2021年11月30日火曜日

2021.11.30 飯島奈美 『LIFE あつまる。』

書名 LIFE あつまる。
著者 飯島奈美
発行所 東京糸井重里事務所
発行年月日 2014.01.24
価格(税別) 1,600円

● 何人かがレストランではなく誰かの自宅に集まってワイワイやりましょうというときに,ピッタリな料理のレシピが79。
 料理って,実際に自分でやっていると,自ずと基本はここだなとわかり,それがわかると応用が利くようになるものなんだろうかね。

● この2年近く,コロナで家にいる時間が否応なしに増えた人が多いだろう。かつまた,外食ができないので自分で作ることが増えたという人も多いだろう。
 とりわけ,料理をする男性が増えたのではないかと思っている。かく申す,ぼく自身がそうだからだ。

● でもって,多くの人はネット(You Tube)の料理チャンネル(リュウジのバズレシピ,けんますクッキング,など)を見て,そのとおりにやってみることから始めているだろう。
 これも自分がそうだからなのだが,入り方はどうでもいいのだと思っている。好きなようにすればいいのだ。

● ただし,料理学校に行くというのを除く。料理学校がなぜダメなのかといえば,想像で言うのだが,基礎(と彼らが考えるもの)から入ろうとするからだ。野菜の切り方とか包丁の研ぎ方から入るのではないかと思っている。
 これから料理を始めようというのに,そんなことを教えられたのでは一発でイヤになって止めてしまうだろう。野菜の切り方にどれだけの種類があるのか,どういう場合はその中のどれを採用すればいいのか,そんなのは実地にやっていきながら自然に憶えるものだろう。自然に憶えられるものは自然に任せるに限る。小賢しい講釈は有害だ。

● ネット上に自分の先生を見つけてだんだん料理の腕前が上がってきたところで,先生以外の達人はどうなのかと気になったときに,本書のような書籍をみればいいのでは。
 レシピ本のようなものでも著者の人柄は出てくるものだ。読み物たりうる。土井善晴さんも読んでみようと思っていて,1冊買ってある。

2021年11月24日水曜日

2021.11.24 ナカムラクニオ 『世界の本屋さんめぐり』

書名 世界の本屋さんめぐり
著者 ナカムラクニオ
発行所 産業編集センター
発行年月日 2019.10.16
価格(税別) 1,500円

● タイトルのとおり,アジア,欧州,北米アメリカの書店を紹介しながら,各国の出版事情や読書事情を述べている。相当な奥地まで行っているが,旅番組のディレクターもやっていて,仕事で訪ねたものらしい。羨ましいとは言うまい。大変だったろう。
 が,その頃から,「本屋さん」に関心があって独自に調べていたんだろうかねぇ。

● 器用な人で,行った先々で絵を描いている。それを本書に多数載せている。表紙にも使っている。それが本書のテイストを作ってもいる。
 現地では写真を撮って,その写真と記憶とを合わせながら描いているのだと思うが。

