著者 山藤章二
発行所 岩波書店
発行年月日 2017.12.21
価格(税別) 1,400円
● 本書を統べるのは,諧謔だろうか。視点を少し脇にずらして,社会や人生や自分を眺める。斜に構えるというのとは違うんだけども,ともかくその構えに無理がない。身についている。
常識を自分の規範としているバカ,つまり人間の大多数,の断片をいくら集めても,読める本にならない。
● 以下にいくつか転載。
書くことが好きなんだね。漫画や似顔絵を描くことより好きなんだ,どうやら。ネタはあるのか? と当初は心配だったけど,これがあるんです,無尽蔵に。頭に浮かんだことを手早く書けばいい。(p4)
老人にとっての障害物は「時代」である。とても「今まで人間」の感覚で追いつけるものではない。(p6)
なぜ大きな災害をエンタメなどというか。読者の想像力が頼みの話になる。庶民の暮しの中には何もなかったのである。祭りも寄り合いもない,ひっそりと貧しいだけの日常。そこに台風来襲の知らせ。(p17)
長寿の秘訣は「知らぬが仏」(p20)
理由とか理論じゃないんだな,頑固爺さんの「嫌い」は。(中略)ね,流行にのって付和雷同している大衆の主体性のない減少にいらついているだけで,論理的に説明しているわけじゃない。(p68)
貧は貧のシアワセ,富は富の不幸がある。かくして貧富の間に横たわるバリアは永遠になくならない。それでいいのだ。そういうものだ世間は。(p92)
並じゃ使い道がないけれど,並外れてダメな人間なら逆にダメが武器になる。(p94)
私の気持も物の見方も確かに変わった。もともとがクールな性格なのに,それに輪をかけるように冷めた目の持ち主になった。はっきり言って,世の中のアレヤコレヤなんかどうでもいい。すべてに興味なしと相なった。(p101)
何を,どういう角度から書くんだとの強い意志もなしに,フェルトペンを持って原稿用紙に立ち向かう。とにかく文字を書きはじめれば後は何とかなる。これが身についた方法で,どんな場合でもそうしている。(p104)
笑いを創ったり表現したりすることは,低いところに位置することが宿命である。低いところから発する言動だから,毒があり,自虐があり,溜飲を下げさせる効果がある。(p105)
たけし,タモリ,さんまの三羽烏は凄い。二十年にわたって笑いの世界の頂上に居続けていることも凄いが,更には,徐々にシフトチェンジしながら,それぞれに「次なる準備」を考えていたことである。(p106)
秋刀魚は,パラリと塩をふって七輪の消し炭で焼くのが一番うまいのに,うま味醤油やらマヨネーズやらでショーアップしてしまう。現代人の浅知恵である。(p118)
アメリカが文化の面で世界中から尊敬されないのは,効率的に金儲けを企んだ超大作をたびたび発表するからだと,私は勝手に思っています。(p136)
こうして日常の風景が,鮮明に克明に描かれた絵を見ると,それまでの作家が苦労して文字に表した世界に,どれほどの意味があるのだろうか,という,ひどく根源的な問題点に思考が至った。(中略)これじゃ文字の本がなくなっても誰も困りはしない。“伝達のスピード”が桁ちがいに速くなる。(p146)
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