2018年6月20日水曜日

2018.06.20 伊集院 静 『女と男の品格。』

書名 女と男の品格。
著者 伊集院 静
発行所 文藝春秋
発行年月日 2017.05.20
価格(税別) 926円

● 身の上相談あるいは人生相談。ろくな相談がない,もう辞めたいよ,と著者は本音(?)をもらす。実際,そうだろうと思う。
 相談するという時点で,なんかもう人間失格という感じもする

● 一方で,かなりシリアスな告白もある。身近な人の死や深刻な病気など。そうしたものに対する回答は著者の独壇場。
 相談者には申しわけないが,読んでいてスカッとする。

● 以下にいくつか転載。
 それで,あなたの心配は,三代続いた女たちの苦労が,この先も続くのでは? ということですか。私の勘ですが,そりゃおそらく続くでしょうな。どうしてかって? それはあなたが男たちの面倒をみるからですよ。(p5)
 他人の哀しみを理解しようとしてはいけません。しかしその哀しみに手を差しのべたり話に耳を傾けるなど,ともに生きる姿勢を持っている人がいれば,必ず笑う日がやってきます。(p10)
 職人の仕事で気ばっかり利いていたら,そりゃ二流で終わる。すぐに理解できるんじゃ,たいした仕事はできない。これまで私が立派な職人さんたちと話してみると,名人(別に名人じゃなくていいが)までなった人は,皆共通して,若い時は不器用そのもので,と語る人が多いもの。(p11)
 次から次に出版される新しい本をできる限り読もうなんてしてはダメだ。読書が辿り着くところは,君が,運命の一冊に出逢うところにあるんだ。(p13)
 すぐにわかる本は底が浅い。本というものはわからない所が必ずある。それがやがて人生の経験とともに理解できる日が来る。そう考えると,読書はそれだけでは意味がないということだ。本をよむかたわらで,きちんと日々を生きてる人にこそ良書との遭遇があるということだ。(p14)
 相談の大半は,自分はこうしたいんだが,それを賛成してくれて,背中を押してくれる人を見つけたいんだよ。(p24)
 人が人を救ったり,忠告,助言で,何かが変わるってことは,実はほとんどないんだ。相談ごとの会話ってのは聞き流すのが最良の方法なんだよ。(p24)
 あれに(セックスのことだが)特別の技術を持っとる男なんてのは,実にくだらん奴ばかりだよ。(p52)
 人を疑うことは,つまらない結果にしかならんのは,これ昔からの常識。(p67)
 他人に何かをしてやったという感覚を持つ人間を,わしゃ卑しいとしか思わんしな。本来,人は人を救ったりできる生きもんじゃないんだよ。言ってもわからんだろうが。(p70)
 家族というものは,世間の大半の人間があなたの家族を咎めても,社会のしかるべき人々(警察官や裁判官)があなたの家族を罪人と認めても,当人がそんなことはしてないと言うなら,世の中で唯一信じてあげるべき存在なんだから。(中略)家族というものは,或る時には,社会より大きな存在であってかまわんのだよ。世間で振りかざす“正義”なんてものは,怪しいものがほとんどだから。(p73)
 傲慢というのは人間が本来持ち合わせているもんだから,簡単には消えんぜ。生かされとるとあなたは言うが,誰が生かしてくれとるのかね。わしら自分のバカ力で生きとるんじゃないのかね。最後に感謝だが,感謝なんて口にだしてするもんかね。(p75)
 芸能人の半分以上は,普通の人間とは違う人種ですから。どういう人種ですかって? そうですね。やさしそうに見える人は,まずやさしさはありません。クイズ番組で難しい問題をすらすら答える人は,まずバカです。正義の味方が似合う人は,ほとんど悪人です。(p77)
 大人の男が,父親が,赤ん坊の笑顔を見て,丈夫に育てよ,きちんと育ててやるぞ,と一度思ったんだから,それを貫くのが,大人の男でしょう。(中略)相手は,女と子供だよ。女と子供が辛い思いをすることを,大人の男が口にして,どうするんだ。(p79)
 世の中には,それをわざわざ引っ張り出してきても“解決がつかない問題”というのが,昔からいくつもあったし,今もあるの。それが世間というもので,人間が生きるってことなの。“解決のつかない問題”はそっとしておいてやるのが大人のツトメなの。(p80)
