書名 たどりつく力
著者 フジコ・ヘミング
発行所 幻冬舎
発行年月日 2016.05.30
価格(税別) 1,100円
● 「たどりつく力」というのは,出版社側がつけたタイトルだろう。自伝でもあり,音楽観の吐露でもある。すでに刊行されているフジコさんの著作と重複するところが多い。
才能に恵まれながら,肝心なときに聴力を失うという不運に見舞われ,不遇と貧困を余儀なくされる。そして,終盤に逆転。
NHKがドキュメンタリー番組で取りあげたのがキッカケだけど,それを呼びこんだ力が彼女にはあったのだろう。
● 以下にいくつか転載。
私は子どものころから空想の世界で遊ぶことが好きでした。母のピアノのレッスンがあまりにもきびしかったため、そこから逃げ出すには,どこか別の世界へと逃避することが必要だったのです。(p25)
私が夢の世界へと気持ちを向けたのは,絵を描くことと連動していました。絵のなかでは,何でも可能になります。私はきれいな洋服を着て,美しい広い庭付きの家に住み,そこでは木々が生い茂り花々が咲きほこっています。(p26)
私は自分が好きな作品を好きなように弾くのが楽しいのです。ピアノを弾く喜びは,自分が楽しんで弾くことに尽きます。(p41)
私の留学時代は困難の連続でした。音楽家はすぐに他人の才能がわかってしまい,嫉妬やいじめや陰口が横行します。(p46)
カラヤンの指揮はこの世の人とは思えないほど別次元のすばらしさで,私はじっと彼の指揮姿を見つめ,恍惚となってしまったのです。(p54)
演奏する時は,作曲家が残した音符のひとつひとつに自分の思いをたっぷりと盛り込んでいきます。多少のミスタッチなど気にしません。音を少しくらいはずそうが,指がすべろうが,たいした問題ではないからです。むしろ音楽全体を大きくとらえ,音で絵を描くように表情豊かなピアノを紡いでいくことを心がけます。(p90)
日本では,私の「ラ・カンパネラ」を無茶苦茶にけなした音楽評論家がいます。でも,私はそう書かれるたびに思いました。ぶっ壊れそうな「鐘」があったっていいじゃない,私の「鐘」だもの。この響きを聴いて涙を流してくれる人だっているんだからと。(p92)
私はショパンやリストを弾く時,ひとつ心がけていることがあります。それは,十九世紀のヨーロッパのピアニストたちをほうふつさせる演奏をしたいということ。(中略)ショパンやリストが生きていた時代,馬車が行き交う速度を思わせるテンポ。断じて現代のクルマ社会の速度ではない。(p96)
人はそれぞれ得意分野があります。人のまねをしたり,人をうらやんだり,自分が不得意だと思っていることを無理に行うと,必ずしっぺ返しがきます。(p97)
私は人をうらやんだり,まねをすることだけは避けてきました。人のまねをしたら,自分を偽ることになってしまうからです。私という人間はこの世にひとり。ただひたすら,自分らしく生きたいと願ってきました。(p186)
よく,人は歳を重ねると都会を離れて郊外に住む方がいいといいますが,私は逆です。(中略)年齢を重ねたら,ひとりで家に閉じこもらず外に出ていろんな人に会う方がいいと思います。外で人に会うと,自然におしゃれをしたり,髪形を気にしたり,身ぎれいにする気持ちが生まれるでしょ。それが大事なのです。(p134)
女性のピアニストで一番好きなのは(中略)マルタ・アルゲリッチ。(p138)
私は「音楽家は生涯勉強すべきだ」と思っていますし,練習を怠ることは,作曲家に対して失礼だと考えています。(中略)でも,年々,歳はとっていきます。これは止めようがありません。そのなかで,いま自分にできる最高のことをする。それが私のモットーです。(p183)
書名 フジ子・ヘミングⅠ 奇蹟のカンパネラ
発行所 ショパン
発行年月日 1999.10.15
価格(税別) 1,000円
● フジ子さんが世に知られる契機になった,NHKのドキュメント番組「ETV特集:フジコ あるピアニストの軌跡」が放送されたのは1999年2月11日。
その後まもなく出版されたのが本書。
● ということもあってか,内容はフジ子礼賛で埋まっている。たとえば,次のごとくだ。
ぼくの好きなバレリーナ,イヴリン・ハートは,「私は音と音の透き間の音を聴きながら踊るの」と語った。ぼくもまた詩を書くとき,紙に記す言葉より,言葉と言葉の透き間の行間の方を大切にする。まして,偉大な作曲家たちこそ,「鳴ってない音」の方を大切にしていたのではないかと疑う。不思議なことにフジ子さんのピアノを聴くと,その音と音の透き間の音が聴こえるのだ。(松本隆 p14)