● 以下に転載。ティプス的な豆知識が多くなるが。
 この頃(グーテンベルグが活版印刷技術を発明した1445年頃)は,印刷技術もまだ未熟で,本はかなり高価だったそうです。今でいうと,1冊数十万から数百万円ほどしたのだとか。(中略)レオナルド・ダ・ヴィンチは,自分の蔵書が100冊以上あり,書名や著者名を記録した目録も作っていたそうです。医学書やラテン語の辞典の他に,イソップ寓話臭,錬金術,霊魂不滅論,誘惑論,美食論,手相論,健康保持論,夢占いといった不思議な本がたくさんまさっていたといいます。(p2)
 1冊数百万円もする本を100冊持っていたのだとすると,レオナルド・ダ・ヴィンチはとんでもない富裕層だったってことね。教養人や文化人というのが当時もあったのだとすると,彼らは例外なく富裕層の出身者だったんだろうね。
 逆に,レオナルド・ダ・ヴィンチですら100冊の本しか持っていなかった。今だとその100倍の蔵書を持ってる人,けっこういるよね。何を生みだすかは蔵書数とは関係ないってことね。
 1829年にタイプライターの発明,1840年木材のパルプ化成功,1846年の輪転機の登場によって,出版・印刷産業は飛躍的に成長します。(p3)
 そんな言葉の王国(インド)は,英語による書籍の出版点数がアメリカに次ぐ世界第2位。新聞だけで4万紙もある驚愕の出版大国なのです。(p34)
 インド人は,本をよく読んでいます。(中略)1週間あたりの読書時間の世界1位はインド(10.7時間)で,日本は信じられないことに29位(4.1時間)なのです。
 この数字はどうやって取り出したんだろうか。どういう調査の仕方をしたんだろうか。
 数年前,世界の読書会を取材するため,各国の文学事情を調べた時,日本がダントツで読書イベントが多いと知りました。もともとはフランスやアメリカからやってきた読書カルチャーが本場を超えて,独自に進化していたのです。(p71)
 ベルギーに来て驚いたのは,公立の図書館でも貸出サービスが有料ということ。(中略)現実的な運営を考えるともっと普及してもおかしくない気がしました。(p77)
 オランダの図書館では,おしゃべりが許されており,話をしていても注意されることはありません。(中略)図書館は地域コミュニティの中心地という意識が強いのです。(p79)
 チェコには約2000人に対して1つ図書館があります。この数は平均的なヨーロッパの国の4倍(p87)
 北欧フィンランドは,読書大国。図書館の利用率は,世界一ともいわれ,1人当たりの年間貸出冊数は約20冊だとか。(p96)
 1人20冊の貸出で世界一になるのか。そんなものなのか。
 って,そうなんでしょうね。図書館なんて行かないという人が多数派だろうからな。
 国民全体で平均1人20冊というのは大変な数字で,借りている人だけの数字をみれば,1人100冊超になるのかもしれないねぇ。
 ヨルダンに住んでいる人々は,元々砂漠の遊牧民族です。本屋さんのおじさんがこんな事を言っていました。「私たち遊牧民には欲がない。自分がどこに住んで,何を持っているかより,自分がどの方角を向いているかの方が,大切なんだ」。(p119)
 アメリカの空港ではiPadやKindleなどのタブレットの普及が目につきます。(中略)南米からトランジットで北米に降りると,紙の新聞やペーパーバックを読んでいる人をほとんど見かけなくなるので,少々違和感を感じてしまいます。(p137)
 本棚は文化を映す鏡。「その国を知るには,空港の本棚をよく見るべし」と思います。(p143)
 (パラグアイでは)まだまだ本は「娯楽」ではなく,「教養」という感じがしました。(p155)

2021年11月20日土曜日

2021.11.20 和氣正幸ほか 『全国 旅をしてでも行きたい 街の本屋さん』

書名 全国 旅をしてでも行きたい 街の本屋さん
著者 和氣正幸ほか
発行所 G.B.
発行年月日 2018.08.27
価格(税別) 1,600円

● 全国の街の本屋さんが紹介されている。本にするわけだから,どこにでもある本屋ではなくて,絵になりそうな,読者の目を引きそうな本屋が選ばれるのは仕方がない。品揃えに特徴があるとか,開店の理由が変わっているとか,絵本専門とか,読者との交流を積極的に展開しているとか。
 関西だったらホホホ座とか恵文社一乗寺店がトップに来る。

● 栃木県からは内町工場(益子町)と風花野文庫(宇都宮市)が掲載されている。どちらもぼくは知らなかった。新刊書店ではないようだ。地域密着というか,店側が客を選ぶというか,そういう側面が自ずとできているのかもしれない。
 「地元の大きな本屋さん」も紹介されていて,栃木県からは「BIG ONE BOOK STORE」と「うさぎや」。「BIG ONE BOOK STORE」は13店舗を構えるらしい。氏家店はぼくの行きつけのひとつ。といって,あまり買わないのが申しわけない。

● 「うさぎや」は喜連川にあった小さな本屋だった。半世紀前に行ったことがあるが,失礼ながらもう潰れていると思っていたら,とんでもない。16店舗を展開しているらしいのだ。
 ぼくは宇都宮駅東店と自治医大駅前店しか知らないのだが,どちらも基本を押さえて,独自の特徴を出そうと試みている印象。宇都宮駅東店では “ほぼ日” の書籍を取り扱っている。
 自治医大駅前店は,県内随一の富裕&知識人層が住んでいるエリアだからだろうが,理工系の専門書から児童書まで圧巻の品揃え。ほぼ日手帳weeksも取り扱っている。

