2020年12月16日水曜日

2020.12.16 和田秀樹 『老後は要領』

書名 老後は要領
著者 和田秀樹
発行所 幻冬舎
発行年月日 2020.08.05
価格(税別) 1,200円

● 著者が若い頃に書いた『受験は要領』は今でも読まれているのだろう。残念ながら,ぼくは著者より早く生まれているので,著者の知見を参考にすることはできなかったのだが。
 で,老後も要領だ,と。この分野での著者の著作はすでに数多く出ているが,本書も読んでいて面白い。何となく元気になる(ような気がする)。その “何となく” のために読めばいいと思う。

● 投資信託の話も登場する。銀行など金融機関が投資に無知な老人を喰い物にする。かんぽの組織ぐるみの悪どさは記憶に新しいが,あれがかんぽだけのことで,銀行や証券会社はそんなアコギなことはしていないと思う人はそうそういまい。
 いずれ,これに対しては法的な歯止めがかかることになると予測はしているが,アコギの対象になる老人は,人がいいというより不勉強な人ではないかと思っている。
 問題は,認知症に足を踏みこんでいるような老人を喰い物にしていることだ。国辱とはこういうことを指すためにある言葉だろう。

● 以下に多すぎる転載。
 その基本方針は,「できないことを嘆く」のではなく,「できることを楽しむ」ことです。(p4)
 ころんでもたた起きない,コロナでもただ起きない--それくらい前向きに考えることが,コロナ時代を元気に言い抜く要諦だと,私は考えます。(p5)
 80歳まで元気なら,老後には,現役時代に働いた時間以上の自由があるというわけです。私は,この途方もない自由時間を有意義に過ごす方法は,2つしかないと考えています。(中略)ひとつは「働く」こと。そして,もうひとつは「勉強する」ことです。他の方法では,残念ながら,人間の脳は飽きてしまうのです。(p19)
 西洋には,「牛乳を毎日飲む人よりも,毎日配達する人のほうが健康」ということわざがありますが,その言葉の正しさは,世界中の研究者が認めているところなのです。(p23)
 人生,何事もやってみなければ,わかりません。「引退」も希有な経験ですし,引退後の暮らしが心から楽しければ,その後,“引退しづづける” のもいいでしょう。ただし,(中略)“最初の引退” は,期間限定のつもり,仕事を一時休むくらいのつもりで,退くことをおすすめしたい。(p38)
 人間の脳は,旅行にも庭いじりにも,いずれは飽きてしまいます。人類の進化の歴史を考えても,私には,人間の脳が「遊ぶだけの30年間」に耐えられるとは,到底思えません。(p40)
 声を大にしていいたいのは,「勉強は最高の健康法だ」ということです。私は,頭を鍛え,“脳力” を維持することほど,効果的な老後の健康法を知りません。(p44)
 動機は,おおむね “不純” なほうが,大きなエネルギーにつながります。人間,なかなか “久遠の理想” のためには努力できません。(p45)
 その不純な動機を達成するための方法は,「アウトプット」することしかありません。(中略)勉強する最終的な目的は,アウトプットすることなのです。話す,教える,文章に書く--手段は,何でもOKです。(p45)
 私は,老後の勉強のアウトプット目標は,「本を1冊,書くこと」におくといいと思います。(p47)
 本を書くためには,テーマが必要です。そのテーマは,あなたが最も興味のあること,勉強したいことでOKです。ただし,それを将来,売り物にする(本にする)ためには,「具体性」が必要です。テーマは具体的であればあるほどベターです。(p53)
 テーマが決まれば,次は「コンテ」を作ることです。(中略)「本作りはコンテ作りが9割」だと,私は思っています。
 私は,本のテーマが決まったあとは,次のようにコンテを作っています。
1 まず,仮タイトルをつける
2 次に,章立てを考える
3 各章に書きたいことの「小見出し」を書き出してみる(p54)
 60代まで,日本語を問題なく話してきた人なら,本気で書き始めれば,すぐにそこそこの文章を書けるようになります。(中略)そう,今は「ワープロソフト」があるからです。(中略)私自身,もしワープロが発明されていなければ,これまでに書いた文章の10分の1も書けていなかったと思います。(p59)
 本格的な老いを迎えるまえの目標を可視化する作業をしていると,私は元気が出てくるのを感じました。人間の脳は,案外,単純にできています。(中略)そうした前向きの作業をするうち,脳内の神経伝達物質や,男性ホルモンのテストステロンなどの分泌量が増えることになったのでしょう。(p66)
