著者 野口悠紀雄
発行所 角川新書
発行年月日 2018.06.10
価格(税別) 840円
● 座学で何とかなるものは,学校に行くより,独学の方がずっと効率がいい。IT化によって,独学が格段にやりやすくなっている。以上が本書の骨子。
いい時代に生きているのだなと,元気になれる本だ。
● 大学で勉強することには,重要な意味があると考えている。それは,「大学での勉強とはこの程度のことだ」と知りうることだ(p84)。言い得て妙。
大学を出た親が自分の子供を大学に行かせることの不思議。東大OBは子供を東大に行かせようと思っていない,なぜなら東大の程度を知っているからだ,と聞いたことがある。だとすると,さすがは東大OBってことになりそうだ。
● 以下に多すぎる転載。
周到な準備をしてからおもむろに歩み出すのではなく,とにかく始めるのだ。何事においても最初の一歩を踏み出すことができれば,物事は進展する。難しいのは,第一歩目を踏み出すことだ。(p4)
英語の勉強のためには,通勤電車の中でYouTubeの動画を聞くのが一番よい。(p7)
社会人にとっての独学は,学校での勉強の補完物でも代替物でもない。多くの場合に,それより効率的で優れている。(p23)
人間は,生まれたときには,ごく限定的な能力しか持っていない。人間の能力のほとんどは,後天的な勉強(学習)によって獲得する。こうした意味で,人間はきわめて特殊な動物なのだ。人間の本質は,勉強にある。勉強こそ,人間の人間たる所以だ。だから,勉強することは本能的に楽しいのだ。(p31)
毎日最低1つは,新しい言葉を調べること。これを習慣にしよう。これは独学の第一歩である。(p36)
「学校選び」から始めるのでは,間違った選択をした場合のやり直しのコストが高い。(p39)
私は,「敵・味方理論」というものを信じている。あるものが敵であると考えると,自分からますます遠ざかってしまって,本当に敵になってしまう。その反対に,味方であると考えると,自然に自分に近づいてくる。分からないことは,自分の敵である。それを調べないで放置しておけば,敵のままだ。(p40)
「丸暗記方式」というのは,ユダヤ人の伝統であるようだ。熱心なユダヤ教徒は,旧約聖書を自由自在にそらんじることができると言う。一般にユダヤ人に知能の高い人が多いのは,本の丸暗記という教育方法が伝統的にあるからだと言われる。(p50)
ITは,知の制度化を大きく破壊している。大学で学んだ知識は陳腐化してしまっている。他方で,ウェブを見れば,最先端のことまで分かる。制度化された現代の最強のギルドである医学さえ,最先端の分野では,変化から免れない。(p71)
最初に買ったのは,過去の問題集である。そこに出ている問題い答えられるように勉強を開始した。つぎに,経済学百科事典を買ってきて,問題を解くために必要な箇所を拾い読みしていった。経済学の教科書を購入したのは,その後である。つまり,教室で順序立てて勉強するのとは,ちょうど逆方向に勉強したのだ。(中略)公務員試験が目的であれば,功利主義的であっても,一向に構わないだろう。教科書を最初から読むのに比べると,この方法のほうがずっと効率的であり,しかも(これが重要な点だが)興味を失わずに勉強を続けられる方法なのである。(p77)
では,教師と学生の差はどのくらいか? 昔であれば,実年齢だったろう。つまり20年程度は離れていただろう。(中略)しかし,現代の世界では,それでは到底追いつかない。とくに変化の激しい分野では,そうだ。(中略)新しい分野であれば,教えるほうも独学で勉強するしかないのだ。(p81)
私は,「大学で勉強することが無意味」と言っているわけではない。むしろ,大学で勉強することには,重要な意味があると考えている。それは,「大学での勉強とはこの程度のことだ」と知りうることだ。(中略)人間は誰も,知らないことや分からないことに対しては,畏敬の念を感じるものだ。大学の外にいる人間にとって,大学というのは,まさに近寄りがたい知の殿堂なのである。(中略)しかし,そうではないのである。(p84)
日本の企業は,これまで普遍的知識や技能を評価するのでなく,企業に特有の条件を強調してきた。そして,実務のための専門的知識は,学校の勉強ではなく,OJTによって取得するものを考えられていた。だから,実務経験しか評価しない。(p92)
なぜ世の中が変わるのか? それは,技術進歩が加速化するからだ。とくに,ITによって,経済社会は大きく変わり,これからも変わり続ける。(中略)社会の変化が急速になると,勉強し続けていないかぎり社会の変化についていくことができなくなる。(p94)
