2019年9月8日日曜日

2019.09.08 出口治明 『大局観』

書名 大局観
著者 出口治明
発行所 日経ビジネス人文庫
発行年月日 2015.08.03(単行本:2010.07)
価格(税別) 780円

● 最も印象に残った一文は「文化というのは,突き詰めていけば「言語そのもの」です」(p86)。これは出口治明さんが言う前に言語学者が言っているんだろうけども,出口さんが言うとなるほどと思わせる。
 日本文化とはつまり日本語のことであり,日本人とは日本語でものを考える人のことだ。出自や肌の色はどうでもよい。

● 時々,妄想するのだが,外国の優秀な女性に日本に来てもらって,出産してもらう。優秀な母を持つ子が日本語を母語として育つ。日本男子がやるべき焦眉の急は外国に行って優秀な若い女性をさらって来ることだ。それができるだけの魅力を日本男子は持っているか。今どきの若者は持ってそうな気がする。
 が,わが大和撫子が外国人の優秀な男性を捕まえる方が,数倍現実的か。
ぼくの田舎でも“日本女子+外人男子”のカップルを見る機会はけっこう増えたような気がする。良いことだと思う。

● 以下に転載。
 直感というのは,その計算のプロセスを自分でも意識できないほどのスピードで「脳をフル回転させて得たアウトプット」であり,言語化はできなくても,単に直情的に行動するのとはまったく違う性格のものなのです。そして,この直感は「ストックしてある知識は情報=インプット」の量が多ければ多いほど精度が上がります。(p4)
 私は,人生というものは九九%,いや九九.九%,思うようにならないものだと思っています。(中略)しかし,そんな人生のなかでも,わずかに残された〇.一%の可能性を信じて挑戦し続けなければ,未来永劫何かを成し遂げることはできません。(p5)
 思考軸にはこれが正しい,というものはありません。大切なのはそれが「あなただけのものである」ということです。(p9)
 もうそろそろエサがなくなりそうだとか,果実が豊富なのはあの方向だとか,そういうことがどうしてボスザルには判断できるのでしょう。それは,群れのサルがせっせとエサを集めているとき,ボスザルは高い木に登って四方八方を眺めているからです。(中略)これが大局観の本質です。(中略)とにかく対象から離れなければ,全体像は見えてきません。(p25)
 メンバーの中から落ちこぼれる人間が必ず出てきます。そのとき,弱いメンバーは要らないと切り捨てて先に進めば,組織の弱体化は免れません。(p31)
 どんな組織でも素直でやる気のある人と,平均LEVELの人と,反抗的だったり非協力的だったりする人の割合は,ほぼ二対六対二になるといわれています。(中略)リーダーの考えを受け入れ,やる気になっている上位二割を思いきり走らせたほうがいい。(中略)最初に上位二割にエネルギーを注入すると,リーダーはより少ない労力で,望ましい方向に組織を動かせるようになるのです。(p33)
 これまで「成功の法則」とされてきたことは,すべからく役に立たないものと思った方がいい。その上であらゆることをゼロベースで考え,新たな価値体系を構築していく能力が求められているのです。(中略)「何を自分の軸とするか」,このことに答えはありません。だからこそ,そこに人となりが現れます。(p45)
 「一部の人」を「長い間」だますことや,「大勢の人」を「一時的」にだますことはできても,「大勢の人」を「長い間」だまし続けることはできないのです。私が民主主義を信用している理由もそこにあります。(p52)
 そういうときの私の判断はかなり早い方だと思います。それは私が短気だからというだけではありません。深謀遠慮や沈思黙考には世間の人が思うほど効果がないことを,経験を通して知っているからです。(中略)「よく考えた方が間違えない」という理屈が当てはまるのは,最初から出題範囲や答えが決まっている学校のテストのような場合だけです。(中略)判断に時間をかけることで欲や希望的観測という余計な要素が入り込み,精度が堕ちる危険性も高まってきます。(p53)