一般的に,リスト演奏では華麗な超絶技巧を前面に押し出したスタイルが多い中,彼女の演奏は虹のような多彩な音色で,極めて表情豊かにしかも格調高く,全ての音に因果関係を感じさせる。(中略)このようなマエストロだけが到達できる境地の演奏の中では技術的なミスは全く気にならない。(藤井身理 p20)
● 今でも同じ感想を持ちますかと訊ねてみたいという,意地悪な感想もきざすんだけど,錚々たる人たちが,フジ子さんのピアノを絶賛している。
以後,18年間。現在まで彼女の人気は衰えない。つまり,聴衆を惹きつけ続けている。
ぼくも二度ほど彼女のピアノを生で聴いている。正直なところ,ぼくの耳は馬の耳,では測りかねる。
● フジ子さんの発言からひとつだけ転載。
私は,私のことをやりたい。本も読みたいし,掃除もしたい。座ってものを考えるのも好き。もちろん演奏会ではいつも最高のものを弾かなきゃいけないから,乗り切るのは大変ですよ。でもいろいろなことをやったほうが,ピアノもうまくなるんじゃない?(p42)
書名 フジコ・ヘミング画集 青いバラの夢
著者 フジコ・ヘミング
発行所 講談社
発行年月日 2007.09.27
価格(税別) 1,905円
● ぼくは絵がわからない。本書に掲載されているフジコ・ヘミングの絵が巧いのかそうではないのかもわからない。
が,好みだけでいえば,一番いいなと思うのは,100ページに載っているマレーネ・ディートリッヒを描いたものですね。往年のショーガールの佇まいはこんなだったんだろうなぁと,妙に納得させるところがあって。
● カラヤンを描いた絵が2枚。カラヤンとフジコ・ヘミングとの小さな交流の話は,彼女の別の著書でも登場するんだけど,時間にすればほんの数分間のカラヤンとの思いでが,彼女に消しがたい影響を与えているのかな,と。
書名 フジ子・ヘミング 真実の軌跡
著者 喜多麗子
発行所 角川書店
発行年月日 2004.04.06
価格(税別) 1,500円
● 「ドラマでは描かれなかった物語」との副題がある。このドラマは,2003年10月17日にフジテレビ系で放送された「フジ子・ヘミングの軌跡」のことで,著者はこのドラマのプロデューサーを務めた人らしい。
● 著者がフジ子・ヘミングになっているものでも,別にライターがいて,そのライターが本人に取材して描いたものが多いんじゃないかと思う。本書はそれらの本に登場しないシーンも出てくるので,いくつか彼女に関する知識が増えたというのが,収穫といえば収穫。
けれども,彼女について知ろうとすれば,『運命の力』(TBSブリタニカ)1冊を読めば,だいたい足りるかなと思いますね。
● 3月1日に宇都宮で彼女のリサイタルがあるので,聴きにいくことにしている。チケットは1万円。
それなりに痛い出費ではあるけれども,彼女のCDは繰り返し聴いているし,今ここで生を聴いておかないと,後悔するだろうと思って。
著者 フジ子・ヘミング
書名 耳の中の記憶
発行所 小学館
発行年月日 2004.06.20
価格(税別) 1,600円
● これも自分の過去を語ったもの。なので,内容的には他の著書との重複がある。すでに読んだことのある事柄だらけだから,ではつまらないかといえば,そんなことはない。
2日前の夕食のメニューを思いだせないのと同様で,本の内容なんて読んだそばから忘れていくものだからね。
● カラヤンを偲んで「自分でつくった服を着て,自分で刺繍した手提げバッグを持ってカラヤンの演奏を聴きに行ったとき,彼はキラキラひかるスパンコールの刺繍をものすごく褒めてくれました。褒めてもらった刺繍入りのバッグはもう色褪せて,そしてバッグとしては使えなくなってしまったけれど,カラヤンに褒めてもらった思い出として,今でも額に入れて部屋の片隅に飾っているのです」(p77)と書いている。
カラヤンも良いことをしたものだ。っていうか,当時のカラヤンであれば,褒め効果も相当なものであったに違いない。
● 「日本人は景気が悪い悪いと言っている割りには無駄遣いが多いのではないか」(p101)と苦言を呈している。まったくもってその通りで,早い話が貧乏人ほどガラクタに囲まれている,持たなくてもいいモノを持っている,という印象がありますね(わが家のことなんですが)。モノ洪水に溺れそうになっている貧乏人。
最小限度のモノで生活しているのはホームレスの人たちだけで,彼らはいっそ潔い。
● ホームレス救済っていうと,ホームレスから抜けだせるように支援することだ。でもさ,ホームレスのままでやっていけるようにしてあげることってできないんだろうか。
地下道で寝ているホームレスを追いだすとか,公園を生活の場にするのを許さないとか,そこを何とか緩められないかと思ったりもするんですけどね。