 よくある,高層ビルの最上階で,デザイナーブランドの高級家具にかこまれ,休日はシャンパンとワインでなんてのは,どう見てもバカがやることでしかないのは少し考えればわかります。(中略)金を得ることが悪いとは言いませんが,それをどう使うかはセンスの問題です。(p93)
 世の中はいつもひと握りの人間に富が流れるようになっていて,その連中に品性,人格を求めても無駄。その連中はいずれあわれな末期を迎えます。金満家の子供がバカにしかならないのも,そのあわれな末期が時期遅れで来ているのです。(p94)
 (出された料理をスマホで撮影することについて)顔も見たことがない相手に,何か自分のことを主張したいという,その根性が卑しいし,くだらんよ。(p95)
 子供が欲しいと望んだものを,すぐに与えたら,将来とんでもない人間になるに決まっているでしょう。(p98)
 自分が何者かを見つめる時間を,旅は与えてくれるということなんだ。その時間と出逢うためには,実は旅の中に,何もしない時間がなくてはダメなんだ。訪ねた土地をただ目的もなく歩くとかね・・・・・・。(p100)
 人間の心配事や悩みの大半は,当人が勝手にいろんなことを思い過ぎることが原因なんだ。悩みの対象に,それを真っ直ぐぶつけてみると解決するものが,これも大半だ。(p102)
 仕事をしたり,何かを一緒にする人を選ぶ基準のひとつとして,運の悪い人,ツキのない人はなるたけ遠慮してもらうのは,これは世間の常識だから。(p112)
 一度結婚に失敗して,そして次から次に彼女が変わったということは,はっきり言わせてもらうと,まともなつき合いが一度もできていないということだから。(p114)
 ベストセラーの中の美談というものは,スキャンダル・醜聞と表裏一体なのは昔からの常識だからね。(p116)
 昔から,人は老いてからもうひと踏ん張りというのが,当たり前で,皆そうして来たんです。次に,奥さんの家計のやりくりですが,これはあなただけが被害者ではなく,大半の家庭がそういうものです。(p117)
 高齢というだけで,希望や,まぶしくてキラキラしたものと無縁になるはずはないという,信念が私にはあるんだよ。(p119)
 人間が一人でできることには限界があるし,きちんとしたことはすべて他人とともに築いたものなのです。(p124)
 女性という生きものは,私たち男より何倍もパワーを持っている上に,こういう出来事を決して忘れないという,おそろしい執着力を備えているんだよ。女を舐めとると,命取られるよ,ホントに!(p127)
 若い時の,青二才の,傲慢ほど醜いものはないからね。自分が他の連中と違って何かを持っていると思い込むことの愚かさがわかっとらんのだよ。(p139)
 自分にとって都合のイイ生き方をどこかに用意している輩は,この先,何をやっても,まともなことはできないから。(p139)
 大切なのは,目の前にあるものをどう受け止めるかだよ。どう受け止めるかというのは,あなたも娘さんも明るく笑って生きる道が必ずあるってことだ。(中略)嘆くより,笑わなきゃ。(p156)
 女性たちの領域でなされることは,彼女たちに預けた方が,結果として良い方向へいくケースがほとんどです。(p159)
 まず確率論をやめること。こまかい情報に左右されない。流れに逆らわない。荒れる日は荒れる目を追う。もうそろそろ固いのが来るという発想が一番愚かなことだ。ギャンブルは生きものだから,その日に出た流れは易々とはかわらない。(p168)
 遅れないで行くのは礼儀だ。誰だって寝坊したいし,楽をしたい。(中略)大事なのは誰も皆楽をしたいが,そうしてないことをわかることだ。(p177)
 “遊びは卒業”なんて言ってちゃダメですよ。くたばるまで遊び続けて,前傾姿勢で倒れて,それでオサラバがやはりまとまりがいいですナ。(p193)

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