2019年10月20日日曜日

2019.10.20 長谷川慶太郎 『2020 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2020 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2019.10.31
価格(税別) 1,600円

● 長谷川さんの遺著。小気味のいい解説に接することが,これ以後できなくなる。謹んで拝読いたす。

● 現時点でのトピックだと,河野防衛大臣が習近平総書記を国賓で招くことに反対を表明している件。日本がそういう話をした後でも,中国海軍や空軍による領海,領空侵犯的な行為が絶えない。
 この状態で習近平首席を国賓で招くのはいかがなものかと,安倍首相に諫言するとかしないとか。それに対する賛意もTwitterなどにけっこう見られる。骨のある大臣だ,と。
 しかし,そのことだけに固着して他を見ないと,国益を損なうかもしれない。防衛省の部分最適と日本国の全体最適は一致しない。安倍首相が正しい。
 という言い方はもちろんしていないのだが,そう読める箇所もある。簡単に沸騰せず,全体を視野にいれながら部分を掘り下げて,なるほどと思わせる見通しを示す。
 これを読むことができなくなったということなのだ。

● 全体として,アメリカのトランプ大統領に辛口の評価。欧州(取りあげているのはドイツとイギリス)はどうでもいいという感じ。
 かつてのように,中国は近い将来に内戦状態になって大中国はなくなるという予想は撤回したようだ。習近平を評価しているように思えるが,かといって米中貿易戦争において中国に勝ち目はないと見ている。
 アメリカ抜きのTPPを取りまとめて発足させた安倍首相の大局観と手腕を高く評価する。日本外交史に残る成果だと。
 このとき,アメリカが抜けたTPPに何の意味があるのだと突っかかっていた民主党(当時)の役立たずがいたけれども,そういう議員はそもそも長谷川さんの視野には入っていないようだ。
 小池東京都知事が誕生したばかりの頃,小池知事を評価していた,っていうか,石原元知事への反発が小池知事への評価につながっていたのかもしれないが。今,ご存命なら何て言うだろうかね。