自分と異なる存在や異形なるものに対して不寛容だ。存在を抹殺しようとする(いじめの根源は,ほぼここに集約されるのではあるまいか)。一方で,そうであればこその良さもあるんだろうけどさ。
● 日本では行政も変なところできめ細かいし,何だかんだいって相互に監視しあっているようなところがあるしね。他人に無関心でいるってことができないようだよね。他人に無関心でいることを通すって,けっこうエネルギーがいることだしさ。
少なくとも,日本では行方不明になる自由はないからね。すぐに探されてしまう。
って,まったく本書とは関係のない話になっちゃいましたけど。
書名 運命の力
著者 フジ子・ヘミング
発行所 TBSブリタニカ
発行年月日 2001.06.27
価格(税別) 1,800円
● 著者が世に知られるようになってまもない頃に出版された。著者の自伝のようなものだが,本人が書いたのではなく,本人へのインタビューを元に他者がまとめたものかと思う。
著者について知るには,最も適当な一冊だと思う。
● 母親についてもわりと詳しく言及している。今のモノサシをあてれば,ひょっとしたら虐待?と思えるような扱いを受けているんですね。当時は世間にざらにあったことだと思うんだけど。傍目には,少女時代も幸せとは言いがたかったように思える。
ベルリンに留学後,聴力を失った著者は,貧困と失意のうちにストックホルムに移る。自分と母を捨てて故国に帰った父親を頼ろう(主には経済的に)としたのだろう。しかし,結局,父親も会ってはくれなかった。
著者の人生の大半は過酷と道連れ。親の犠牲者って感じもしてしまう。それでも,父,母とつながっていたいという切ないほどの著者の思いが印象的(と,ぼくには思えた)。
書名 パリ・下北沢猫物語
著者 フジ子・ヘミング
山下郁夫(写真)
発行所 阪急コミュニケーションズ
発行年月日 2007.04.09
価格(税別) 1,600円
● 猫好き(という言葉では収まらないか)な著者が猫を語る。もちろん,それは自分を語ることにもつながるわけだが。
● 「パリは人々がそれぞれひたむきに生きているような気がする。男も女も,みんなが自然なのよ。高価なものを身につけているわけではないけれど,自己主張があって格好いい」(p53)とパリを紹介。
著者はヨーロッパの古い建物を維持している街並みに美を感じ,日本は古いものをどんどん壊して新たしくしていると,ご不満の気味。たぶん,小さい頃をベルリンで過ごし,その後も外国暮らしが長かったゆえの美意識なのだと思う。
短期の旅行者として眺める分には,たしかにヨーロッパの街並みは魅力的だけれども,そこに住めと言われたら断然拒否する。たぶん,大方の日本人も同じだと思う。窮屈そうだ。第一,寒すぎる。
書名 我が心のパリ
著者 フジ子・ヘミング
初沢克利 他(写真)
発行所 阪急コミュニケーションズ
発行年月日 2005.02.25
価格(税別) 1,800円
● 著者のパリ暮らしを紹介したもの。あるいは著者がパリの良さを語る。自分の来し方をふり返る。写真満載で楽しめる。
若いときにこれを読めば,自分もパリに行きたくなったろうが,最近はどうもその反射が鈍くなっている。別に行ってみなくてもいいよなぁ,と考えてしまう。
旅行ガイドを読んで行った気になる。グルメガイドを見て食べた気になる。これが嵩じると,ガイドブックを読む気がなくなるんだと思う。まだそこまでは行ってないから,多少の救いはある。
● いくつか転載。
運命は皮肉だ。ストックホルムで貧困に負けそうになり,音楽を諦め、仕立て屋の「縫い子」になろうとしたが断られてしまった。あのとき断られていなかったら,今の私はなかっただろう。(p30)
パリっ子は徹底した個人主義で,それは見事なほど他人を気にしたり干渉しないから,何かと堅苦しいドイツからパリへ来るとうれしかった。多分,パリっ子は空腹で私が倒れていても,顔色も変えずに跨いで行くんじゃないかと思うほど他人に無関心なの。でも,パリのそんなところが好き。(p114)
幸せというのは,多くを持つことによって得られるものではない。今持っているもので,得られるものよ。(p125)
書名 パリ音楽散歩
著者 フジコ・ヘミング
発行所 朝日新聞出版
発行年月日 2008.07.30
価格(税別) 1,500円
● これは,少々安易な本作りかも。発行する側が,フジ子・ヘミング人気に寄りかかってパリのガイドブックを作れば,ある程度の部数は見込めるのではないかとだけ考えて出したような感じ。
● 「(パリには)不思議な風が流れているに違いないと思うの。今も昔も芸術家が憧れ集まってくるんだから」(はじめに)という著者の言葉をふたつだけ引用。
