書名 お客様の “気持ち” を読み解く仕事 コンシェルジュ
著者 阿部 佳
発行所 秀和システム
発行年月日 2015.08.01
価格(税別) 1,400円
ホテルの利用者(及びその予備軍)に,どうぞ安心していらしてください,とアピールしているのか。
● 以下に転載。
接客は,お客様に感謝する気持ちがあってはじめて,その上にさまざまなサービスが重ねられていくものだと思います。(中略)どういうご用でいらした方にも,感謝できる何かは見つけられます。(p37)
大切なのは,どれだけ本当にそういう気持ちになれるか。心から歓迎する気持ち,感謝する気持ちが挨拶にこもっていなければ,お客様にもそれが伝わってしまうものです。(p38)
ロビーで何かお探しの方には,「○○様のご宴席ですか?」と,できるだけ具体的にお声をかけたいと思っています。「そうなんだ! どうしてわかったの?」といった反応が返ってくると,こちらは内心,小さな達成感です。(p40)
“お客様の名前を覚える” ことには “親しみを表す” ことなどよりもっと深い意味があります。そのお客様を “どれだけ大切に思っているか” を表す行為なのです。(p55)
外国人のお客様は要求をはっきりと言葉にされ,それができないとなると「どうして?」と,納得するまで理由を知りたがります。そして要望をかなえてさしあげると,飛び上がって大喜びして「なんて素晴らしいんでしょう!」と感情豊かに感謝の気持ちを伝えてくださいます。(p62)
ヨーロッパには,「コンシェルジュになるのではなく,コンシェルジュとして生まれてくるのだ」という言い方があります。コンシェルジュは,人が好きで,人に興味があって,人に喜んでいただくことが楽しい。そんな人に向いています。(p72)
いや,本書をここまで読んでくると,そうなんだろうなと思いますよ。つまり,自分はとてもコンシェルジュは務まらないと思うから。必要な才能を持ったうえで生まれてこないと,とてもじゃないけどストレスに押しつぶされて,途中でリタイアすることになりそうだ。
一般論に薄めて言ってしまえば,男性よりも女性に向いている職業だろう。相手のために自分を殺す必要がある。しかも,意識してそうするのではダメで,気がついたらそうしていたというくらいじゃないといけない。女性向きのような気がする。
お客様を見ていないと,「良いサービス」を勝手に自分で創り上げて,それを提供するようなことになりがちです。まずは目の前のお客様に本気で関心を向けること。どれだけそのお客様に興味を持てるか,その方をどれだけ本気で喜ばせようと思うか。(p78)
カウンターに見えたお客様とお話ししているとき,私はいつも,その内容をビジュアルに「絵」として想像するように心がけています。その絵が具体的な像として浮かばないときは,お客様に質問しながら,受け取った言葉を「絵」に嵌め込んでいくのです。お客様が心に思い描いている「絵」と,私の想像する「絵」がピタッと重なったとき,お客様は満足そうな笑顔になります。(p92)
カウンターで接客していると,このように「お客様の言葉通りの店がないかな,ないかな」と,言われたことに真正面から向き合ってしまいがちです。(中略)お客様と向き合うのではなく,隣に寄り添って立つ感覚になって,目線を同じ方向に向けてみる。(p117)
頼まれたことをただ忠実にやるだけなら,それは手配屋さん。(p129)
たとえお客様が「あなたが好きなところを教えてほしい」と言われても,その言葉を真に受けて,自分の好みのレストランを紹介するようではプロとは言えません。「あなたが好きなところ」という言葉の意味は,「ボクが気に入るようなところ」なのです。(p155)
お客様の質問ですぐにわからないことは,隣りにいるスタッフに聞いたり,そのスタッフが接客中ならバックオフィスの仲間に尋ねたほうが,ネットや資料を調べるよりも早く,確かなことがよくあるのです。(p204)
どんな素晴らしいスタッフのサービスがあっても,たったひとつでもお望みにかなわない出来事があれば,評価されないのが接客業の厳しいところです。入った瞬間から出ていらっしゃるまですべてが良くて,それではじめて,お客様には今回の滞在が良い思い出になるのです。(p206)
グランドハイアット東京の宿泊部門では,どんな部署のスタッフでも,他部署のミーティングやトレーニングで自由に参加できるようになっています。(p206)
コンシェルジュは他のホテルのコンシェルジュと顔を合わせる機会も多く,横のつながりが強いのです。(p207)
