2019年10月27日日曜日

2019.10.27 出口治明 『早く正しく決める技術』

書名 早く正しく決める技術
著者 出口治明
発行所 日本実業出版社
発行年月日 2014.05.01
価格(税別) 1,400円

● 数字,ファクト,ロジックを踏まえて,自分の頭で考えること。それ以外の余計なこと(EX:あの上司の好みからすると・・・・・・)を考えない。業界の常識も余計なことのひとつ。
 その3つで決められないときは直感を信じること。決めないで先延ばしするのが最もよくない。ということが説かれている。

● 以下に転載。
 そもそも人間の意識は,その育った社会の常識を映す鏡に過ぎません。(中略)すなわち,民族の特徴などというものは,およそこの世に存在しないのです。人間は,ホモ・サピエンスという同じ種なのですから。(p13)
 「迷ったら,どちらのほうがベネフィット(便益)(がたかいかを考える」のは仕事の鉄則です。事業にとってマイナスのものを選ぶ理由は何ひとつありません。(p24)
 決断ができないと思っている人は,意思決定と,提案を通すこととの区別がついていません。(p31)
 新しいことをやって,誰からも足を引っ張られない話なんて世界中どこでも聞いたことがありません。池に石を投げ込めば,必ず波紋が生じるのです。「新しいことをやる」ことは,「既存勢力に嫌がられる」ことと同義です。(p35)
 イチかバチか賭けてみるか,という発想はビジネスでは絶対にダメです。これは「とってはいけないリスク」です。(p37)
 算数に直すこのができるものは,他の言語で表現することもできるはずです。(中略)一方,日本語でなんとなくわかったような気分になっても,よく考えられていない意見であれば,他の言語に訳すことができず,相手には通じません。(p63)
 データにあたる場合,基本的に他人の意見は無視すべきです。数字,ファクトだけを見るのです。(p69)
 数字は,それ自体ではあまり意味を持ちません。他の数字と比べることでファクトが浮かび上がり,自分のアタマで考えることができるようになります。(p71)
 たとえば「お客様の声」は,統計処理をしてはじめてファクトになります。トップが,「こんなお客様の声を直接聞いた」からということで,なんらかの意思決定をし,社員に指示を出すということはありがちですが,経営にとっては,おそらくあまりいいことではないと思います。(p76)
 どちらのロジックでより正しい解にたどりつくかは,「どちらがより多く変数を持っているか」で決まります。(中略)意見の相違のほとんどは,x(変数)の数の相違です。(p78)
 幹に問題があるのか枝葉に問題があるのかをごっちゃにしないことが大切です。幹となるロジックをしっかり組んでいれば,枝葉を修正すればいいはずですが,いつのまにか枝葉を幹のように捉えてしまい,(中略)全部やり直しをしなければいけないように感じたりしてしまうのです。(p100)
 岩盤まで掘り下げて考えたことなら自信が持てますから,意思決定は簡単です。しかし,ほとんどの人は,「一般的な社会常識と思われていること」や「過去の実績」「周囲の人の意見」といったところをベースに考えはじめてしまします。(p105)
 社会常識・社会通念は地面(地表)であって,そこからスタートするのは「ラクをしている」ということです。岩盤は地表のはるか下にあります。(p166)
 その道のプロや世慣れている人ほどスタート地点が腰高になる傾向があります。掘り下げて考えることを省略し,前提を疑わなくなるのです。一方,素人は何もわからないのでとことん調べます。掘り下げて考えるのです。(p106)
 「各部門がもっと頑張れば,昨年より10%は売上が上がるはずだ」といった「根拠なき精神論」で計画を立てているから,PDCAサイクルが回らないのです。(p112)
 物事を決めるためには,ダラダラと考えていればいいわけではありません。まずは締切りを設けることです。その日までちゃんと考えれば,たいていは結論が出ます。(p127)
 捨てるときには,捨てるべきものを探すことからはじめるのではなく,捨てる総量をまず最初に決めるべきです。(p130)
 どの職場や人間関係も世界にふたつとないものなので,一律のルールなど実はどこにも存在しません。すべてはケース・バイ・ケースです。それが,マネジメントの本質なのです。(p134)
 「忙しいのに,よく続けられますね」と言われますが,執筆する時間のルールを決めてしまえば,意外と簡単に続けられます。「時間がなくてできない」と言う人は,ルールを決めておらず,たとえば,「時間が空いたらやろう」と考えているからできないのです。(p135)
 本当に重要なことだと思ったら,言い続けなければいけません。こちらが一所懸命言っても,人は意外と聞いていないもの。(中略)もうひとつ,仕組み化が大切です。言い続けるだけでは人は動きません。「数字・ファクト・ロジック」で考える習慣をつけさせたかったら,考えざるをえない環境を作るのです。(p136)
 決めるのがリーダーだと言う人もいますが,僕はそう思いません。リーダーは方向性を示す人であって,なんでもかんでも決めるのがリーダーではありません。(p141)
 上司に「どうしましょうか?」と聞くのは,考えていない証拠です。考えす,したがって決断できないというのは,仕事をしていないということです。そういう部下がいたら,上司は決して,その部下の代わりに決めたりしてはいけません。(p143)
 ライフネット生命のマニフェストを作るときは,パートナーの岩瀬と徹底的に議論を重ね,それをプロのコピーライターの方に文章化してもらいました。自分たちで書くとどうしても感情的・主観的になってしまうと考えたからです。(p150)
 最初から完璧を目指せるほど,人間は賢くありません。時間をかけて考えればいいアイデアが出てくるわけでもありません。岩盤まで掘り下げて考えることは必要ですが,いつまでも考えていてはダメなのです。(p154)
 失敗したくなからと他社や過去の成功事例などにとらわれないようにしてください。そもそも,人のマネをしてベンチャーが勝てるはずがありません。人と違うことを考えて,実行して,失敗もするけれど,それでようやく大企業に勝てるものが見つかる可能性が生じてくるのです。(p155)
 トライアル&エラーで大切なのは,「小さく生んで,大きく育てる」ということです。(p160)
 「愚痴を言う。人を羨む。人に褒めてほしいと思う。人生を無駄に過ごしたかったらこの3つをどうぞ」という言葉を先日ツイッター上で見かけました。(p173)
 失敗するのが怖い人には,「失敗すれば多数派」という言葉を贈りたいと思います。(中略)ただし,行動しなければ絶対に成功はありません。(p174)
 フランスでは,「カップルが喧嘩をしたら星を食べに行け」と言われているそうです。ミシュランの星付きのレストランに行って食事をすれば,仲直りできるという意味です。(p179)
 ちょっとしたブレイクを入れるだけで,いつもの自分を取り戻すことができます。冷静さを失いそうになったときは,時間の助けを借りることが最もいい処方箋です。(p180)

