2021年7月1日木曜日

2021.07.01 松尾 豊 『超AI入門』

書名 超AI入門
編著者 松尾 豊
発行所 NHK出版
発行年月日 2019.02.25
価格(税別) 1,200円

● 副題は「ディープラーニングはどこまで進化するのか」。巻末に,ジェフリー・ヒントンとヤン・ルカンのインタビュー記事がある。

● 著者はカーツワイルやハラリが言っていることを正しいとする。「私もほぼ同じ結論にたどり着いています」と。
 とすると,人類は地球を離れて生存していくことができるようになるんだろうか。10数億年後には太陽が膨張し,地球は太陽に呑み込まれる。そのときに,人類も完全に宇宙から消えるのだと思っているのだが,そうではなく,その運命を免れるということなのだろうか。

● 以下に転載。
 学習という好意の根幹は「分ける」という処理にあります。(中略)この「分ける」という処理は,あるものごとを「イエス」か「ノー」で答えることでもあります。(中略)その精度,正解率を上げることが,学習することと言っていいでしょう。(p24)
 言葉を使っているときに,人間は,実は情報を落としています。情報を落として,抽象化して要約して,その代わり保存性を良くしているのです。(p36)
 学習率は大きくしすぎても,小さくしすぎてもいけません。大きすぎると最初は急速に学習が進みますが,途中で効率が悪くなるなどして,結局,うまく学習できません。小さすぎると時間がかかります。ですから,最初は学習率を大きく取って,学習が進むにつれてだんだん小さく絞っていけば,良い値に収束する,つまり,うまく学習できます。(p52)
 脳の神経回路は,それぞれのニューロンが発火することで情報を伝達します。「発火した状態」と「発火していない状態」の二つがあるので,一見「0」「1」のように見えます。しかし,この「0」「1」の状態もきれいに二つに分かれるわけではありません。たとえば,「ダダダダ」と発火する場合と,「ダ・ダ・ダ・ダ」と発火する場合があって,要するに頻度が違うのです。(p57)
 感情や本能が,自己保存という生命の目的に由来するものだと考えると,そもそも生命でないAIが本質的な意味での感情を持つことはないはずです。(p66)
 私たちが「心」と呼んでいるものや,人間の本能や感情といったもののかなりの部分が,進化に由来するのではないかという結論に行き当たります。(中略)本当の意味で「心」を持つことは,進化の過程を経ないとできないはずです。(p68)
 学習には生物的なコストがかかります。脳や神経回路を作り込まなければいけません。したがって,環境が変わらない状況では,進化のほうが促進され(つまり遺伝子に書き込まれて実装され),一方,環境が変わる状況では,対応するために学習する必要が出てきます。(p69)
 自分たち人間のことを考えてみると,生まれてこのかた,ずっと真似して生きてきたとも言えるのではないでしょうか。(中略)そう考えると,「真似できるんだったら,いいじゃないか」という考え方もあるかもしれません。(p83)
 芸術は,人間性を構成する複雑な “目的関数” に基づくものです。人間と同じ “目的関数” をAIが持てない以上,本当の意味で芸術作品を創造するのは困難だと言わざるをえません。(p91)
 そもそも,「身体を持たない知能」がありうるのか。(p100)
 世界は,「もしこれがこうだったら,こうなる」という仮説の空間でもあります。この空間は膨大で,自分がしようと思っていることと,どの事柄が関係しているのかという可能性が無限に存在します。その可能性を減らす方法はいくつかあって,その一つが自分で問題を作ることです。(p113)
 私たちは蓄積した経験から学習して,脳の中でさまざまなプロセスを経て思考した結果,行動していますが,実はそこに自由意志が入る余地はないのです。(中略)それでも,なぜか私たちは自分の意志があるように思っている。(p115)
 環境を知覚する仕組みの上に,記号の操作が実現されるということではないか,つまり,人間の知能は,「身体性のシステム」の上に「記号のシステム」を載せているのではないか。(中略)高度な推論などの記号系処理よりも,知覚運動系処理のほうが,AIで実現するのは難しいとなります。(p119)
 画像認識でAIが人間の精度を上回ったことの意義は,いくら強調してもしすぎることはありません。なぜなら,人間の仕事の中で,“眼” を使って認識・判断している仕事はたくさんあり,それらのすべてが自動化・機械化できる可能性が出てきたからです。(p134)
 食品産業界ではビールメーカーの規模が圧倒的で,それ以外では,売上規模が一兆円を超える会社は数社しかありません。(中略)ビールや缶コーヒーなどの飲料の加工は自動で行えるので,大量生産をしやすい。一方で,素材を生かす加工食品などは,とたんに扱いが難しくなります。食肉や魚介類,果物,野菜を扱う作業には “眼” を必要とするからです。(p137)
 私は,知能には鳥が飛ぶことと同じように原理があり,それを工学的に利用することもできるはずだと思っています。すでにディープラーニングで最大の難所が突破されていま,あとは身体性や記号操作の仕組みを獲得できれば,知能の原理の大方は説明がつくのではないか--それが私の考えです。(p152)
 いまの生産能力からすると,かなりの人は働かなくてもいいはずですし,仮に一〇〇年前の生活レベルでいいのなら,ほとんどの人は働かなくていいはずなのです。(p154)
 AIと「共存する」というより,「融合する」未来のほうが,私にはリアリティがあるように思えます。(p160)
 人間というハードウェア自体に非常に大きな制約がある。特に「情報の保存」と「通信」において大きな制約がありました。ところが,もし脳の機能を拡張してデータをいくらでもやりとりできるようになれば,人間が全体として知識を共有して,全体として学習し,進化していくことも可能になるはずです。(p162)

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