● 以下に多すぎる転載。
 実体経済が振るわないなかでの金余りによって世界の株価の乱高下が頻繁に起こるに違いない。(中略)株価の乱高下が起こるとボラティリティ(銘柄の価格変動率)も大きくなる。個人の投資の面から見れば,株式投資で利益を稼ぐチャンスが拡大するということだ。しかし株式投資は投機ではない。(p3)
 中国からの輸入品の関税を払っているのは実際にはアメリカ国民である。(中略)トランプ大統領もそのことを知らないはずがない。だから関税の引き上げは,アメリカのダメージを上回る成果につながるとトランプ大統領は信じているのだ。(p17)
 主要な先端技術を制した国は世界の覇権を握ってしまうので今のうちに中国を叩いておきたい,という考え方がトランプ政権だけでなくアメリカの政界全体の総意となった。(p19)
 5Gで現在,世界最先端を突き進んでいるのはアメリカ企業ではなく中国企業のファーウェイ(華為技術)なのである。(p23)
 ファーウェイは海外での落ち込みを中国国内で補うという方針で進んでいるのだが,ファーウェイ製品は性能が高い割には価格が安い,つまりコストパフォーマンスが高いので海外でも依然として人気がある。(中略)資本主義市場経済の国の企業であれば,市場が求める以上,ファーウェイのスマホを取り扱わざるをえなくなるはずだ。(p45)
 ファーウェイは売上高の10~15%を研究開発費に振り向けている。(中略)だからこそ,コスパの高い製品を開発できるのだ。(中略)表向きにはアメリカ政府のファーウェイ排除に従っているような国においても実際にはいろいろな抜け道を考えてファーウェイ製品を使うはずだ。高い技術力を維持していく限り,ファーウェイはアメリカ政府の妨害が続いたとしても生き残っていけるだろう。(p47)
 中国が大幅な譲歩をしない限り,トランプ政権は現在の方針と施策を最後まで貫いていくだろう。また逆に貫くという姿勢をはっきり示さないと中国からの明確な譲歩も引き出せないと考えている。もちろん追加関税によってアメリカも返り血を浴びるが,アメリカは国力の大きさでその返り血の悪影響も吸収できるはずだ。(p48)
 中国がすぐにアメリカに明確に譲ってしまったら,中国国民はかつての南京条約と同じだと激しく反発するのが目に見えている。(中略)アメリカにあっさりと譲ったら,中国ではこの屈辱の歴史が蘇って習近平政権の基盤も揺らいでしまうという懸念がある。(中略)といって,中国が明確な譲歩をせずにこのまま米中貿易戦争を続けていくことができるかといえば,これも無理だろう。国力では軍事的にも経済的にもアメリカには絶対に勝てない。また,米中貿易戦争が持続すると,中国経済はどんどん落ち込んでいって中国国内がもたなくなる。具体的には失業が急増するということだが,もし失業者が1億人を超えたら中国国民は耐えられなくなるだろう。(p49)
 トランプ大統領は貿易交渉では多国間ではなく二国間交渉を好んでいるが,(中略)トランプ政権の二国間交渉というのは,相対で行う不動産取引のようなものだ。トランプ大統領は不動産業のビジネスマンだった。不動産業では,交渉相手の違う個別の案件同士には関連がない。(中略)しかし外交は違う。交渉相手が違ってもそれぞれの外交案件が密接に関連していることが少なくない。というより,すべての外交案件は多かれ少なかれ関連し合っていると考えておくべきだろう。このような認識がトランプ大統領にあるのかは疑わしい。(p66)
 トランプ大統領はすでに2020年の大統領選のモードに入っていて,支持者にアピールできる成果をできるだけ早く挙げたい。そういう姿勢であればあるほど外交の場では足元を見透かされる。(中略)日本はトランプ政権との貿易交渉で実利を得る基本合意を手にすることができた。まさにトランプ大統領の足元を見透かしたからだ。(p67)
 トランプ大統領は気まぐれだし人権問題にもさほど関心がないので,星条旗を持つ香港市民がトランプ大統領に香港の民主化への支援を期待しても空振りに終わる可能性は高い。(p77)
 トランプ政権の保護貿易体質はやはり今の時代にそぐわない。世界最大の経済大国であり,世界最大の消費市場を持つアメリカめがけて世界中から製品が押し寄せてくる。だが,どの国に対しても貿易赤字は許さないとなると,結局,貿易ができなくなる。それで最も不利益を受けるのはアメリカ国民だ。(p85)
 電力の大量消費時代になった現代では電力料金の安さはさらに重要になってきた。製造業の工場なら特にそうである。というのも最新の工場ではIT化,AI(人工知能)化,ロボット化が急速に進んでいるからだ(p91)
 軍事費を増やして組織改革を実施したからといって人民解放軍が軍隊として本当に強くなったのかどうかはわからない。というのも,今の人民解放軍は実戦経験がほとんどないからだ。(中略)実戦経験のない軍隊が弱いというのは軍事専門家の常識である。(p101)
 軍隊というものはその国の地形的な特色の影響を受けるものだ。中国は広い国土を持つから軍隊も広域に展開することになる。であれば軍隊の隅々まで統制を利かせるのも難しい。(p102)