変化が激しいとは,新しいフロンティアが広がるということだ。そこにはまだ誰も手をつけていないので,思うがままの発展をすることができる。社会が大きく変われば,新しいチャンスが生じる。それを捉えることができれば,新しい成長ができる。(p95)
ごく少数の人間の革新的なアイデアが,現代のリーディング企業を作っているのである。このため,アメリカをリードするハイテク企業は,さまざまな工夫をして,個人の創造性を引き出そうとしている。(p96)
日本の経営者は,大学で法律や経済を勉強した人が多い。それらの知識は,実際の企業経営や経済運営とはほとんど関係がない。(中略)そのために,専門的な経営者が生まれなかったことは,事実である。その結果,「企業は人なり」とか,「企業の社会的責任」などという薄っぺらなことしか言えない人が多い。(p98)
勉強するのは若いときのことであると考えている人が多い。しかし,これからは,高齢者の独学が重要な課題になる。高齢者は,それまで得た知識のストックを保有しているわけだから,新しい知識を吸収し,それを解釈し,それを活用することを,若い人よりは容易にできるはずである。(p100)
ITによって,少なくともコンピューターパワーに関するかぎり,資本の重要性は著しく低下した。「持たざる経営」が可能になってきているのだ。(p105)
フリーランサーとして仕事をするためには,インターネットを通じて情報発信することが不可欠だ。ブログを開設したり,自分のホームページを作るのがよい。したがって,これについて勉強することが必要になるが,それは自分でやるのが最も効率的だ。この類の情報は,実はウェブで一番手に入りやすい情報である。(p111)
まず最初に注意すべきことは,これら(英会話学校,パソコン教室等々)がビジネスとして行われているという事実である。これらは,授業料を稼ぐために行っている営利事業である。そのため,勉強をしたい人のニーズに本当に応えているかどうか,疑問である。(p114)
社会人の勉強では,必要とされる知識が,人によって大きく違う。また,達成したいと思う目的も個人によって違う。一般的な社会人講座で得られるような知識では,仕事には役立たないことが多い。(p118)
シリコンバレーのベンチャーの多くがスタンフォード大学から生まれた。それは,スタンフォード大学で(あるいは大学院で),「ベンチャービジネスの起こし方」という講義を行ったからではない。学生同士(あるいは,大学のスタッフ)が一緒に仕事をし,情報交換をしたからだ。こうした効果を独学に期待するのは難しい。独学をするなら,そうした機会は別途見つける必要がある。組織が外に対して閉鎖的である日本の場合に,これは,とくに重要なことだ。(p125)
計画が長続きしないのは,長期目標ばかり考えて,中期計画がないからである。(p137)
勉強を進めるためのインセンティブの基本は,向上心だ。これが勉強の原点だ。あからさまに言えば,「勉強をして自分の社会的地位を向上させたい」という欲求だ。(中略)多くの人は実利を目的として勉強している。その実利とは,「社会をよくする」といった類の抽象的で利他的なものではない。もっと利己的なものである。貧しい社会では,明らかにそうだ。(p138)
子供から教育の機会を奪うのは,最も憎むべき犯罪行為だ。(p140)
貧しい社会では,本人が「勉強したい」と考えていても,それが必ずしも親に支持されるとはかぎらない。高度成長期以前の日本では,多くの子供たちが,親に隠れて勉強した。(p140)
「人に見せたいから,あるいは自慢したいから努力する」というのは,決して悪いことではない。「政治家は,偉くなるほど能力が高まる」と言われる。それと同じことである。人間のこうした心理は,勉強においても積極的に活用すべきものだ。(p142)
勉強の最も強いインセンティブは,好奇心である。面白いから,楽しいから勉強するのだ。研究者は,社会に貢献しようとして研究しているのではない。面白いからやっているのだ。(p143)
問題意識を持っていれば,情報が捉えられる。問題意識を持って情報をプルする人と,プッシュされる情報をただ受ける人の差は大きい。(p143)
「知識を増やしたければ教えよ」と言われる。これは正しいと思う。「人に教える」ことは,勉強の強力な牽引力になる。(p146)
昔であれば,自費出版には大変な費用がかかった。しかし,いまではそれと同じことが,ブログで簡単にできる。無料だから,誰にも文句を言われることはない。少々間違えても,後で訂正すればよい。そして,それを友人に知らせる。あるいは,ツイッターで広める。「人に教えるほどの専門知識はもっていない」と言われるかもしれない。それなら,「勉強のまとめ」を作ればよい。(p148)
