著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2017.01.31
価格(税別) 1,400円
● トランプ政権誕生を受けての緊急出版。大統領選挙でトランプの勝利を予想していた人は,圧倒的に少ない。長谷川さんはその代表格。
この話題について長谷川さん以上に的確に語れる人はいないとなれば,目下は多忙を極めているのではないか。
● 以下にいくつか(というには少し多いが)転載。
イギリスとアメリカの一般大衆の動きは明らかに既成政治に対する不満と一部エリート層に対する怒りが爆発したと判断したほうが良い。この根本的な理解がなければこれからの社会,政治,経済状況は的確に把握できないといっても過言ではない。 少し余談になるが,アメリカと日本のマスコミや識者のほとんどはこの大衆の動きを極度に軽く見ていたためにブレグジットも大統領選の予測も外してしまっているのだ。これはハッキリ申し上げて予測する側もいつも間にか権力側のスタンスに立っていたということである。(p1)
ヨーロッパ大衆の反難民感情はますます高まり,右派勢力が台頭し政権を奪取。さらに銀行の不良債権問題がそれに拍車をかけて保護貿易に走り,EUは崩壊の道をたどり始める。(p2)
クリントン氏も大統領選の敗因としてFBIによる再捜査の公表を挙げている。けれども公務で私用のメールを用いるという不正行為をしたのはクリントン氏だ。要するにアメリカの有権者に不信感を抱かせたのはクリントン氏自身にほかならない。疑われる原因を自分でつくっておきながら,それを無視して大統領選に負けた理由を他に求めるというのは普通の感覚では考えられないだろう。(p21)
もし今回の選挙が一般投票で行われていたらクリントン氏が勝っていたかというと,それも違う。選挙戦術の立場から言えば,トランプ陣営は既成政治の打破を掲げて選挙人制の下で勝つための選挙運動を行ったからこそ勝ったのだ。この点でトランプ陣営はクリントン陣営よりも選挙のやり方が巧みだった。(中略)選挙人獲得数で圧勝したのだから,トランプ陣営は一般投票で大統領選が行われたとしても同様に,それで勝利できるような選挙運動を展開したに違いない。だから一般投票であろうがトランプ陣営は勝ったはずである。(p24)
選挙での審判が降りても相変わらずトランプ氏について厳しい見方をしているわけだが,これはアメリカのマスコミに,既成政治を打ち破ろうとするデフレ時代の大きな動きについての認識がないことを示している。時代の変化にマスコミは取り残されているということだ。となると,早晩,今度はマスコミ自身に大きな変革を迫る波が押し寄せる。(p30)
政治においては経済の重要性が増していく一方であって,むしろこれからの政治で不可欠なのが経営者の感覚なのだ。重要度を増してきた経済が経営者の経験を持つトランプ氏を大統領の座へと押し上げたという見方もできるだろう。(p39)
トランプ氏が選挙戦を勝ち抜くにあたってツイッターを含むSNSの活用が大きな威力を発揮した。マスコミのほとんどは反トランプだったのだから,トランプ氏はネット戦術によってマスコミをも打ち破ったといえるだろう。(p51)
今や各国とも法人税率を引き下げて企業を誘致する時代になっているのだ。法人税率が高いとこの国際競争に負けてしまう。(p59)
自由経済には必ずスペキュレーション(投機)が伴う。逆に言えば,それが自由経済が活力を生み出す大きな源泉となる。(p64)
アメリカでシェールオイルが採掘される限り,産油国の原産合意など何の効力もないのだ。(p91)
近代の国家間戦争はエネルギーの取り合いから始まった。けれども今のように石油が余っていたら国家間戦争など勃発するはずがない。反対に平和が維持されていき,デフレもどんどん進行していく。産油国のような資源国は売り手だから,買い手のほうが強いデフレ時代に力がなくなっていくのは当然なのだ。(p92)
そもそもデフレ時代に大きな政府を続けるのは不可能だ。大きな政府は放漫財政を許容する政府だから,デフレ時代になっても大きな政府のままだと巨額な財政赤字が累積し財政が機能不全に陥ってしまう。(p96)
行政は規制を作るとそれが守られているかどうかも監視しなければならない。監視のためには人員や設備が必要だから,規制をつくればつくるほど人員も設備も増やすことになってしまうのだ。(p97)
自由貿易の面ではTPPが包括的で幅が広いのに対し,二国間の通商交渉というのは幅が狭い。(中略)二国間の利害が直接ぶつかってしまうからだ。(p109)
トランプ氏という人物がどんな能力に秀でているのかと言えば決断力である。この点,クリントン氏は足元にも及ばない。同時に,自分を変えることにも積極的だ。自己変身ができるということで,何にもこだわることなく自分の主張を機動的に変えられる。(p134)
第二次大戦が完全に歴史となり,その戦後が完了したことで日本の国際的地位はこれからさらに上がっていく。反対に打撃を受けるのは,これまでつねに第二次大戦を持ち出して日本との外交交渉にあたっていた国々,すなわり韓国,中国,ロシアだ。(p140)
二〇一五年のガソリン国内販売料は一〇年前より一四%減の約五三一一万キロリットルで,国内のガソリンスタンドの数は二〇〇〇年に五万三七〇四ヵ所だったものが,二〇一五年には三万二三三三ヵ所にまで減っている。ところが,国内精油所の精製能力は内需よりも約二割も多い。(p156)
創業家が経済合理性よりも昔のカビの生えた大家族主義という考え方にこだわるなら,待っているのは出光の倒産しかない。(p159)
今回のトランプ政権誕生は日本のメガバンクにとっては大きな追い風である。トランプ新大統領が打ち出している法人税率引き下げ,金融規制緩和,環境規制緩和,インフラ投資とった政策が三大メバガンクのアメリカにおける融資拡大のチャンスを広げるからだ。(p161)
三菱重工に対して,「軍事,宇宙,造船,航空機という利益の出ない部分を切り捨ててエネルギー・環境と機械・設備システムに特価すれば超優良企業に生まれ変わる」という意見がある。確かにそんな考え方もあるかもしれない。けれども私はどこも切り捨てることなく現状のままで事業を継続していくべきだと思う。なぜなら総合的な技術を持っていることが三菱重工の最大の強みだからだ。(中略)しかも技術はいったん手放すと容易には戻ってこない。(p163)
EV時代が本格化するのはもう二年ほどはかかるだろう。逆に言うと二〇一八年の終わりくらいには自動車の中心はEVになるということだ。EV時代を先頭に立ってリードしていくのはやはり三菱自動車以外にはないと思う。(p170)
トヨタからはEVについての明快な戦略が伝わってこない。トヨタが主力車でEVへの転換を図るのならHVへのこだわりはきっぱりと捨て去るべきだ。実際,HVの時代は終わりにさしかかっている。技術的には行き着くところまで行って,これ以上手を入れるところがないからだ。部品も多くコストも下げられない。(p173)
戦後の日本は自由貿易の旗印をずっと高く掲げてきた。その意味では自由貿易を体現する国だといえるから,日本が率先してTPPを批准するのは世界へのアピールという点できわめて重要なのだ。(p184)
ロシアには,トランプ氏が大統領になったらどのような政策を取るかということについて分析した形跡がない。その最大の理由はロシア全体の知的な活動の水準が落ちていることにある。(p190)
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