
 デフレになればなるほど起こることは新産業の誕生である。例えば電力は十九世紀の第一次デフレで広まった。(中略)インフレには,そういう創造力がない。(p189)
 インフラ投資は額が大きい。しかし,デフレの時代は超すとが下がり,やりやすくなる。逆にいえば,大規模なインフラ投資はデフレの時代にしかできないのである。(p218)
● その他,豆知識。
 なぜ鈴木敏文会長がやめなければいけなくなったのか。創業者の伊藤雅俊との関係が悪化したからだ。私は鈴木とは面識がないが,伊藤とは面識がある。(中略)私の見るところ,伊藤は正直な人である。 伊藤からすれば,鈴木はセブン&アイを自分のオーナー会社のごとく,私物化した。そう捉える最大の理由は,鈴木が長男を役員にしたことである。あれは認められない。伊藤は子供をイトーヨーカ堂に入れていないのである。(中略) 成果を挙げた鈴木はそれに見合った形で報酬をとっている。あれだけ高い給料をとっている人はいないのだ。 そういう類の話は新聞には出ない。鈴木に遠慮しているのだ。(p39)
 都心のマンション売買が活況と言われるが,それは千代田,中央,港,新宿,渋谷の五区だけである。この五区から一歩でも出たらおしまいだ。いずれは都心の五区も,売れるところと売れないところが選別されるだろう。したがって,今,日本で不動産に投資しようと考えるのは,よっぽどおめでたい人に違いない。(p50)
 ドイツ人は動かぬ証拠を突きつけると,カエルをつぶしたみたいにペシャンとなる。(p98)
 このときの旅行は六ヵ月間,東ヨーロッパを回った。その間,日本食を一回も食べなかったのが自慢である。(中略)日本食にこだわっていたのでは視野が広がらない。これは本当である。(p122)
 舛添(要一)は学者として才能は豊かだが,政治家としては疑問符がつく。例えば,都知事になってから認知した子どもの養育費の減額を求めて訴訟を起こしたのはいかがなものか。二千六百万円の年俸をもらっていて,二十万円が払えないという話は通らない。だから,裁判で負けた。それ以上はやらなかったけれど,ケチなことを負けるまでやる。ちょっと特異な存在である。(p150)

2016年8月1日月曜日

2016.08.01 長谷川慶太郎 『世界大激変』

書名 世界大激変
著者 長谷川慶太郎
発行所 東洋経済新報社
発行年月日 2016.08.11
価格(税別) 1,500円

● 北朝鮮が次の核実験をやれば,中国瀋陽軍区の人民解放軍が平壌を制圧し,金正恩を追いだして傀儡政権を作るという。
 この点について,米中で合意ができた,と。つまり,アメリカもそれを黙認する,と。

● 従来の長谷川説だと,北朝鮮が潰れればその数年後に中国も潰れるというものだった。東ドイツとソ連の例があるではないか,と。
 傀儡を作る話は出ていなかった。中国崩壊は遠のいたと見ているんだろうか。

● とはいえ,北朝鮮に政変が起こるのは激変であって,株価は下がるだろう(短期間で収まるだろうけれども)。今は持ち株を現金に換えて,キャッシュポジションを高めておくべきなのだろうか。

● 以下にいくつか転載。まずイギリスのEU離脱に揺れるヨーロッパはどうなるか。
 英国のEUからの離脱は今後の成り行きとして,残留に固執していたスコットランドが独立しEUに残ることになりそうである。そしてウェールズ,北アイルランドも独立することになり,島国イングランドだけが残り孤立する。(p4)
 多くの国民はそれを理解できない。どうしても過去の記憶に縛られてしまう。大英帝国だった頃の「古き良き時代」に回帰できるという期待を持ってしまうのだ。(p69)
 今後,欧州は混乱が起こる。これまでの方向性を進めるべきだという者と,変えるべきだという者との間で,激しい論争が起きるだろう。そして,変えるべきという者が多数になるのは明白である。なぜなら,各国の政府が経済的な行き詰まりを打開できないからだ。自身の生活が苦しくなっていけば,これまでの方向性を変えたいと思う者が増えるのを止めることができない。(p65)
 イギリスでは東欧,なかでもバルト三国からの移民急増に危機感を感じてきた。移民と言うと「貧しい人々」を連想することが多いが,バルト三国からイギリスへの移民には,理系の専門知識をもったエリートたちも多い。たとえば,医師や薬剤師,医療技術者たちである。 その結果,イギリスでは労働者階級の仕事だけではなく,大卒エリートたちも仕事を失う危機に直面している。イギリス人の半分の給料で喜んで働く医師たちが次々にやってくるのである。(p66)
 イギリスはEUに対して,もっと発言すべきであった。イギリスの主張をもっと押し通せていたら,今回のような国民の不満は高まらなかったかもしれない。しかし,それができなかった。なぜできなかったのか。資金力がないからである。資金力ではドイツに勝てなかった。(p67)
 欧州諸国は,伝統的に革新勢力が強く,「平等」を掲げた社会主義という思想が,自分たちを防御する一つのよろいかぶとのようになっている。しかし,それにこだわればこだわるほど時代から取り残されることになる。それは経済の上では敗者になる。(p75)
● というわけで,ヨーロッパは分裂に向かうと長谷川さんは予想する。その背景にあるのは,次のような基調だという。
 世界の各国・各地域で,分裂の様相を強めるが,それは地元住民のことを考えてくれという要求なのである。自分たちの権利と自由を拡大していきたいという意欲のあらわれであり,それが広まっていくのである。 デフレのなかで買い手,すなわち圧倒的多数の人間の意思が示されれば,受け入れざるをえない。(p5)
 アメリカのトランプ旋風も,「世界の警察官」であることの重荷を負い続けることへの民衆の鬱屈感が背景にある。(p5)
● 次にそのアメリカ。トランプが予想に反して共和党の大統領候補になった。が,トランプがもし大統領になったとしても,アメリカの外交政策に大きな変化はないだろう。
 国務省や国防省という官僚組織の力は絶大である。この官僚たちが世界中の情報を収集し,情勢を分析し,アメリカという国家の戦略を策定してきた。外交とは,それの積み上げであり,したがって,それを一挙に改変することなどできないのだ。 逆に言えば,巨大な官僚組織の意向を受け入れることができなければ,アメリカの大統領は務まらない。選挙に勝利すれば,トランプも彼らとある程度折り合いをつけて,現実的な政策へと転換していかざるを得ないだろう。(p84)
● 日本の「失われた二〇年」に対して,長谷川さんは積極的な意味を指摘する。
 日本だけが二〇年かかって金融の再建をしたのである。「失われた二〇年」と言われていたが,実際は懸命の努力をしてきたのである。都市銀行を一一行から三行へと統合した。ものすごいリストラをしたし,それに伴い不良債権の償却を行った。(p28)
 銀行は所有していた余剰不動産を大幅に売却した。これは著者が実際に一つのメガバンクのCEOから聞いた話であるが,その銀行は,かつて新宿駅を挟んで西口と東口に一一もの支点があったが,現在では二つに整理・統合したという。(中略)銀行の建物は鉄筋コンクリートのしっかりしたもので,地下には大金庫がある。その金庫と上物をつぶし,更地にした売却したのだ。(中略)ある支点の話では,金庫の取り壊しだけで一七億円かかったという。 なぜ,そこまで徹底して建物を壊したのか。それは,そのあとに他の金融機関,たとえば地方銀行の支店などが入ったりしないようにするためである。自行をリストラすることは,銀行業界ないしは金融業界全体のリストラでなければならない。跡地に他の金融機関が入れば元の木阿弥である。(p50)
 リストラも徹底して行われ,従業員を絞りまくったのだ。これも前述のメガバンクのCEOから,著者が直接聞いた話である。「失われた二〇年」のうちの一五年間,役員としてそのCEOのボーナスはゼロだったという。「よく住宅ローンを払えましたね」と著者が尋ねたところ,ボーナス支払いの分を退職金の前借りという形で銀行から貸してもらい,何とか返済できたということだった。(p51)
 アメリカは,徹底した膿出しは行わなかった。不動産の時価評価を徹底させることはせず,不良債権に「蓋」をしてしまった恰好だ。したがって,サブプライムの整理がいまだ終わっていないのである。(p55)
 欧州の金融機関のリストラは中途半端だと言わざるをえない。徹底してリストラをする覚悟がない。(p75)
● 中国はどうか。中国の何が問題なのか。
 仮に今,日本と上海が直接競争すればどうなるか。勝敗ははっきりしている。日本に絶対に勝てないということだけである。日本はそれだけ厳しい競争をやってきた。弱者を淘汰してきた。にせもの,手抜き,納期遅れなどは論外なのである。それからもう一つ大事なことはインフラである。日本では水道の水が飲める。(中略) 日本の場合は政府が信頼できる。社会インフラを十分整備した。それは共産主義か民主主義かの違いということである。それと同時に,大事なことであるが,民主主義の場合には有権者の意向が全ての政策に反映する。(p100)
 技術もどんどん日本,世界から,時には盗むような形で導入してきた。盗んだ技術というのは,その時点での最新である。ところが,盗まれたほうは,その技術よりもさらにスピードを上げて,新しい技術をつくる。あっという間に開きができてしまう。(p102)
 中国共産党のように言論統制で発言の自由を抑圧していたら,イノベーションが起こるはずがない。その意味で,中国共産党は自分で自分の支配の基盤を掘り崩している。(p113)
 東側では,計画経済の体制のもとですべての経済活動が,共産党の最高指導部の統制下に置かれている。経済そのものの活力が,不断に進行する「汚職と腐敗」によって急速に食い尽くされていくという悪循環の犠牲になっていった。(p113)
● 冒頭に書いた北朝鮮情勢について。
 この先の数ヵ月で,北東アジアの情勢は大きく変わる。金正恩が政権を追われる可能性は高い。金正恩の後に誰がトップに立つのかはわからない。(中略)いずれにせよ,完全に中国の傀儡政権であることは確かだ。したがって,新政権は,核開発の停止やミサイルの開発停止を宣言するだろう。(p122)
● 次は日本国内の産業動向について。まず,金融業から。
 「失われた二〇年」の間に,日本の都市銀行は徹底したリストラを断行して,世界で唯一,大型かつ長期のファイナンスに応じることのできる体力を備えるようになった。では,これからは平安一路なのかといえば,どうもそうでもなさそうだ。
 日銀はマイナス金利と並んで,日本国債の大量購入を続けている。新発債のほとんどを日銀が購入してしまう恰好となり,結果,国債の金利は下がりに下がっている。これは,収益の大きな部分を国債運用で賄ってきた多くの金融機関にとっては,まさに地獄の始まりである。銀行は当然苦しくなる。メガバンクはもちろんだが,国債依存という意味では地銀のほうが高い。したがって,地銀はこれから大変な時代がやってくる。統合・合併が相次ぐことになる。(p164)
 昭和三〇年代後半,「銀行よ,さようなら,証券よ,こんにちは」というフレーズが流行った時代があったが,現在はそれに近いような状況になりつつある。それを何もコマーシャルでながすのではなしに,誰もがそう感じとっている。これは大変化である。(p170)
 FT(ファイナンシャル・テクノロジー)の技術の飛躍は素晴らしい。ソニー銀行は窓口がない。それがこれからの日本の銀行の姿である。大銀行も新規採用を控えている。採用しても,仕事に慣れる頃には,多くの仕事場がなくなるからである。(中略)大銀行であればあるほど,支店の役割がなくなってしまう。(p171)
 銀行の行員,働いている人間は現在,全国で二五万人ほどであるが,おそらく五〇〇〇人以下になるであろう。(中略)日本全国の銀行すべてで五〇〇〇人である。(p172)
● 次に,自動車業界。
 (自動車業界には)上位四社しか残らない,と著者は見ている。四社とは,トヨタ,GM,フォード,それにあともう一社だ。そのもう一社の座をめぐって,熾烈な争いが行われることになる。今回,日産が三菱自動車を傘下に置くことによって,その最後の一社争いに顔を出した恰好である。(p177)
● 農業はどうか。現在の農業政策を改めることができれば,日本農業の前途は洋々たるものだ。
 日本ではイチゴだけで年間四〇種類も新しい品種がつくられている。少しでも甘いイチゴをつくってたくさん買ってもらおうと,農家は懸命に努力している。日本というのは,コメは別にすると,農業は競争し努力もしている。(p77)
 日本のイチゴは,摘み取りからパッキングまでロボットが導入されている。海外ではロボットで詰めたイチゴのほうが価値が高い。(p180)
 日本の農業は十分に富裕層ビジネスになるのだ。(p182)
 農作物というのはどうしても地理的な距離というのがこれまではハンディになっていたが,現在はそんなものは問題にならない。流通網は世界中に整備されている。付加価値が高ければ,海外でも飛行機で運べばいい。高く売れるので流通コストなど消し飛んでしまう。(p182)
 酪農でも機械化は進んでいる。搾乳は,今では乳牛を飼い主が連れていくのではなく,牛自身が乳が張ってくると,自ら歩いて搾乳ロボットのところへ行くようになっている。(p184)
 農地行政を変えて法人参入を認め,膨大にある無耕作地を法人に買ってもらうのが一番である。農業の機械化などは,まさに法人(=企業)ならお手のものである。農業を工業化することが喫緊の課題なのだ。日本は優秀な農業技術を持っているのであるが,それを活かせないのは規制でがんじがらめになっているからである。(p184)
 政治家や官僚たちは手厚い補助金を差配することで,農家を食いものにしている。(p185)
 農家は過剰すぎるほど保護されている。すべての補助金が悪いわけではないが,現在の日本の農業は,多額の補助金が自立の妨げになっている。安倍政権のねらいは,農協を事実上解体することで自立を促し,日本の農業の発展の芽をつくろうとしているのだ。(p166)
● その他。
 ビッグデータの解析やそのデータ保存のためには,巨大な電力が必要だということを忘れてはならない。現在,世界でビッグデータのために消費されている年間の電力の合計は,日本国内で使われる一年分の電力に相当すると言われている。したがって,このようなサービスは,技術の進歩だけでは実現が難しかったと言えるだろう。(中略)産業の発展,実用化とは,このように複数の要因がうまく組み合わさることで,はじめて実現されるものなのだ。(p155)
 パーソナルロボットや次世代自動車など,今後,技術の高度化にともなって不可欠となるのがセンサー技術である。(中略)急成長する市場の主役となるのは日本企業だ。六兆円市場のうち四割以上を日本企業が握るのではと予想されている。(p189)
● 結論はこうだ。
 世界の基調はデフレに定まった。デフレは買い手が売り手を圧倒する社会である。売り手とは政府や企業,既得権を持つ人々である。もはや売り手の意向に沿った社会を維持していくことはできなくなっている。それを強く認識し,新しい社会に適応した者だけが,今後の勝者になることができるのである。(p88)
 その勝者になるのは,日本とアメリカである。
 ものづくりで言えば,これから数年間は,人工知能(AI)や次世代自動車をめぐって,激しい覇権争いがくり広げられることになる。この二つの次代の技術競争に参加できるのは,日本とアメリカしかない。(中略)逆にいえば,これからは日米間で次世代技術をめぐる競争が行われるということになる。(p192)