 老後は,現役時代以上に,目標と計画を立てることが必要だと考えています。「目標を立てる」ことは,より具体的にいえば,「期限を切る」ことです。要するに,「締め切りをつくる」ことです。(中略)そうしたスケジュールに合わせて,実現する方法を考え,取り組むことは,前頭葉にとって格好のトレーニングになるのです。(p67)
 夫の定年は,夫にとっては “自由な時間の始まり” ですが,妻にとっては,“自由な時間の終わり” を意味します。(中略)夫が妻の自由を奪わなかったからこそ,これまでは仲よくいられたのです。(p73)
 人間関係には,「ほどよい距離感」が必要です。接近しすぎたヤマアラシが互いの体を傷つけるように,人間も近づきすぎると,心にトゲを刺し合うことになるのです。(中略)どれほど仲のいい夫婦でも,何十年もの間,24時間一緒に仲よくいるというのは,無理な話です。(p74)
 若い頃から一緒に楽しんできたのならともかく,老後を迎えてから,「共通の趣味を楽しもう」などと意気込むと,ろくなことにはなりません。たとえば,妻と,同じカルチャーセンターなどに通っていても,同じ時間帯には行かないように工夫したほうがいいくらいです。(p77)
 まだまだ人生の先は長いのです。家庭内離婚,仮面夫婦状態を続けて,不快な気持ちで過ごすと,確実に心身に悪影響を与えることになります。精神科医として,そうして心を壊していく女性の姿も,嫌というほど見てきました。(p80)
 子供を立ち直らせるには,「とにかく放っておく」ことが必要なのです。長年,引きこもっていても,親が食事をいっさいつくらなければ,コンビニくらいには行くようになるものです。(中略)親が態度を変えはじめ,自分の生活の充実のほうに気が向くようになると,子供の態度にも変容が現れるのです。(p82)
 日本は家族関係が極端な国で,べたべたと付き合いすぎるケースがある一方,いったん距離を置くと,その距離が遠すぎるというケースが多いのです。(p86)
 あくまで「現役時代,そこそこの企業に勤めていれば」という条件付きではありますが,今やこの国では,老後の貯金などなくても,金銭的な心配はほとんどありません。制度に関する知識を備え,利用できるものは利用すれば,日本は北欧諸国並の社会保障大国なのです。(p102)
 私はそろそろ,日本人も,現役時代に支払った税金は,老後「取り返してなんぼ」という発想を身につけたほうがいいと思います。むしろ,それが納税者としての “正しい態度” でしょう。(中略)じつは,国民の多くがそうした考え方をもったほうが,マクロ経済はうまく周ります。(p104)
 定年後,銀行に行き,「退職金をどうすればいいでしょうか?」という質問をするような “超世間知らず”,いや “超投資知らず” の人は,投資を避けたほうが賢明です。残念ながら,そういう人は,金融機関にとって,絶国のカモです。彼らにとって,投資知識のない定年退職者ほど,「いいお客さん」はいません。(p113)
 私は,「毎月分配型の投資信託」を買うくらいなら,馬券でも買ったほうが,まだマシだと思っています。(p114)
 今後,あなたの資産を狙って,金融機関やその他の業者が,さまざまな誘惑の言葉を投げかけてきます。(中略)その攻勢は,あなたが年齢を重ねるにつれて,認知能力が落ちるに従って,いよいよ激しくなってきます。(中略)怪しげな勧誘がまかり通っているのは,世の中には投資に関してあまりに無知な人が多いからです。(p115)
 よほど自分の投資技術に自信がある人以外は,インデックス型を利用し,「半分になっても困らない」程度の金額をコツコツと投資するのが,いいと思います。(中略)それでも狼狽売りすることなく,保持し続けていれば,最終的には報われることは,株式市場と資本主義の歴史が証明しています。(p121)
 私は「走る」ことは,50代以上の人にはおすすめしません。(中略)いちばんおすすめの運動は(中略)「歩く」ことなのです。「人間の体は,1日8~14キロは,歩くことを前提にできている」という説もあります。(p135)
 イライラや怒りをしずめる最も簡単な方法は,「深呼吸」です。脳に酸素が十分に行き渡ると,脳内の扁桃という部位の興奮がおさまり,それが交感神経の興奮をしずめるのです。(中略)大きくのびをしながら,目を閉じる。次に,ゆっくりと大きく息を吸い込み,ゆっくりと吐き出す。呼吸だけに意識を集中し,つとめて無心になるのがコツです。こうして,何回か,深呼吸を続けると,気持ちが落ちついてくるはずです。(p160)