私が子供のころにピアノを弾くと最初に感じたのは,音楽の旋律ではなくて色彩だったのね。今も音のひとつひとつに色をつけるように弾くことを大切にしているの。テクニックで弾くより豊かな色を奏でたいから。(p123)
オーケストラを音楽を一緒に作り上げていく楽しさは言葉では表せないほど。生みの苦しみを伴うことはもちろんあるけど,それを越えたところにこそ感動が生まれるはずだと思っている。(p167)
書名 フジ子・ヘミングの「魂のことば」
著者 フジ子・ヘミング
発行所 清流出版
発行年月日 2002.04.15
価格(税別) 1,200円
● 音楽界のアカデミズム,本流においては評価の対象にすらなっていないであろう,フジ子・ヘミングの本をまとめて読もうと思っている。
そのほとんどはエッセイというか,人生論というか,若い女性に向けた「辛くても負けないで」っていうメッセージですな。
本人が原稿を書いているわけではなく,口述筆記でもなく,ライターがインタビューして文字に落としたものだと思うんですけどね。
● でも,それゆえ読みやすくもあってね。波瀾万丈の人生をやってきた人ですからね,たんに頑張ってと励ますのでも気がこもっているっていいますかね。元気づけられますよ。
● 彼女を有名にしたのは,1999年にNHKが放送した「フジコ~あるピアニストの軌跡」と2003年のドラマ「フジ子・へミングの軌跡」だろう。
ぼくはどちらも見ていないんだけど,見ていなくても何とはなしに彼女の生いたちは知るようになった。テレビの影響はネットなどよりはるかに大きい。普段は音楽を聴かない人でも彼女を知るようになり,彼女のファンになった人が大勢いるに違いない。
結果,CDは売れるし,リサイタルを開けばお客さんは入る。彼女のリサイタルのお客さんと他のピアニストのお客さんは,ほとんど重ならないのかもしれないね。
● 宇都宮でも3月に彼女のコンサートがある。行きたいんだけどね,チケットが10,000円なんですよねぇ。
高くはないとしても,目下のぼくには少々以上にきつい負担。彼女の生演奏はぜひ聴きたいと思ってるんだけど。
● 彼女のCDに入っている楽曲であれば,まずは彼女の演奏を聴く。理由は自分でも分析しきれていないんだけども,要は彼女独特の世界に引きこまれてしまうということ。
「通」には顔をしかめられるかもしれないんだけど,ま,そういうことになっている。
書名 あなたに届けば
著者 フジ子・ヘミング
発行所 オークラ出版
発行年月日 2005.12.25
価格(税別) 952円
● 『ほんの少し,勇気をあげる』は人生についてのアフォリズム。こちらは恋愛についてのアフォリズム。いくつになっても恋をしなさい,ということを言っているわけ。
● 野暮な引用。
繊細でノーブルな人が好きだった。好きになった人は,皮肉なことに,みんな同性愛者だった。
「運命の出会い」って言葉があるけれど,出会う人もいるし,一生会わない人もいる。私の場合は,恋人ではないけれどバーンスタインかしら。
書名 ほんの少し,勇気をあげる
著者 フジ子・ヘミング
発行所 オークラ出版
発行年月日 2005.12.25
価格(税別) 952円
● 著者謹製のアフォリズムに,これまた著者が描いた絵を見開き2ページに配して作成した絵本。または豪華なリーフレット。ページ数も打たれていない。
目新しいことが書かれているわけではないけれども,説得力があってしみじみする。
● こういうものから転載するのは,阿呆の極みだけれども,ひとつだけ。
お金がなくて,病院の掃除婦をしたこともある。何棟もあるとても大きな病院で,忙しく働いた。いい経験になった。そんな苦労が,今のピアノの音を作ったのだと思う。
書名 フジ子・ヘミング ピアノのある部屋から
著者 フジ子・ヘミング
発行所 求龍堂
発行年月日 2001.03.04
価格(税別) 1,800円
● ピアノ曲はあまり聴かない。のだけれども,フジ子・ヘミングのCDは時々聴いている。リストの「ラ・カンパネラ」とかグリーグの「ピアノ協奏曲 イ短調」とか。
● 本書はそのフジ子・ヘミングの絵画を集めたもの。いろんな才能を持った人なんだねぇ(父親が画家だった)。
● 彼女が本書の冒頭に書いていること。
ゲーテは「美しい」と言う事は「気に入ってる」と言う事でしかないと言っています。気に入るか気にくわないか,だけの話です。
サラッとこれが言える境地って凄くないですか。言葉を弄するだけなら誰にでもできるけれども,これがズシンと腹に入るのは,何ごとかと格闘してきた人だけに許されることだと思う。