 僕はいつも古典を読むことをすすめています。昔から現代まで多くの人に読み継がれている古典は,超一流の人が書いたものです。何事であれどうせ誰かに教えてもらうのなら,超一流の人に教えてもらったほうがいいに決まっています。(p184)
 賢くないだけでなく,人間はとても不器用な動物です。簡単なことも,人に教えてもらって,訓練してはじめてできるようになります。(中略)「考える」ということも,人から教わる必要があります。このとき,誰にでも教わればいいというわけではなく,教えるプロにおしえてもらったほうが,早く上達します。(中略)身近にそういった人がいればいいですが,いなければ本を読みましょう。(p188)

 生きがいとは何なのか。僕は「世界経済計画のサブシステム」と呼んでいます。この世界をどのようなものとして理解し,どこを変えたいと思い,自分はその中でどの部分を担うのか,ということです。(p202)

2019年10月26日土曜日

2019.10.26 出口治明 『座右の書 『貞観政要』』

書名 座右の書 『貞観政要』
著者 出口治明
発行所 KADOKAWA
発行年月日 2017.01.13
価格(税別) 1,500円

● “人間通”という言葉があった。唐の太宗はまさしくその人間通であったのだろう。本書の著者の出口治明さんも。
 リーダーだから,人の上に立つから,ということとは関係なく,上手に生きるという実利を得たいなら,本書を読んでおいて絶対に損はないと存ずる。

