書名 年金崩壊後を生き抜く「超」現役論
著者 野口悠紀雄
発行所 NHK出版新書
発行年月日 2019.12.10
価格(税別) 850円
● 大学の経済学部や経営学部で,年金経済論あるいは高齢者雇用政策論というタイトルの4単位の講義のテキストになりそうな本。今はどうなのか知らないが,40年前の大学だと新書本1冊は4単位の講義に相当する内容があったような気がするな。
卒業に必要な単位は124単位だから,新書を31冊読めば学士になれるという,非常に大雑把な計算。大学なんてその程度のものと考えておいて,まず当たらずとも遠からず。文系の場合はだけどね。
● 以下に転載。
「働こうとすれば職を得られるにもかかわらず,働こうとしない」高齢者が多いのです。(p7)
組織に頼れば組織に使われてしまいます。組織をいかに使うかを考えるべきです。(p10)
まず最初に,「有利な資産運用法などありえない」ということを知るべきです。昔から,金融資産の運用において巨万の富を築いた人は大勢イます。(中略)ただし,彼らは偶然そうなっただけです。(中略)バフェットが巨万の富を築けたのは偶然の結果なのですから,その真似をするのは,原理的に不可能なことです。(p39)
この予測を用いて株を買えば,金持ちになれるでしょうか? 答えは「No」です。なぜなら,現在の株価は,その予測を前提として成り立っているからです。その予測はすでに使われてしまっているのです。(中略)公にされた予測を用いても,人を出し抜くことはできないのです。(p42)
(日本老年学会が)現在65歳以上とされている高齢者の定義を,75歳以上に見直すべきだと提言しています。名前や呼び方は重要です。実態が変わっても,名称が変わらないと,古い観念に囚われる場合が多いからです。(p117)
在職老齢年金制度は,就業する場合にも低賃金の就業を促進することになります。低賃金の就業を促進することによって,高齢者の能力発揮を妨げているとも言えます。つまり,この制度は,低賃金で高齢者を雇用する企業への補助金として機能しているのです。(p135)
病気になって就労できなくなり収入がゼロになっても,前年の所得が多ければ,高額の自己負担額が発生し,払いきれなくなる事態は容易に想像できます。(中略)「働いていなければ命が助かったが,なまじ働いていたために,命を落とす」ということがあり得るのです。高齢者になって働くことは,現在の制度の下では,単に「損する」だけでなく,きわめて「危険」なことなのです。(p142)
医療保険におけるペナルティは,所得にかかるのではなく,「働くこと」に対してかかります。したがって,現在の制度下で最も賢い方法は,退職金を金融資産に投資して,そこから所得を得ながら,医療費の自己負担からは逃れることです。(p144)
医療,介護保険制度においては,所得を勘案して自己負担額が決められています。問題は,資産が勘案されていないことです。(p152)
氷河期世代が深刻な問題を抱えていることは間違いありませんが,この世代「だけ」が特別に深刻な問題を抱えているというのは,多分にマスメディアが作り出した虚像なのです。(p163)
日本では,道路運送法によって,許可のない人が自家用車を使って有償で人を送迎することは,「白タク行為」と見なされまず。(中略)新しい働き方を実現するには,規制緩和が不可欠です。(p177)
問題そのものがはっきり捉えられていない場合もあります。漠然と不安を抱えているだけで,何が問題なのかを把握できない。だから,そもそも具体的な質問をすることができないのです。(p184)
人間は,自然が作った平均寿命の限界を超えたのです。これは,誠に喜ばしい変化だといわなければなりません。(p219)
多くの人が,「仕事は辛いけれども,生活のためにやらなければならない」と考え,仕事から解放される時間を「自分の時間」と考えています。しかし,私には,「仕事をやることこそが生きがいだ」としか考えられません。(中略)私にとっての悪夢は,仕事ができなくなってしまうことです。(中略)こうした仕事を見いだせたことは,本当に有り難いことです。(p222)
AIの機械学習について,「過学習」ということが問題とされています。これは,AIが機械学習を行う際に,与えられたデータの中で学習しなくてもよいことまで学習してしまうことです。この結果,判断を誤ることになります。これと同じことが,日本の縦型社会において生じているように思われてなりません。(p223)
日本には,「新しい仕事をやれ」と言われると,「その前にやり方を教えてくれ」と言う人が多くいます。「海図がなければ,航海には出ない」と言うわけです。しかし,それは,間違いです。新しい仕事に挑戦するとは,海図のない航海に出ることなのです。(p228)
安定した社会が壊れる時は,意欲のある人間にとっては,チャンスの時になります。(中略)いまの日本は,表面的にみれば,安定しています。しかし,その内実を見れば,どうしようもないほど行き詰まっています。(中略)日本はいま「食い詰め」ようとしています。経済停滞が始まったのは1990年代のことで,それ以降,経済はほとんど成長していません。(中略)16世紀のポルトガルと同じ立場に置かれた日本に,いまこそ,エンリケやマゼランが現れて,新しい航海を始めなければなりません。(p230)




