2021年2月27日土曜日

2021.02.27 申橋弘之 『金谷カテッジイン物語』

書名 金谷カテッジイン物語
著者 申橋弘之
発行所 文藝春秋企画出版部
発行年月日 2017.04.18
価格(税別) 1,500円

● 素人の筆になる。たとえば,つぎのような文章。
 英語も不十分な善一郎が外国人相手の宿舎を経営するのは,尋常なことではなかっt.これあよほどの決意だったに相違に。明治という新しい時代の波が,青年善一郎の背中を押したのであろう。(p34)
 よほどの決意であったというよりも,ノリで始めたのではなかったか。だからこそ続いたのかもしれない。「よほどの決意」で始めてしまったことは,意外に折れやすかったりする。さらに言うと,「よほどの決意」はさほどに称賛すべきものでもない。
 建物の周囲は,東から西へかけての三方は木々に囲まれて,北側は真下に大谷川が流れ,その向こうに女峰山の山並みから二社一寺のある山内が借景となって広がる。リゾートホテルにふさわしい歴史と自然に恵まれた場所であり,金谷善一郎の感性の豊かさを垣間見ることができる。(p162)
 これもおかしな話だ。建設途中で放置されていた三角ホテルを見つけて買収したのだから,立地については善一郎の嗜好は与っていないはずだ。


● 著者は金谷家に繋がる人だ。金谷家や創業者を称揚する方向に傾きすぎているとの印象をぼくは持った。
 金谷家の出自は特筆すべきほどのものでもないし,創業についても “たまたま” の部分が大きかったはずだと思う。基本は成り行きに任せた結果ではあるまいか。今日までのホテル経営にしても,きれい事だけですんだはずもなかろう。
 もっと突き放した方が,読みものとしても面白くなったような気がする。しかし,この本はひょっとすると金谷で働く従業員のために書いたものかもしれず,だとすれば彼らの士気を鼓舞するためにも,この書き方でいいのかもしれない。


● 金谷ホテルの価値は継続にある。文化遺産のようなもので(登録有形文化財になっている),潰すわけにはいかない。潰すわけにはいかないが,もはや金谷家の持ちものではなくなっている(東武鉄道の連結子会社)。
 金谷も栄枯盛衰を味わってきているわけだ。創業家とすれば,所有にはこだわらず,これからも家内で人材を育て,あるいは養子縁組により,社長業を継いでいければというところか。

● 所有者がどう変わろうが,金谷ホテルの名は残る。唯一,親会社の東武鉄道が金谷をどうしようとしているのか,読みづらいところがある。
 あいにくの時期になってしまったが,中禅寺にリッツカールトンが開業した。東武が呼んだ。東武が日光に投資するのはわかるとして,金谷をどうするのか。

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