 リーダーというのは「わからないことを決められる人」のことです。(p55)
 迷ったらコインを放り投げてその表裏で判断をしてもかまわないのです。そんな決め方であっても,何もしないでぐずぐずしているより,ものごとは間違いなくよい方向に進むはずです。(p58)
 自分で決めてやりはじめたことは,新鮮なうちに一気にやりきってしまうというのもスピードを上げるコツでしょう。課題にも「鮮度」があって,もっとも集中できるのは取り組み始めた新鮮なときです。(p59)
 思考の時間が短くてすむのは,深く考える訓練ができているからです。眠りが深い人は短時間睡眠でも頭がすっきりするのと同じで,思考も深めれば深めるほど時間をかける必要がなくなるのです。(p59)
 実際には「変化がない時代」などあり得ません。さらに現代は,起き続けた変化の結果をまとめて引き受けなければならないという,大変な時代です、(p66)
 人間というものは,皆さんが思っているほど賢くはありません。(中略)現時点での花形産業に就職すれば,高値づかみになる可能性はきわめて高い。それなのに,毎年学生が殺到するのは,その時点でピークを迎えているような企業ばかり。(p67)
 この話は,経済学部や経営学部だと,講義で話す先生がいると思う。その話を聞いていてもなお,只今現在の花形産業を目指す。そういうものなんだね。
 フランスでは,専業主婦よりも働く女性の出生率が高いというところにも注目すべきです。一般的に言えば,外で働く女性はアクティブですから,安心して子どもを産める環境さえあれば一人より二人,二人より三人と,たくさん子どもが欲しいと思うようになるのでしょう。(p83)
 人口が減り続ける国家や地域に反映はあり得ない。そして歴史上の豊かな国や都市では,移民が人口を下支えしてきた。これは紛れもない人間の歴史的な事実です。(p87)
 麻雀は自分の好きな手ばかりをつくっていたら絶対に勝てないゲームです。(中略)日本の問題を考えるときは,世界中の国々と麻雀卓を囲んでいると思えばわかりやすいもかもしれません。(p87)
 人類の半分は女性だというのに,その半分の才能に活躍の場が与えられていなければわが国の国際競争力が堕ちるのも仕方がないことでしょう。(p88)
 人間という生きものは,そう賢いものでも変わるものでもないのですから,自分がいま問題にしていることに対する答えやそれに近いものをもっている人は,タテヨコに広く視野をもって探せば,必ずどこかに見つかるはずなのです。(p90)
 私はそれよりも先にやることがあると思います。それは「インプットの絶対量を増やす」ということです。私が見るかぎり,日本のビジネスパーソンはインプットが質・量ともに少なすぎます。(中略)つまり,技術やノウハウ以前の問題なのです。(p93)
 私のインプット方法は「最初は自分で選ばず,とにかく大量に取り込む」というものです。自分に役に立つ情報だけを抽出することができればそれい越したことはありませんが,そんな芸当が最初からできるわけがありません。(中略)「そんなことをしたら,時間がムダになるのでは」という心配も要りません。必要か必要でないかと迷っている時間の方がもったいないし,取り込む情報の量が多ければ多いほど処理速度は上がるからです。(p96)
 品元は失敗を通してしか本当には学べないという習性がありますから,失敗の機会もまた多い方がいいのです。(p97)
 インプットを増やすためには(中略)アウトプットの機会を強制的に設けることも有効だと思います。(p98)
 読書というのは食事と似ています。何を食べたかは忘れてしまっても,栄養分は確実に身体に吸収されて,その人の骨や筋肉やエネルギー源になっている。(p103)
 私は三十歳からライフネット生命設立プロジェクトをはじめるまでの約三十年間,家で夕食を食べたのはおそらく一回だけだと思います。誇張ではなく,本当に毎晩誰かしらと飲み歩いていたのです。会食の相手はいつも社外の人でした。(p108)