「コンシェルジュ・マジック」という言葉があります。(中略)でも,コンシェルジュが実際にやっていることは,マジックとは程遠い,地道な努力の積み重ねです。(中略)このマジックは努力して築いた「人脈」から生まれるものなのです。(p212)
コンシェルジュの長い伝統があるヨーロッパでは,入手困難なチケットでもコンシェルジュが何とかしてくれると言われます。長年の間にそういう関係ができあがり,現在でも当然のこととして行われているからです。でも,日本ではチケットシステムが非常に発達していて,しかも,それがとてもフェアにできているため,直前での入手はかなり難しい。(p213)
こうしたデータは,インターネットで調べられるようなものではあまり意味がありません。私たちにとって本当に利用価値のあるデータは,(中略)お客様の細かな要望に対応できるような情報です。そうした細かい情報は個人の足で調べて入手するしかありません。(p216)
本気でコンシェルジュをやっていくと,仕事とプライベートの区別がなくなっていきます。休日には新しくできたアミューズメント施設を見に出かけたり,話題のレストランに行ったり,美術展や話題のお芝居を見に行ったり。休みの日でもまるで仕事をしているようになっていくのです。(p217)
コンシェルジュは余暇に使うお金が結構かかります。でも,それは自己投資と考えて楽しめる。そう思える人が本物のコンシェルジュになっていきます。(p218)
お客様がコンシェルジュのカウンターに立ち寄って,「今日はありがとう,楽しかったよ」とわざわざ報告してくださることは,実はそんなに多くありません。ですから,「今日はありがとう」と言いに来てくださる方は,よほど楽しく過ごされ,良い思い出ができたということなのです。(p219)
「違和感を大事にする」というのは,仕事で強く意識していることのひとつです。何かが引っかかって,「あれ?」と思う感覚。「何かが違うな」と感じたら,やはり違っていることが多いのです。(p222)
接客の仕事をするなら,お客様に対してとことん感謝と歓迎の気持ちを持てるまで自分を律することです。それができると,自分自身,喜びを得やすくなると思います。(p226)
この「律する」というのが本書全体を覆っている通奏低音だ。テクニックやノウハウは仕事をしていれば身に付いてくるが,人間相手の接客業は結局,ここに行きつくのではないか。
見方を変えれば,接客業に従事することは,永平寺にこもって修行僧になるより,よほど効率的に修行ができそうだ。しかも,著者のような指導者はひょっとすると永平寺にはいないかもしれない。
勤務時間中は感情を引きずってはいけません。硬い表情をした心ここにあらずのコンシェルジュが,お客様に心地良いサービスなど提供できっこないからです。嫌なことがあっても引きずらない。これは意思の力,努力です。(p229)
ロビーにいらっしゃるお客様は,私に会いにいらしたのではなく,グランドハイアット東京のコンシェルジュにご用があっていらしているのです。ですから,ロビーにいる間は「私個人」ではなく,「グランドハイアット東京のコンシェルジュ」になっていなければならない。(中略)わかりやすく言えば,「役をつくって,それを演じる」ということです。(p231)
遊園地のキャラクターは着ぐるみがあって,それを着た途端に,設定されたキャラクターの動きになれます。それぞれのキャラクターが頭にインプットされているから,その中に入ったらすぐに,役柄になりきることができる。(中略)それと同じで,ホテルマンも理想とする像を心の中に持っておいたほうがいい。そのほうが楽に,いつでもモチベーション高く,理想とするホテルマンを演じることができます。(p233)
「良かったですね」と思ったのなら,「良かったですね」という表情と言葉で表現する。本当は共感しているけれど,それが相手にわからない,伝わらないのでは仕事をしたことになりません。(p233)
口角を上げて「ニッ」という顔をすればいいのではないのです。心から本気で笑顔になることです。しかも,その本気が相手に伝わらなければ意味がない。役になりきっていれば,きっと笑顔になれます。心からうれしくなるはずです。(p234)
お客様を「どう楽しませようか」ではなく,そのプランを考えること自体が,「自分も心から楽しい」。自分の事として,お客様と同じ気持ちで考えられているかどうか。(p238)