 人間の体の60%以上は水分であり,水分不足に陥ると,格段に疲れやすくなります。脱水症状が進むと,血液がドロ頃の状態になって,血液が流れにくくなります。(中略)すると,疲れやすくなるうえ,いったん疲れると,なかなか回復しにくくなるというわけです。(p174)
 脳機能上は,75歳くらいまでは,記憶力はさほど衰えません。急激に衰えるのは,「覚えようとする意欲」です。(p178)
 「脳は,いくつになっても鍛えることができる」--これは,脳科学的には,21世紀になってから立証された新たな常識です。(中略)つまり,「成人になってからでも,脳の神経細胞は鍛え方しだいで増える」ことがわかったのです。(p181)
 若い頃は誰しもそれなりに記憶しようと努力するものです。ところが,中高年になると,大半の人はそうした努力をしなくなってしまう。それなのに,「昔は簡単に記憶できた」ような美しい錯覚に陥り,「記憶力が落ちた」と慨嘆する。(p191)
 脳内のドーパミンを増やし,頭を働かせるためには,まずは「何とかなるだろう」とポジティブに考える「癖」をつけることが必要なのです。マイナス思考にとらわれそうなときは,まずは「何とかなるだろう」と,口に出してみる。(中略)それだけのことで,すこしはドーパミンやセロトニンが分泌されるのだと思います。(p198)
 松下幸之助氏は,社員採用の面接で,「君は,自分は運がいいと思うかね」と尋ね,「運がいいと思っています」と答えた人だけを採用したという伝説があります。これは,松下氏が「人生では楽天主義が大事」ということを骨の髄から知っていたことの証左でしょう。(p198)
 脳には安定を好む傾向があり,ひとつの考え方,ひとつのものの見方に慣れ親しむと,すべてをその考え方やものの見方ですませて,楽をしようとします。前頭葉は,すぐに怠けてしまうのです。(p201)
 「60点主義で即決せよ。機会を失うのは度し難い失敗だ」--昭和の名経営者,かつての経団連会長だった土光敏夫さんの言葉です。(中略)それくらいの勢いがないと,老いの坂を登り切れません。(中略)判断・決断を先延ばしすることは,やがて思考停止につながります。(p202)
 人生,そろそろ,締め切りが迫っているのです。60年以上生きていれば,何事もさっさと決めたところで,大きな間違いはないはず。(中略)「悩む前に跳べ」くらいを心がけることが老後の坂を登る要領だと思います。(p203)
 日本人に多い考え方の中でも,老後のためにとくによくないと思うのは,「完全主義」傾向です。「100点でなければダメ,90点でも努力が足りない」といった考え方をすると,無用のがんばりすぎを招き,うつ病の大きな原因になります。たとえば「親の介護」をするのに,100点満点など,そもそもありえないのです。(p203)
 欧米では,性ホルモンが減少すると,HRT(ホルモン補充療法)を受けるのが普通のことであり,保険も適用されます。しかし,日本では,副作用を懸念し,男女ともにあまり使われていません。私は,女性も男性も,ホルモン療法をもっと利用したほうがいいと思います。(p210)
 高齢者は,若い頃以上に,見た目が重要だと思っています。過去の臨床経験のなか,外見が老人ぽくなるにしたがって,感情の廊下が進み,ひいては全身の昨日が低下していくケースを多数見てきたからです。(p213)
 このようなアンチエイジング治療を,日本では,まだまだ「反則」のように思う人が多いのですが,私は,老後は「いろいろなことを反則と決めつけない」精神が必要だと思います。(p214)
 年の暮れには,多少は値の張るスケジュール帳を買うようにしてきました。上等な手帳を買うと,「使わなければ,もったいない」と思い,「いろいろ書き込む」,つまりは「予定をつくる」ことにつながるからです。(p217)
 神経伝達物質の正常な分泌をうながすためには,毎朝同じ時間に起きることが必要です。前の晩,多少寝るのが遅かったとしても,いつもと同じ時刻にベッドから出ましょう。その日はすこし眠いかもしれませんが,長い目でみると,それが脳と体を守るコツです。(p223)
 納豆は,最安値のサプリメントといってもいいでしょう。(中略)大豆食品は,脳にとっても,強い味方です。(中略)神経伝達物質の重要な原料「レシチン」をたっぷり含んでいるのです。(中略)中でも,納豆は,大豆の栄養をほぼそのままの形で摂取できる優秀な食材なのです。(p225)
 私は,健康に長生きしたければ,義歯やインプラントなど,歯にはお金をかけたほうがいいと思います。(p235)

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