書名 定年後の勉強法
著者 和田秀樹
発行所 ちくま新書
発行年月日 2012.09.10
価格(税別) 740円
● 著者の「勉強法」の本を読むのは,これが何冊目になるだろう。高校生(受験生)のときも合格体験記を読むのが大好きだった。肝心の勉強それ自体に入り込めなかったので,勉強にも受験にも苦労はしたが,合格体験記を読むのは好きだった。
大人になってからも基本的に同じ傾向は続くものだ。勉強法の本を読むと,それだけで賢くなったような気がするのだ。実際に賢くなるのは大変だが,賢くなれたと錯覚するのはお手軽にできる。
● 以下に転載。
定年後の勉強は,重要な健康法でもあります。それは,作家や文化人が,歳の割に若々しく,長生きな人が多いことからもわかるでしょう。(中略)現実に歳を取ってからは知的機能が高いほど生存率も高いという調査結果もあります。(p8)
ただ盆栽をいじっている,好きなだけ本を読んでいる,絵を描いて過ごす,旅行をする・・・・・・といっただけでは,この「余生」はあまりにも長すぎるのです。(p13)
この感情の老化のスピードはある方法によって防ぐことができます。それは,「勉強」です。「勉強」が前頭葉を刺激して,感情の老化を防ぐことができるようになるのです。(p14)
この社会(知識社会)では,知識が生産手段の主軸を担い,頭の中にどれだけ知識があるかで賢いか賢くないかが決まるのではなく,その知識を上手にアウトプットし,加工し,そこから利潤を得ることのできる人が賢いとみなされるようです。(p28)
「尊敬される年寄り」とは,単に知識をたくさん持っているだけの「書斎の人」ではないということです。また,ニコニコしているだけの好々爺でもありません。これからはアグレッシブ(積極的)な「賢人」「哲学者」が求められる時代なのです。(中略)「尊敬される年寄り」に求められるものは,知識よりも考え方の面白さなのです。いかに人をひきつけるアウトプット(出力)ができるかが必要とされます。(p30)
根性論型の勉強法は効率が悪いのです。効率の悪い勉強法をやっていると,地頭の良さでのみ勝負しなければならなくなります。(中略)効率的な勉強法は確実に存在します。これは,勉強に限ったことではなく,ゴルフであったり,仕事であったり,健康に関してであったり,それぞれに効率的な方法は存在します。(p39)
ある一定量の勉強をするのに二,三時間かかったとしても,復習は三〇分程度で済みます。復習しなければ三〇点しかとれないところ,復習すれば七〇点とれることだってあります。三時間で三〇点しかとれないところを,復習をして三時間三〇分で七〇点とれる可能性があるのです。つまり,復習はとてもコストパフォーマンスがよいのです。(p47)
うまくいかないときに,他にやり方があるはずだと思えるか思えないかで結果が変わってくるのです。(p50)
定年後の人たちというのは,詰め込んだものは十分あるわけですから,むしろ,これ以上詰め込むというより,これまで詰め込んだ知識をどう使うか,創造性をどう導いていくかちうふうにシフトすべきです。(p51)
動物の発生学上からみると,大脳は胎児の段階から,側頭葉,頭頂葉と発達して,最後に前頭葉が発達します。このために,初等,中等教育では,側頭葉と頭頂葉を鍛えるためにみっちりと言語や計算の訓練,図形やグラフの把握のトレーニングをするというのは理にかなっています。その訓練ができてから,前頭葉を鍛えるべきなのです。しかし,現在,日本の教育の根本的な欠陥のため,前頭葉が鍛えられることは残念ながらほとんどありません。(中略)日本の大学では,自分ほど偉い者はいないと平気で考えている大学享受が大人数に向かって一方的に話すような講義しかありません。なにかを引き出すとか,知識を疑わせるとか,いろいろな可能性を考えさせるという学生のクリエイティビティを伸ばす講義がほとんどないのです。(中略)私立大学の文系学部に進むというのは,悲劇的なことではないでしょうか。(p56)
側頭葉型の勉強法から前頭葉型の勉強法に変えるということは,わかりやすくいえば,若いころの「正解は一つという発想」から,(中略)「正解はいくつもある」という発想に変えるということです。(中略)「ほかの可能性を考えてみる」「想定外のことに対応する」といった多様な答えを導き出すための勉強法に切り替える必要があるのです。(p58)
受験勉強の延長線上で定年前後の勉強について考えてはいけないのです。(p61)
たとえば「二次方程式を社会に出てから一度も使ったことがない。だからこうした勉強は意味がない」みたいなバカバカしいことをいう文化人もいますが,この二次方程式といのは単なるコンテンツの一部分に過ぎません。(中略)二次方程式を理解する思考の過程が社会に出てからは重要なのです。(p63)