● 以下に2つほど転載。
 だけど,本の魅力はそれだけじゃない。本を手に取りページをめくると,それを買った時の記憶がふと,よみがえる。(p2)
 目的を持って本を探すのではなく,『何かないかな』と出会いを求める場にしたかったんです(p35)
 わざわざそうしなくても,書店というのは書店というだけでそういう場に最初からなっていると思うけど。

2021年11月15日月曜日

2021.11,15 カベルナリア吉田 『おとなの「ひとり休日」行動計画』

書名 おとなの「ひとり休日」行動計画
著者 カベルナリア吉田
発行所 WAVE出版
発行年月日 2018.11.15
価格(税別) 1,500円

● この著者のものはこれまでに4冊読んでいる。『日本の島で驚いた』『沖縄自転車!』『絶海の孤島』『旅する駅前,それも東京で!?』の4冊だ。
 それぞれに面白かった記憶がある。ので,本書も楽しみにして読み始めたのだが,何だこれは,と思った。“まえがき” からしてすでにつまらない。この本は読んでもつまらないから読むな,と語っている。

● それでも読み始めてみた。読み進めていくのにかなりの忍耐を強いられた。後半というか終わり3分の1は斜め読みにした。
 何なんだ,これは。やっつけ仕事にしてもやっつけの度が過ぎていないか。口に糊するためとはいっても,いいのか,こういうものを自分の著書として出しても。

● 以下に転載。
 戦前の東武鉄道は,山手線の外側を東武線の大きな輪で囲む構想があったそうだ。(中略)プツンと途切れる終着駅や盲腸駅は,そうした「果たされなかった先人の想い」を秘めていることが多いのだ。(p38)
 これはいい。こういうティプス的な豆知識を知るのも読書の楽しみのひとつだ。
 おとなの「ひとり休日」に廃線跡を歩くなら,(中略)敷設から廃線までその背景にあった社会事情にも思いを馳せたい。(中略)廃線が決まった背景に,大企業の都合や国策など「時代の事情」を背負っていた路線も多い。代表的な例が,北海道に数多く通っていた炭鉱鉄道。国のエネルギー政策転換により炭鉱閉山が相次ぐと,路線も次々に廃止された。その廃線跡を歩くと,国策に人生を左右された,炭鉱夫たちの顔さえも浮かんでくる。(p46)
 君は政治的にはリベラルなのかね。それは別にいいのだが,これは微積分まで知っている読者に掛け算九九しか知らない著者が,上から講義をしている図にならないか。こういう安直な情緒をどうして持ち込んでしまうのか。
 類まれなる才覚で築き上げた財と邸宅が,結局はお役所の管轄下に入ってしまったことも腑に落ちない。(p80)
 腑に落ちなかろうが何だろうが,もし国や都が税金で維持管理することにしていなければ,今頃は完全に朽ちてしまっていたろうよ。相続人がアホだったか運がなかったんだから,仕方があるまい。
 平和は当たり前に,そこにあるものではない。(中略)平和は努力なしには,いつまでも続かない。わずか半日だが戦跡めぐりを終えて,心の底からそう思った。(p123)
 小学生の作文か。こういう文章を読むために金を払わされるのか。いい加減にせんか。

2021年11月14日日曜日

2021.11.14 髙橋洋一 『髙橋洋一式 デジタル仕事術』

書名 髙橋洋一式 デジタル仕事術
著者 髙橋洋一
発行所 かや書房
発行年月日 2021.05.13
価格(税別) 1,400円

● You Tube の「髙橋洋一チャンネル」はチャンネル登録している。実際にはTwitterの告知を見て,You Tube に跳ぶことが多いのだが,ともかく見ている。
 井上ひさしに「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく,ふかいことをおもしろく,おもしろいことをまじめに,まじめなことをゆかいに,そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」というやや長い標語がある。前半部の「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく,ふかいことをおもしろく」が広く膾炙しているが,時事問題について難しいことを易しく語っている。それができるのだから,頭がいい人なのだ。

● また,著者はガジェット好きでも知られる。特にアップル製品はほぼすべてを所有している(いた)らしい。
 そうした話も出てくるのかなと思って本書を読んだが,その話は出てこないのだった。タイトルどおり,仕事術の話になっている。