● 以下に転載。
 ぼくは,前職の時代から,現在に至るまで,リーダーのもっとも重要な役目は,「スタッフにとって,元気で,明るく,楽しい職場をつくること」だと考えています。(中略)元気で明るく楽しいワクワクする職場こそが,イノベーションを生み出す前提条件です。組織として生産性を上げていこうと思ったら,「元気に,明るく,楽しく」以外に解はない。それが結論です。(p6)
 どうして古典に難しさを感じるのでしょうか。それの理由は,時代背景が違うからです。僕は,古典を読む前に,その古典が書かれた時代の背景を知ることがとても大切だと思っています。(p27)
 僕は,昔の歴史を大きく動かす要因が2つあると思っています。ひとつは気候の変動,もうひとつが,それに伴う人の移動です。(p27)
 李世民は,歴史は残るという前提の中で,理想のリーダーを演じようと考えました。「演じる」というと,表面的に聞こえますが,そんなことはありません。リーダーを演じるとは,自分のポジションに対して深く自覚することです。(中略)自分の立ち位置を確認し,それに見合った振る舞いを演じ続けていれば,それはやがて,その人の本性になると思います。(p65)
 僕は,組織の強さは,資産運用と同じでポートフォリオ(人材の組み合わせ,配置)によって決まると考えています。つまり,誰に何を担当させるかを決めた段階で,その組織のパフォーマンスはほとんど決まるのです。(p85)
 僕は,「どんな組織も,上に立つ人の器以上のことはできない」と考えています。(中略)では,上に立つ人が器を大きくすれば組織は強くなるのかといえば,そうではありません。そもそも,人の器のおよその容量は決まっていて,簡単に大きくすることはできないからです。(中略)しかし,器が大きくならなくても,自分の器の容量を増やす方法はあります。それは,器の中身を捨てることです。(中略)自分の好みや価値観など,こだわっている部分をすべて消してしまうのです。(p88)
 上司は,部下の権限を代行できない。これが,権限を付与するときの基本的な考え方です。ひとたび権限を委譲したら,その権限は部下の固有のものであり,上司といえども,口を挟んではいけません。(p95)
 人間は「見たいものしか見ない」,あるいは「見たいように都合よく現実の世界を変換してしまう」という習性を持つ動物です。(中略)見たくないものを見ないのは,人間に備わった自衛の手段かもしれません。なぜなら,見たくないものを見なければ,それはなかったことと同じなので,心の平静を保つことができるからです。(p104)
 自分の職務(職能)に関係があるものとないものの範囲を正しく理解して,関係がないことは聞かない。見ない。そして,口に出さない。それが,部下を伸び伸びと働かせ,かつリーダーが心身の健康を保つ最善策です。(p106)
 リーダーの大事な仕事のひとつは,「事情がわからない中で右か左かの判断を迫られること」です。そのときのためにも,情報はたくさんあったほうがいい。だからリーダーは,相手を選ばずに人の話に耳を傾けるべきです。(p113)
 直言してくれる人間がいないと,忙しい上司は絶対にゴマすりには勝てない(p128)
 部下は,上司の表情を観察しています。上司が不機嫌な表情をしていると,部下は寄ってこないので,情報が入ってこなくなります。情報が入ってこなければ,正しい意思決定を行うことはできません。(p133)
 上司になって最初にやらなければいけないことは,たっぷり食べて,たっぷり寝ることです。(p134)
 叱る回数よりも,ほめる回数が多いほうが,間違いなく,部下は成長します。部下にとって,上司の存在が労働条件そのものであり,すべての労働条件でもあるわけですから,上司はいつも機嫌がいいほうが,組織は間違いなくうまくいくと思います。(p135)
 リーダーと特定の部下が,ヒソヒソ話を好んでいるかぎり,正しい判断を下すことはできません。(p144)
 天子は,その人格がドロドロと濁っていてはいけない。かといって,輝くほと澄んでいてもいけない。(中略)清潔すぎると,人を受け入れられなくなる。(p170)
 「人間はちょぼちょぼであり,どんな人間にも欠点がある」ということがわからない人が上に立つと,思いやりを欠き,まわりは息苦しくなってしまうばかりです。(p172)
 ほんの少し工夫をすれば,感情が振れたときに,心をフラットな状態に戻すことができます。もっとも効果的な方法は,「寝る」ことと「寝かせる」ことだと思います。寝るとは,睡眠を取ること。寝かせるとは,時間をおくことです。(p175)
 大惨事に見舞われたときなどの緊急事態では,一般にリーダーは「不眠不休で対処する」のが正しいと思われていますが,僕の考えは,まったく違います。大惨事のときこそ,むしろぐっすり寝て,しっかり食べて,体調を整えるべきです。(p176)
 何事であれ,アウトプットをするときは,メモを取ってキーワードを残すより,文章にしたほうがいいと思います。キーワードだけだと,時間が経つにつれて忘れてしまいます。文章に書き起こし,一つの文脈として覚えたほうが,記憶に残りやすいのです。日記よりブログなどが優れているのは,誰かに読まれることを想定するので,より文脈が整理されるからです。(p187)
 人と交わらずに,自分ひとりで考えたところで,正しい判断はできません。(p188)
 忙しく働かせると,部下の不平不満を助長すると思われがちですが,むしろその逆です。やることがなく暇な職員ほど,不満を口にします。(p188)
 いくら隠しても,上司の感情は,部下に筒抜けになっています。つまり,好き嫌いを隠すことに意味はない,ということです。(p199)
 僕は基本的には,どんな部下でも信頼したほうが得だと考えています。(中略)信用すれば信じてもらえるし,疑えば誰も信用してくれない,ということです。部下を信用しない上司は,部下からも信用されません。(中略)部下が自分のことを信頼してくれているから,自分も部下を信頼するのではありません。順番が逆です。(p199)
 議論の場では,たとえ相手が先輩でも気を遣ってはいけない。八方美人になってその場を丸く収めようとはしない,ということがとても大切です。(p204)
 農業のことは農民に任せ,商業のことは商人に任せ,軍のことは軍人に任せる。本当に大事なことだけを自分で決めて,それ以外のことは専門家に任せ,託し,委ねたほうが得策であると考えたのです。太宗は,「あなたたちに任せたので,いちいち自分の裁可を仰ぐな」と考えていました。(p211)
 みなすべて,人材をその時代の中から採用したのである。今の世にかぎって,才能のある人物がいないということがあろうか。(p213)
 僕は,前職時代に,一度も人事に固有名詞で要求を行ったことはありませんでした。なぜなら,固有名詞で部下を選ぶことは,組織を私物化することであり,フェアではないと思っていたからです。(p215)
 法律があまりにも複雑で不明瞭だと,役人が都合のいいように解釈してしまいます。(中略)国の法律も会社のマニフェストも,シンプルで,わかりやすく,簡単で,煩雑でないようにすべきです。(p222)