 中国の歴史を振り返ると,西暦960年にできた宋朝以降,中国の軍隊が外国の正規軍と真正面から戦って勝利したことは1度もない。(中略)歴史は侮れない。予算を増やし組織改革を行い近代兵器を取り揃えたとしても,人民解放軍などそれほど恐れる必要はないのである。(p103)
 基軸通貨の機能維持が世界経済には欠かせないという認識のない人物がアメリカ大統領であってはならない。ところが,トランプ大統領は基軸通貨の機能を維持するという重大な責任を自覚しているかどうか疑わしい。というのもトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を敵視しているからだ。(中略)基軸通貨国である限り貿易赤字になる。つまり,アメリカは貿易赤字を通じてドルという基軸通貨を全世界に提供しているのだ。アメリカの貿易赤字がなくなると世界にドルが供給されなくなって世界経済はうまく動かなくなる。(p108)
 経済規模の小さな国や地域ではGDPに対する輸出比率はきわめて大きい。逆にいうと,経済規模の大きな国はアメリカ,中国,日本に限らず輸出比率は小さいのだ。こうした国では輸出が多少不振でも国内経済への打撃はそれほど大きくない。経済規模の大きな国の輸出が多少不振に陥っても国内経済への影響が小さいのなら,世界経済への影響も限定的だと考えられる。(p124)
 品質の高い製品を生産,販売するためには,素材・部品のところが非常に重要だ。素材・部品の品質が悪いと品質の高い製品もできない。その素材・部品の品質の高さを誇っているのがまさに日本なのである。(中略)それで韓国政府は慌てて,(中略)重要な素材・部品の20品目は1年以内に日本から調達しなくても済むようにする,という開発計画を表明したのだった。1年以内に開発できるような素材・部品なら韓国企業でとっくの昔に完成している。開発するのが非常に難しいから,これまで日本企業に依存してきたのである。韓国政府の開発計画は画餅に終わるだろう(p128)
 日本の技術力の高さはどこかの研究所や大学の研究開発で得られたのではない。中小の町工場の生産現場で小さな工夫を積み上げて少しずつ技術水準を上げていった結果だ。(中略)その主役は一握りの技術者や研究者ではなく現場の工場で働いている人々だ。このような人たちは長い現場経験と深い知識の両方を持っているので,短期間には養成できない人材でもある。だから海外の企業もなかなか追いつけない。(p130)
 トランプ大統領に対しては,気が変わったら何をするかわからないという声もある。(中略)しかしトランプ大統領が新しい日米貿易協定の基本合意をひっくり返すことはありえない。ひっくり返して困るのはもっぱらトランプ大統領のほうだからだ。(p138)
 中国はアメリカとの関係が悪化したときには露骨に日本に接近してくる。今回の日中首脳会談も例外ではない。(中略)日中の関係改善で最も印象的だったのは,習近平総書記が2020年春に国賓として訪日すると決まったことだ。(中略)2021年からのNEV規制でHVもNEVに入る可能性が出てきた。(中略)HVがNEVに入れば日本の自動車メーカーは中国市場で有利になる。NEV規制にHVが入る可能性が出てきたのは,やはり日中関係の改善が大きく作用したからである。米中貿易戦争によって中国は日本に秋波を送るようになってきたわけで,日本政府および日本企業としてはそれを大いに活用し自らの利益にしっかりと結びつけていけば良い。(p139)
 2017年1月に発足したアメリカのトランプ政権は直ちにTPP離脱を断行した。(中略)このとき,残った11ヵ国を取りまとめる努力を行ったのが日本にほかならない。2018年12月,日本の主導でアメリカ抜きのTPPを発効させた。まさに日本の外交史にとって特筆される大成果だ。(中略)日本はアメリカに代わって自由貿易の牽引役になったといえる。(p144)
 今や日本は元号を用いている世界で唯一の国になっている。では元号の意義は何か。やはり「歴史を一括りにしてそれを総括し特徴づける」という点で非常に有効な手段だということである。(p148)
 天皇の崩御に伴う大正から昭和への改元,同じく昭和から平成への改元が暗い幕開けだったのに対し,平成から令和への改元は祝賀ムードに溢れた。(中略)政府の見解では譲位による改元は例外的だとしているが,改元がこれほど明るく幕を開けるのなら,今後は譲位による改元のほうが定着するかもしれない。(p149)
 今後も天皇制は姿を変えてでも存続していかなければならない。それ以外には日本国民を統合することはできない。(p153)
 安倍首相はもうくたびれてしまっていて,自民党総裁の任期が終わるとともに首相も辞めざるをえないということなのだ。(中略)安倍首相が長期政権の延長を望んでいない以上,これから2021年9月までは憲法改正への意欲は衰えないとしても,ほとんどの政策については従来の方針の延長上で展開していくことになる。(p155)
 そもそも上場するのは株式市場から資金を調達するためなので,その企業が運転資金を大きく超える現預金を持っているならば株式市場はいらない。(中略)にもかかわらず1部にとどまるのは,企業としてのプレステージが高いとされる1部にいることそのものが目的化してしまっているからだ。そんな企業では肝心の株式市場の活用も後回しになる。(p168)
