著者 出口治明
発行所 KADOKAWA
発行年月日 2017.01.13
価格(税別) 1,500円
● “人間通”という言葉があった。唐の太宗はまさしくその人間通であったのだろう。本書の著者の出口治明さんも。
リーダーだから,人の上に立つから,ということとは関係なく,上手に生きるという実利を得たいなら,本書を読んでおいて絶対に損はないと存ずる。
● 以下に転載。
ぼくは,前職の時代から,現在に至るまで,リーダーのもっとも重要な役目は,「スタッフにとって,元気で,明るく,楽しい職場をつくること」だと考えています。(中略)元気で明るく楽しいワクワクする職場こそが,イノベーションを生み出す前提条件です。組織として生産性を上げていこうと思ったら,「元気に,明るく,楽しく」以外に解はない。それが結論です。(p6)
どうして古典に難しさを感じるのでしょうか。それの理由は,時代背景が違うからです。僕は,古典を読む前に,その古典が書かれた時代の背景を知ることがとても大切だと思っています。(p27)
僕は,昔の歴史を大きく動かす要因が2つあると思っています。ひとつは気候の変動,もうひとつが,それに伴う人の移動です。(p27)
李世民は,歴史は残るという前提の中で,理想のリーダーを演じようと考えました。「演じる」というと,表面的に聞こえますが,そんなことはありません。リーダーを演じるとは,自分のポジションに対して深く自覚することです。(中略)自分の立ち位置を確認し,それに見合った振る舞いを演じ続けていれば,それはやがて,その人の本性になると思います。(p65)
僕は,組織の強さは,資産運用と同じでポートフォリオ(人材の組み合わせ,配置)によって決まると考えています。つまり,誰に何を担当させるかを決めた段階で,その組織のパフォーマンスはほとんど決まるのです。(p85)
僕は,「どんな組織も,上に立つ人の器以上のことはできない」と考えています。(中略)では,上に立つ人が器を大きくすれば組織は強くなるのかといえば,そうではありません。そもそも,人の器のおよその容量は決まっていて,簡単に大きくすることはできないからです。(中略)しかし,器が大きくならなくても,自分の器の容量を増やす方法はあります。それは,器の中身を捨てることです。(中略)自分の好みや価値観など,こだわっている部分をすべて消してしまうのです。(p88)
上司は,部下の権限を代行できない。これが,権限を付与するときの基本的な考え方です。ひとたび権限を委譲したら,その権限は部下の固有のものであり,上司といえども,口を挟んではいけません。(p95)
人間は「見たいものしか見ない」,あるいは「見たいように都合よく現実の世界を変換してしまう」という習性を持つ動物です。(中略)見たくないものを見ないのは,人間に備わった自衛の手段かもしれません。なぜなら,見たくないものを見なければ,それはなかったことと同じなので,心の平静を保つことができるからです。(p104)
自分の職務(職能)に関係があるものとないものの範囲を正しく理解して,関係がないことは聞かない。見ない。そして,口に出さない。それが,部下を伸び伸びと働かせ,かつリーダーが心身の健康を保つ最善策です。(p106)
リーダーの大事な仕事のひとつは,「事情がわからない中で右か左かの判断を迫られること」です。そのときのためにも,情報はたくさんあったほうがいい。だからリーダーは,相手を選ばずに人の話に耳を傾けるべきです。(p113)
直言してくれる人間がいないと,忙しい上司は絶対にゴマすりには勝てない(p128)
部下は,上司の表情を観察しています。上司が不機嫌な表情をしていると,部下は寄ってこないので,情報が入ってこなくなります。情報が入ってこなければ,正しい意思決定を行うことはできません。(p133)
上司になって最初にやらなければいけないことは,たっぷり食べて,たっぷり寝ることです。(p134)
叱る回数よりも,ほめる回数が多いほうが,間違いなく,部下は成長します。部下にとって,上司の存在が労働条件そのものであり,すべての労働条件でもあるわけですから,上司はいつも機嫌がいいほうが,組織は間違いなくうまくいくと思います。(p135)
リーダーと特定の部下が,ヒソヒソ話を好んでいるかぎり,正しい判断を下すことはできません。(p144)
天子は,その人格がドロドロと濁っていてはいけない。かといって,輝くほと澄んでいてもいけない。(中略)清潔すぎると,人を受け入れられなくなる。(p170)
「人間はちょぼちょぼであり,どんな人間にも欠点がある」ということがわからない人が上に立つと,思いやりを欠き,まわりは息苦しくなってしまうばかりです。(p172)
ほんの少し工夫をすれば,感情が振れたときに,心をフラットな状態に戻すことができます。もっとも効果的な方法は,「寝る」ことと「寝かせる」ことだと思います。寝るとは,睡眠を取ること。寝かせるとは,時間をおくことです。(p175)
大惨事に見舞われたときなどの緊急事態では,一般にリーダーは「不眠不休で対処する」のが正しいと思われていますが,僕の考えは,まったく違います。大惨事のときこそ,むしろぐっすり寝て,しっかり食べて,体調を整えるべきです。(p176)
何事であれ,アウトプットをするときは,メモを取ってキーワードを残すより,文章にしたほうがいいと思います。キーワードだけだと,時間が経つにつれて忘れてしまいます。文章に書き起こし,一つの文脈として覚えたほうが,記憶に残りやすいのです。日記よりブログなどが優れているのは,誰かに読まれることを想定するので,より文脈が整理されるからです。(p187)
人と交わらずに,自分ひとりで考えたところで,正しい判断はできません。(p188)
忙しく働かせると,部下の不平不満を助長すると思われがちですが,むしろその逆です。やることがなく暇な職員ほど,不満を口にします。(p188)
いくら隠しても,上司の感情は,部下に筒抜けになっています。つまり,好き嫌いを隠すことに意味はない,ということです。(p199)
僕は基本的には,どんな部下でも信頼したほうが得だと考えています。(中略)信用すれば信じてもらえるし,疑えば誰も信用してくれない,ということです。部下を信用しない上司は,部下からも信用されません。(中略)部下が自分のことを信頼してくれているから,自分も部下を信頼するのではありません。順番が逆です。(p199)
議論の場では,たとえ相手が先輩でも気を遣ってはいけない。八方美人になってその場を丸く収めようとはしない,ということがとても大切です。(p204)
農業のことは農民に任せ,商業のことは商人に任せ,軍のことは軍人に任せる。本当に大事なことだけを自分で決めて,それ以外のことは専門家に任せ,託し,委ねたほうが得策であると考えたのです。太宗は,「あなたたちに任せたので,いちいち自分の裁可を仰ぐな」と考えていました。(p211)
みなすべて,人材をその時代の中から採用したのである。今の世にかぎって,才能のある人物がいないということがあろうか。(p213)
僕は,前職時代に,一度も人事に固有名詞で要求を行ったことはありませんでした。なぜなら,固有名詞で部下を選ぶことは,組織を私物化することであり,フェアではないと思っていたからです。(p215)
法律があまりにも複雑で不明瞭だと,役人が都合のいいように解釈してしまいます。(中略)国の法律も会社のマニフェストも,シンプルで,わかりやすく,簡単で,煩雑でないようにすべきです。(p222)
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