書名 脳を活かす伝え方,聞き方
著者 茂木健一郎
発行所 PHP新書
発行年月日 2013.12.27
価格(税別) 760円
雑談は高度に知的な作業であり,会話は脳にいい。アンチエイジングになる。大きくまとめてしまうと,そういうことが説かれている。
● 好きな曲を繰り返しで聴く人は,とどまろうとする人であり,若々しさや創造性から遠ざかりがちな人である,という。ぼくは典型的なとどまろうとする人だ。
● 以下に多すぎる転載。
私の場合,三十歳から四十歳くらいの約十年間で,「友だちビッグバン」のようなことが起こったのです。その十年の間に交友関係が,まるで宇宙の始まりの時に起こった大爆発のような勢いで広がり,仕事の幅まで広がっていったのです。その間に何が起こったのかというと,自分と考え方や価値観が違った人に会っても,以前のように拒否するのではなく,他者と自分の違いを楽しめるようになったのです。(中略)欠点は私自身にもあるのだから,相手の欠点も大目に見よう,と思えるようになりました。(p11)
素直に弱さを出せる人は,人に好感を持たれます。(p34)
美術館を訪れた際,作品の横に書いてある説明書きばかりを読んでいる人をたまに見かけます。(中略)本当は,作品を観てそこから何を感じるかのほうが大事だと思うのですが・・・・・・。(p39)
包み紙とは,人の場合でいえば,学歴や地位や名誉のことです。(中略)人の本質とは,包み紙で何重にも包装されたものを一枚一枚はがしていった後に現れるものです。だから,本当に自信がある人は,自分をそんなに飾り立てて宣伝する必要がありません。(中略)包み紙をはいだ後に,まったく何も残らない人間というのはいません。どんな人でも素の部分には面白いものがあるはずです。(p46)
「私」を意識しすぎると,脳の機能が低下する(中略)コミュニケーションも,「私」を出してはいけない典型といえます。(中略)「私」を意識したコミュニケーションは,うまくいかないのです。(p47)
話している時と,聞いている時とでは,使っている脳の回路は異なります。(中略)そのため,ひとりの人間が他者とコミュニケーションを取るためには,感覚系学習の回路を通じて相手の情報を取りこみ,次に運動系回路を通して相手に自分の意見を話す,という情報出力を行う必要があります。つまり,よいものを見たり聞いたりしたら,それを今度は人に話したり,日記やブログに書くなどの出力をしないと,いい会話をしたり,いい文章を書くなどのスキルは向上しないのです。(p50)
人間の脳は,なんでも,その場ででっち上げることができるのです。(中略)これは悪いことだと思われがちなのですが,脳の仕組みからすると,コンファビュレーションが会話の本質であるといえるわけです。でっち上げを楽しむのが会話だと思うと,会話自体を楽しめると思いませんか。(p64)
でっち上げとは,嘘ではなく,その場で何かをつくるということです。(中略)その場で即興でつくっていくのが会話なのです。(中略)ですから,会話の上級者が交わす会話というのは,ただのお喋りではなく,芸術になってしまうほどすごいものなのです。(p66)
もし会話上手になりたいのであれば,寄席や落語会に行くことをお勧めします。最低,一〇回は通ってください。(中略)是非,生の落語を聴いていただきたい。生の現場は,迫力が違います。(中略)演者がつまらなければ,お客さんは平気でトイレに立ったり,何かを食べていて,ろくに聴いていないことだってあります。演者にとっては非常に厳しい現場なわけです。その厳しい現場に客として居合わせるだけでも,参考になります。つまらない話に対しては,本来,人は容赦がないのだということを,目の当たりにできるからです。(p73)
古典落語を読んで会話術を学ぶ方法もあります。というのは,落語の多くが,会話を基本として構成されているからです。早稲田大学名誉教授で,落語研究家だった興津要さんが編集された『古典落語』と『古典落語(続)』(共に講談社学術文庫)は,とくにお勧めです。(中略)新米の落語家も読んで勉強するくらいですから,相当に読み応えがあります。会話術を上達させたいなら,五回は読んでほしいと思います(p74)
それでも,日々努力を続けています。やはり,一生磨き続けようとしないと,会話術はどうしても衰えてきてしまうものですから。(p76)
彼らに共通しているのは,自分を偉い人だと思っていないこと。ある出版社の編集者が言っていたことですが,サブカルチャーの人たちがすごいのは,偉ぶらないところだ,と。自分を偉いと思っている人の話は,だいたい面白くありません。(p77)
人の話を真剣に聞く時に,一番大事なことは中心を外さないで聞くことです。(中略)相手の話に前のめりにもならず,かといって離れもしない。つかず離れずの距離を保ち,聞く姿勢はブレさせないという,まさに「聞く」ことの最上級の聞き方です。(p82)