2016年5月21日土曜日

2016.05.21 長谷川慶太郎・田村秀男 『世界はこう動く〔国際編〕日&米堅調 EU&中国消滅』

書名 世界はこう動く〔国際編〕日&米堅調 EU&中国消滅
著者 長谷川慶太郎
   田村秀男
発行所 李白社
発行年月日 2016.05.31
価格(税別) 1,000円

● 先日読んだ〔国内編〕に続いて,国際情勢の近未来についての対談。

● 長谷川さんの発言からいくつか転載。これまでの著書で述べられているものだ。
 国際社会にとってはむしろ中国は崩壊すべきだ(p4)
 イノベーションをやろうとしたら,何よりも言論の自由がなければいけない。アメリカや日本では事業者に好き勝手にやらせているからイノベーションが起こるのです。日本の技術が戦後伸びたのも自由な雰囲気のなかで経済活動ができたからでした。 中国共産党のように言論統制で発言の自由を拒否していたら,イノベーションが起こるはずがありません。(p95)
 そもそも社会主義を掲げる中国のような国に株式市場があることがおかしいのです。本来,株式市場は市場経済でなければ成り立ちませんので,今の中国の株式市場はインチキであって,中国共産党がいくら手練手管を使って株式市場の維持を図ろうとしても限度があります。(p109)
 近代の国家間戦争というのはエネルギーをめぐって勃発するものなのですが,今のように石油がだぶついていれば国家間戦争も起こりません。エネルギーに余裕があれば平和がもたらされるということです。(p154)

2016年2月20日土曜日

2016.02.13 長谷川慶太郎 『長谷川慶太郎の大局を読む2016-17 世界はこう激変する』

書名 長谷川慶太郎の大局を読む2016-17 世界はこう激変する
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2016.02.29
価格(税別) 1,400円

● 原油価格の下落が止まらない。ぼく的にはというか多くの人にとっては,ガソリンや灯油の価格が下がるわけで,じつにありがたい話なんだけども,元売りやガソリンスタンドの経営者にいわせればとんでもないことかもな。
 実際に大きく円安に振れていくなかで,国内の販売価格が下がっていったわけだから,これが民主党政権時の為替レートのままだったら,ガソリンなんて70円になっていたか。
 もはや中東の地政学的な要因は原油価格を左右する条件ですらなくなっている。その証拠に原油価格は,サウジがイランとの外交関係を断絶した後,上がるどころか,逆に下がっている。(p4)
 逆オイルショックの継続は,言い換えれば,国際カルテルとしてのOPECの機能が失われてしまったということだ。石油で稼げなくなれば中東の産油国はどうなるか。極端にいえば,元の砂漠の国に戻るだけである。もっとも,サウジは原油輸出だけに依存する体質を変えようと原油加工にもいち早く踏み切った。(p58)
● 中国については完全に見切りをつけている感じだ。しかし,中国に何が起きても,日本経済には影響がない。
 中国経済についてはもはやハードクラッシュしかない。問題はハードクラッシュの後で中国企業がデフレ時代に対応して生き延びていけるかどうかということなのである。(p81)
 アメリカのミサイル駆逐艦が人工島の12カイリ以内に入ってきたため,オバマ大統領を見くびっていた習近平主席は仰天したに違いない。習近平主席の面子も丸潰れになってしまった。残り1年ほどの任期になってオバマ大統領もやっと国際政治を動かしている力が何かということがわかってきたのだろう。国際政治ではときには力を誇示する必要があるのだ。(中略) オバマ大統領の決断の背景には,安倍首相による安保関連法の成立があったことも見逃せない。(p86)
 日本についても中国の隣国だから中国経済が崩壊すれば日本経済に悪影響が及ぶという錯覚を世界の投資家が持っているだけだ。(中略)中国のパニックで株価が下がれば,むしろ押し目買いのチャンスなのである。(p5)
● ヨーロッパもダメだ。唯一,ドイツだけは例外だったのだけども,フォルクスワーゲンの重大な不正が露見して,陰りが出てしまった。
 さらに,ISのテロがパリで起こって,観光客が激減。
 ヨーロッパで技術水準の低落と研究開発能力の低下がなぜ起こっているかというと,最大の要因は技術者人材を養成する能力の不足である。たとえばヨーロッパの冶金の専門学科を持つ大学が少ない。(p103)
● ISを作りだしたのはイラク戦争後のアメリカの不手際。
 もしイラクに安定した政権ができて国土全体をきちんと統治できていればISが存在する余地もなかっただろうし,シリアの内戦も長期化せずに収まっただろう。(中略)別の言い方をすると,アメリカのイラク占領統治に問題があったからISが生まれてしまった。(中略)その最大の原因はアメリカが旧イラク軍を解体して軍人を解雇するとともにすべてのバース党員を排除したことだといわれている。バース党員はイラクの行政を動かしていたから,イラクの政権は機能不全に陥ったのだ。(p118)
● では日本はどうか。基本的には問題はないのだけれども,個別に見ていけば課題は山積している。介護(高齢化),保育(少子化),医療,公務員制度改革などなど。
 介護職を担う人は増えるどころか,減っている。というのも給料が低いからで,(中略)全産業の平均よりも約11万円も低い。(中略)裏を返すと,給料が安いから虐待をするような質の悪い人材しか確保できないともいえるだろう。介護施設で入居者に対する虐待が起こるのも介護福祉士を安い給料で長時間働かせているからである。(p161)
 日本経済をさらに活性化させるためには財政支出を徹底的に減らす努力をもっと重ねなくてはならない。その点で第一に挙げられるのが公務員制度改革だ。具体的には公務員の身分保障を剥奪することである。役所で働いている公務員がクビになることもあるというシステムを導入して初めて公務員も民間の会社員と対等になる。(p163)
● 民主党は長期低落傾向。
 経済界に対して賃上げするようにと最も強く圧力をかけているのは労働組合ではなく安倍首相なのは明らかだ。しかも賃上げは労働組合や野党の民主党がいくら強く要求してもなかなか実現しないのに安倍首相がいえばすんなりと通ってしまう。安倍首相の圧力に経済界は弱い。(p171)
 労働組合との関係は民主党がスポンサーとして役に立たないから名目だけのものになってしまった。安保関連法案に対しても労働組合はほとんど反対に動かなかった。したがって今,労働組合は2016年の参院選でも本気で民主党を支援することはできないと判断している。民主党が次の参院選でも大敗するのは間違いない。(p172)
● 対して,安倍首相への評価は高い。
 参院選で勝つにはまず自民党に対する公明党の全面的な協力が不可欠なので,安倍政権も軽減税率に強くこだわった公明党の言い分を丸呑みしたのである。公明党には軽減税率で貸しをつくったのだから参院選ではその借りを返してくれということだ。安倍首相は譲るところと頑張るところのメリハリが効いている。(p176)
 臨時給付金についても,貧しい人だろうが大金持ちだろうが,選挙での一票の価値は同じだから低所得の年金受給者に3万円を配って歓心を買うのは当然だ。言い換えれば,臨時給付金も軽減税率も議会制民主主義におけるコストであって,安倍政権はそのコスト負担を惜しまないということなのである。(p176)
● 東芝問題。
 たとえ東芝が存続したとしても立ち直るまでに15年くらはゆうにかかるだろう。本来なら家電部門も半導体部門もすっぱりと諦めて潰してしまうべきだ。となると数万人規模のリストラを覚悟しなければならないが,それができないのなら経営陣を総入れ替えするしかない。(p181)
 2000年以降,カネボウ,ライブドア,オリンパスなどが株取引や会計処理での問題を引き起こしたが,東芝の粉飾決算の深刻度はそれらの企業の不正をはるかに上回る。だから,粉飾決算を主導した東芝の旧経営陣は全員,刑事訴追を受けて裁判で実刑を科されるのが当たり前だ。 東芝の旧経営陣にそのような厳しい処罰が科されればすべての日本企業の経営陣の気持ちも引き締まる。と同時に日本の企業経営の透明性,合法性も格段と高まっていくだろう。(p182)
● 人手不足が顕在化している。ブラック風評がたってしまうと,お客が減る以上に従業員が集まらなくなる。これが大きな痛手になる。
 訪日外国人の客が増えてホテル側は笑いがとまらないのかというと話はそう簡単ではない。(中略)いちばん苦労しているのがホテルの従業員の確保である。(p186)
 居酒屋業界で目を見張る成長を遂げていたワタミの転機は2008年だった。4月に入社した社員26歳の女性社員が連日の長時間労働を強いられ,同年6月に自殺したのである。2013年に女性社員の遺族が,自殺の原因は安全配慮義務を怠ったワタミにあるとして損害賠償1億5000万円を求めて提訴したのに対し,ワタミ側は裁判で「法的責任はない」と述べて争う姿勢を取った。ところが以後,インターネットの書き込みやマスコミ報道で「従業員に過酷な労働を強いるブラック企業」という風評が立ってしまい,それが客足が遠のく一因となってワタミは赤字に陥ったのだ。しかしワタミにとって客離れ以上に痛かったのはブラック企業というレッテルが貼られてしまい,従業員が集まらなくなったことだ。(p189)
● 雇用問題については,人手不足以前に考えなければならない問題がある。
 私は日本企業のなかで正社員と非正規社員という区別があること自体に問題があると思っている。同一労働同一賃金なら両者の区別は必要ない。(中略)それには日本の企業全体が職務給ベースの賃金体系に移行しなければならないのにもかかわらず,まだほとんど移行できていない。職務給ベースの賃金体系になれば労働者の流動性も高まる。(p194)
 実は日本企業の場合,今でも中間管理職の約9割は不要なのです。なぜなら,本来は不要な業務やセクションが多すぎるからで,不要な業務やセクションをなくして配置換えをすると人手不足もいっぺんに解消してしまいます。(p220)
● その他,ひとつだけ転載。
 「織り込み済み」は市場用語であって,「あてにならない」とか「よくわからない」という意味にほかならない。(p45)