● 以下に転載。
 スマホがあれば,ほぼ全部の仕事ができてしまいます。(中略)スマホを活用すれば,鞄も書類も持ち歩く必要はないので,身の回りがすっきりとします。(p2)
 散布図はデータ分析の基本です。(中略)データ分析のスキルはデジタル仕事術の根幹です。データ分析ができなければ,仕事のツールが神やペンからスマホに置き換わるだけで,これまでの仕事のやり方とあまり代わり映えはしないでしょう。(p5)
 2020年10月から「ユーチューブ」で新しいチャンネルを始めました。(中略)やってみた率直な感想は,「新しいことを試してみるのは,いいものだな」。(中略)でも,私がやっていることは,ほぼ雑談。(p12)
 私は,仕事と趣味を完全に分けて考えていて,「仕事はロジカルでなければ通用しない」と思っていますが,映画は,楽しくて荒唐無稽なほうが好きです。映画にあまりロジックを持ち込んでほしくありません。(p13)
 自分のチャンネルを持つ前は,他の人のユーチューブ・チャンネルに出演者として出て出演料をもらっていました。自分でチャンネルを初めてみると,その十倍以上にもなるような広告料が入ってきて,ビックリしました。(中略)芸能人がテレビへの出演から,自分のユーチューブ・チャンネルに移っている理由がよくわかりました。チャンネルを持った芸能人は,広告代理店や芸能事務所にいかに搾取されていたのかがわかってしまったのではないでしょうか。(p17)
 ユーチューブは,間に入る人が必要なくなることを実感させてくれます。わかりやすく言えば,「中抜き」をして食べている人は,もういらなくなるということです。広告代理店や芸能事務所など「中抜き」をしていた人たちは,儲からなくなっていくはずです。マスコミもやっていけなくなります。(p18)
 ネタ元から情報を聞いて流す人は,存在価値がなくなっていきます。デジタル時代には,自分がネタ元になることが,ますます重要になるはずです。(p20)
 データ分析ができれば,独自のネタを生み出して,ネタ元になることができます。(p20)
 オンライン会議はスマホを使っています。スマホは,もともと携帯電話ですから,音声通話を前提に作られています。ハンズフリーの会話もできるようになっています。(中略)なぜか,パソコンでやろうとするので不思議です。ホストでなければ,スマホのほうが便利です。(p31)
 Simplenote は,パソコンで書いても,スマホで書いても,すぐに同期してくれます。(p36)
 ぼくも Simplenote をインストールしてみた。Android と Windows に。けれども,現時点ではあまり使っていない。Google Keep で同じことができるので,専らそちらを使っている。
 ツイッターとフェイスブックは毎日のように使っていますが,ほぼ「お知らせ」用です。(中略)ちょっとしたメモ代わりにツイッターを使うこともあります。(中略)ツイッターに自分の意見を書く人が多いようですが,私は,データを知りたいほうですから,意見や主義主張にはほとんど関心がありません。(p43)
 そもそもの話として,大学で教師をしているのであれば,「これについて90分講義してください」と言われたら,どんな状況であっても講義できるくらいにしておかないと,授業になりません。直前に調べ物をしているような先生は,先生自身が内容について未消化あるいは消化不良ですから,学生はそんな教師の講義を聞いていても,よくわからないだろうと思います。(p46)
 原稿は,前日の日曜日の夜12時までには送るようにしています。夜の9時くらいから書き始めますが,図表を先に作りますので,エクセルでの作業が2時間くらい。エクセルで作業しながら分析して,頭の中にストーリーができあがっていきます。(中略)図表を先に作っていくのは,実は,論文と同じ書き方です。私は,論文と同じ作法で書いているだけです。(p50)
 国際機関のレポートや海外の論文を読むときに,表とグラフを先に読みます。表とグラフだけを見れば,言いたいことの8割は理解できます。そこにエッセンスが詰まっているからです。(p54)
 私は官僚時代に新聞記者の人をたくさん見てきましたが,正直言って「情けないな」と思うことばかりでした。「ペーパーをくれ,ペーパーをくれ」と言うので,ペーパーを渡すと,「解説してほしい」と言ってきます。(中略)説明しても理解してもらえないので,私が記事を書いてあげたこともありました。(p56)
 余計な情報に邪魔されずに自分の頭で考えたいので,私は本をあまり読みません。特に,主義主張が書かれているであろう本は,まったく読みません。本を読むくらいなら,データを引っ張ってきて,自分で考えます。(p59)
 この法案で,最近面白い話が報道されています。法案に誤字が多いという記事です。「法案など読んだことがない記者がよく言うな」と呆れてしまいました。法案は国会議員も読んでいないのに,「誤字があったら審議拒否」という発言にも唖然としました。(p61)
 私は,大蔵官僚,財務官僚時代にいろいろな上司を見てきましたが,仕事のできる上司は,あっという間に書類を見てくれました。会議の前に数枚の資料を渡すと,パラパラと見て「はい,いいよ」と会議が始まる前に承認してくれました。(p73)
 小泉総理は,資料などまったく見ない人でした。黙って目を閉じて話を聞いているだけ。(中略)目を閉じて話を聞いていると,話がストーンと落ちるときがあるそうです。そうやって,小泉総理は決断をしていました。(p74)
 私は,円グラフを多用する人をあまり信用していません。人間の視覚認知においては,円グラフの面積の大きさを正確に比較することはできません。(中略)棒グラフにして並べたほうがはるかに認知しやすくなります。(p162)
 私の見る限り,多くの人はスマホにアプリを入れすぎです。(p184)
 いまや銀行というのは装置産業です。「システムが命」の業界ですから,システムのことがわかる人たちが幹部にならないと,話になりません。(p202)

