著者 水津陽子
発行所 日経BP社
発行年月日 2014.09.24
価格(税別) 1,400円
● 2020年オリンピックの開催地が東京に決まった。海外からの観光客を誘致する大きなインパクトになると,関係者は色めき立っているかもしれない。
本書はそれら関係者への手引書のようなものか。
● 章立ては次の11。
1 古都と廃墟
高山と長崎の軍艦島が取りあげられる
2 桜
桜といえば日本,日本といえば桜,というのは日本の常識にすぎず,海外では桜は韓国
3 川・運河
隅田川クルーズの健闘が紹介されている
4 宿
浅草「貞千代」と目黒「クラスカ」,「カオサン」を例に
5 ローカル鉄道
和歌山電鐵貴志川線,肥薩おれんじ鉄道
6 美術館
Arts TOWADA,直島
7 食べ歩き
大阪・黒門市場
8 都市観光
9 名城・古城
10 街道
中山道を例に
11 バス
● ぼくは(たいていの人はそうだと思うけど)外国人を迎えるという発想はなくて,自分が外国に観光に出て行くことしか考えていない。どこがいいだろうか,と。
客になることしか考えていない。が,客を迎えるのを仕事にしている人たちもいるわけですよね。それで生きている人がいる。
● 内容はちょっと堅め。読んでいて面白いというより,少々学術書っぽい印象。
以下に,いくつか転載。
お金の落ちない観光資源は,地域に騒音とゴミをもたらすだけにもなりかねません。どんな優れた資源も,それをお金に変える観光商品やブランド戦略がなければ,経済効果は極めて限定的なものになります。(p32)
外国人は,東京から日帰りできる箱根や日光を東京観光という一つの枠で捉えています。これは私たち日本人が,ベルサイユをパリと一括りで考えるのと同じ発想です。(p67)
日本の博物館は文化財保護法により,第一の目的が「文化財を守る」ことに置かれ,公衆の「観覧」に供するのはその次です。(中略)これに対して,海外のミュージアムの多くはガラスの仕切りもなく,写真撮影が可能なところや写生をする人などもいて,ミュージアムは市民にとってより身近な存在です。(p101)
バブル崩壊後の観光市場は団体パッケージツァーが下火となり,観光ニーズも「物見遊山型」から「能動体験型」にシフトしましたが,現代アートの成功はこの変化にまさにジャストフィットしたと言えます。(p102)
観光地にとって最大の課題はリピーターの獲得です。(中略)人気観光地や有名な名所旧跡を,2度以上訪れる人はそれほど多くありません。リピーターは何を求めて再び日本に来るのでしょう。 同調査(観光庁の「訪日外国人の消費動向)で今回の滞在中にしたいことを尋ねたところ,1位は「日本食を食べること」で,2位の「ショッピング」,3位の「繁華街の街歩き」を大きく引き離しています。(p120)
建造物としての城は国宝や重要文化財として評価されますが,石垣などが評価されるのは史跡・特別史跡としてのみ。城の佇まい,城の姿や城の世界観,城からの風景など,城の価値を総合的に評価する枠組みは日本にはありません。(p162)
街道を「中世」というストーリーとして魅せる舞台に仕立て,新たな観光を提起するドイツ。片や,城の外観と天守閣の眺めのみで,城が背負う歴史や地域固有の文化などのバックグラウンドが見えない,「歴史的ハコモノ」の日本の城。(p172)
「木曽路はすべて山の中である」。島崎藤村の小説『夜明け前』の有名すぎる一文ですが,その世界を実際に見るなら山の中に入って行くしかありません。そういう世界に憧れつつも実現できていない旅の一つです。そこを外国人が歩いていく。印象的なシーンでした。(p176)
観光開発モデル,観光地のライフサイクルの第1段階は「探検」と呼ばれ,外部から来た人が新たなまなざしで地域の魅力や価値を発見する(中略) しかし中山道は観光資源としてはいまだ埋もれた大器です。これを生かすには観光の発展段階,第2の「参加・関与」つまり,日本の中でこの価値を理解し(中略)これに参加するものが出てくることが不可欠となります。(p185)
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