2023年3月4日土曜日

2023.03.04 出口治明 『カベを壊す思考法』

書名 カベを壊す思考法
著者 出口治明
発行所 扶桑社新書
発行年月日 2021.03.05
価格(税別) 800円

● 2010年6月に出た『「思考軸」をつくれ』(英知出版)の改訂版。著者は歴史本の他に,仕事や生き方について論じた本を多く出版しているが,本書はその仕事論・人生論の集大成というのではないけれども,それが1冊といえば,本書を読んでおけばいいような気がする。
 短時間で読めるのもいい。こういうものは短時間で読める方がいいのだ。

● 以下に転載。
 僕が「数字・ファクト・ロジック」が重要だと思う理由は,人は自分を中心にして世界が同心円を描くように広がっていると思いがちだからです。しかし,それは「天動説」と同じで大きな間違いです。自分を「中心」から外して世界を見直したとき,世の中を構成している「常識」やシステムの外側には新しい別の世界が広がっていることに気がつきます。(p5)
 大自然を原因とする大きな社会的変化は,歴史上なんども繰り返し起こっていることです。そのなかで,人類は進化に適応して今の社会を築き上げてきたのです。(p6)
 別の世界に踏み込んでいくのに年齢は関係ありません。人生100年の時代です。性別フリー,年齢フリーでこれからの世界は設計していくべきです。(p7)
 人間はそれほど賢くはありません。それは長い歴史を見ればよくわかります。同じ失敗は二度としないどころか,何度繰り返しても懲りずにまた繰り返す。(中略)賢い人も愚かな人も,人間全体で見ればその差はたいしたものではない。(中略)自分はもちろん,人間全体で見てもその能力なんてたかが知れている。(p31)
 昨日の自分だったら「イエス」を選んでいただろうに,今日は何となくそんな気分になれず「ノー」といってしまった。たったそれだけのことでたどりつくゴールはまったく違ったものになります。(p33)
 何かを選べば,結果として何かをあきらめなければならない。何かを選べば,何かを失う。仕事であっても人生であってもそれが真理です。(p34)
 「一部の人」を「長い間」だますことや,「おおぜいの人」を「一時的」にだますことはできても,「おおぜいの人」を「長い間」だまし続けることはできないのです。「エビデンス,サイエンス,専門家の知見」の三つで説得していけば,多くの人はいずれ気がつくのです。(p37)
 僕の判断はかなり速いほうだと想います。(中略)深謀遠慮や沈思黙考には世間の人が思うほど効果がないことを,経験を通して知っているからです。(中略)「よく考えたほうが間違えない」とう理屈があてはまるのは,最初から出題範囲や答えが決まっている学校のテストのような場合だけです。社会やビジネスの問題を解くときには(中略)結果に影響を与える変数が無限にあるので,時間をかけて詳細に検討しても,判断の精度はそれほど上がらないのです。逆に時間をかけることで,そこの欲や希望的観測という余計な要素が入り込んで精度が落ちる場合すらあるのです。(p38)
 直感の精度はその人のインプットの集積で決まります。(中略)常に「人,本,旅」で勉強しなければいけないのです。(p40)
 特に直感の精度が求められるのはリーダーになったときでしょう。極論すれば,リーダーというのは,「わからないことを決められる人」のことです。(p40)
 「時間をかけてもミスのない完璧なものをつくることが重要だ」という考え方は,時間も経営資源も無限だという錯覚の代物です。(p42)
 判断に迷っている場合は「仮決め」でいいから,とにかく一旦結論を出す。決めてしまうことが重要なのです。(p43)
 自分で決めてやりはじめたことは,新鮮なうちに一気にやりきってしまうというのもスピードを上げるコツでしょう。課題にも「鮮度」があって,もっとも集中できるのは取り組み始めた新鮮なときです。(中略)受け取ったメールには瞬時に返信する,そうしたことがよい訓練になります。(p44)
 同じ量の仕事(≒能力)ならばスピードが速ければ速いほど,相手に与えるインパクトは強まります。(p46)
 上司や先輩がやってきたとおりにやればうまくいくなどと部下や後輩が考えているようなら,その会社はすぐに倒産してしまうでしょう。(p49)
 自分の考えをもたないままに適応すると,今度はそこで行われていることを相対化することができなくなります。(p51)