2021.11.14 櫻井秀勲 『70歳からの人生の整え方』

書名 70歳からの人生の整え方
著者 櫻井秀勲
発行所 きずな出版
発行年月日 2021.03.20
価格(税別) 1,500円

● 高齢者,いかに生きるべきか,を説いた本はあまたある。今や高齢者はマスなのだ。大きな市場だ。そこに糸を垂れたくなるだろう。
 そのあまたある中で読むに値するものがどれだけあるかはわからない。つまり,そんなに多くはないのではないかと思っているが,櫻井さんが書くものは必ず読むことにしている。何せ,著者自身が90歳なのだから。それだけで説得力があるというものだ。

● おそらく,出せば一定の販売部数が見込める人だから,版元も安心して出せるのではないか。ちなみに,自身が起こした出版社から出している。
 ただし,読者側として,老人になってまで老人向けの本を読んでいるのは,そもそもどうなのよ,という感はつきまとう。けれども,読んでしまっている。

● 以下に転載。
 70歳のあなたに伝えたいことは,まだまだ楽しい人生はこれからだ,ということです。自分らしく生きるということでいえば,70代こそ,それを通しやすい時代です。義務も義理もなく,自分が望むことができる。(p5)
 そんな中でも,私は希望があると思っています。(中略)第二次世界大戦とその後の敗戦を体験したことで,人はそのように生まれついている,と私は思っています。(中略)それでも,人生は楽しむことができます。90歳の私でも,これからの楽しみがあるのですから,私より若いあなたであれば,「これから」がそれこそ,楽しみです。(p7)
 私は人相を観ますが,人相学で,若く見える人と老けて見える人のいちばん大きな違いは,口角,口の両側です。(中略)人を遠ざける人は,運も遠ざけます。昔から「笑う門には福来たる」といいますが,口角を上げると「笑顔」になります。「つらいときに笑っていられない」という人もいるでしょうが,私は,そんなときこそ,作り笑いでも,笑顔になることが大切だと思います。(p20)
 自分におきた辛いことを矮小化できればいい。小さなことだと思えればいい。それをするには意思の力が要る。性格というより意思の力だろう。
 その意思の力は,本来,誰もが持っているものだとも思う。それを地下から掘りだしてきて,思い切って使ってみることだと思っている。自分はこの歳になるまでそれができなかったが,どうにかして意思の力を発現させたいものだと思っている。
 私は毎年,誕生日にスーツを新調するようにしています。たったそれだけで,また1年長生きできる気になるからです。(p23)
 たしかに流行は繰り返されますが,それでも,まったく同じではありません。(中略)若い人が古いスタイルをすれば,それだけで新しくなりますが,古い人間が古いスタイルをすれば,古いだけになります。(p24)
 若々しく見える人というのは,そうでない人と比べて,変わることを楽しむことに長けているように思います、(中略)コロナ禍のような時代の変化というものにも臨機応変に対応できると,ネガティブな状況でも,ポジティブに変わることができます。(p26)
 自分ではどうしたらいいかわからないし,わからないことは,プロにお任せするのがいい(p28)
 彼女(デヴィ夫人)は,素敵なハイヒールを履いていました。(中略)80歳の女性が履けるヒールとは,到底思えません。(中略)彼女のいうには,健康法や痩身法など,いろいろやるより,ヒールの高い靴を履くだけで,スマートになれるし,スタイルも整うし,若さも保てるというのです。(p30)
 本当に大切なのは,どんな靴を履いているかではなく,颯爽と歩けているかということです。(p32)
