著者 前島勝義
発行所 平原社
発行年月日 2009.12.14
価格(税別) 1,200円
● 著者は東京都北区の在。休日に地元の仲間たちと50~70㎞のサイクリングに出かける。大宮,葛飾,浅草,銀座など。
その先々や道中で,その街や史跡の蘊蓄がうるさくない程度に披瀝される。あるいは,子ども時代が回顧される。
● 一篇一篇が後味の良い読みものに仕上がっている。登場人物のそれぞれがキャラが立っていて面白い。碩学が子どもを前にしてかみ砕いて易しく話しているような趣がある。
● 以下にいくつか転載。
いい年をしたおやじたちがする会話ではない。小中学生のじゃれあいだ。二時間弱とはいえ,自転車を走らせると,大の大人が子どもに還ってしまう。 ボクは,これがサイクリングの効用のひとつだと思っている。(p38)
ボクの小学校時代なんて,戦後の混乱期で文部省の指導力が弱かったから楽しかった。(中略)だが,日本が復興するとともに官僚制度が復旧して,窮屈な社会になってきた。(p92)
自転車はひとりでも楽しいが,仲間がいるともっと楽しい。彼らは友だちづくりがへたな子たちなのかなあ(p135)
ボクらはまもなく,ガソリン・スタンドの前で自転車をとめた。若い女の子が「いらっしゃい」といいかけて,途中で言葉を飲み込んだ。 「おねえさん,満タン」と,黒ちゃんがいった。女の子は自転車を見て,目を白黒させている。 「どこに入れるんですか?」 「ちがうよ。おれの膀胱が満タンなの。トイレ貸してくれない?」 女の子は笑いながら,トイレのほうを指さした。(p219)● 「彼らは友だちづくりがへたな子たちなのかなあ」とは,ひとりで走っている自転車少年や自転車乙女を見ての著者の感想だけれども,ぼくも初老ながら「友だちづくりがへた」で,ひとりで走っている。
著者の仲間とのサイクリングは楽しそうで羨ましいのではあるけれど,自分で同じことをやってみたいとは思わない。ひとりで走っていたい。
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