 現時点の花形産業に就職すれば高値づかみになる可能性がきわめて高い。それなのに,毎年学生が殺到するのはその時点でピークを迎えているような企業ばかり。要するに,最高学府で勉強しても,10年後,20年後を見通して行動することができない人がほとんどなのです。(中略)失敗が顕在化して自分が痛い目をみるまで気がつかない。人間というのはしょせんその程度の賢さしかない生きものです。(p53)
 人間というのは賢くありませんが,それでも約20万年前に東アフリカの大地で誕生してから今日まで淘汰されずに生きながらえているのは,出来が悪いなかにも難局を乗り切る知恵をもった人が少なからず存在していたからです。(中略)だから,手ごわい問題に遭遇したら,古今東西の歴史のなかから同じようなケースを探し出して,先達がどのように対処し,その結果どういうことが起こったかを調べてみるのです。(p56)
 日本は四方を海に囲まれた島国であり,言語のほかの言語との互換性が低いために,どうしても市民が内向きになりやすい特徴があると思います。(中略)閉じた世界の内側だけを見ていると思考が硬直化・画一化して,斬新な発想が出にくくなります。そこで,僕はいつも何か考えるときには,解を「日本の外の世界」に求めてみるようにしています。(p57)
 人間は動物ですから,全盛期を過ぎたらいろいろな能力が落ちるのは自然なことなのです。僕は年齢に抗うようなことにはあまり関心がありません。(p68)
 よい例が2008年に起きたリーマン・ショックでしょう。1929年の大恐慌時と比較すると世界はずいぶん短期間で秩序を取り戻したように見えますが,それはインターネットの発達や各国の中央銀行の連携などで各国の距離が80年前とはケタ違いに縮まっていたからです。(p69)
 歴史の進化を単純な上昇曲線でとらえようとしたら,間違えてしまいます。「三歩進んで二歩後退」を繰り返しながら,結果として少しずつ進化していく。(p69)
 少子化は女性の識字率と反比例するといわれています(p75)
 文化というのは突き詰めていけば「言語そのもの」です。(p76)
 僕が見るかぎり,日本のビジネス・パーソンはインプットが質・量ともに少な過ぎます。何故かというと,長時間の労働プラス飲みニケーションで勉強する時間がとれないからです。仕事が思うようにいかないのはたいていの場合,インプット不足に原因があるといっていいと思います。つまり,技術やノウハウ以前の問題なのです。(p84)
 僕のインプット方法は「最初から自分で選ばず,とにかく大量に取り込む」というものです。(p87)
 「量」と同時にインプットの「幅」も大切です。よく「自分の仕事や趣味の話ならいくらでもできるが,それ以外の分野のことにはまるで関心がない」という人がいますが,こういう姿勢だと,ものの見方や考え方が硬直してしまい,肝心の自分の専門分野でも柔軟な発想ができなくなってしまいます。(p88)
 僕が得に意識していたのは,部下にアウトプットの機会を与えることでした。なかでも得に「書く機会」をもたせることを大切にしていました。僕自身,書くことで自分の頭が整理され,次の仕事の室が高まることを実感していたためです。(中略)締め切りのあるまとまった量の課題に対し,ある程度の質のアウトプットを続けると人の能力は格段に上がる。(p90)
 読書というのは食事と似ています。何を食べたかは忘れてしまっても,栄養分は確実に身体に吸収されてその人の骨や筋肉やエネルギー源になっている。(p95)
 「歴史に残る偉業を成し遂げた人」に共通する特徴は何だとおもいますか? それは,フランス革命におけるナポレオンのように「風邪が吹いてきたときにそれを逃さず瞬時に凧を上げることのできる体力と知力と勇気,それとセンスをもっていること」です。単に才能に秀でているだけではダメなのです。(p95)
 ある分野の知識を早急に身につけなければならない場合は,関係のありそうな本を10冊ほど手元に用意し,「いちばん分厚くて難解そうな本から」読んでいくこと。僕の経験上,これがもっとも効率のよい方法です。(中略)入門書というものは,すでにある程度下地ができている人が,知識や情報を整理するために利用するときにはじめて本当の威力を発揮するものなのです。(p97)
 中学を卒業してすぐにこの世界(パン作り)に入った風間さんは現場一筋で修行を続けますが,あるとき,「一流になるためには,もう一段上の勉強が必要だ」と気づきます。(中略)そして,考えた末に出した結論は「それなら毎晩銀座で飲もう」。(p99)
 僕の街歩きのモットーは「迷ったら細い道を選ぶ」。「明るくて安全そうな大通り」よりも,「細くて少し危うそうなにおいのする裏通り」を選びます。(中略)裏通りにこそ「真の人生」があると思うのです。(p104)