2019年10月20日日曜日

2019.10.20 出口治明 『0から学ぶ「日本史講義」中世篇』

書名 0から学ぶ「日本史講義」中世篇
著者 出口治明
発行所 文藝春秋
発行年月日 2019.06.15
価格(税別) 1,400円

● 「週刊文春」の連載をまとめたもの。これだけのものを連載してるんだから,週刊誌を侮ってはいけないんですよね。「週刊現代」には伊集院さんのエッセイが連載されているし,その昔は田辺聖子さんも「週刊文春」に長く“カモカのおっちゃん”を連載していたし,かつての「週刊新潮」には山口瞳さんの「男性自身」があった。
 この本で啓蒙されるところはまず,平清盛。鎌倉幕府は清盛が作ったグランドデザインをなぞったようなものという。宋銭を大量に輸入して日本経済をテイクオフさせた功績も。
 足利幕府では義教,義政の再評価。ぼくらが教科書で習ったのとはだいぶ違っているようだ。

● 以下に転載。
 こういうしっかりした,絶対的な体制をつくってしまったら,頼通の兄弟たちはもう争う余地がなくなるのです。お父さんが兄貴に位を譲って後見しているわけですからね。そうすると,これまで親族同士でバトルロワイヤルを行ない勝者が地位を得てきたという,藤原氏の野生のエネルギーが消えてしまう。(p18)
 中世を通じて朝廷の行政機構は整理・縮小が進みましたが,それは大国,中国を真似た律令制をわが国の身の丈に合わせていくプロセスでもありました。(p24)
 お金は大量に供給されないと,お金の意味がみんなにはわからない。そこへ,平清盛の英断によって宋銭が大量に輸入,供給され始めます。(p33)
 地方の在地の人間が武士となり,その後に京都に上ってきたのではなく,京都の有力な権門が用心棒を雇ったのが武士の始まりだ,というわけです。(中略)都の支配階級の古い体制を突き崩していこうとするダイナミックな民衆の尖兵というよりは,武士は権力者側の一員であり,軍事貴族と呼ばれるのにふさわしい存在だったようです。(p36)
 その繁栄を支えた財力は,砂金と十三湊を拠点とする大陸との北方交易によるものでした。平泉は人口で京都に次ぐ大都市だったといわれており(p45)
 後ろ盾の鳥羽院を失った信西が自分の権力を維持するために,この際,邪魔者を全部潰してしまおうと挑発したのが保元の乱だと理解したほうがいいと思います。(p56)
 熊野は障害者を排除せず,むしろ障害を取り除く効能が期待されたところでした。また女性にも門を開き,女院から一般の女性まで貴賤を問わず参詣していました。(p67)
 清盛の強みは何かといえば,まず経済力が圧倒的だったことです。(中略)その富を築くうえで何よりも重要だったのが,日宋貿易を押さえていたことでしょう。貿易はすごく儲かります。(p75)
 鎌倉幕府の骨格といわれるものは,全部清盛が作っているんですね。それが,日本最初の武家政権は平氏政権であるといわれる所以です。(p82)
 源頼朝の配下を見ると,実はほとんどが板東八平氏。あの平将門の乱で出てきた平氏の末裔の有力氏族です。つまり源氏ではないのですね。(p84)
 頼朝は,甲斐源氏を倒し,従兄弟の木曾義仲を殺し,叔父の行家や弟の義経,範頼を殺して権力を握ったわけで,単なる「源平の争い」ではない。(p101)
 白拍子が異性の恰好をして踊るというのは,面白かったでしょうね。異性による女装や男装はアメノウズメから始まって,白拍子で一つのピークを迎え,今の歌舞伎の女形とか宝塚の男装に脈々と生きていると思うのです。(p106)
 注目すべきはこの十三人の中に源氏は一人も入っていないということです。板東平氏や藤原秀郷流,京都から下向した官人の集合体ですから,鎌倉幕府の実態は第二平氏政権といってもいいですね。(p109)
 鎌倉幕府は安定しているどころか,十三人衆など,頼朝時代からの重臣を北条氏が次々と葬っていく歴史ですよね。(p110)
 荘園公領制がもたなくなって貨幣経済が行き渡ったのに,幕府はあくまで土地本位制にしがみついていたのでミスマッチが生じて統治がうまくいかなくなったというのが,北条氏が滅んだ一番の原因じゃないかと思います。(p133)
 鎌倉時代の主流が旧仏教であったことを物語るもっとも分かりやすい例は,モンゴル戦争の時に異国降伏祈禱を行った主体が旧仏教であったことや東大寺の再建でしょう。(p161)
 朱子学は,北の遊牧民に追われて江南に移った,劣等意識を背負ったエリートがつくり上げた悲憤慷慨の理論体系です。軍事的,外交的に負けているからこそ,自分たちの民族的,文化的な優越性と正統性を唱える漢民族のナショナリズムが生まれてきたのです。(p179)
 朱子学んはモンゴルのグローバル政策に乗り遅れた人々のうっぷん晴らしという一面がありました。(p180)
 尊氏は迷いの多い人でした。(p197)
