著者 夏野 剛
発行所 幻冬舎新書
発行年月日 2009.07.30
価格(税別) 760円
● このタイトルは,編集側が付けたのだろう。名が体を表していない。
ウェブビジネスを進める際に,注意すべきことがらを指南している。その結論は,ウェブはツールであって,それ以上のものではない,ということ。
● リアルで上手くいっていないのに,ウェブを使えばどうにかなるなんてことはない。自分ができることを淡々と続ける以外にない。あたりまえのことをあたりまえにやること。
そういうまっとうなことが述べられる。が,著者の見るところでは,そのまっとうなことをやっているところは少ない。
● テレビ,新聞業界に対する提言も。ITを敵と思うな,チャンスなのだ,と。
せっかく予算をかけて作成したコンテンツを,1回放送しただけでお蔵入りさせてしまうのは,いくらなんでももったいないではないか。
新聞の肝は編集技術にあるのだから,媒体が紙かネットかという議論は不毛なはず。ネットに軸足をおけば紙の購読者が減ると恐れるがゆえに,ネットに対して及び腰でいるけれども,それでは紙もネットも駄目になる。
● 以下に,少々多すぎる転載。
グーグルの提供するサービスが,他と何が違い,突き抜けているのか。それは,徹底的なユーザー目線を貫き通している点だ。既存勢力との軋轢など,まるで恐れない。例えば,プライバシー侵害の懸念による物議を方々で醸した「ストリートビュー」しかり,著作権問題で各国に波紋が広がった「ライブラリ」しかり。(p18)
(SNSの)成功の秘訣は,SNSが持つ「出会い系サイト」としての力が大きい。皆はあまり認めたがらないが,ハッキリ言ってmixiをはじめとするSNSは「出会い系」だ。(p21)何となく感じていたことをズバッと言葉にしてくれた。SNSは典型的にそうなんだけど,「絆」だの「つながり」だのが売り文句になっているんだから,「出会い系」であることはネットの本質のひとつなのだろうと思う。
(ネットでは)客が入店するなり名前や住所を聞き出し,果てはクレジットカード情報を登録しなければ買い物をさせられないという。リアル店舗で「当店のメンバーにならなければ,買い物ができない」などと言ったら,その店はもう終わりだろう。(p38)
ケータイ大国における日本であっても,iPhoneのような革新的な携帯端末は絶対に生まれない。なぜなら日本企業の場合,リーダーがビジネスのディテールを知らない,あるいはディテールを知らなくてもリーダーが務まってしまう組織構造だからだ。 (iPhoneは)ソフト,ハード,そしてビジネスモデルも含めて,ユーザーのための価値を最大限にするための設計がほどこされている。決して,見栄えをよくしようとかデザインをよくしようということが先走っているわけではない。あくまでも,顧客のフィーリングや使いやすさが最優先。パーツごとではなく,全体が最適化されている。 結局のところiPhoneのようなプロダクトは,リーダー・責任者がディテールまで指令を出さなければ実現しないのだ。(p52)
全ての最終的な判断ポイントは,やはり消費者側の見る目だと私は考える。消費者の実行動を認めるか,認めないか。 これを企業に置き換えると,顧客の行動に自分たちが合わせなければならないのであって,企業が行動を押し付けてはならないはずだ。(p55)
ドラッグストアでは消費者は自分の判断で薬を買うことの方が圧倒的に多いのに,インターネット販売を規制する理屈は「体面販売でなければ薬は危険」。現実の消費者の行動パターンからバカげたくらい乖離している。(中略) 私がとても悲しいと思うのは,この議論をしている人も一消費者であるということ。(中略)そもそも自分自身が,水虫の薬を買うときに,必ず薬剤師と相談しているのか。 だから,真の消費者目線をこの人たちも本当はわかっているはずなのだ。それなのに,なぜ,本音の議論を避けるのか。 インターネットユーザーには,建前は通じない。なぜなら彼らは,自分のやりたいことに忠実に行動しようとするからだ。(p55)
ウェブビジネスは,裸での勝負なのだ。ごまかしは,自分以外の人には,いともたやすくばれてしまう。(p69)
ウェブビジネスの大きな特徴は,「参入障壁が低い」ことだ。(中略)参入障壁が低いという状況下では,とにかくスピードが重要になる。(p72)
参入障壁が低いということは,誰にもチャンスがあるということだ。だから人の「底力」が露呈しやすいと理解しておきたい。底力とは,言い換えれば「自分が得意とする分野の知識,経験,興味」のこと。 誰にでも得意な分野と不得意な分野がある。不得意な,興味のない分野にいくら時間を割いても,実力にはなりにくい。とりわけ,「興味があるかどうか」がこの上なく重要だ。だれが,ひとりひとりのウリとなる底力につながってくるからだ。(p73)
ウェブビジネスで気をつけなければならないのは,企業側の態度をユーザーが大目にみてくれないことだ。そのことは,忘れずに肝に銘じておく必要がある。(p117)
そんなに効果が上がるとわかっているウェブ広告に,なぜもっともっと企業が出稿しないのだろうか。 答えは意外である。広告担当者にとって,効果測定を見ながら,広告戦略を変えたりしなければならないのがとてつもなく大変だから。(p124)
電子マネーを使いこなせていない人は,実際まだたくさんいるかもしれない。けれども,そういう人たちのために既に電子マネーを使いこなせている人たちが一生懸命啓蒙活動をする意味は,私はないと思う。 むしろ,電子マネーを使おうとしない人に向かっては「どうぞ損して生きていてください」と言いたい。便利なツールは喜んで紹介するが,使うのが嫌なのであれば,別に無理強いはしないという話だ。(p144)
日本企業は昔から,社内のいろいろな部署から人を集めて議論を尽くし,方向性を決めるやり方が主流だった。小中学校の学級委員会方式だ。ところが,IT時代になって,大きく変わりつつある認識がある。「議論を尽くしても結論は出ない」,皆がこのことをわかってきたのだ。(p168)
もう“マス”という概念は,ネットの普及により存在しなくなった。本の売れ方も,ミリオンセラーがたくさん出るのではなく,意外なジャンルの本が売れたり,ある一定の層から長い間支持を得たりと,バラエティに富むようになった。(p174)
それに対して,いまの経営者層,日本の政財界のリーダー層は,いまだ多様化社会に生きていない。だから,若者の間では当たり前となっているネット情報社会に関する理解が非常に乏しいのだ。 処方せんはひとつしかない。それは「早く退くこと」だ。(p175)
「平均値を上げようと思ったら,トップを伸ばす方が早い」 これはネットリテラシーに言えることだが,学校教育で考えるとわかりやすい。(中略)いまや日本がトップレベルに上り詰めた業種は数多くある。さらにレベルを上げるには,自国のトップエンドを伸ばすこと。そうすれば,つられて上がるに決まっている。(p177)
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