著者 近藤史恵
発行所 新潮社
発行年月日 2016.06.20
価格(税別) 1,500円
● 『サクリファイス』『エデン』『サヴァイヴ』『キアズマ』に続く自転車シリーズの5冊目。主人公はすっかりお馴染みなった感のある白石誓(しらいし ちかう)。
ツール・ド・フランスで優勝を狙えるチームに所属している。もちろん,自身が総合優勝を狙うエースの位置にいるのではない。アシスト要員だ。
ただし,下り坂にめっぽう強い。『サクリファイス』からそういう設定。今回もすんでのところでツール・ド・フランスのステージ優勝をもぎ取りそうになる。
● 主人公の特徴はナイーブであること。神経質でウジウジと考えるタイプ。そうじゃないと小説の主人公には向かないのだろうけど。
協調性に満ちている。したがって,監督はじめチームからの信頼は厚い。彼なら裏切らない,持てる力をすべて出して貢献してくれる,と。
● 以下にいくつか転載。
笑顔は、敵意がないということを示すシグナルだ。違う国の,違う文化を持った人間が集まっているのだから,シグナルだけは発し続けなければならない。(p24)
あれほど強かった選手が,ある年からばったり勝てなくなるなんてことはしょっちゅう目にしている。チャンスは今しかない。そう思わなければたった一度だって勝てない。(p26)
いちばん強く,回復が早いものが勝つ。そう,この世界一過酷だと言われるレースは,強いだけでは勝てない。蓄積する疲労を回復させ,立ち直ったものしか勝てないのだ。だからこそ,ドーピングが強い効果を上げた。(p50)
タクシー代はチームに請求することができるのに,ひとりのときはこうやって公共交通機関ばかりを使ってしまう。 たぶん,ひとりの人間としてだれかと対峙することには,少しだけ勇気がいる。人混みに混じっていれば,その他大勢でいられる。(p78)
百七十五キロも自転車で走りながら休息するなんて,普通の人々にとっては想像もできない感覚だろう。グラン・ツールに出る選手は,体調不良も怪我も,走りながら治す。(p121)
ニコラは,本当にやりたければ人の言うことなどきかないだろうし,そういう選手でなければツールで優勝することなどできないだろう。(p142)
過去に信じて裏切られることが何度あったとしても,人は信じたいものを信じるのだ。(p200)
ミッコがかすかに舌打ちをした。「生意気な若造だ」 (中略)「どうした」 にやついているのに気づかれたのだろう。尋ねられたから正直に答えた。 「きっと,ミッコが新人だったときの先輩選手もそう言ってたんじゃないかなと思ってね」 自分が子羊のような新人選手だったからこそ,その生意気さが重要な資質なのだとわかる。(p237)
0 件のコメント:
コメントを投稿