 70歳になって,いちばん気をつけたいのは,「70歳らしくなる」ことです。(中略)若づくりをしなさい,というのではありません。(中略)でも,その逆に,70歳になったからといって,無理に70歳らしくしよう,などと思う必要もないわけです。(p33)
 どんなことでも制限がはずれていくのはよいことでしょう。けれども,それにもかかわらず,私たちは,知らないうちに自分で制限をかけていることがあります。そして,それによって,自分自身を窮屈にしてしまうようです。(p34)
 「若さと新しさ」はエネルギーです。元気のいい会社の経営者には,そのエネルギーがあります。(中略)経営者にとって大切なのは,貫禄を見せるより,エネルギッシュであることです。それは,経営者に限りません。どんな立場であろうとなかろうと,エネルギッシュな人は,若々しく,そのために人も運も集まってきます。(p35)
 まずは,背すじを伸ばして,よい姿勢を保つようにしましょう。それだけでも,背中の筋肉を鍛えることになります。(p38)
 食べすぎに注意しなければならないのは,せいぜい60代までです。70歳になったら,食べたいと思っても,それほど食べられるものではありません。(中略)「お腹がすいた」と思えることが,元気の源のように思うのです。(p48)
 80歳,90歳になっても元気な人は,総じて,よく食べます。それだけ行動しているから食べられる,ということだと思うのです。70歳を過ぎたら,お腹が減る生活を心がけましょう。(p50)
 夜型の私としては,ぜひ夜更かしすることをオススメします。(中略)たいていの人たちは眠っているわけですから,自分だけが起きているような気持ちで,すごすことができます。(中略)大事なことは,自分の時間を楽しむことです。自分の好きな時間に,好きなことをしていきましょう。(p52)
 深夜,ことに午前2~4時の空気は,しんと静まり返っています。この「しん」とは「神」を表し,仮に山の中であれば,神気の満ちる時間帯になります。私はこの時間帯の水を飲んで寝るのですが,これが私の体内を浄化するような気がします。(p67)
 私は老後とは,100歳からを指すと,勝手に思っています。私が出版社を起こそうと考えたのは,80歳のときでした。2011年--東日本大震災の年です。(p69)
 心に穴があいたのなら,それを埋めていきましょう。失恋を癒やすには,新しい恋愛を始めるのが一番です。(p74)
 思い悩むことを「悶々とする」といいますが,まさに心が内に入って,表に出られないのです。扉を開くには,どうすればよいのか。私は,まずは誰かに話すのがいいと思っています。(中略)誰にもいえないなら,独り言でも,効果があります。(p75)
 相手に対して,「そんなことではダメだ」と思うことでも,致命的なことでないなら,放っておく主義です。(p81)
 たとえ悪いことが起きても,いいところを見つけて,「あー,よかった」と思う。「よかった探し」は,いかに,その「よかったこと」を見つけるかの遊びなのです。(中略)そんなにつらいことでも,いいことはあるものです。(中略)どんなに恨んでも,状況は変わりません。むしろ気持ちは落ち込む一方です。それなら「よかった探し」をして,気持ちだけでも上に向けていきましょう。(p88)
 時間があると,つい余計なことを考えてしまいます。それもよくない可能性を考えるのが,私たちの脳の基本的なパターンです。(中略)その結果,考えが自然な身体の動きの邪魔をして,本来持っている力を発揮できなくさせてしまうのです。(中略)考えることは無駄にはならないと思ってしますが,それは,あくまでも戦略を考えるときに限ります。(p90)