「相手の話を聞いていて,自分が苦しくなってくるのは,それだけ相手の病が重いということだ」と。(p85)
会話をする態度としてよくないのは,非対称性ができてしまうことです。とくに大人と子どもの会話は,非対称性に陥りやすい典型といえます。(中略)そうではなく,大人だって子どもたちから教えてもらえることがたくさんあるのだという態度で会話をすべきです。そして実際に,子どもたちから教えてもらえることはたくさんあります。そのためには,「自分はそんなことに興味はないから」と興味の対象を限定しないことです。(中略)よい会話とは,相手の世界を自分の中に入れるためにあるものなのですから。(p94)
謙虚さとは,年齢や社会的立場といったことに関係なく,「相手は自分の知らないことを知っているのだ」と敬意を払う態度のことです。(p95)
今は,『まどか☆マギカ』と「オペラ」とがまったく同等な情報として扱われていい時代であると思います。むしろそう思えない人は,年齢や社会的立場を超えた会話を楽しめないのではないでしょうか。(p97)
時には積極的に傷つくつもりで,他人にぶつかっていくことも必要です。会話力を上げることは,それくらい価値のあることです。会話力がアップすれば,それだけで生きていけるといっても過言ではありません。(p101)
相手の話が終わってから質問を考えているようでは,もう遅いのです。話を聞いている時点で質問を考えていないと,思いつきだけで質問することになる場合が多いからです。(p104)
いい質問とは,その質問をすることで周りの人の利益にもなる,という公共性を意識したものだと思います。また自分が聞きたいことをピンポイントで聞ける能力も重要です。(p105)
相手についてあまり調べすぎるとうまくいきません。これは,司会など場を仕切る仕事を数多くこなしてきた実感から得たことです。(中略)下調べしたことに引きずられてしまって,今のその人をうまく引き出すことができなくなっていることに気がついたのです。(p109)
重みのある質問とは,質問自体に切実さとか,苦しみとか,痛みといった身体感覚とつながったものが宿っているものです。(p112)
私は問いの答えを見つける能力よりも,問い続ける能力のほうが,人間として大事な気がします。また,そういう人は,年を取りません。(中略)問い続けることで脳に空白が生まれ,そのことが脳にとってのアンチエイジングになっている,というわけです。(p114)
人間関係において,ストレスが溜まるのは,相手に合わせすぎることが原因だと推測されます。(p120)
人間にとっての理想のコミュニケーションの在り方は,自然体でいることだと思います。そして,それは可能なのです。(中略)そのほうが自分も楽だし,周りともうまくいくのです。(p123)
セールスマンがセールスのために訪問した家で,相手の話に熱心に耳を傾けていただけなのに-つまり,積極的に商品をアピールするなどしなかったのに-「あなたは話が上手ね」と言われた,という有名なエピソードがあります。つまり聞き上手な人は,会話上手にも見えるということです。(p134)
たとえば,「クラシック音楽には価値があるけれど,ポップスはくだらない」という考え方の人がいるとしましょう。こういう人の雑談力は高いとはいえないでしょう。(中略)雑談上手な人は,さまざまなものを愛することを知っている人だといえるでしょう。(p134)
大きな成功も素晴らしいが,失敗すらもなんらかの糧になる,そういう価値観をもっている人はすべてを引き受けることができます。(p135)
雑談は,相手に興味をもつことから始まります。相手がどんな人であれ,人間は何かしら面白いところをもっています。相手をよく観察すれば,必ず面白い面が見つかります。(p136)
私も高校生くらいまでは,自分が興味のある話以外は,すべて無駄な話だと思っていました。だから,コミュニケーションが苦手だったわけですが・・・・・・。雑談を無駄なことだと思わずに,その時間をどれだけ楽しめるかが,その人のコミュニケーション能力の表れなのだと思います。話すことは無限にあり,世の中には自分の知らない面白いことがたくさんあると思っている人は,潜在的にコミュニケーション能力が高いのだと思います。(中略)世の中の多様性を楽しむこと,という表現が一番ふさわしいでしょうか。(中略)ひいては,それが生きることの多様性を楽しむことにもなります。(p137)
情報の収集源は,いろいろあります。その中で一番大事なのは,自分自身の中にある「好奇心」をアンテナにして,そこに引っかかってくるものを収集することです。(中略)外部の情報源としては,最近ではツイッターの「トレンド」や「ヤフー・トピックス」などが使えます。(p134)