2016年2月17日水曜日

2016.02.11 長谷川慶太郎・小原凡司 『米中激突で中国は敗退する』

書名 米中激突で中国は敗退する
著者 長谷川慶太郎
    小原凡司
発行所 東洋経済新報社
発行年月日 2016.02.18
価格(税別) 1,500円

● 中国の軍事力を分析したもの。
 中国の軍事費の伸びは世界でも突出している。けれども,装備においても,軍人の練度においても,ありていにいえばお粗末を極めている。
 さらに問題なのは,人民解放軍というのは陸海空の間に一体感がなく,陸海空それぞれの内部においても仲が悪く,合同演習ができない。

● かつての中越戦争で,中国はベトナムに完敗した。ポル・ポトを攻撃したベトナムに対して,懲罰と称して56万人をベトナム国境に集結させた。ベトナム軍主力はカンボジアにあって,中国軍に対したのは,いわばベトナムの二軍。
 が,規模においてはるかに小さなこの二軍に対して,中国軍は手を焼くことになる。その理由は,中国軍内部で言語が通じなかったことにある。
 そいういうことも本書では語られている。

● 中国というのは,開放路線以来,急速に経済成長をなしとげ,国家もその果実を公共投資に投じてきた。公共投資というのは,そもそもが無駄を含むものかもしれないけれども,中国の場合はその無駄がやはり突出しているようだ。鬼城と呼ばれる誰も住まないマンション群。空気を運ぶだけの高速鉄道。
 一方で,やらなければならない公共投資が行われていない。環境対策だ。

● 以下にいくつか転載。
 これまでの高度成長持続の成果も,民意を無視し,党幹部の私利私欲,格差拡大の結果によるものであった。当然,腐敗・汚職は各界に蔓延し,人命軽視の事故や災害の多発,大気汚染,水質汚濁など生活環境の汚濁は深刻化こそすれ是正の兆しさえない、国民の生活と健康は無惨にも破壊し尽くされている。(p6)
 実は近代戦争というのは,たしかに兵器の性能は重要であるが,それ以上に重要視すべきは,下級指揮官の補充がきちんとできているか否かが重要になる。その原則をきちっとやり抜いたのはスターリンである。ヒトラーはそれができなかった。(p30)
 中国は文革で士官学校をつぶしたんです。(中略)士官学校が復活するまで,何年空白期があったと思いますか。一五年です。だからいまの中国人民解放軍の将官クラスの人間は大半は基礎教育を受けていないのです。(中略)中国では英語をしゃべれる将官はほとんどいません。全部通訳がつく。それくらい知的レベルで劣っているのです。(p78)
 原子力エンジンと航空母艦というのは切っても切れない関係で,原子力エンジンをつけられない空母は,それだけで死に体なのです。(p92)
 なぜ共産主義国家が勝手に倒れていくかと言うと,鍵は技術革新です。技術革新を推進しようとすれば,絶対に必要な要因が二つある。一つは,自由。自由がなかったら技術革新はできません。もう一つは競争です。ライバルとの自由な競争に晒されることで技術革新が進むのであって,自由な競争のないところでは技術革新は不可能なのです。(p94)
 共産党の一党独裁体制ではソフトランディングはあり得ない。なぜなら,ソフトランディングに成功し民主化が進めば進むほど,共産党の一党独裁体制は必要ないというきわめて明快な結論が出てきてしまうからである。(p128)

2016年1月31日日曜日

2016.01.31 長谷川慶太郎 『今世紀は日本が世界を牽引する』

書名 今世紀は日本が世界を牽引する
著者 長谷川慶太郎
発行所 悟空出版
発行年月日 2016.01.27
価格(税別) 1,400円

● 長谷川さんのものの見方の特徴は,アメリカという国の意思決定の様式に対する信頼と,現在の日本の政治リーダーである安倍総理に対する評価にある。
 特に,安倍総理に対しては全幅の信頼を置いているように思われる。他国の大統領や首相と比べても,安倍総理は傑出していると考えているようだ。

● もうひとつは,日米以外の国(つまり,欧州と中国,ロシア)に対する徹底的な悲観。韓国もそうだ。未来はないと切って捨てる。
 そうした中国や韓国に対して,日本はどうすべきか。何もするな,という。何もしないのが最善の策だ。

● 以下にいくつか転載。
 日本は毅然として中国が設立を目指すAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を見合わせたが,イギリスを皮切りに欧州諸国が参加を表明すると,「このままでは日本は遅れを取ってしまう。日本もAIIBに参加すべきだ」と主張する国内メディアも現れる始末だった。(p1)
 EU諸国の経済衰退と混乱も著しい。もはや過去の栄光で生きているといってもいい状態で,経済成長を促す新たな成長エンジンを生み出せる活力などとうの昔に失っている。(p7)
 財閥は目先の,自分たちが儲かる事業にしか投資をしない。そのため,韓国の産業の幅は極めて限られてしまっている。その一方で他の企業が新しく事業を始めようとしても,財閥の力に押しつぶされてしまう。それでは新しいビジネスモデルは創出できない。(p110)
 そんな両班文化が根強く残っているせいか,韓国には「モノづくりの精神」がない。日本人は何代も続く職人や商店をリスペクトするが,韓国人はまったくリスペクトしない。(中略) 一握りの両班が多くの民衆から生産の果実を収奪するような文化の中では,本当の意味での文化の継承は起こらない。働かない人が威張り,汗を流す人を馬鹿にする社会に,工夫と努力を積み重ねて,よりよい生活を追求していこうというムーブメントは起きてこないのだ。(p116)
 日本は1億2000万を超える人口と,そのほとんどが中流階級という恵まれた環境があったため,海外における戦略が疎かになるという面があった。「日本で売れてナンボ」という感覚で,国内シェアを争うことばかりに目が向いていたのだ。 その結果,激化していく国際規模での競争に,あっという間に乗り遅れてしまった。(p222)
 援助したのにそれがその国の国民に知らされることもなく,妬みや怨みを買うという愚は二度と犯してはならない。日本は,これまでの中国に対するODAや韓国に対する援助がすべて無駄となり,反日攻撃が延々と続いていることを肝に銘じるべきなのである。(p247)

2015年12月30日水曜日

2015.12.28 長谷川慶太郎・田原総一朗 『2020年世界はこうなる』

書名 2020年世界はこうなる
著者 長谷川慶太郎
    田原総一朗
発行所 SBクリエイティブ
発行年月日 2016.01.04
価格(税別) 1,500円

● 田原さんは話の引きだし役。しかも,議論をふっかけるというやり方で引きだすのではなく,言葉どおりの引きだし役を務めている。

● したがって,本書で述べられる見解はすべて長谷川さんのもの。具体的な事実情報がどんどん開陳される。
 国際経済,国際政治は,やりようによってはミステリを読むより面白くできそうだ。が,そのやりようが誰でもできるというわけではなくてねぇ。

● 以下にいくつか転載。
 田原 過去にエズラ・ヴォーゲルという人が,『現代中国の父 鄧小平』という本を出版しました。(中略)私はこの頃,中国経済は大成功すると思ったのですが,長谷川先生はこの本をお読みになった感想はいかがでしたか。 長谷川 中国のキャンペーンにどっぷり浸かったな,と思いました。ハッキリ言えば,中国の経済路線は失敗する事になるからです。それが読めていない。(p12)
 そうした事態に備えて人民解放軍は,鴨緑江のところに鉄条網を三重にして敷設しています。「水の中」「水際」「内陸」を三重に張っているのです。(中略)北朝鮮から難民が入って来られないように,三重に鉄条網を張っているわけです。(p49)
 日本企業は技術改良して中国からレアメタルを購入しなくても,電子部品が製造できるようになりました。(p62)
 アメリカは空白地帯で自然発生的に,治安を回復するための組織が出てくると思ったのです。アメリカでは西部で自然発生的に,シェリフ(保安官)が出てきます。シェリフに全権を渡して,治安を守るという形がアメリカでは一般的でした。それが 地元の警察になってくるわけです。そいういうものがイラクでも出てくるとアメリカ人は勝手に錯覚をしたのです。(p89)
 ゲリラには正規軍では勝てないのです。(中略)警察でないとダメです。(p89)
 田原 ヒラリー・クリントンはダメですか。 長谷川 ダメです。問題になりません。 田原 何でダメですか。 長谷川 機密ですよ。機密保持ができない。個人の通信口座を公的な通信に使うわけです。あんな不用心な人をどうして大統領にできるでしょうか。(p96)
 東芝の場合を言いますと,旧役員を含めて,今,役員は,外国旅行ができないのです。海外に行く事を当局が止めるからです。警察が手を回しています。間もなく捜査の手が入ると思います。(p123)
 資本主義がなくなったら何があるのですか。また,封建主義に戻るのですか。そんな事ができますか。もちろん今さら社会主義になるわけではない。できるわけがないじゃないですか。やっぱり資本主義でいくしかないのです。ポスト資本主義は資本主義なのです。(p124)
 田原 中国のバブルははじけていますが,結構,中国経済は強いという見方があります。(中略)瀬口清之さんがそうです。(中略)それと遠藤誉さんもそうです。 長谷川 みんなそうです。中国が伸びることで,自分たちのメリットが出てくるからです。だから客観的ではないのです。願望を含めているのです。(p139)
 共産主義国家では人間を大切にしません。相手の事などまったく考えていないのです。個人でも国家でも同じです。つまり自分さえ良ければいいという極端な考え方をして,無責任な体制となってしまいます。こうした国家が繁栄するはずがないのです。「人のために」という発想が人類発展のキーワードになる事は間違いありません。今の共産主義体制はその流れに逆行しています。(p171)
 日本でもどの国でもそうですが,バブルというものは一度発生したら破裂するところまで,行き着くところまで行くしかないのです。途中で止められません。(p196)
 金融の運用は多少頭を使えばいいだけで,儲ける事は簡単でした。だけど,研究開発はそういうわけにはいきません。実際,物をつくらないといけないわけですから。これは容易な事ではありません。アイデアができてもそれを実際に具現化するのは,大変な作業と努力が必要となります。その作業が嫌なのです。面倒くさいわけです。GEを御覧なさい。(p206)
 田原 投資効率というのは怖いですね。投資効率,投資効率といって追求したら,第二次産業はどんどんなくなるわけですね。 長谷川 その可能性は十分にあります。第二次産業を温存するためには,別の発想が必要となるのです。具体的には経済の構造的な発展を考える。それが必要なのです。(p207)