 連歌会とは,集まって歌を詠んではその歌の出来具合に金銭を賭ける遊びです。お茶の寄合いというのも,いまの茶道とはまったく別の,闘茶,茶勝負が中心です。お茶を持ち寄って,どこのお茶か味見をして当てることにお金を賭ける遊びです。(p200)
 義満の特徴は自分の権力の大きさを「見える化」したことです。(p217)
 先生(二条良基)が超一流なら,義満もまたメチャ優秀な生徒でした。貴族社会は儀式の世界であり礼儀作法の世界です。鎌倉幕府が自分たちは軍事警察権に特化して,政治については朝廷でどうぞといっていたのは,煩雑な儀式を覚えて朝廷を取り仕切るのが面倒だったからでしたよね。でも,義満はその煩雑なことを軽々とやってしまうのです。だから公家の世界にも君臨できたんですね。(p220)
 明使引見の席の配置や服装,詔書の開き方などの記録が残っていますが,それを見ると義満は全くペコペコせずに中国の使節を迎えている。まるで朝貢してきた異国の使節を謁見するような感じでした。(中略)国内政治では「中国皇帝を後ろ盾とする権威」として「日本国王」の称号を使った形跡がまるでないのです。ここからも「義満は皇位簒奪を意図していた」という説は否定されるわけですね。(p226)
 猿楽は当時の庶民にとって親しみのある大人気の大衆芸能でした。それを世阿弥たちは貴人や教養人にも受容されるよう,積極的に洗練させていったのです。(p231)
 足利義満ですら富士の遊覧までしか行けなかったのは,その先は俺の管轄やないという意識があったわけです。足利幕府は,日本を東西に分けて統治する政権構造でした。じゃあなぜこれほど大きな権限を鎌倉公方に与えたのかといえば,南朝とのごたごたのせいです。(中略)守護の権限が肥大化していったのと同じ現象ですね。(p242)
 六代将軍足利義教は,業績からいえば僕は義満や信長に並ぶ存在じゃないかと思っています。義教のニックネームは「悪御所」でした。悪には善悪のワルという意味だけではなく,強い,魅力的であるという意味もあります。(p247)
 鎌倉公方足利持氏は,「くじ引きで選ばれた将軍だ」と侮っていたのですが,選ばれた義教自身は「神様が俺を選んでくれた」と思っていました。(p247)
 義政は政治を疎かにして文化事業ばかりやっていたといわれていましたが,実はそうではありません。(中略)たとえば勘合貿易にも積極的でした。(p254)
 ズバリ言えば,山名宗全がこの先これほどの大戦争になるとは思わずに,畠山義蹴に加勢したことが応仁の乱の一番の原因です。ただ,ひとり宗全だけではなく,この戦いに参戦してきた武将たちは皆大乱の結末を考えていなかったのです。そういう意味では,これは第一次世界大戦に似ています。(p257)
 室町時代は,南北朝の戦いにはじまり,観応の擾乱,享徳の乱,応仁・文明の乱など戦争ばかりしていたように見えなくもありません。しかし実はこの時代に,今日の日本文化のほとんどが生まれたのです。(p260)
 両者(北山と東山)を比べると東山文化のほうが圧倒的に豊かだといわれています。政治権力と文化のピークには何故かタイムラグが生じるのです。(p261)
 茶の湯や連歌の会は,「会所」と呼ばれる,集会所で行われました。「会所」に入ったら社会で差別されている人々も一切身分の差はないという約束事ができていました。(p263)
 この一揆の構成員になる条件は,「家」の主人であることでした。主人持ちの小作人ではなく,自分の田畑を耕す小農民や,小領主など,社会各層で生まれた「家」の代表者たちによって様々な一揆が結成されたのです。(p270)
 実際には王直という後期倭寇の統領で平戸や五島列島を拠点にしていた中国人が「鉄砲は内乱中の日本でめちゃ需要があるで」と日本に持ち込んできたのでした。そこで劇的に演出するために,自分の船にポルトガル人を乗せてやってきた。(p290)
 奈良時代にかけて幼くか弱い天皇を元明や元正といった優秀な女性上皇が後見する体制が続きました。かつては奈良時代の女性天皇は「男性天皇の間の繋ぎ」という視点で説かれていましたが,実際には上皇として長い期間,強い権力を握り続けていたのです。この「天皇より強い上皇」というポジションを放棄したのが,嵯峨天皇でした。そのきっかけになったのが,八一〇年の「平城太上天皇の変(薬子の変)」です。(中略)嵯峨天皇は自身が譲位するときには,太上天皇の大権を自ら放棄しました。ここから「上皇は政治に関わらない」という先例が生まれ,代わりに外戚が力を振るうようになったのです。(p300)
 朱印船でタイへ渡った山田長政は,日本では別に有名な家の出でもないけれど,タイに行って陸軍の次官ぐらいの地位を得ましたね。普通の人でもそれだけの活力があったのだから,この時代にどんどん海外に進出していれば,今の東南アジアの華僑のように,和僑の世界ができていたとも考えられますね。(p324)

