2021年5月8日土曜日

2021.05.08 三浦 展 『あなたの住まいの見つけ方』

書名 あなたの住まいの見つけ方
著者 三浦 展
発行所 ちくまプリマー新書
発行年月日 2014.03.10
価格(税別) 880円

● 戦後住宅事情史でもあり,リノベーションとシェアハウスの解説書でもあり,コミュニティや街づくりの提言書でもある。
 コロナ以後も基本的には変わらないと思うのだが,シェアハウスについてだけは強烈な向かい風になったのではないか。出かけないで家にいれば安心というのが,シェアハウスだと通用しない。実際には感染上の問題はないのかもしれないのだが,互いに縛らない,縛られないというのを貫徹するのは難しくなったのじゃないかなぁ。

● 以下に転載
 木造建築なので,木が湿気を吸い込む。だから祐天寺の時のようにカビが生えるということはありませんでした。日本の気候には木造が合うと思います。(p33)
 和室というのは,できるだけ何も置かないのが最も美しい使い方だと思います。(p34)
 なぜ本来は斜面かというと,眺めがいいからという理由もあるでしょうが,何と言っても水が出るからです。(中略)昔話で,おじいさんは山へ柴刈りに,おばあさんは川へ洗濯に行きますが,これは二人が斜面に住んでいることを意味します。おじいさんが行った山は里山ですね。そこは人が住む場所ではなかったのです。(p34)
 地主さんの住む地域には,ある特徴があります。(中略)その特徴とは,古そうな,少し曲がった細い道が交差する場所に,米屋,酒屋,たばこ屋,郵便局が固まっているということです。(中略)米屋は炭屋を兼ねていることもあります。つまり食料と燃料を売っているのです。(中略)水と食料と燃料を支配することが地主の役割だったはずです。(中略)お酒もほぼ生活必需品ですし,神社に供える御神酒も必要ですから,地域には酒屋が不可欠です。(中略)国が独占して製造販売したり,管理したりする米,酒,たばこ,塩,切手を売る店や郵便局は,まずは地域の代表である地主さんがつくったのだろうと思われます。(p35)
 1970年前後に建てられたマンションでは,風呂,トイレ,洗面が一緒のケースが多いです。一緒であることが,洋風で,かっこよいと思われたのでしょう。(中略)不思議なことですが,それほど当時の日本人が西洋的なライフスタイルにあこがれたということでしょう。
 ホテルは1950年代からそのスタイルを先取りしていた。その頃建てられたホテル,たとえば高輪プリンスは客室の改装をしていないようで,そのまま残っている。
 今となってはどうにもならない。リビングの調度と水回りのところがあまりにアンバランス。客室係も掃除が大変だろうな。
 1993年当時には,マンションを管理するという発想がまだ日本人には弱かったのです。(中略)60年代,70年代はまだマンションは高級品でした。つまり比較的裕福な人が買うものでした。一種のステイタスシンボルだったとも言えます。だから,長く大事に管理して使うというより,高級車を買うように,壊れたらまた買い換えればいいくらいの気持ちで買った人が多いのです。(p52)
 どうして多額の借金をしてまで家を買うのか,その理由はこの老後の安心がおそらく最大の理由です。(中略)国民の寿命が延びたから持ち家が必要になるという面もあります。(p59)
 当時(1973年)の日本では,木造賃貸住宅は基本的には若い一人暮らしのための広さと設備しかなかったが,64%が二人以上で住んでいたということです。(中略)ですから,子どもができれば,ぜひとも団地に住んだり,郊外の一戸建てに住んだりしたかったのです。(p64)
 家族四人で住める3LDKなどの比較的広いマンションが23区内で借りられるようになったのは1980年代以降だと思います。1970年代までにマンションを買った人が,部屋を貸しに出し始めたからです。(p66)
 団地はあまりに大量生産的で,画一的,非人間的であるという批判もされるようになりましたが,(中略)大都市の庶民の住宅事情はとてもひどかったのです。大量生産的で画一的であろうと,狭くて過密な住宅よりはよかったのです。(p73)
 戦後の日本人が住宅に求め続けてきたものは何だったのか,(中略)私はそれは「私生活の重視」だったと思います。(中略)その私生活重視の価値観の究極的な実現形態が郊外庭付き一戸建てだったと言ってよいでしょう。(中略)どうして戦後,人々は高額なローンを長期にわたって組んでまで,都心から遠く,通勤時間の長い郊外に家を買ったのか。(中略)新天地だからこそ何からも束縛されないと思ったという面も少なからずあったのです。(p87)
 家をリノベーションするときは物を捨てる人が多い気がします。不要な物を捨てて,リノベーションした部屋に合うものだけを残すのです。(p109)
 私も2007年に中古マンションを買ってリノベーションしてみました。こんなにおもしろいことはない!というのが私の感想です。この面白さは新築物件を買っても絶対に味わえません。(p110)
 消費者の新築信仰が薄まって,仕方なく中古から,中古でもいい,さらには中古がいい,というような意識の変化があるようです。(p119)
 インターネットは自分の好きなように,好きなだけたくさんの物件を見られるのが長所ですから,だからこそ常識的な検索はしないということが重要です。(中略)自分にとって最適なものを,たった1軒でも見つけるために使うのがインターネットの正しい使い方です。(p138)
 ゴミ捨て場に捨ててある物を集めるのも楽しみになりました。(中略)古い茶箱,座椅子,すだれ,鍋,茶筒などを拾いました。こうして拾った古道具がまた部屋に似合うのです。なので私は最近,物を買うとき,これはもしかしたら拾えるかもしれないと思うと買わないようになりました。古道具屋ですらあまり物を買わなくなってしまいました。(中略)そういう意味でリノベーションという行為は,単に部屋を改造するというだけではなく,自分にとって本当に重要なもの,本当に好きなものは何かと考えるきっかけになり,そのために自分の生活自体をリノベーションするという効果もあるような気がします。(p146)
 シェアハウスと家族の違いは婚姻届と血のつながり以外に実はあまりない気がします。(p152)
 若いときに,需要の高い地域に中古でも家を買っておくことが,その後の経済生活の選択肢を増やすことにつながることはたしかです。賃貸住宅のほうが好きなときに好きな地域の好きな家に住めるという自由さがあると思いがちですが,それはある程度の収入がずっとあるという前提があったのことです。また中古を買ったときの毎月の返済額のほうが家賃より安いことも多い。(p168)
 シェアハウスで他人と一緒に住めるのも,個人主義が浸透したからだと私は思います。つながりたいが,縛られたくないし,縛りたくもないという人間関係をお互いに尊重しているからこそ,他人でも一緒に住めるのだと思います。(p173)
 戦後,高度経済成長期以降,住まいとは寝たり食べたりするだけの場所という意味になってしまった。住まいにはコミュニティが必要であり,コミュニティの核として職があるということがわからなくなってしまったのです。(p177)
 賃貸物件の決まりごと,常識をちょっと変えてみる。それだけで部屋の可能性がすごく広がるんです。(p186)
 「住む」は「澄む」に通ずるという説もあるそうです。水は激しく流れれば濁ります。でもとどまりつづけると腐ります。止まっているようでありながら,実は静かに動いているとき,きっと水は最も澄んでいるのでしょう。(中略)住まいもそうなのかもしれません。(p189)

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