 「禍も三年置けば用に立つ」という,ことわざもあります。禍も3年もたてば,幸せの糸口になる,という意味です。まさに,その通り。よく「明けない夜はない」といいますが,それは本当のことです。それが90年生きてきた私の感想であり,いま,あなたに伝えたいことです。(p96)
 70歳になったら,それまでのつき合いはなかったものと考えましょう。(p98)
 人の悩みの90パーセントは人間関係である,といっても過言ではないほど,人とのおつき合いというのは難しいものです。私は,ある程度の年齢になれば,そうした悩みからは解放されるものだと思っていましたが,じつは90歳になっても,そうではないことを感じざるを得ません。(p102)
 日本で,普通のサラリーマンをしていたら,とりあえずの年金がもらえます。(中略)そうであれば,もう無理をするのはやめましょう。せっかく70歳まで生きてきたのです。これからの年月は,我慢しないで生きたいものです。寿命が延びたといっても,折り返し地点はとっくに過ぎています。無理をしている余裕は,もうありません。(p104)
 新しい情報を得るというと,時代に乗り遅れないためにそれが必要だ,と考えるかもしれませんが,そうではありません。時代には,乗り遅れてもいいのです。なにも若い人たちに,無理に合わせる必要はないわけです。(p105)
 70歳になったら,そんな新しい情報を得ることで,元気が出てきます。やる気が湧いて,若々しさを取り戻します。情報は,ただ「知る」だけでいいのです。(p107)
 これから先,コロナが収束しても家族優先の生活は変わらないでしょう。これが「女性の時代がやってくる」ということなのです。(中略)仕事仲間と一緒にいる時間よりも家族と一緒にいる時間が多くなります。(p112)
 外でうまくいかないことがあったときには,それを家に持ち込むことは厳禁です。家に入るときには,ウイルスと不機嫌は,持ち込まないようにしましょう。(p114)
 言葉とは不思議なもので,「OL」という言葉が広まっていくとともに,実際に「OL」も増えていったのです。(p133)
 私は,この「はたらく」--「傍を楽にすること」を心がけていこうと思っています。「傍」の本来の意味は,「そばにいる人」です。(p136)
 仕事で大切なことは,断らないことです。あなたも,無理を承知でお願いしたことがあるのではありませんか?(中略)仕事であるなら,多少の無理はしたほうが得です。(p139)
 先のことがわからないのは,40代でも70代でも同じです。(p141)
 タダ働きはできるだけしないことです。それがトラブルのもとになることもあるからです。それを避けた上で,もしも経済的に困らないようなら,相手に得をとらせることも,70歳を過ぎたら,大切なことだと思います。(p144)
 70歳を過ぎたら,好きなものに囲まれて暮らしましょう。品物でも人でも,自分が「いいね!」と思えることが大切です。(p170)
 手相では健康運と財運は同じ線で観ます。つまり健康で長寿ということは,それだけ財運があると解釈するわけです。(p176)
 90歳になった私が,皆さんに伝えられるのは,「長生きするといいことがありますよ」ということです。(p196)
 私たちは誰もが,自分のあとを生きる人たちに,「あんなふうになりたい」と思ってもらえる生き方を見せなければなりません。(中略)私は,人生は明るく,楽しいのが一番だと思っています。足りないものを数えあげたらキリがありません。自分にあるものを,見つけることが,幸せな人生を送る秘訣ともいえます。(p197)

