著者 吉田友和
発行所 平凡社
発行年月日 2012.06.13
価格(税別) 1,600円
● 会社員で週末旅を自らも楽しみ,読者に推奨もしてきた著者が,会社を退職し,旅を仕事にすることに決めた前後を綴る。
会社員の「卒業旅行」の行き先はインド。このインドでのあれやこれが本書の白眉で,じつにどうも面白かった。
● インドというと,はまる人と嫌う人がくっきり分かれる。嫌うのはインド人の物売りや雲助のしつこいまでの小ずるさに根をあげるから。あるいは,水の悪さや香辛料のききすぎた料理にやられるから。さらには,カオスともいえる雑踏にあてられるから。
と普通に言われるのをなるほどと受け取っていたんだけれども,いや,ちょっと待てよ,と思わせる。
● 紀行文の書き手として,今やナンバーワンに躍りでた感がある。ほかには下川祐治さんと,自転車旅の石田ゆうすけさん。この3人が,ぼくの知る狭い範囲ではお気に入りの書き手だ。
● 著者は写真も上手だ。写真は特に勉強したわけでもないのだろうが,巻末に収められている写真はどれも見応えがある。
● 以下に転載を2つ。ひとつは,テレビに出たときの体験を綴ったもの。
蟹の手をもいで身を出す瞬間を撮る際などは,同じ料理をもう一度誂え,一時間以上もかけて入念にワンシーンを撮影していた。それでもオンエア時に使うのは恐らく数秒なのだ。(中略) 振り回される側からすると大変なことは否定できないけれど,ある種の粘り強さこそが,物作りをする上では避けて通れない壁の一つなのだろう。(中略)熱は伝播するものらしい。真剣に取り組む人を目の前にして,どう向き合えば良いか,期待を裏切らないためには何をすれば良いかと今更ながらに考え,そして覚悟を決めた。(p115)もうひとつは,旅の期間の長短についての著者の意見。
期間に限りがあると,旅人は貪欲になる。(中略)どちらがいいとか悪いではないが,短期滞在の方が旅の密度が高くなるのは紛れもない事実だと思う。(p191)● この「卒業旅行」はしかし,途中で切りあげることを余儀なくされる。東日本大震災が発生したからだ。
帰国後の行動は,書かれているとおりだったとすれば,典型的な馬鹿者のそれだ。ひょっとすると,発生直後に帰国したからかもしれない。発生時に東京にいれば,違った対応になったのかもしれない。
しかし,西に逃げよう,はないだろう。
● 原発の放射能にしたって,少し以上に過剰反応だ。どれだけの線量が出ているのかは,公表されていた。著者もサイトでチェックしていた。ならば,あとは自分で判断できるではないか(公表されるデータが信じられないというのなら,また別の次元の話にならざるを得ないけれども)。
ここで肝心なのは,それ以外の情報を遮断することだろう。マスコミや自称専門家や評論家は,常に必ず間違うものではないか。有事にはそうした情報を遮断する決断ができるかどうか。
● インターネットやSNSを称揚する連中にどこか胡散臭さを感じるのも,このあたりに理由があるのではないかと思っている。情報収集,情報収集というけれど,いざというときには収集よりも遮断の方が大事なのではないか。
あの地震が起きた直後,ツイッターで情報が流れ,それを読んだ人は助かり,そうでない人は・・・・・・という噂(?)が活字になっているのを読んだことがあるけれども,これもぼくは疑っている。称揚派が針小棒大に言い過ぎているのではないか,と。
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