書名 日本の地価が3分の1になる!
著者 三浦 展
麗澤大学 清水千弘研究室
発行所 光文社新書
発行年月日 2014.09.20
価格(税別) 880円
● 「2020年 東京オリンピック後の危機」という副題があるのだが,そんなものよりよほど大きな激震が日本(のみならず世界)を襲った。本書で語られていることがこのあとどこまで通用するか。大都市圏を中心に土地需要のあり方が大きく変わることになると思われる。
たとえば,空港やターミナル駅に近いことのアドバンテージはこの後も続くのか。いずれは国際便も再開されるだろうけれども,旅行やビジネスの出張で移動する人がコロナ以前まで戻るだろうか。しょっちゅう,空港やターミナル駅を利用するのなら,その近くに住まいがあることに効用はあるが,そうでないなら効用は下がる。
● 巻末の鼎談(三浦,清水,島原)は正直,自称知恵者が脳内の浅いところだけ使ってオダをあげているような印象を受けた。
彼らが言うようにはならないだろうと思う。知に基づいただけの提言など,現実に歯型すら残すことはできないものだ。
● 以下に転載。
地価に影響するのが(中略)現役世代負担率である。現役世代負担率が上がるほど地価を押し下げるのである。(p51)
いちはやく人口が減り,高齢化も進む地域もあれば,高齢化が比較的遅く始まる地域もある。しかし高齢化が遅く始まる地域ほど,いちど高齢化が始まると,その速度が速い傾向がある。(p52)
第三次産業が発展してくると,生産性が上がる。金融業や不動産業,情報産業といったサービス業は,第二次産業よりも利益率が高く儲かる(p79)
エンプロイヤビリティ(雇われる能力)が低い日本人は,エンプロイヤビリティが高い外国人に職を奪われるのである。いや,奪われるという言い方はよくない。これはまったく正当な競争の結果である。(p102)
杉並区は,区の人口規模が大きいわりには外国人が少ない。これは,家賃が高いわりに都心から遠く,羽田空港から遠いなど,外国人にとって魅力が欠けるからではないかと思われる。(p106)
江戸川区でインド人が増えた背景には,ブルーカラーではなくホワイトカラーの増加が貢献していることがある。(p115)
インド人は移民先でも同一宗教,カーストに基づく緊密なネットワークを持ち,「自分たちの居場所」を形成する特徴があり,みずからのアイデンティティの維持のために宗教儀礼や景観づくりを行うという。西葛西でも近くを流れる荒川がガンジス川を思い出させるというのも,インド人が集まり住む理由の一つだという。(p118)
東京のような世界都市で,これほど純血主義的な都市はない。(中略)だが今後,東京の生産年齢人口が減ることで都市の活力が低下するのだとしたら,東京にもっと多くの外国人が働くようにならざるを得ないであろう。(p130)
吉祥寺は激しく変動している。飲食店も全国チェーン店が増え,まるで新宿みたいになっていく吉祥寺に失望している人も多い。(中略)ジャージ姿の客が増えたし,サイゼリヤやしまむらを探し歩いている客がいるなど,普通の郊外駅前のようになってきた。こういう客層は,吉祥寺に愛着もロイヤリティもない。(p144)
1985年くらいから,それまで以上に多くの人々が渋谷に押し寄せるようになって以降,渋谷があまりに大衆化し,人の数は多いがお金の落ちない街になり,さらにその後は風俗店ばかりが増えて,結局ファッションも文化も衰退していくプロセスを見てきた。(p146)
吉祥寺が大衆化することの悲惨を渋谷に重ねているわけだが,金のない大衆は入ってくるなということかね。
自由が丘の特徴は,女性好みであること。女性であることの幸せの空気が街全体に漂っている。(中略)時代の雰囲気,若者の価値観が次第にユニセックスになり,女性が80年代より女性らしい格好をしなくなった現代でも,自由が丘の客層は,あくまで女性的な女性が主流であり,きちんときれいな格好をした人たちが多い。年配の女性もとてもおしゃれだ。雨の日にはビニール傘の女性はほどんどおらず,かわいい傘が花のように開く。(p162)
都市とは,アメニティの集合体,いわばエンタテイメントマシンといえます。(清水千弘 p194)
彼ら(外国人のバックパッカー)はたいてい東京から入って,京都を観光し,大阪に泊まるのですが,大阪に来るとほっとするらしいですよ。(島原万丈 p196)
地価が下がって広いところに住もうという人が増えてきたら不動産の価値は下がりません。そのためには,建物の価値をもっと認める社会にしていく必要はありますね。だいたい,日本の土地はタカすぎるんですよ。(清水千弘 p200)
何だよ。日本の地価が3分の1になる!と脅しておいて,最後の結論はこれかよ。

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