2015年9月25日金曜日

2015.09.23 長谷川慶太郎 『日本経済は盤石である』

書名 日本経済は盤石である
著者 長谷川慶太郎
発行所 PHP
発行年月日 2015.10.02
価格(税別) 925円

● またまた,長谷川さんの新著が出た。出れば必ず買う。

● 本書の内容はタイトルに凝縮されている。
 現在のデフレ下のいても,日本企業は熱心に研究開発投資を続けており,あらゆるイノベーションによって利益を高めている。デフレ基調の世界経済の大きな枠組みのなかで,着実に技術開発を続ける日本企業の未来は絶対的に明るく,「日本の大繁栄」は揺るがないと言えよう。(p155)
● 技術力がすべてを決するというのが,著者の考え方の基本にあるものかと思う。
 その技術力はしかし,小手先の政策や方法論ではどうにもならないところがあって,それこそその国の歴史とか伝統とか,長い間に少しずつ溜まってきたものがモノを言うところがある,と。

● ユーロ圏(の特にギリシャとドイツ)が詳しく論じられている。

● 以下にいくつか転載。
 中国共産党の上層部が繰り広げている権力闘争が大衆デモと結びついたとき,中国の現政権は間違いなく崩壊する。(p50)
 中国は現在,人民元のレートを複数の外貨に連想させる通貨バスケット制を採用しているが,(中略)中国がこのシステムを維持することができなくなり,人民元の取引を変動為替相場制に移行せざるを得なくなったとき,中国経済は崩壊に向けた一歩を踏み出すことになるだろう。(p68)
 ギリシャが今回あれだけ強気な態度を貫いてきた背景には,自国の存在がEUにとって地政学的に不可欠だという自負がある。冷戦期において,ギリシャがトルコとともに,事実上の「反共の防波堤」になった歴史があるからだ。(p79)
 ドイツは今のようにユーロ圏がごたついていても,何も気にしていない。かえってユーロ圏のゴタゴタこそが,ユーロ加盟国の財政政策にドイツが介入できる絶好の口実になってさえいるわけだ。(p87)
 これは非常に大事なことだが,東西ドイツ統一の際,旧西ドイツでは徹底的に左翼が潰された。共産党はもちろん労働組合,社会民主党も潰され,そこに連なる知識人たちも徹底的にパージされている。 その結果,東西ドイツが統合されたあと,労使関係の力のバランスが大きく変わり,雇用主が優勢になった。(中略)ドイツの企業経営者たちは非常に有利な条件で国際競争力を向上させることができたのである。(p93)
 東西ドイツ統合当時,旧東ドイツ外務省には約二〇〇〇人の職員がいたが,統合後に外務省に残れた職員は八人しかいなかった。敗戦とはそういうものである。(p98)
 日本には明治の開国当時から,国際条約をきちんと守る国だという揺るぎない信頼がある。(p109)
 私があらためて素晴らしいと思うのが,日本がかつて,そういう不平等条約を結ばざるを得なかった状況にあったにもかかわらず,明治時代に工業化に成功したことである。(p111)
 ひと頃,「日本企業は成長著しい韓国・中国企業に学べ」と主張するエコノミストや評論家が数多くいた。もちろん,企業経営の優劣は技術力のみによって定まるものではないが,日本は世界のすべての国に対して技術貿易で黒字を計上する実力を持っているというのは非常に重要(p118)
 知恵を売って得た収入でモノを買うことにより,収支のバランスが取れるような国になった場合,日本経済が弱くなるということはあり得ないし,すでに日本はそういう国になっているのだ。(p119) 日本はもうしばらくすると鉄鉱石を輸入しなくても済む国になる。日本国内に,老朽化したビルや自動車といったさまざまなかたちで,鉄鋼の在庫が二五億トンもあるからだ。(p120)
 トヨタは年間一兆五〇〇億円(二〇一五年度)を研究開発に投資しているが,これはもちろん企業の研究開発費としては日本一で,二〇一四年度における同社の株主に対する配当金総額の六三一三億円をはるかに上回っている。 やはりトヨタは大したものだ。「戦力の逐次投入」が下策であるように,研究開発費も小出しではなく,それなりの規模で使わなければ会社に力がついていかない。(p124)
 日本のインフラ輸出には改善の余地も大いにある。 たとえば日本仕様ではオーバースペックになりがちなインフラ設備やシステムを,いかに現地に合ったものに最適化するか。また,事業の採算性などを調べる予備的調査や,現地に密着し,現地の事情にマッチした事業の提案を行うコンサルタントをいかに増強していくか。そして外国人と対等に,ビジネス面でも技術面でも英語で突っ込んだ交渉ができる人材をいかに育てていくか,ということが挙げられる。(p150)

2015年9月21日月曜日

2015.09.17 長谷川慶太郎 『2016年 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2016年 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2015.09.30
価格(税別) 1,600円

● 続けざまに長谷川さんの新著が出た。今回は,上海株の暴落と天津の爆発事故が織りこまれている。『2016年 世界の真実』とは色合いの違う著作になっている。

● 世界経済,世界情勢を扱いながら,ミステリを読むようなワクワク感が味わえるのはどうしてなのか。最期の謎解きまで用意されているからというのもあるけれども,細かいデータの渉猟に抜かりがないからだろうと思う。
 自身の世界観とか宗教観とか文明観とか,「観」の付くような粗雑なモノサシを一切用いないで,データとその組み合わせで語っているからではあるまいか。