定年前後の勉強であれば,できるだけ,集中力を重視した勉強法は避けたほうがよいともいえます。(中略)普段の集中力を持っていればいいのです。気もそぞろになってその場をおろそかにすることがなければ大丈夫だと考えればよいのです。(p94)
中高年以降でも本気で勉強したいのであれば,「一回では覚えられない」という当たり前のことを思い出して,本一冊読むときに,一回目はとりあえず大切そうなページに付箋を貼るために読む。そして二回目は,付箋を貼ったところだけでも復習する。こういったプロセスを踏むことで,本に書かれている重要なことが記憶としてインプットされて,保持(貯蔵)されるのです。(p98)
昔は,中高年になると寡黙な人のほうが賢いと思われていました。(中略)ところが,寡黙な人は口を開いてみてもあまり面白い話ができないことが多いのです。(中略)頭の中にどれだけの知識が詰め込まれているかではなく,その多寡にかかわらず,どれだけのことを外に出せるか,つまり,入力された知識の量よりも想起できる量が大切になるのです。(p106)
いまの日本では,単純な結果や安直な結論を求める風潮があります。物事をなんでもワンフレーズでまとめようとするのです。(p110)
この部位(前頭葉)は他の脳の部位より早く萎縮が始まるのです。(中略)前頭葉の老化が始まると,何をしてもつまらないと感じるようになる(感情の平板化),何に対してもやる気が衰える(意欲の老化),ささいなことでイライラし始める(感情の老化)といった形で行動や言動に老化現象が現れ始めます。(中略)その一例が保続という症状です。保続とは,思考や想像などの切り替えがきかなくなって,同じことをくりかえしてしまうことです。(p111)
こういった人は「そんな話は知っている」現象になっている可能性が高いのです。思考が頑なになっているだけなのに,物知りになった気になって,自分が何でもかんでも知っていると思い込んでしまっているのです。(中略)「そんな話は知っている」現象が起こると,記憶力にも影響を与えます。それは「知っている」と思った時点で記憶力に必要な「注意」のレベルがガタッと落ちてしまうからです。(p117)
コレステロールが高い人のほうが長生きしているとか,やや太めの人のほうが長生きしているという内容の本を書いても,そこそこにしか売れません。ところが,みんなが受けいれやすいメタボ対策の内容になるともっと売れるようです。それくらい,異論を受けつけることのできるキャパシティがある人間が少ないのです。(中略)ですから,多様な説を受け入れることのできる人間は話が面白い人,クリエイティブな人として評価される可能性が大きいのです。(p118)
「異論を受けいれることができない」現象は,「学んだことを疑えない」といったことにも表れます。(p119)
主義主張を曲げないのは一見立派なことのようですが,時代が変化していく中で,その時代に合わせて,意見を変えていくほうがずっと大切で立派です。定年前後からの勉強にとって必要なのは,その時代に合わせて,変わっていく考え方や発想に関心を持つことです。その結果,若い頃とは意見が変わっていくこともあるかもしれませんが,それはまったく問題ではありません。(p120)
自分は右翼だと思っている人こそ,「世界」を読むべきだし,自分は進歩派だと思っている人ほど,「正論」を読むべきなのです。自分と違う意見を取り入れることで,思考の柔軟性が保たれ,思考の老化が防げるからです。(p123)
前頭葉は向上心や欲望をコントロールしているため,年齢を重ねて,前頭葉が老化してくれば,向上心は低下し,出世欲,支配欲なども衰えてしまい,物事に固執しなくなってしまう傾向にあります。(中略)欲望とは人間が本質的に生きるためのエネルギー源です。何かを一生懸命に考えたり,意欲をわきたたせたりする一番の動機です。この欲望が弱まってくると早枯れした人間になってしまう。定年後といえども,欲望を抑え込んではいけません。(中略)食欲であれ,物欲であれ,性欲であれ,欲望に正直に生きることが前頭葉へのいちばんの刺激になるのです。(p124)
ぼくなんかもこの歳になって「足るを知る」境地に近づいたなと思うことがある。物欲がなくなってきたからだ。欲しいモノがない。今あるもので充分だ。
実際,モノはある。洋服なんか,下着も含めて,流行なんてのを考えなければ一生着られるだけのものがあるのじゃないか。もう何も要らないよ,となって,「足るを知る」ようになったかと思ってたんだけども,前頭葉が老化した結果に過ぎなかったのか。