 特に大学の文系の授業内容はカルチャー教室で学ぶようなものとそう変わらないし,このネット時代であればほぼ独学できる。ということで,すでに新卒一括採用にこだわらないという意識が出てきている企業では,文系でもプログラミングくらいは教えてほしいと大学側に希望するようになっている。(p179)
 通年採用となると(中略)仕事が実力主義になっていくということだ。この実力主義には3つの特徴があって,まず実力があれば昇進し昇給していくので正規社員と非正規社員の差もなくなる。(中略)次に,実力主義になれば,その実力を評価してくれる企業に移りやすくなるから,大企業間であっても雇用の流動化が促進されていき,中途採用も増えていく。最後に,実力主義では賃金もそれぞれ違うので,一律に呻吟の引き上げを目指す春闘のような労働運動もなくなるのである。(p180)
 これまで日本では大企業の社長の多くが,口では実力重視といいながらも新卒一括採用と年功序列を強く支持してきた。そういう社長こそ年功序列のなかで社長にまで昇進したからである。実力主義だったら社長になれなかったかもしれない。また,実力主義だと経営者としての能力も問われることになる。(中略)大企業の社長もこれまでのようにぬるま湯に浸かってはいられない。(p181)
 トランプ大統領は目立つパフォーマンスが大好きである。(中略)だが,米朝の首脳は板門店で短時間会っただけで,実のある話は何もなかった。(中略)単なる政治ショーに終わったのである。(p196)
 北朝鮮のミサイル発射は完全な国連決議違反だから北朝鮮はますます国際的に孤立していく。また万が一,北朝鮮が核兵器を使いそうな気配になれば,アメリカの前に中国やロシアが動かざるをえず,北朝鮮に対して軍事的な制裁を行うことになるはずだ。いずれにせよ,アメリカ自身は軍事行動を起こすことなく,このまま兵糧攻めを続けて静観していれば良い。(p187)
 本来であれば,北朝鮮から拉致被害の慰謝料を受け取るべきだが,北朝鮮が日本に慰謝料を支払うはずがない。常識的には理不尽でも,拉致被害者を取り戻したいなら,ここは逆に日本が身代金を払わざるをえない。政治ではそういう理不尽なことがしばしば起こる。(p189)
 金正恩委員長も国交回復では韓国と同じ形での資金提供を日本に要求するに違いない。現在の日本の国家予算は約100兆円だから,資金提供は5%であれば約5兆円ということになる。(中略)この投資には日本企業にも大きなメリットがある。というのは北朝鮮は鉱物資源が豊富だからだ。(p190)
 日本政府は,韓国向けの輸出品の規制を強化したのではなく,これまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのだ。(中略)逆にいうと,輸入管理がしっかりしていれば日本政府は必ず許可する。(p194)
 韓国の反発が強いのは1つには,韓国経済もそれなりに大きく発展したにもかかわらず,半導体の素材・部品に象徴されるように韓国経済の生殺与奪の権を握っているのが日本であることに改めて気づかされたからだ。裏を返すと,韓国では経済人を除いて,一般国民はもちろん政治家でさえ,これまで韓国経済に対する日本の影響力の大きさに自覚的な人々は少なかった。(p197)
 日本がこれまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのに,それと引き換えに韓国は重要な軍事情報を得られなくなったわけだ。どう考えても韓国の損である。(p203)
 これまでの日本政府は韓国政府に甘かった。韓国政府が多少無理なことをいっても,結局,受け入れてイズム会うところが日本政府にはあった。それで味をしめて韓国政府は前言を翻すようなことをたびたび行ってきた。だが,さすがに日韓基本条約と日韓請求権協定を守らないのを日本政府は許すわけにはいかない。今後もこの姿勢を堅持していくべきである。(p204)
 イラン軍がイラン政府の統制下にあるのに対し,革命防衛隊はハメネイ師が統制している。しかしハメネイ師が安倍首相と会談する日に日本のタンカーを攻撃するというのでは,革命防衛隊はハメネイ師からしっかりとコントロールされていないことになる。この点でイランの政治体制には緩みがあるのだ。(p207)
 イランがホルムズ海峡を閉鎖できなことをほとんどの国は知っている。有志連合への賛同は各国にまったく広がらず,アメリカも軍事色の薄い「海洋安全保障イニシアチブ」に切り替えざるをえなくなった。(中略)賛同する国があったとしてもおそらくいつの間にか立ち消えになるだろう。(p209)
 多くの日本人はロシアと中国は同等の大国だというイメージを持っているかもしれない。だが,2018年のGDPで比べると,ロシアは中国の12%しかない。(中略)このまま一帯一路に関わっていくと,中国と対等のつもりだったのが,ロシアは中国の影響下に置かれるようになるだろう。(p214)

0 件のコメント:

コメントを投稿