● 本書の結論は「まえがき」に述べられている。
 今後もアメリカを先頭にして日本,ドイツが世界経済を引っ張っていくという構図には変わりがない。この三ヵ国の経済基盤に揺るぎがない以上,世界経済の先行きは非常に明るい。(p5)
● 国内の株式市場について,次のように言う。
 株価が急落し年内にもう一回大きな押し目が来ます。(中略)二度目の押し目の前に日経平均は元に戻るどころか,もっと高くなります。このときに持っている株を売って現金に換えておけばいいでしょう。(p5)
 マスコミはマッチポンプであって,上海株の暴落と日本株への打撃を結び付けて報道することで視聴者や読者の関心を集め,そうしたことによって経営を成り立たせようとするのだ。証券会社も手数料が稼げるので株価の乱高下を歓迎している。したがって日本の個人投資家が株で儲けたいのならマスコミや証券会社のいうことに惑わされてはいけない。(p18)
● 中国に対する見方は一貫している。滅びへの道を着々と歩んでいるというもの。
 天津での大爆発事故はなぜ起こったのか。事故なのか,偶発的な出来事なのか,あるいはテロリストによる犯行なのか。さまざまな説がありますが,私はテロだと見ています。では誰がやったのかというと,独立をめぐって中国政府と激しく対立している新彊ウイグル自治区のウイグル族です。それを支援しているIS(イスラム国)が,カザフスタン国境を通じてウイグル族に武器・弾薬を提供しています。(p3)
 上海株に流れ込んできたのは,それまで不動産に回っていた資金も多少はあるものの,大半は個人投資家が借金してつくった資金だ。余った投資マネーではなく命ガネであって,それだけに事態は深刻である。(p21)
 人民解放軍は各軍区も海軍も空軍も習近平政権の裏をかくことばかり考えている。(p52)
 経済の動きをも計画的にコントロールできると考えるのが社会主義だ。計画経済は社会主義の別名ともいえる。 一方,株式市場は本来,多くの人々が株を自由に売り買いするから,つまり一人の人間だけで売り買いするのではないから,上場されている各銘柄の値動きはそれぞれバラバラになる。裏を返せば,誰か一人の意思で株価をコントロールすることはできない。(中略) 要するに株式市場に計画経済を持ちこんだこと自体が論理的な矛盾なのである。(p56)
 今の中国の国民は公的には中国が北朝鮮を切ったことを知らされていないのだが,北朝鮮が崩壊するとそれがわかる。となると,なぜ中国は血の同盟を無視する行動を取ったのかとまず疑問を持ち,しかるのちに北朝鮮を救うだけの力が中国にはないことに気が付かざるをえない。(中略)そういうことで中国国内では共産党政権に対する反対運動が一気に広がっていく。 北朝鮮が潰れれば中国も持たない。(p81)
● 北朝鮮はすでに死に体になっている。
 北朝鮮の状況は切迫してきている。日本ではあまり報道されていないが,二〇一五年は北朝鮮が一〇〇年に一度という最悪の大干魃に見舞われたからだ。(p61)
 二〇一五年四月,金正恩は軍事外交を担ってきた人民武力相の玄永哲を反逆罪で銃殺処刑した。この粛清はクーデターがあったという証拠だ。そればかりか,朝鮮人民軍が金正恩と距離を置くようになっているという示唆でもある。(p63)
 粛清を恐れた朝鮮労働党,北朝鮮政府,朝鮮人民軍などの幹部が海外に出る機会を利用して亡命するというケースが二〇一五年になってから相次いでいる。(p64)
 北朝鮮は粛清とともに幹部の亡命が続いて国家としての正常な機能を失いつつある。となるともはや拉致被害者を含む日本人の抑留者だけをピックアップすることもできないだろうし,再調査報告を出すのさえ無理になってきているのだろう。 日本政府は,再調査を終えていないとする北朝鮮に対して遺憾の意を示したものの,北朝鮮への制裁強化という強硬路線は取らなかった。日本政府もすでに北朝鮮が死に体であることを知っていて,強硬路線によって自ら引導を渡すことを避けたのだ。(p65)
● 北朝鮮が潰れれば,中国にはもちろん,韓国にとっても非常事態である。
 南北統合は韓国経済にとっては他国の救援がなければ心中に等しいのである。(p68)
● ではヨーロッパはどうか。ドイツが覇権を確立しており,これはこのまま続く。
 EC(ヨーロッパ共同体)もEUもユーロもドイツ封じ込めを最大の目的としてつくられた。だが,現実にはヨーロッパ諸国の思惑は完全に裏目に出て,ドイツを封じ込めるどころか,ドイツによってヨーロッパが逆に封じ込められたという結果になった。特に単一通貨ユーロを通じて今やユーロ圏はドイツの植民地になってしまったといっても過言ではない。(中略)ユーロ圏は人口三億三〇〇〇万人のドイツの領土なのである。(p192)
 ドイツは国際貢献のつもりでユーロ圏を守ってきたわけではない。通貨ユーロはドイツに対して何にも代え難いメリットをもたらしてくれるからだ。そのメリットはまず,ユーロ圏内での貿易であれば為替レートの影響を受けないということだ。(中略) もう一つのメリットは,ユーロ圏以外の国々との貿易においてもユーロであればドイツの国力に比べて為替レートを低く保つことができるということだ。(p193)
● ロシアの先行きも五里霧中。
 国際社会はバラバラに見えるが,遵守すべき共通した原則があって,それを破った者に対しては厳しい。原則とはたとえば国家主権である。ロシアはクリミア併合でウクライナの国家主権を侵してしまった。今のところロシアも面子があるから,やせ我慢しているけれども,そろそろ限界だ。背に腹は代えられなくなる。といって戦争を起こす力もない。(p221)
 ロシア経済には依然としてソ連時代の共産主義における統制経済の残渣が残っている。ロシア国民の多くの意識も共産主義から完全に抜けきっていないので,自由主義経済へと移行するためにはロシアは少なくとも一〇年間は苦しまなくてはならないだろう。共産主義は捨ててもその精神から逃れるのは大変である。(p221)
● 原油価格はさらに下がる。なぜなら,イランが経済制裁を解かれるからだ。中東の大国イランの雇用が改善されれば,テロリスト集団も消滅に向かう。
 イラン石油相のいう通りならイラン産原油の輸出は二〇一六年には倍増して他の産油国との輸出シェア争いが激しくなる。これはまた原油市場における長期的な供給過剰に拍車をかけていく。とすれば原油価格もこれからさらに下がるのは明らかだ。(p110)
 経済制裁のためにイランがインフレに苦しんでいるということはそれだけ物不足であり,潜在的な需要も大きいということだ。人口七八〇〇万人という市場の巨大さに加えて潜在的な需要も期待できるなら,今後,世界中の外資企業もイランに触手を伸ばしていくだろう。(p111)
 IS(イスラム国)のようなテロリストの武装集団は,貧しい者や失業者をリクルートしてテロリストに仕立てるのだから,貧しい者や失業者がたくさにるとそれだけテロリストも多くなる。つまり経済的な衰退のためにテロリストが多数派になってしまうのだ。逆にいえば中東で経済的な繁栄が生まれると貧困が減って就業者が増えていくからテロリストは少数派になる。(p112)
● 日本はどうか。総体としては順調に推移する。もちろん,個別企業を見れば問題を抱えたところもあるけれども。
 キャノンは二〇一八年までに国内工場でのデジタルカメラ生産をロボットの導入によって完全自動化する計画だ。この背景には単なる人手不足ももちろんだが,熟練工が年々足りなくなってきたことも大きい。逆にいうと,これまで熟練した労働力を必要とする組み立て作業でもロボットでこなせるようになってきた。(中略) 増産体制を整える目的もある。ロボット化に成功すれば,人件費の安い海外に進出しなくても国内での生産コストが下げられるので国際競争力も高まっていくのはいうまでもない。(p140)
 一九六〇年代までであれば日本の大企業でも粉飾決算は珍しくなかった。しかし現代では粉飾決算は言い訳が通用しない犯罪だ。東芝の旧経営陣はその認識が乏しかったのである。(p143)
 新銀行東京については最初からやるべきではなかった。金融業の大原則は「天気なら傘を貸し,雨が降ったら傘を取り上げる」というものだ。性善説に立っている行政にそんな大原則を貫けるはずがない。貸し渋りの救済のために行政が銀行をつくったことがそもそもの間違いだったのである。(p154)
 居酒屋大手のワタミの場合,社員の自殺で遺族から訴えられ,系列の介護施設でも死亡事故が発生した。そのためインターネットの書き込みやマスコミ報道でブラック企業のレッテルを貼られてしまった結果,ブランド力が落ちて居酒屋の客離れが起こり,居酒屋の売上高は三年間マイナスで二期連続の最終赤字となった。(中略)このワタミの事例はブラック企業と見なされることがいかに企業経営に響くかという見本でもある。(p162)
● その他,いくつか転載。
 冷戦の終結は人類に非常に素晴らしい成果をもたらす。世界の人口は七二億人だが,東アジアにはその約二三%の一六億人が住んでいる。この膨大な人口を持つ地域は多くの点でバラエティにも富んでいる。宗教や言語は多種多様であり,各地域では長い歴史を通じてさまざまな文明・文化が培われてきた。だから,それらの文明・文化が直接ぶつかり合うことできわめて強い知的な刺激も生まれる。この刺激を活用することによって東アジア地域はものすごく発展していくだろう。(p84)
 これからの日本企業は基本的に地域を限定して商売をするような発想を持ってはいけない。たとえば東南アジアやインドは相手にするが,欧米には出て行かないといった考え方は時代遅れだ。つねに世界市場を相手にして商売をしていくという発想が欠かせない。(p130)
 ロボット化では別の面で大きな問題が生まれてくるだろう。つまり,簡単な作業はロボットが担うことになるので,いくら人手不足であっても簡単な作業しかできない人間には仕事が来なくなる。(p141)
 私も企業経営におけるダイバーシティには賛成で,日本文化が世界を制覇するなどと思ったことは一度もない。日本企業にももっと外国人の役員を入れるべきだ。むしろ社内でいろいろな価値観をどんどんぶつけあわないと,企業も品質の高い商品やサービスを提供していけない時代になったのである。(p148)
 マイナンバーは公務員制度改革と結び付いてこそ価値がある。というのも,マイナンバーの利用によって行政事務が簡素化され,その結果,公務員の仕事が減って公務員の数も大幅に削減できるはずだからだ。(p168)
 今はまだ,子供を安定した公務員にしたいという親も少なくないが,公務員がリストラされる時代になるとそんな考え方は通用しなくなる。好きだから公務員になりたいというのならいいが,安定しているから公務員を選ぶという発想は間違いだ。(p170)
 学生が文系の学部や大学院で学んでいることは,今のような情報化時代には自宅にいても勉強できるようなことばかりだ。卒業資格はさておき,学者を目指さないのならわざわざ学部や大学院に通う必要もないだろう。一方,理系のほうはやはり実習や実験が欠かせないから,そのための設備等を持っている学部や大学院の役割は重要だ。(p171)
 民法のように法律が時代に即して長い間改正されてこなかったのは立法に携わる国会議員のせいなのか。つまり政治の怠慢なのかということだが,そうではない。実は司法の怠慢なのである。(p173)

2015年9月17日木曜日

2015.09.15 長谷川慶太郎 『2016年 世界の真実』

書名 2016年 世界の真実
著者 長谷川慶太郎
発行所 WAC
発行年月日 2015.09.11
価格(税別) 900円

● 長谷川さんの新著が出ると必ず読んでしまう。これまでの著作で語られていることがらを,本書でも念押ししている。
 本書の特徴といえば,語り口に容赦がないことか。

● まず,韓国に対して。
 慰安婦問題の本質とは何か。人身売買である。安倍総理はきちんとそのことをいっているし,アメリカも慰安婦が人身売買の問題だということを知っている。だから,日本に対して特別に「韓国人慰安婦の問題」を言挙げしようとしていない。 では,人身売買はだれの責任か。親の責任である。親に甲斐性がなく,お金を稼ぐために子どもを売った。それを韓国はいいたくない。だから,日本の名を挙げて非難するのだ。(p19)
 国際条約を守らない国,「歴史認識の修正は認めない」といって条約そのものを否定する国と,国際条約を守る国とでは扱いを違える。今度の安倍訪米はそれをはっきりさせた。これは大きい。こんなことをいったら悪いけれど,国際司法裁判所に竹島問題を訴えたら必ず日本が勝つ。(p46)
 産経新聞の黒田勝弘記者がいうように,韓国人は「昼反日,夜親日」である。公式の場では建前をいい,非公式の場になると本音を口にするのだ。馬鹿でなければ,韓国人はだれだって日本なしに韓国経済が成り立たないことをわかっている。(p127)
 ウォン高になってサムスンや現代が苦しいと騒ぐが,本当の問題はそこにない。繰り返し申し上げると,工作機械工業をもっていないことが問題なのだ。結局のところ,自立した機械工業を持たない韓国の企業は,お釈迦様の手の上で踊っている孫悟空である。お釈迦様は日本だ。つまり,日本の手の上で踊っているだけである。(p128)
 韓国で工作機械の製造ができず,生産財を日本からの輸入に頼るのは,単に技術レベルの問題ではない。「ものづくりの精神」がないからである。(p130)
 米にしても石油にしても,北朝鮮が崩壊して韓国がそれを引き受けたとき,すぐに必要となるものを提供する能力を持つのは日本だけである。日本との関係を良好に保たずに,韓国は「北朝鮮危機」に対処し得ない。歴史認識だとか従軍慰安婦だとかいって騒ぐのは,朴槿惠が甘えているのである。(p137)
● 次に,中国に対して。
 アメリカが日本でオスプレイをこれほど増強する理由は明らかだ。中国が崩壊したとき,中国の核戦力をコントロールすることに,神経を尖らせているからである。(p55)
 ソ連は文民統制だったから,ソ連軍の首脳部はきちんと統制を利かせて,核兵器をコントロールした。中国の場合,それができるか。胡錦涛の時代でさえ,文民統制が成り立っていないのだ。「とうていソ連のような対応は望めない」と考えるのが当然である。(p54)
 メーカーが「本物」になっていくためには研究開発投資が大事だ。ところが,中国では日本のように技術力を持った「本物のメーカー」が生まれない。お金が何よりも大事なので目先の利益に目がくらんでしまい,研究開発するよりも技術を盗むからだ。盗んできた技術はただである。そんなことをやっていたら,どうにもならない。(p154)
 共産党幹部の粛清は自分の敵を排除するだけでなく,国民に対してのアピールと受け止める向きがあるが,それは違う。共産党の組織そのものが必ず独裁者の独裁を必要とするのだ。(p142)
● ロシアに対して。
 なぜ,ロシアの外貨準備が減っているのか。企業の経営者が資本を海外に移転して減ったのではない。一般の国民が外貨を買っているからである。(中略) 毎月の給与としてルーブル紙幣を受け取ったら,会社を中退してでも銀行へ走っていって,ルーブル紙幣をドル紙幣かユーロ紙幣に交換する。こういうことをやっているのが何十人,何百人というレベルではなく,何百万人という規模だ。(p161)
● その他,転載。
 (朝鮮戦争では)当初,北朝鮮の攻撃が成功し,韓国はかろうじて釜山周辺のごく一部地域を確保するだけというところまで追い詰められた。そこからさらに北朝鮮軍が進み,朝鮮海峡を渡ったらどうなったか。これは仮定の話ではない。それを金日成は狙っていたし,スターリンと毛沢東は金日成の戦略を支援した。 冷たい戦争が熱い戦争に変わったら,西側が負ける危険がある。そのことを朝鮮戦争は示している。(p30)
 LEDの技術開発は目覚ましいが,中村(修二)の研究が実用化されれば「農業生産の工業化」が成立する。そのときの効果は大きく,土地の生産性は飛躍的に高まるだろう。日本でも「農業生産の工業化」が進めば,あっという間に米工場ができて田んぼがなくなる。これは笑い話ではない。必ずそうなる。(p66)
 民主党はヒラリー・クリントンで大統領候補の一本化が進んでいる。ところが,共和党は日本人があまり知らない人も含めて,何人も手を挙げている。このままだとヒラリーが勝ちそうだと思われるかも知れないが,そんなことはない。逆である。大統領選挙の候補者は党の予備選挙を通らなければならないが,共和党は多数の候補者が予備選挙を通して切磋琢磨し,「化ける」可能性があるからだ。(p71)
 大統領が代わると幹部が全部入れ替わる。郵便局長まで代わる。これがだいたい四千名ぐらいだ。だから,日本でいうところの職業的な官僚制はアメリカにはない。 逆にいうと,そういうふうに入れ替わって働ける能力を持つ人間が大勢遊んでいる。そうでなければ,大規模な人事異動をしてすぐ,政府も議会も運営できない。では,そういう人間がどこにいるのかというと,シンクタンクにいる。幹部になるのはシンクタンクのメンバーであり,そのためのシンクタンクがたくさんつくられている。(p75)
 アメリカと日本が主導するアジア開発銀行の決裁が遅いと先ほど述べたが,それだけでなく,どんな案件を申請してもなかなか全額は認められない。それだけ「借り手の質が悪い」のである。そういう相手に簡単な審査で貸したら,不良債権の山ができるのは当然だろう。(p85)
 今,住宅ローン業界はだまし合いだという。住宅ローンはだいたい一%の金利で集めた金を九%の金利で貸す。単純計算で,一千万円の貸出で年に八十万円の利益が出る。ただし,三大メガバンクの平均で住宅ローンの三分の一が不良化しているらしい。 これは日本国内の話である。外国に行ったら,もっとひどい。(p95)
 ちなみに,この記事(ヤクザ問題)を載せた『週刊朝日』が発売された日に,私の家の電話が鳴った。受話器を取ると,「警察庁の佐々敦行ですが,今週の『週刊朝日』の記事はよく書けていますね。ちゃんと取材をされたそうですな」。警察官僚の佐々は私が取材したことを確認していた。「東西でそれぞれ,一番大きいところへ行きました」と応じたら,「そうらしいですね。稲川会の連中も感心していましたよ」と佐々はいった。何のことはない。みんな,つうかあなのだ。(p149)
 「イスラム教の原則に従って政治を運営すべきである」「イスラム教の原則に従って社会生活を律すべきである」 イスラム過激派のこういう主張を受け入れる若い人が増えている。「コーランのとおりにやっていれば,アラーのおぼしめしにかなった生活ができますよ」と,気楽なほうへ誘導していくのはオウム真理教と同じである。 実際にそのほうが気楽なのは確かだ。コーランに書いてあるとおりやればいいのだから,頭を使わずに済む。変な話だけれど,イスラム教に忠実であればあるほど知的レベルが下がる。だから,男女平等を否定する。(p178)
 デフレの時代は一品当たりの価格が下がる。そこで「売り上げを伸ばすには販売数を増やすしかない」と考えるかも知れないが,そうではない。「価格の高いものを売ることで売り上げを増やす」が正解である。「値段が高いもの」とは「付加価値の高いもの」だ。付加価値の高いものは技術開発によってしか生み出しようがない。(p187)
 デフレの時代で重要なことはインフラ整備である。大規模なインフラの整備はデフレ時代にしかできない。(p188)
 農地改革がもたらすものが「農業の生産性向上」だけではないことだ。一番大きいのは「積極的に動いた人間が勝つ」という社会の構築である。(中略) 「積極的に動いた人間が勝つ社会の構築」において,「公正な競争」が不可欠だ。「公正」は法律によって支えられないと成立しない。したがって,法治主義国家でなければ「公正な競争」は生まれない。(p191)