 知らない土地で旅人が多少危うい目に遭うのは古今東西ごく当たり前にことだし,自分の身を守るために四方八方に気を配って感覚を鋭敏にしておくというのもまた当然のことだと思っています。実際,そうした経験から得た情報や対処法は大きく自分の血肉となっています。(p112)
 本でも人でも旅でも,安住する場所を一度は捨て,新しいものに飛び込んでいくことが,深く多様なインプットを得るためのコツだと思っています。毎日違う道を通り,違う店でランチを食べ,違う本を読んで,違う人と酒を飲む。言ってしまえばそれだけのことですが。(p113)
 いわば自分のなかに「辺境」をつくる,という感覚です。(中略)一刻も早く,そこに足を踏み出すべきだと思うのです。辺境での対処の仕方は,辺境に身を置き,そこで失敗を繰り返すことからしか学べません。そして,そうやっていったん知識やスキルを獲得してしまえば,もはや辺境は恐るべき未知のフィールドから,勝手知ったる自分のホームグラウンドになってしまうのです。(p113)
 すべての情報がオープンになるこれからの時代では,「完全に他社と差別化した商品・サービス」などあり得ません。(中略)世の中に本当にユニークなものなどどこにもない,となったときに,最後の勝負を決めるのは人と組織風土です。(中略)スタッフがニコニコ出社してくる会社であれば,絶対に他社に負けることはないと信じています。(p140)
 「効率」という言葉を重視する人は,オーソドックスなやり方だとなんだかムダが多いような気がするのか,正攻法に背を向け,ともすればわざと奇をてらったような手段を選びがちです。でも,多くの場合それは,「策士策に溺れる」結果に終わることになります。(p146)
 私は「ビジネスに美学は不要」だと思っています。「何を美しいと感じるか」という主観的な要素をビジネスに持ち込んでしまえば,その時点で合理性が失われます。個人的にも美学や品性などという言葉はあまり好きではありませんし,「品格という言葉を使う人こそ,品格のない人」だとも感じています、最短ルートを考え抜いた上で,正規の手順で淡々とものごとを進めていく,これが私の考える「正攻法」なのです。(p150)
 私は,日本の将来を大局的には楽観しています。「若者と女性のリーダーを増やす仕組みをつくれば日本はうまくいく」というのが私の結論です。(p170)
 「最終的に勝利するために何をするか」といった本質的・戦略的な問題を徹底的に考え抜くという訓練をあまり(日本人は)受けていないのではないか,と感じることはあります。(p180)
 私は,日本が本当に豊かだったのは,現在を別にすれば室町時代から安土桃山時代にかけてだったと思っています。例えば,織田信長が南蛮貿易を推奨したので,海外との交易が盛んに行われ,国内には異国の文物がどんどん入ってきた。(中略)そして,外部との交流が盛んになると,野心に満ち溢れ,進取の気性に富んだ人間がこぞって国境を越えて外へ出ていきます。(p194)
 鎖国のような制作が続くのはいっときのこと,私たちは本質的にはいつも開かれた海洋民族だったのです。だからこそ私は国を開き,どんどん外へ出ていくのが歴史的に見ても正しい,これからのわが国のあり方だと思うのです。(p196)
 階層化し,固定化した社会に活力が生まれるはずはありません。私はやる気のある人,才能のある人がどんどん上に上がってこられるような下剋上の社会であるべきだし,そうあってほしいと心底思っています。(p198)
 新聞・雑誌に書かれていることに対して,日本では七二%の人が信頼を寄せています。しかし英国では,わずか一二%に過ぎません。考えるまでもなく,英国社会の方が健全だと思います。自分で考えて腑に落ちていることと違うことが新聞や雑誌に書かれていれば,「そちらの方が間違っている」と考えるのがふつうであるはずです。(p202)

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