著者 三枝成彰
発行所 朝日新聞出版
発行年月日 2013.01.30
価格(税別) 1,900円
● ざっくり言えば,作曲家の評伝。バッハからドヴォルザークまで,誰でも知っている12人の作曲家を彼らが生きた年代順に並べて,時代背景や交友関係,エピソードを織り交ぜながら,「名曲の履歴」を紹介していく。
● 一番ありがたいのは,文章が平明で読みやすいこと。著者の見方も直截に披露されていて,潔い読みものになっている。
● 以下にいくつか転載。
その後,何度か慈善演奏会などで自作のピアノ協奏曲を演奏するが,その度に,ピアノの音量が小さ過ぎると批評されたショパンは,オーケストラとの共演や大ホールでの演奏は自分に向かないと悟り,サロンなどの小さな空間でのピアノ独奏に,演奏活動を絞っていく。何でもないようだけれども,これができるのも天才の所以かもしれない。普通,批評に応えようとしてしまうものだろう。音量を大きくしようと試みてしまうものではあるまいか。
ベートーヴェンやワーグナー,ブラームスなどといった近代西洋作曲家の音楽には,どこかした「わけのわからない部分」がつきまとう。その「難解さ」が聴き手の思考や想像力を刺激し,結果として作品の深みや格調に結びついていった。あるいは,専門家は,その「難解さ」ゆえに,こぞって彼らの作品を分析し,解釈し,評論した。そんな玄人からすると,チャイコフスキーの音楽はあまりにも単純明快に過ぎて,知性に欠けるように思えたのであろう。それゆえ,大衆からの人気ほどには,音楽専門家からの評価は芳しくなかった。(p241)これがチャイコフスキーの価値を貶めるものではまったくないと思うけれど。「専門家とは,いつも同じ間違いを繰り返す人たちのことである」という,ヴァルター・A・グロピウスの箴言を思いだしてしまう。
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