2015年8月31日月曜日

2015.08.24 長谷川慶太郎 『ロシア転覆,中国破綻,隆盛日本』

書名 ロシア転覆,中国破綻,隆盛日本
著者 長谷川慶太郎
発行所 実業之日本社
発行年月日 2015.08.10
価格(税別) 1,500円

● 最近の著書でも触れられている内容。本書はロシアについて詳述。これまでの著書では,プーチン大統領が路線を転換する期待を滲ませていたように思うのだが,本書ではプーチンの辞任を予想。
 問題は,ロシアをまとめていける次のリーダーがいるのかということだが。

● 石油と天然ガスしか売るものがないロシアにとって,現状は逆境。ルーブルの下落は止まらないし,外貨準備がいつまでもつか。
 結局,ロシアはクリミアを維持できない,と予想する。

● 中国はお先真っ暗。日本にすり寄る姿勢を見せているが,日本は高見の見物を決めこむのが吉。
 韓国もどうにもならない状況。ひょっとして,朴槿恵大統領はいざとなれば日本が救ってくれると思っているのではないか,と。

● 以下に転載。
 先般,二階自民党総務会長が中国に行きました。その随行団体の中に日本のメーカーは1社も入っていなかったのです。全部,観光業者でした。日本のメーカーは中国を相手にしたくないというのが本音です。なぜか。中国を相手に商売したら損するばかりだと思っているからです。(p6)
 中国は明らかに日本寄りになってきました。これから間違いなく日中関係は緩和ムードです。中国経済が想定以上に落ち込み,中国政府は日本に救いの手を求めているのです。それに対して日本はどうすべきか。何もしなければいい,黙っていればいいのです。すり寄ってきた中国に日本が乗せられたら,また酷い目にあうのは目にみえています。(p6)
 一時期,上海ガニが日本にあふれました。その最大の理由は日本にある高い生鮮食料品の検査技術活用にあります。どういうことか。日本で上海ガニを検査して,その検査結果に基づいて汚染された上海ガニは売りにださないことにしたのです。上海ガニの検査を日本側にやってもらうために,日本に出荷するのです。そして,検査が通った上海ガニをまた中国に戻します。中国国内の検査は信用されていないのです。(p27)
 来日した中国人が「爆買い」する中身ですが,最近では日用品も買うそうです。一番,良く売れている日用品はチューブ入りの歯磨きです。(中略) 中国にも当然,歯磨きチューブはあります。歯磨き粉は口に入れるものだけに中国製品は怖くて買えないといいます。中国製品は信頼がありません。中国人が中国製品を信用していないという状態は深刻です。(p33)
 それほど国際秩序を無視した国は高い代償を支払わされるのです。国際秩序というのは,目に見えないからこそ,大切なのです。そして「力」があるといえます。(p73)
 ルーブルがドンドン値下がりをしていることから,海外旅行はロシア国民にとっては夢になってしまいました。多くのロシアの旅行会社は倒産しました。一番,ロシア国民が困っているのは,映画が観られないことです。国内映画はルーブルですが,外国映画はドルで払わないといけないのです。ロシア人は映画好きです。娯楽がなくなりました。細かいことかもしれませんが,こうしたことも微妙に国民に不満がたまっていく要因なのです。(p76)
 東側陣営の指導者や経営者たち,労働者たちも経済原則を知らないのです。効率を求めてはいけないと思っているのです。「変わらないことはいいことだ」と信じています。このような価値観で技術革新が起こるわけがないのです。(p78)
 なぜ,日本の中古車の評価が高いのか。そのポイントはクルマの組み立てに何パーセントのロボットを使っているか,なのです。日本は組み立て作業に使っているロボットの溶接箇所率は92%です。米国はようやく20%になったかどうかという水準です。(p116)
 日本の技術力の高さは国民気質とは関係がありません。あることがキッカケとなり技術導入するシステムを作り上げたことが,技術力向上に大きく役立ったのです。 日本で本格的に技術導入をして,技術水準が高くなったのは,第一次オイルショック以後のことです。(p125)
 健全な大国はアジアにおいては日本だけです。その証拠に日本には徴兵制がありません。中国,韓国では徴兵制があります。健全かどうかの分かれ目となるのが徴兵制です。徴兵制は青年を軍隊に押し込め,自由を奪うのです。そんなことを許してしまえば国民全体の自由は確保できません。(p174)
 第二次世界大戦後,ドイツはフランス,イギリスなどと関係は良好です。それに対して日本は,隣国の中国や韓国と関係はドイツとフランスのように良好とはいえません。(中略)日本とドイツの違いはどこにあるのでしょうか。 その大きな違いは,周りの国家が近代国家であるか否かです。ドイツの周りの国家は明らかに近代国家です。近代国家というのは,国際条約をキチンと守る国家を指します。フランスもイギリスも一度,結んだ国際条約はどんなに状況が変化しようとも守り抜くのです。(中略) しかし,中国も韓国も一方的に国際条約を無視するのです。(p200)

2015年7月21日火曜日

2015.07.14 長谷川慶太郎 『日経平均2万5000円超え時代の日本経済』

書名 日経平均2万5000円超え時代の日本経済
著者 長谷川慶太郎
発行所 ビジネス社
発行年月日 2015.07.10
価格(税別) 1,500円

● 「経営トップが代われば株価はもっと良くなる」と副題が付いている。いいほうの例としてIHIが,悪いほうの例として東芝があげられている。
 平成27年3月期の決算が終わって,日本経済はかつてない増収・増益を記録した。それを反映した株式市場で,きわめてはっきりした兆候がある。 そのひとつは経営者の腕前次第で,株価がいかようにでも上下するということ。すなわち腕前のいい経営者が率いる企業は,たとえ目先の業績が悪くても,さらに時期を重ねるにつれて業績が大きく回復すると判断される限り、市場では高く評価されて「買い」が集まる。 その典型的な実例としてIHIが挙げられるだろう。(p40)
 3大充電器メーカーのなかでも,もっとも株価水準の低い東芝としては,(粉飾問題は)きわめて大きなダメージだった。その結果,瞬間ではあったが一時300円台に落ち込むほど「失望売り」が集中したのである。(中略) こうした経営戦略の誤り,あるいはまた社内管理体制の不備を追求された場合,経営陣が率直にその批判に応える姿勢を示すということが,いかにも重要なその企業に対する「評価」を左右する要素として大きくクローズアップされるのが現在の日本経済であり,その反映としての株式市場なのである。(p42)
 筆者はこの問題は一過性のものではなく東芝の経営体質から生じた構造的なものだと判断している。したがって問題解決のためには東芝を変えなければならないし,経営陣を一新しなければならない。 6月の株主総会で経営陣の交代を宣言しなければならない。人事に手をつけないのであれば,また同じことが起こる可能性がある企業と思われてしまう。(p79)
● 著者の日本経済に対する見方は,これまでも別の著書で何度も説かれている。まさしく,これからは日本の時代。技術力の高さと現政権に対する信頼がその基礎にあるように思われる。

● 現政権に対する信頼といえば,安全保障関連法案の強行採決は世上の評判がすこぶる悪い。けれども,岸内閣の60年安保が典型的にそうだったと思うのだが,ときの政権が世評に逆らって,強行採決に訴えてでも大きな曲がり角を曲がったとき,あとから考えてあれは間違いだったというのはほぼないとぼくは思っている。
 大衆は情緒的であり,感情的であり,目先しか見えず,冷静に利害を計算して戦略を立てる能力はないものだ。それを先導する野党やマスコミは,そうすることが自己の利益に叶うからそうしている(のだろう)。
 ぼく一個は,安倍政権の決定を支持するけれども,与党議員の間からも批判の声が出ているという報道がある。支持率が下がって次の選挙が心配だということか。
 与党にいれば,今回の法案が焦眉の急であることくらいわかっているはずだ(そうでもないのか)。