「こんなことを聞いては,いけないんじゃないか?」というような引っこみ思案や羞恥心は,コミュニケーションを取る上では捨てたほうがいいでしょう。(p147)
会話が脳にとってのアンチエイジングとなるのは,「好奇心」を満たすことが脳にとっての若さの源になるからです。したがって,会話をしない人の脳は,だんだん衰えていってしまうのです。(中略)会話から得られる情報は,テレビや新聞,インターネットなどのメディアが提供する情報とは脳の受け取り方が違います。会話から得られるのは,生身の人間がもたらす生きた情報なので,脳が本気になります。(p150)
雑談とは,この後の会話の展開がどうなるのか,その場にいる誰にも予測できないという,「予測不可能生」に満ちています。(中略)予測できないことに対応するからこそ,脳が鍛えられるのです。(p158)
雑談という言葉には「雑」という漢字が入っているため,雑多なもの,どうでもいいもの,というニュアンスが含まれて,軽視されがちなところがあります。(p160)
人の話を聞いて学ぶことの生物としての意味は,「自分だったらどうするか?」,そこにしかないのです。それこそが,究極のシミュレーションなのです。(p171)
自分の好きな音楽を繰り返し,繰り返し聴き続ける人は,そこにずっととどまろうとする性質をもっています。(中略)あるいは,クラシック音楽など,すでに評価が定まったものばかり聴く人も,とどまろうとするタイプの人です。(中略)新しい音楽や本を求めて,「次,次」といける人は,自分の中に子どもの部分を残している人です。(中略)それとは反対に,同じところにずっととどまろうとする人は若々しさから離れていきます。(p174)
好奇心の割合が高い人は,新しいものを求める傾向が高いけれど,そこにはいいことばかりが待っているわけではない。新しいものは,評価が定まっていないので無駄なもの,よくないものも含まれている可能性が高い。それでも,無駄ではあるかもしれないけれど,果敢に新しいものを求めます。それが大人になっても若さを失わない人の特徴であり,創造的な人の特徴でもあります。(p176)
人を縛る規範とは,社会のルールや人の目といっていいでしょう。犯罪に手を染めない,マナー違反はしない,などの基本的なルールは当然守るべきですが,それ以外のものは,人を不自由にさせます。(p180)
安定と変化のバランスを取るためにはどうすればいいのか。それは,一〇〇%変化を求めて行動することです。人間は変わろうとして目一杯アクセルを踏んでも,そんなには変われない生き物です。だから,一〇〇%変わろうとするくらいでちょうどいいのです。(p184)
厳しい言い方ですが,「人は変わらない」と思っている人は,変わることができません。「人は変わることができるのだ」と,分かっている人だけが買われるのです。(p185)
男はこうでなければならない,女はこうでなければならない,私はこういう性格だ,と決めつけるから脳に抑制がかかる。その抑制をうまく外してあげれば,人は変わることができます。(p185)
大人になるということは,社会のルールを身につけていくことなのですが,ルールを身につけた分,脳が学習する可能性は狭まります。子どもは,ルールがないところから学習していくから,学習する能力も高いのです。大人になっても,子どものように学習していく可能性を広げるには,賢くルールを緩めることが必要だと思います。(p187)
会話もそれと同じで,全部言う必要はなく,自分が言いたいことの七割か八割にとどめておく。そのほうが,相手に考えさせる余韻を与えることができます。(p193)
どんなことを話したか,そのテーマよりも,その会話が楽しかったかどうかのほうが重要なのです。(p205)
本当に面白い雑談を一時間でも二時間でも続けられる人は,実は知性が高いということです。それはペーパーテストでよい点数を取るよりも,ずっと知的なことなのです。(p206)
愚痴や悪口などを一方的に話す人は,たいてい周りが見えていません。しあがって,その人の話を聞いてあげようとするあなたの思いやりも見えていません。(p209)
会話をするということは,相手を知るだけではなく,自分を知ることでもあります。自分がどういう人間であるか分からないからこそ,他者との会話を通して自分を知ろうとするのです。それは,自分が他者からどう見えるかを確認する作業でもあります。(p213)
一匹一匹のアリは,独立して動いていますが,巣全体で見ると一つの意思をもっているかのような動きをします。同じように人間の社会も,一人ひとりの脳は別々でも,社会全体としてはある意思をもっているように見える時があるのです。(p216)

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