 知らない土地で旅人が多少危うい目にあうのは古今東西当たり前のことだし,自分の身を守るために四方八方に気を配って感覚を鋭敏にしておくというのもまた当然のことだと思っています。実際,そうした経験から得た情報や対処法は深く自分の血肉となっています。(p105)
 本でも人でも旅でも安住する場所を一度は捨て,新しいものに飛び込んでいくことが,深く多様なインプットを得るためのコツだと思っています。(中略)いわば自分のなかに「辺境」をつくる,という感覚です。(p106)
 人は楽しんでのびのびと働いているときがいちばんよいものを生み出せるし,効率も上がります。ノルマでしめつけたり馬にニンジンのようなインセンティブでやる気を引き出したりする方法は一時的には効果を発揮しても長続きはしません。(p132)
 すべての情報が公開され,同じ商品をつくろうと思えばつくれる時代になってきます。世の中に本当にユニークなものなどどこにもない,となったときに,最後の勝負を決めるのは人と組織風土です。(p133)
 「効率」という言葉を重視する人は,オーソドックスなやり方だと何だかムダが多いような気がするのか,正攻法に背を向け,ともすればわざと奇をてらったような手段を選びがちです。でも,多くの場合それは「策士策に溺れる」結果に終わることになります。堂々と正攻法でことにあたる。僕の経験からいって,結局はこれに勝る解決法はないのです。(p137)
 僕は「ビジネスに美学は不要」だと思っています。「何を美しいと感じるか」という主観的な要素をビジネスに持ち込んでしまえば,その時点で合理性が失われてしまいます。個人的にhも美学や品格などという言葉はあまり好きではありませんし・「品格という言葉を使う人こそ,品格のない人」だとも感じています。(p141)
 生まれる時代も生まれる国も選ぶことができないように,人生はその多くが偶然によって決められ,人間はそれにしたがって生きていかざるを得ないのです。(中略)僕は,就職もこれと似たりよったりのところがあると思っています。(中略)それはどんなに優秀な人であっても変わりません。やりたいことや適性や企業規模などを選び続けていたら,範囲がどんどん狭くなってしまいます。(中略)大きい川の流れにゆったりと流されていく人生がいちばん自然で素晴らしいと思うのです。(p147)
 残業を頼まれるのも上司の麻雀につきあわされるのも,そうしたことを全部含めてサラリーマン生活なのだろうし,まずはその文化にどっぷり浸かって,この未知なる生活をとことん味わってみようと思っていたのです。(p152)
 僕は新入社員の時期を過ごすうちに「仕事というものはそれがどんなものでもやり方しだいで面白くなる」ということに気づきました。(中略)仕事には必ず目的があることを理解し,まずはその目的を考え,次にその目的を達成するためにいちばんいい方法は何かを考えるようにすれば,仕事はおのずと楽しくなると思います。(p153)
 人がもっていないところこそが,その人の個性であり,大切にすべきところなのです。(p160)
 多くの人は周りに気を遣い過ぎて自らを常識の枠に押し込めてしまっているように見えます。(中略)好きなことをやりたいが,周囲に心配をかけたくない。安定した仕事は捨てたくないが,やりがいも求めたい。そうしたすべての要望を同時に満たす方法は,残念ながらこの世にはありません。(p164)
 僕は日本人のやり方が飛び抜けて優れている,もしくは日本人がとりわけ優秀だとは思いません。(中略)どこの国にも賢い人もいればそうでない人もいるでしょうし,その賢い人とそうでない人の差だってそうたいしたものではないと思っています。(p167)
 (日本人は)「最終的に勝利するために何をするか」といった本質的,戦略的な問題を徹底的に考え抜くという訓練をあまり受けていないのではないか,と感じることがあります。(p172)
 僕は,日本が本当に豊かだったのは,現在を別にすれば,室町時代から安土桃山時代にかけてだったと思っています。(中略)海外との交易が盛んに行われ,周囲には異国の文物がどんどん入ってくる。(中略)外部との交流が盛んになると,野心に満ち溢れ,進取の気性に富んだ人間がこぞって国境を超えて外へ出ていきます。(中略)鎖国のような政策が続くのはいっときのこと,僕たちは国を開き,どんどん外へ出ていくのが歴史的に見ても正しい,これからのわが国のあり方だと思うのです。(p180)
 階層化し,固定化した社会に活力が生まれるはずはありません。僕はやる気のある人,才能のある人がどんどん上に上がってこられるような下剋上の社会をつくるべきだし,日本がそうあってほしいと心底思っています。(p184)

0 件のコメント:

コメントを投稿