● 以下に,いくつか転載。
 一般の消費者は次々に新製品が市場に登場することを期待している。そのなかから,自分の気に入ったものだけを買おうとする。またそれができるのである。(中略) この買い手のニーズに対応するためには売り手である企業経営者は必死の努力と研究開発投資を次々と拡大していくだけではない。それを今度は画期的な性能を備えた新製品というかたちで市場に提供する義務を負っているのである。この義務を怠った経営者は必然的に企業経営に失敗せざるをえないというきわめてはっきりした,同時にきわめて強固な影響力をもつ原則の支配下に置かれていることを認識しなければならない。(p55)
 株主は努力を怠らない経営者を選別する。また選別するだけではない。それは株式の売買という行動に結びつける。それはまた同時に株式市場にきわめて強い活力をもたらす。(p57)
 いま中国から日本に年々倍増というテンポで「観光客」が殺到している。 その観光客のなかで,日本に何度も観光旅行しているいわゆるリピーターの人たちの比率が高まっている。 2014年までリピーターはほとんど存在しなかった。それが2015年に入って,とくに3月以降,リピーターが急増している。3月の実績では7対3の割合でリピーターのほうが多数を占めている。 この「日本観光旅行」とは,じつは「担ぎ屋」の集団移動なのである。(p59)
 日本は技術水準の高さを誇る国というだけではない。端的に言うならば,日本人はすでに21世紀の初頭において「知恵で生活する」先進国に発展したのである。(p62)
 いまでは日本は特許を売って経済活動,社会活動に必要欠くべからざるエネルギーと原材料,食料を輸入することができる国に変化したと言ってもいいかもしれない。(p66)
 上場企業の経常利益の総額は29兆円で,そのうち3分の1弱の9兆円が配当になると見られている。にもかかわらずこの配当を受け取った株主はほとんど消費には使わない。なぜなら株を買っているのは個人であっても基本的には経済的に余裕があるから,配当を株への再投資へと向けているのだ。つまり9兆円の再投資の資金が自動的に生まれてくるのだから株価にプラスにならないはずがない。(p74)
 パナソニック,ソニーを含めて日本の軽電,とくにテレビメーカーはその分野での製品選択がみんなダメである。だから中国,韓国のメーカーにやられているわけだ。見ていると,商品を選ぶ力がないというよりは,惰性で決めている。だからどんなふうに状況が変わっているという経済分析ができていない。(p81)
 筆者がいままで会ってきた経営者のなかには何人もの大物がいる。その筆頭が松下幸之助氏であることは間違いない。彼のすごかったところは,自分で身銭を切って経営を考えていたことだ。経営といっても「松下」という私企業だけを考えて経営したのではない。すなわち日本国の「経営」をも我が事として行動したことだ。そのいちばんの典型が松下政経塾であろう。聞くところによると,億単位の自分の金銭を政経塾に投資したという。(p102)
 筆者は忘れられない現場に立ち会ったことがある。それは企業が倒産する瞬間だ。(中略)すなわち昭和40年に倒産した山陽特殊鋼の倒産現場に筆者は立ち会ったのだ。 (中略)そして午前2時。荻野社長が話している声がふすま越しに聞こえてきた。「とうとうダメです。朝8時に会社更生法の申請を東京地裁に出します。長い間,ありがとうございました。ご苦労様でございます」 これで同社はご臨終。だがこの後,筆者が控えている部屋にやってきて,姫路にあった自宅に電話をかけ始めた。相手は奥さんだと思われる。 「身ひとつで家を出なさい。タンスのなかのものは一切持ちだすな。全部,債権者に渡す」と言うではないか。筆者はその光景を目の当たりにして感動を覚えた。そしてご夫人も社長の言う通りに,着物一枚持ち出さなかったと後に聞いた。 荻野社長は元警察官僚。規律に厳しい一面もあったが,人間性は素晴らしい人だった。しかし経営者としては会社をつぶしてはならない。ご自身の家族もそうだが,社員が1万人いたら,その4倍以上の4万人の人間が不幸になる。取引先の会社のことも考えたらその数は膨大なものになる。すなわち会社をつぶす経営者は人格とは別に,人間失格であることは間違いない。(p118)
 日本もアメリカ並みに5年ぐらいでダメになる会社が増えた。またひと昔前は名経営者と謳われていた人物が時代の趨勢とともに,落ちぶれることも多くなると予想される。 カルロス・ゴーン氏も同様だ。あれだけ日産をV字回復に導いた救世主と言われた人物がいまや日産の弊害となっている。お荷物扱いだ。彼の首に鈴をつけ,ルノーとの提携を解消することが日産成長の鍵になるだろう。(p121)
 経営者は淘汰される時代である。しかし逆にそれは能力のある経営者はとことんのし上がる可能性を秘めているとも言える時代なのだ。(p123)
 この新浪(剛史)効果はすごいものがある。新浪モデルと称してもいいかもしれない。日本のサラリーマンに独立の機運を与えてくれたのは間違いない。経済の活性化としては,優良な選択であるように思えてならない。(p125)
 日本の製造企業は経営者が先頭に立って,もっと積極的に自社製品を売り込むという努力をしなければならない。日本人の製造業者の悪い癖に「誰かそのうち目をつけて買ってくれるに違いない」という楽観論がある。いいものをつくっていればそれだけでいけると思っているわけだ。市場へ売り込んで,開拓せねば道は拓けない。まだまだ工夫の余地はあるはずだ。いまや,ひとつの仕事をじっとすわってコツコツやるだけの時代は終わったのである。(p173)
 いつの場合でも株式投資に成功する秘訣は,圧倒的多数の投資家の意向あるいは判断と正反対の結論を導き出して行動するということが肝要である。つまり,徹底して「少数派」の立場に立てる投資家だけが,株式投資に成功することができると言って過言ではない。(p185)
 誰もがさらに「一段安」になると判断して,市場に売り気配が漂っている時に,逆に,「買い」を入れる。これには強い「決断力」を要するとともに,もしその「買い」を入れた銘柄が自分の思惑と裏腹に値下がりした場合,いち早く「損切り」するだけの勇気が求められる。(p189)
 日経新聞を読むにあたっては,必ず「下から読む」,つまり広告から読むことが大切である。初めに広告,そして雑報という順に下から読んでいくべきである。なぜならば,そうした記事は新聞社の手が入っていない生の情報であるからだ。(p205)

2015年7月6日月曜日

2015.07.02 長谷川慶太郎 『株価上昇はまだまだ続く!』

書名 株価上昇はまだまだ続く!
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2015.06.30
価格(税別) 1,000円

● 長谷川さんが定期的に開いている勉強会(会員制)でした話をまとめたものかと思う。話のあとに,会員からの質問を受けて,それに答える。
 本書はその最近のものを文字にしたもの。

● 結論は日本の株は買いであるということ。重厚長大株(三菱重工など)と三大メガバンクを推奨している。
 バブル期のように土地神話があれば,余っている資金も土地に行くでしょうが,もはや土地に投資する時代は完全に終わりましたから,資金が向かうところは株しかないといえるでしょう。(中略) では今後,日経平均はどうなるか。おそらく夏前には2万2000~3000円を付けるでしょう。さらに年末には2万5000円の水準に達するのではないかと思います。しかも日本の株価は来年も常用が続いていくはずです。もちろんこれは株バブルなどではなく,企業の実際の利益の反映だといえます。(p62)
 今後,順調に株価が上昇していくなかで,ではどういう銘柄を選べばいいのか。まずはいつもお奨めしている(中略)重厚長大株。次に(中略)メガバンクです。どこも儲かっています。特に狙い目なのが株価が割安のみずほでしょう。(p73)
● 長谷川さんは中国はもたないと言っている。では,中国が崩壊したあとの暴落期が絶好の買い場になるのではないか。と,ぼくは思っていて,そのための準備をしておこうかなどと考えていたんですけど。
 中国崩壊は日本にとっての金融危機ではありません。中国崩壊によって日本の株価が下がったとしても,そんなのは瞬間的なことです。(p114)
 中国が崩壊すると世界的な株の大暴落が起きるという人もいますが,そうはなりません。なぜなら世界の経済界の人々はすでに中国が潰れるという前提で物事を考えているからです。(p146)
● その他,ふたつだけ転載。
 日本の個人投資家はこのムーディーズのような格付け会社を相手にしてはいけません。なぜなら2008年9月のリーマン・ショックによってアメリカの格付け会社は完全に権威を失ってしまったからです。(p120)
 安倍首相にとって今回(2014年12月)の総選挙はまさに乾坤一擲の大勝負なのですが,裏を返すと,このようなことができる政治家でなければ政権を握ってはいけません。今回の総選挙の先には与党の勝利と野党の崩壊が待っているのです。(p127)