2021年11月6日土曜日

2021.11.06 夢枕 獏 『平成釣客伝 夢枕獏の釣り紀行』

書名 平成釣客伝 夢枕獏の釣り紀行
著者 夢枕 獏
発行所 講談社
発行年月日 2016.11.29
価格(税別) 1,600円

● 小説家の釣り紀行といえば開高健の『オーパ!』がまず思い浮かぶ。本書は『オーパ!』よりも知的で洒脱という言い方ができるかもしれない。
 おそらく,釣りの腕前は夢枕さんの方が上ではないか。

● 以下に転載。
 文士が山に登って,山の物語を書くという流れもあった。大町桂月とか,串田孫一とか,新田次郎とかね。文学と山の関係が密だった。(中略)だから苦労するのは当たり前。楽をするということは堕落を意味する,そういう風潮だった。その点,川旅は楽しいよね。(p24)
 川旅の楽しみとは何か。端的に言うと「自由」ということかな。(中略)山小屋だと「何時までに到着して何時までに出発してください」みたいな決まりがあるけれど,川の旅にはそういう窮屈さがない。(p29)
 火を見る楽しみって,人間の根源につながる喜びなのだと思う。それは,川の流れを見ているとココロア落ち着くことにも通じる。どこがいいのかと聞かれても答えるのが難しい,理屈のない喜び。(p30)
 初めての海外は,ヒマラヤだった。二十三歳のときかな。ある意味,その旅で僕の人生は狂ったね。人間,何をやっても生きていけるんだな,ということがわかってしまった。(p32)
 一番大きかったのは,「理想郷はどこにもない」ということがわかったこと。若い頃は,自分はどこにいるべきかがわからない。「もしかしたら,自分にとって,もっといい場所があるんじゃないか」そう思ってウロウロしたけれど,二十代の後半になってようやく,「自分の居場所は原稿用紙の前しかない」ということがわかった。それは大事な認識だった。だから旅に出ても早く家に帰って原稿を書きたいと思うようになった。(p32)
 小説の題材を探すには,近道はないと思う。自分がすきなことを続ける,これしかない。(中略)書いているうちに,書きたいものが増えてきて,四十歳のときに計算したら,僕の頭の中にあるアイディアを一生のうちにすべて書き尽くせないことがわかりました。(p37)
 体を使って,魚という実体のあるものを釣っているけれど,基本的に頭の中の作業でイメージの世界です。(中略)想像力が働かないと釣りにならないんです。(p43)
 誰も正解を教えてくれない。その,正解がないことを楽しむんです。(p45)
 釣りの楽しさのひとつに「いきなり本番に臨める」ということもありますね。例えば楽器を演奏するとき,いきなり本番ということはあり得ないでしょう。(中略)ところが釣りは,どんなに下手でもいきなり本番に入れる。僕はトレーニングの時間があるとダメなんです。(p51)
 生きていると,辛いことや苦しいこともたくさん経験してくるわけだけど,そういう人生経験の引き出しが豊富な人ほど,キングサーモンと対決するときに強いと思いますね。掛けるまでは,いろんなテクニックも必要なんだけど,一度掛かって一対一の戦いになったら,そこから先はテクニックではない。自分の存在すべてを懸けて,真っ向から勝負を挑まなければならない。ちょっとでも弱みを見せたら,負けそうになるんですから。(p67)
 釣りの醍醐味はパニックになれるところにあると,僕は思っているんです。(p69)
 僕にとって釣りは,世界を認識するためのひとつの方法です。竿は世界を知るためのアンテナといってもいい。だから,旅に出ると,必ず竿を出してみる。(p87)
 フライフィッシングを始めてから,イギリス人が世界にどんな影響を与えたのか,わかるような気がしました。(中略)冗談抜きで,フライフィッシングがわかると,イギリス人がわかる。(中略)僕の釣り人生の中で唯一,縛られる釣りであり,縛られることが不愉快でない釣りがフライです。(p97)
 フライをやる以上,フライのルールのもとに身を置かなければならない。(中略)「軽かったらオモリを付ければいいじゃないか」という安易な妥協をかたくなに拒否して,それで成立させているんだから,すごい。(p99)
 釣りは,自分のイメージ通りに釣れてこそ快感なのであって,偶然とか,たまたま釣れるのは嬉しいけど悔しいんだよね。フライは特にその傾向が強い。(p101)
 この物語で書いてみたいテーマは,“幸せな人間は旅には出ない” ということですね。命がけで旅に出るということは,満たされない思いを抱えているから。(p109)
 僕が想像するに,何もかも自分の思い通りになる人生って,一番つまらないような気がします。(p116)
 僕が自分の釣り小屋を作った動機は,「自分はこれとこれをやるために生まれてきた人間だ」ということがはっきり見えたことでした。(p117)
 フジモリ氏が別荘を三軒建てたという話を聞いたとき,実は「はるほどな。よくわかりますよ,その気持ち」と思いました。どういうことかというと,別荘を一軒建ててみると,理想と現実のギャップがよく分かるんです。(中略)そうした経験でわかったことを実証するために,二軒目がほしくなるんです。(p125)
 アラスカで釣りをやるときは,まだ人間が作ったルールの範疇に収まっている感じがするんだよね。(中略)その点アマゾンは,(中略)ルアーを投げたら,あるいは釣り糸を垂れたら後は,出たとこ勝負する以外にない,みたいなところがある。(中略)得体の知れない,何か未知の世界に向かって釣り糸を垂れているような感じがするんです。(p135)
 釣りに出かける時も,しめ切り近い原稿を抱えてゆく。仕事で出かける時も,バッグの中には竿をしのばせてゆく。(中略)当初は,仕事を終わらせて釣りに--などとがんばったこともあったのだが,これがかえってストレスになることがわかった。(p188)