最も重要なのは,余計なことをしないことである。人生は短い。私は,だいぶ前から,省庁の委員会の類への出席を一切やめた。(p151)
自分でしなくてよいことは,金を払ってでも,人に任せたほうがよい。(p152)
独学のための理想的な環境は,通勤電車の中だ。(中略)満員の電車の中では他にすることがないから,気が散らない。集中できる。地獄の満員電車は最高の勉強場になる。(p153)
まず重要なのは,問題そのものを「探す」ことである。何を目的にして何を勉強したいのかという問題意識を明確にすることが重要である。学校秀才に欠けている能力は,これである。日本の学校教育では,問題を探す訓練をしない。(p160)
勉強できる学生はまんべんなくやっているのではなく,重要な点を押さえている。つまり,不均質な努力をしているのだ。(中略)「どこに努力を集中するか」こそが,重要なのである。(p161)
新しい分野を勉強するとき,基礎から一歩一歩というのが普通だ。しかし,私は,この方法に疑問を持っている。私が強調したいのは,「途中で分からないところがあっても,とにかく全体を把握せよ」という勉強法だ。とにかくできるだけ早く山頂に登る。(中略)「高いところから見れば,よく見える」からだ。(p163)
読みたいところから読む。順番にこだわる必要はない。小説は最初から読まないとだめだが,ビジネス書や教科書であれば,最初から読む必要はまったくない。(p166)
本の中核となっている部分は,全体の2割にもならないということだ。2割どころか,数%しかない場合も多い。そして,そこを重点的に読めば,すべてを平板に読むよりずっと多くを学べるということだ。(p169)
1980年代には,「日本企業で仕事をしたいので,日本語を習いたい」と言っていた学生が多かったのだが,そうした時代ははるか大昔だ。(p173)
「仕事に使う道具」という視点がないことが,日本人の実用英語学習における大きな誤りである。語学教室で,こうした英語教育を提供できないのは,専門分野の知識を有する教師を揃えることができないからだ。(p179)
外国語を勉強する方法は,シュリーマンが言っていることに尽きる。つまり文章を丸暗記するのである。単語を孤立して覚えるのでなく,文章として覚えるのだ。孤立した単語を1つずつ覚えようとしても覚えるのは難しい。だが,ある程度の長さの文章であれば,何度も繰り返し読めば,覚えることができる。何度聞けばよいかは個人差があるが,普通は20回程度聞けば覚えられるだろう。20回繰り返して読むためには,独学で行うしかない。つまり,外国語は独学でしか習得できないのだ。(p180)
人間の記憶は,関連のない単語を孤立して覚えられるようにはできていない。意味がある一定の長さの文章を覚えるように,できているのだ。(p181)
英語のリスニング訓練は,完全な独学が可能である。英会話学校に通ったり個人教師について勉強する必要はない。(中略)いまやインターネットからいくらでも教材が入手できる。市販の高価な教材を買う必要もない。というより,自分用の教材を作り,1人で勉強するほうがはるかに効率的だ。(p185)
言語の勉強で最も重要なのは,興味を失わないことである。学校の教科書の最大の問題は,興味をひかれないことだ。(p190)
外国語の勉強で陥りやすい誤りは,「日本語に翻訳して理解しようとすることである。そうではなく,外国語のままで理解しなければならない。そうしないと,英語を実用的な目的に使うことができない。(p193)
コンピュータの脅威だけを言うのでなく,AIやブロックチェーンを利用することが必要だ。そうすることのできる人が,未来の勝者になるだろう。(p222)
新しい情報に接したとき,それにどのような価値を認めるかは,それまで持っていた知識による。新しい情報に接しても,知識が少なければ,何も感じない。しかし,知識が多い人は,新しい情報から刺激を受けて,大きく発展する。(p230)
何かを知りたいと思うのは,知識があるからだ。そして,質問を発することによって,探求が始まる。知識が乏しい人は,疑問を抱くこともなく,したがって,探求をすることもなく,いつになっても昔からの状態に留まる。(中略)創造的な人は,それまで他の人がしなかった問いを発することによって,新しい可能性を開く。(p231)
知識は,何かを生産するための手段として必要なものと考えられてきた。しかし,実は知識そのものが重要なのかもしれない。つまり,知識を得ることそれ自体に価値があるのかもしれない。これは知識に関する深遠な問いだ。(p233)
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