2015年6月29日月曜日

2015.06.27 長谷川慶太郎 『中国大減速の末路』

書名 中国大減速の末路
著者 長谷川慶太郎
発行所 東洋経済新報社
発行年月日 2015.07.02
価格(税別) 1,500円

● あった,買った,読んだ。一気通貫で読了。

● 中国の現状については,これまでも何冊もの著書で,その末期的な症状を訴えてきた。
 これまで中国経済は,大規模な都市開発や高速道路,高速鉄道建設といった膨大なインフラ整備による投資主導での経済成長を果たしてきた。いわば,国家主導の「国土開発バブル」で高度成長を実現させてきた。 しかし,いまや,この「国土開発バブル」による成長モデルが完全に崩壊してしまったのだ。(p21)
 「窮余の一策」として出てきたのが,アジア・インフラ投資銀行なのだ。国内で行き詰まってしまった従来のモデルを,そのまま他国に持ち込み,国内で過剰となった自国企業の延命を図ろうという狙いなのである。このような自分勝手な理屈が,はたして国際社会で通用するのか。結果は言うまでもあるまい。(p54)
● 公害もよくよくの状態になっている。それを防げるかどうか。もう手遅れなのではないか。しかも,公害対策を徹底すれば,経済はさらに減速する。
 日本でよく報道される人権問題や民族問題などは,特定の階層や集団だけが,反政府で団結するにすぎないが,公害問題では,普段,デモなどには参加しない女性や家庭の主婦までもが「版政府」で団結してしまう。(p46)
 かつて,日本も深刻な公害に悩まされたが,日本は国を挙げてこの問題に取り組んだ結果,いまでは深刻な環境汚染は見られなくなった。これは自由で民主主義的規制,すなわち自由な告発,批判があり,マスコミの監視,公平な司法があったからこそ実現できたのである。(中略) 企業は基本的には,公害対策などの費用がかかることはやりたがらない。(中略)放っておけば排煙は出しっぱなし,汚水は垂れ流しっぱなしとなる。これはかつての日本でも同様であった。(p47)
● 習近平が元幹部の大物を汚職の疑いで投獄している。個人独裁を目指しているのではないかと,長谷川さんは見ている。ソ連のスターリンを引き合いにだして論じる。
 習近平が個人独裁を狙うということは,具体的には何を意味するのか。著者には,旧ソ連で絶大な権力を保持し,次々と政敵を粛清していったスターリンを目指しているように思えてならない。(p69)
 ドイツの場合,最小限度の犠牲で最大の戦果を挙げることが指揮官の任務であり,その方針を徹底的に教え込むかたちで士官の養成を行った。最後まで懸命に闘ったうえで命を落としそうな場合には,手を上げるというのが西側の常識である。 ところがソ連はそれを認めなかった。ソ連軍では大戦中,五〇〇万人が捕虜となったが,戦後,ソ連に帰ったその全員は,強制収容所へ送られた。(p76)
 粛清は粛清を呼ぶ。これが歴史の教訓である。 粛清を行った指導者が,何より恐れるのは自身への報復である。疑心暗鬼に陥り,些細なことでも自分に対する反逆なのではないかと疑ってしまう。自分以外の誰もが信用できなくなってしまうのだ。 習近平にもその兆候は見え始めている。習近平は突如,国家主席の護衛責任者である曹清・中国共産党中央護衛局長(人民解放軍中将)を解任し,その後任に自身の派閥に近い王少軍・副局長(人民解放軍小将)をあてる異例の人事を行った。(p81)
● 共産党幹部の汚職,資産の海外逃避は,習近平自身も例外ではない。
 これら共産党幹部によるやりたい放題の悪行が許されたのは,経済の高成長によって,国民に「豊かさ」を与えることができていたからである。国民は共産党政権のもとで,自分たちの日々の生活が豊かになっているからこそ,多少の不正には目をつむってきたのである。したがって,経済が行き詰まり,「豊かさ」を享受できなくなれば,民衆の怒りによって政権はどう転ぶかわからない。(p91)
● 東側が倒れるに至った,大きな環境変化があった。IT革命だ。共産主義の基礎は情報統制だからである。
 東西の技術格差が急速に広がり始めたのは一九八〇年代である。これは世界中でIT革命が進展した時代でもあったが,東側は技術の導入ができなかった。ITを導入すれば情報統制が崩壊し政権の維持が難しくなるため,共産党の一党独裁体制が消滅してしまうからである。 ITどころか,当時世界で普及していたコピー機でさえ,東側では自由に設置・使用することができず,厳重な監視下に置かれていた。情報の拡散を極度に恐れていたのである。(p104)
● 今後,中国が自前の改革でこの危機を脱することができるか。できないというのが著者の見方。これもソ連を例を引いて,諄々と説いていく。
 ソ連における共産党の自発的改革は,長年の計画経済の硬直性に慣れた国民には通じなかった。党の指導層にも経済ないしは市場経済への認識不足があった。自由競争という経済の本質への理解は進まず,国内で産業を振興しようとしても,市場経済とは何かがわかっている人間がいなかった。技術,知識はあっても,システムとして機能させることができない。その結果,現在に至るまで惨めな経済状態に置かれている。(p105)
 中国の場合には,自由経済がある程度機能しているので,ロシアの場合と違って,企業の人材が育っているように見えるかもしれないが,実はほとんどの経営者が,自由経済のルールをまるっきりわかっていない。 その端的な例が,企業が潰れても,平気で金を持ち逃げしてしまう経営者が続出していることに表れている。(p111)
 中国が今後,適切な経済システムをつくる上げることは,自発的にはあり得ない。崩壊して生まれ変わるしかないのである。(p112)
● では,そういう中国に対して,日本側はどう対応していけばいいのか。
 中国はまだ国際社会の一員であるという自覚が乏しい。一番重要なことは国際公約を守ることである。国際法を尊重することである。ところが,中国はこれを平気で破る。中国外務省の言い分は,一九九七年と今とでは違うというのである。九七年に決めたことは今とは関係がないと言うのである。国際的には通るわけがないが,このような利己的な主張を通すことは,昔からの中国の特性である。(p124)
 日本がとるべき選択は,安易に妥協しないということだ。日本人は手を差し伸べられると弱い。友好という言葉に弱い国民である。しかし,相手は戦略的に,「窮余の一策」として手を差し出してきているのである。 仮に,首尾よく現状を脱することができれば,すぐさま手のひらを返してくることは目に見えている。(p108)
● その他,いくつか転載。
 パナソニックはみなが知る世界企業である。日本の中小企業に対するようないじわるなことをしたら,どんな騒ぎになるか,十分に理解している。当局は「強きに弱く,弱きに強い」のだ。(p56)
 サムスンはスマホの後が何もない。スマホは中国の安売り機種にやられているが,そうなるのは決まっているのだ。スマホとはパーツさえ買って組み立てれば,誰でも簡単につくれてしまうからである。そこに高度な技術力は必要としない。(中略) 逆に日本は部品で儲かっている。(中略)中国とビジネスモデルがぶつかる家電産業は苦境に立たされることになったが,中国にはできない技術がある会社は存在感を増しているのである。(p151)
 韓国は東芝のスマホ用の技術を盗もうとして,最近もトラブルになった。盗むとしてもバックグランドまでは盗めないので,一回だけである。最初はそれで成功しても,更新されるとまた盗まなくてはならない。そのようなことは何度もできない。(p152)
 市場経済であるかぎり,地域によって景気に差異が生じることは避けられない。また,所属する企業や業種によって業績の差が生じることも避けられない。かつての高度成長期のように,誰もがみな給料が上がっていくよう時代を望むのは,もはや現実的ではない。 問題はフリクション(摩擦)をできるだけ緩和するように,政治が努力できるかである。先進国を中心に広がる格差問題を引き起こす最大の要因は,経済のグローバリゼーションにある。しかし,「平和の時代」において,グローバリゼーションを抜きにした経済システムはもはや成り立たない。その流れに逆らえば,多くの場合,企業経営は行き詰まることになるだろう。(p191)
 農業技術については,海外のほうが進んでいると思われがちだが,これは事実ではない。日本は農業分野においても世界のトップクラスの技術を有しているのである。 今後,日本の農業でもっとも期待されているのがLED技術を活かした農業である。具体的にはLEDライトを太陽光代わりとして,穀物を量産できる可能性である。(p199)

2015年3月18日水曜日

2015.03.15 長谷川慶太郎・渡邉哲也 『世界の未来は日本次第』

書名 世界の未来は日本次第
著者 長谷川慶太郎
    渡邉哲也
発行所 PHP
発行年月日 2015.03.10
価格(税別) 1,500円

● 本書の内容は,長谷川さんの最近の著書と重なるところが多い。当然だ。が,渡邉さんとの対談になったことで,内容は同じでも切り口が違っているところがある。
 読んでいていちいち腑に落ちるのは,具体的な根拠が挙げられるからだ。そうか,そうなのか,と。

● 第1章は「アベノミクス信任で大復活する日本」。民主党の失政について,ひとつだけ転載。
 渡邉 私は,日本経済の「失われた二十年」における最大の失敗は,デフレでありながら公共事業を大きくカットしてしまったことだと思います。 長谷川 同感です。さらに大きいのは,公共事業の削減が深刻な人手不足を招いたことです。 渡邉 いわば「コンクリートから人へ(民主党の方針)」を掲げた結果が,いまの建設業界における人手不足です。 長谷川 離職者が増加して,生活保護の受給者も増えました。(p35)
● 第2章は「いよいよヤバイ韓国経済」。
 はっきり申し上げますが,この動向が続けば,サムスンは間違いなくソニーと同じ運命をたどります。 たしかにサムスンは研究開発も一生懸命やるのですが,その開発がまったくシステム化されていない。韓国企業から見て,日本における大学と企業の研究所がツーカーの関係を維持している状態は脅威です。(長谷川 p62)
 私がいろいろ観察していて痛感する点があるのですが,日本人の強いところは第一に,非常に真面目な民族であること。もう一つは,変化に対する能力が高く,きちんと機能しているところ。これも日本人の特性でしょうね。(長谷川 p64)
● 第3章は「中国崩壊はカウントダウンに入った?」。
 北京市の城門から三〇㎞,中心部から七〇㎞まで砂漠が迫っています。じつは日本には砂の移動を止めるための技術があるのです。日本も昔から砂には苦労していて,砂防のための学校がありました。それがいまの鳥取大学です。(中略) ある植物を植えることで砂の移動を止めることに成功しました。それが,らっきょうです。(長谷川 p77)
 長谷川 そもそも中国の紙幣は非常に偽造が多いんです。紙質が悪く印刷も悪い。もう,偽造してくれと言わんばかりです。 渡邉 ATMから偽札が出てくるだけではなく,中国銀行が発行している本物の紙幣とされているものでも,中国の役人が勝手に刷ったものかどうかわからない状態です。 長谷川 役人はどんどんやってますよ。本当のところを言うと,人民解放軍がつくっている造幣施設もありますから。(p94)
 そもそも香港の民主化デモで,学生たちが抗議の声を上げた最大の理由は,中国政府と香港政府がイギリスとの合意を守るだろうという暗黙の了解があったからです。ところが,合意を反故にして学生たちを強制排除したことで,イギリスから詰め寄られるのは至極当然です。(中略)中国は取り返しのつかないことをしたと言えるでしょう。(長谷川 p98)
 イギリスは香港の問題に対して,一歩も引く気はありません。引かないことで「イギリスは信頼できる」という国際的信用を得られる。これはイギリスにとっては何にも代え難い財産です。(長谷川 p100)
● 第4章は「二〇一五年の世界経済と日本経済はこうなる」。
 今度は中国側が,(香港の)返還協定そのものを認めないと言い出しました。そもそも中国,そして韓国はご都合主義の国なのです。(中略) いろいろ話をしているうちに,この人たちは国際条約というものを知らないというより,国際条約を平気で無視するのだと理解しました。国際条約はその時々の都合で決まるものであり,こちらの都合が変われば変えるのが当然だと彼らは思い込んでいる。時効という考え方もない。(長谷川 p125)
 格付け会社のいい加減さは,すでにリーマン・ショックのときに明らかになっています。当時,格付け会社がデリバティブの格付けにことごとく失敗したことが,世界的な金融危機の引き金になりました。(長谷川 p143)
● 第5章は「日本なしでは動かないグローバル経済」。
 渡邉 ODA(政府開発援助)によるファイナンスと一体でインフラ輸出を進めることになるでしょう。 アフリカや中東向けのODAなしの案件では,元請の大手ゼネコンをはじめ関係業者が皆,苦労しています。 長谷川 その通りです。その構造から外れたら大変なことになりますし,その構造から外れないようにしようとすれば,政治指導者の資格が厳しく問われます。その条件に合っているのは,いまのところ安倍総理しかいない。だから今年もおそらくインフラ輸出では,かなり良い成績が出るのではないですか。(p156)
 日本という国は本当に隠れた部分が強いのです。その隠れた部分の強さがいったん表に出ると,不動の威力を発揮します。(長谷川 p162)
 今後おそらく日本の鉄鋼業は変わると私は思います。銑鋼一貫方式の製鉄所と電炉工場で同じ鋼材を一tつくるのに必要な電力消費量を比較すると,電炉工場は銑鋼一貫方式の五分の一ですむからです。(中略)それからもう一つは,日本全体に存在する鉄鋼の膨大な在庫です。(長谷川 p184)
 じつは,戦前の日本にも一万五〇〇〇tの大型水圧プレス機があったのです。呉の海軍工廠と日本製鋼所の室蘭製作所にありました。(中略)戦争が終わってからアメリカ軍は,呉工廠のプレス機を戦利品と称して持ち帰った。ところが彼らは装置の使い方を知らなかったため,そのプレス機はスクラップになってしまったのです。(中略) 外から持ってきたものは駄目なんです。自ら苦労して汗水をたらし,貯めたお金を使ってつくらなければ,設備というものは活きないのです。(長谷川 p195)
 知財を盗んで製品を安くつくれば,一時的にはいいように見えます。でも,技術に根がないから,結局,伸びない。単品では成功しても,一貫した長い流れを持つ技術の蓄積ができません。技術伝承がなされないのが途上国の悲しいところです。(長谷川 p210)
● ここで,オンリーワンの技術を持つ企業として名前が出てくるのは,以下の企業。
  本田金属技術(本田技研傘下)
  ファナック
  東洋炭素
  東海高熱工業
  エンシュウ
  コマツ
  富山化学工業(富士フィルム傘下)