著者 出口治明
発行所 光文社新書
発行年月日 2017.08.20
価格(税別) 840円
● ここに紹介されている10冊,必ず読む。
その10冊を選びだす背後にある,頭がクラクラしそうなほどの該博な蓄積。松岡正剛か出口治明か。それに驚くことが本書の醍醐味かもしれない。
● で,紹介されてる10冊は次のとおり。
『はらぺこあおうし』偕成社
『西遊記』岩波少年文庫
『アラビアン・ナイト』福音館書店
『アンデルセン童話集』岩波少年文庫
『さかさ町』岩波書店
『エルマーのぼうけん』福音館書店
『せいめいのれきし 改訂版』岩波書店
『ギルガメシュ王ものがたり』岩波書店
『モモ』岩波少年文庫
『ナルニア国物語』光文社古典新訳文庫
● 以下に転載。
僕は,本にはいい本とそうでない本しかないと思っています。児童書であっても優れたものがあるし,つまらないものもある。大人向けに書かれた小説でもそうですし,学者の書いた学術書も同じです。(p3)
人間は,なんのために生きているかといえば,次の世代を育てるためです。だからこそそのためのツールである児童書は,とても大切なものです。(p10)
『ワンピース』は仲間をとても大切にします。だけど,美しい友情もあまり長く続くと退屈になりませんか。俺さえよければ,というほうがおもしろいのです。(p44)
大人は,もしかすると(西遊記に)なかなか入り込めないかもしれません。ハチャメチャすぎるのです。でもしれは,社会常識に毒されて,ある意味,心が歪んでしまっているということ。子どもにとっては,これこそ本音の世界ですから,きっとスラスラと読み進めるはずです。(p44)
中国のエラい人は,大まかにいうと二種類いて,科挙をトップで受かるようなエラい人と,そういう人を高笑いしているエラい人がいます。(p47)
国から出ていく人は,だいたいが強くて賢い人です。それは全世界共通で,体の弱い人や頭の固い人はなかなか出ていこうとはしません。(中略)中国には,そういう頭のやわらかい人がたくさんいるのです。(p48)
おおむね遊牧民は男女同権になります。旅をしていると実力主義にならざるを得ません。(p83)
『グリム童話』は,クリム兄弟がドイツ中を回って,昔から伝わる物語を聞き出してまとめたものです。(中略)『アンデルセン童話』は,それとは違って,アンデルセンが自分で創作したものです。(p93)
僕は,人間が賢くなるために必要なのは,「人,本,旅」だとつねづね言っているのですが,アンデルセンもまさしくそうだったと思います。彼は,その時代には珍しく世界中を旅した人です。(p97)
ここまで自己を犠牲にしてもなお実らないという物語が読み継がれているのは,やはり世の中には理不尽がたくさんあるからです。それを暗くつらく書いてあれば逆に落ち込むのですが,美しく清らかに書いてあるので,読んでいると自分の気持ちが浄化できる。つまりカタルシスが得られるのです。(p103)
『アンデルセン童話』は,『おやゆびひめ』(立原えりか文,いわさきちひろ絵,講談社)のような美しい色彩の絵本にもなっています。なぜそれができるかといえば,ディテールをていねいに書き込んであるからです。小説もそうですが,すぐこのままで映画にできると思う作品は,やはり優れています。(p107)
言葉はなんとかなります。アンデルセンも必ずしもコミュニケーション能力の高い人ではありませんでしたが,旅を繰り返しています。(中略)文法的に正しく話そうとするから難しいだけで,ふdなは誰もそれほどまともな言葉を話していないのです。(p108)
憂鬱な気分で働く人は,必ず給与泥棒になってしまうのです。ワクワクしてさかさ町の子どものように仕事をするのが,一番生産性が上がります。(p120)
最近は,甲子園や箱根駅伝を見ていても,楽しそうなチームのほうが強い。楽しいことから勝利への道筋が描けるという側面がきっとあるのだと思います。(p123)
アメリカの児童書の魅力は,ベースがすごく健全で,元気で明るく生きようよ,頑張ろうよ,という肯定感があるところです。だから,時代を超えてよく読まれるのだと思います。(p127)
人間にとって一番大事なのは,すべての人は顔も,考えていることも,感じ方もまったく違うという事実を知ることだと思っています。(中略)それがわかれば,人間にとって価値観の押しつけほどいやなことはない,ということもすぐにわかるはずです。(中略)ところで日本はというと,同質性の高い社会です。(中略)違って当たり前だ,という前提にはなかなかなりません。それではおもしろくないのです。同じ人間だから言わなくてもわかるはずだ,という考え方は世界では通用しません。このままではものの見方がものすごく貧弱になってしまいます。(p138)
不思議な道具を手に入れたり,不思議な力を身につけたりするような奇想天外なストーリーではありません。現実世界にきちんと根を下ろしているから,物語の世界がかえって自由に広がるのです。(p153)
礼儀正しさは,人間としての基本的な徳目です。礼儀正しさは,人生を豊かにしてくれます。(p164)
人間の脳はだいたい二〇歳ぐらいまでには完成するので,二〇歳から,たとえば八〇歳まで生きたとして,生涯でその人がベストのものをいつ制作するかもアトランダムなのではないでしょうか。(中略)経験を積めばさらいいいものができると考えるのは,あまりにも短絡的です。(p167)
地球上では,生物の大絶滅がたびたび起きています。地球のことを母なる大地と呼ぶ人もいますが,地球はお母さんのようにやさしくはありません。(中略)しょっちゅう機嫌を損ねては,生物をみな殺しにしているのです。(p173)
現在の研究では,地球の生命は五〇億年ぐらいの寿命しかないとされています。いま四〇億年が過ぎていますから,あと一〇億年しかありません。五分の四はもう終わっているのです。(p174)
進化論に限らずどんな学問でも進化します。数字やファクトは進化を続け,永遠に変わっていくものなのです。(p191)
ベッポやジジの姿を見ていると,世の中では序列だけが大事なのではないとわかります。いい人やおもしろい人は世の中の社会的地位とは関係ないのです。その人と一緒にいて楽しければそれで十分でしょう。(p236)
効率にとらわれると,かえって大切な方向を見失います。錦織圭さんのように特別な才能のある人間なら,「僕はテニスをやればいい」とわかるかもしれませんが,歴史的に見てもほとんどの人間はやりたいことがわからないまま,偶然どこかに勤めて,偶然誰かと結婚して,そのまま死んでいくのです。それで十分なので,自分が何に向いているのかとか,自分は何をなすべきかとかは,別にそれほど大事なことではないと思うのです。もっと自然に,川の流れに流されて生きた方が人生は楽しい。(p240)
急がされることを嫌がることこそが,人間の本性の一つだと思うのです。(中略)急ぐのは,ほとんどが大人の都合です。しかもちょっとぐらい急いだところで大した差はありません。(p251)
何かを伝えたいとき,カシオペイアは甲羅に文字を浮かびあがらせます。(中略)甲羅なので短い言葉しか使えません。だけど考えてみたら,社会を動かしているのはシンプルな言葉です。それが一番伝わるのだということも,カシオペイアから読み解くことができます、(p251)
人間は不器用なので,創造の翼を働かせようとしても,テレビのスイッチを入れるようにパッと切り替わるものではありません。想像の世界との間には不思議な通路が必要なのです。(p263)
0 件のコメント:
コメントを投稿