世の中を達観したとされる鴨長明,西行,吉田兼好などは出家し,世の中から隠遁したように思えます。しかし,彼らは自分で日記や随筆を書いたり,和歌を詠むといった創作活動に打ち込んでいたのです。(中略)寿命が延びた現代,「早枯れ」をしてしまうと,長い後半生がつらくなります。(p127)
前頭葉に強い刺激を与えることができるのは偶発性の高い,つまり先の読めない行為です。たとえば,株式投資や起業,ギャンブル,恋愛などがそれにあたります。基本的には,感情は予想と現実の差によって刺激されます。(p128)
「試行」することを提案したいと思います。(中略)実際に動いてみなければわからないのに,頭の中であれこれ考えただけでやめてしまう人間が多すぎるからです。(中略)少なくとも若者よりお金や時間の余裕はあるのだから,試せることだって多いはずです。(p129)
試行の際に大事なのは,わからないことは人に聞くといった姿勢です。とくに男性は,年齢を重ねれば重ねるほど,恥をかきたくないという気持ちが強くなります。(中略)感情が老化してくると,より保守的になり,それゆえに恥意識が強くなりがちです。その恥意識の強さが理解の妨げにもなってしまいます。(p134)
知の賢人とは様々な知識を加工するための思考能力を持っている人物のことです。単純な知識や情報より,ある考え,ある本をどのように解釈するのか,どういう発想で読み解くのか(p142)
本を読んで,情報を与えられた時に,考える習慣をつけなければなりません。安易に納得するためではなく,そこからどんなことが考えられるのかを知るために読書すべきなのです。これは「思考力」を刺激することにもなり,批判的な読書ともいえるでしょう。「批判的」とは,自分の経験をもとに,実際はこうではないかとツッコミを言えるようになることです。(p145)
幸いなことに定年前後になると,「わかる」能力が増しています。学生のころニーチェを読んであまり理解できなかったとしても,年齢を重ねてみると,意外に言っていることが単純なのだと理解できる部分もあるでしょう。(p158)
そういった通信制のコースは,教授の指導意欲が低下しているせいか,指定の教科書も古く,無味乾燥なテーマについてのレポートを決められた回数,提出するような課題ばかりで退屈します。その魅力のなさに途中で投げ出す人も多いでしょう。(p162)
文章の場合,いきいきしているかどうかは,具体例をいくつ挙げられるかどうかにかかってきます。(p167)
いちど試行してみて,まったく成果があがらなければ,その夢はあきらめたほうがいいでしょう。(中略)こうしたときには,あきらめの良さとか損切りが重要になってきます。あきらめた後,ほかのものへのチェレンジを繰り返すほうがよほど賢いのです。(p168)
若い頃の勉強は苦手を克服するということが多かったかもしれませんが,定年後の勉強ではその逆となるのです。(p175)
仕事をしなくてすむからといって無限に時間があると思ったら,大間違いです。(p178)
道具のレベルを知ることです。しかし,ここで注意したいことがあります。道具のレベルが高いと,道具自体が目的化してしまうのです。(中略)英語ができるようになろうとしたときに,その英語を道具としてどのように使うかを明確に意識しておかないと,英語を習得するということ自体が目的になってしまいます。(p179)
定年後の勉強にはきっぱりとあきらめたほうがよいこともたくさんあります。その代表的なものが英会話です。(中略)耳がよくなることがほとんどない定年後では英会話の能力があまりあがりません。(p181)
読書をするときには一冊の本を全部読まなくても大丈夫です。(中略)ある目的,ある目標ができれば,それに必要なところだけ読めば十分なのです。(中略)その本ならではの独自な視点,ポイントだけを読むことで,その本の重要なポイント,特色を最短コースで掴むことができます。(p182)
本は読むことに時間をかけるよりも,読んだあとに時間をかけるべきです。(中略)私の勧める読書法は,速読ではなく,一部熟読法です。一冊の中で,大事なところを繰り返し熟読する。あるいは,そこの部分についてはインターネットを使って枝葉情報まで調べる。(中略)異論,暴論が出てきた際には,必ず裏付ける資料があるのかどうかを調べるべきです。(p183)
生物学的な意味での成熟とは,生殖に向けて機能が整っていくことですし,心理学の世界で言う「認知的成熟」とは,自分とは別の考え方やグレーゾーンを認められるようになることです。これが(中略)知の賢人のロールモデルです。(p196)
知的であれば周囲から評価されるし,何よりもモテます。知的に見せると,まわりが素敵だと思ってくれるので,より知的であろうとし,好循環が生まれます。(p197)

0 件のコメント:
コメントを投稿