2019.10.20 長谷川慶太郎 『2020 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2020 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2019.10.31
価格(税別) 1,600円

● 長谷川さんの遺著。小気味のいい解説に接することが,これ以後できなくなる。謹んで拝読いたす。

● 現時点でのトピックだと,河野防衛大臣が習近平総書記を国賓で招くことに反対を表明している件。日本がそういう話をした後でも,中国海軍や空軍による領海,領空侵犯的な行為が絶えない。
 この状態で習近平首席を国賓で招くのはいかがなものかと,安倍首相に諫言するとかしないとか。それに対する賛意もTwitterなどにけっこう見られる。骨のある大臣だ,と。
 しかし,そのことだけに固着して他を見ないと,国益を損なうかもしれない。防衛省の部分最適と日本国の全体最適は一致しない。安倍首相が正しい。
 という言い方はもちろんしていないのだが,そう読める箇所もある。簡単に沸騰せず,全体を視野にいれながら部分を掘り下げて,なるほどと思わせる見通しを示す。
 これを読むことができなくなったということなのだ。

● 全体として,アメリカのトランプ大統領に辛口の評価。欧州(取りあげているのはドイツとイギリス)はどうでもいいという感じ。
 かつてのように,中国は近い将来に内戦状態になって大中国はなくなるという予想は撤回したようだ。習近平を評価しているように思えるが,かといって米中貿易戦争において中国に勝ち目はないと見ている。
 アメリカ抜きのTPPを取りまとめて発足させた安倍首相の大局観と手腕を高く評価する。日本外交史に残る成果だと。
 このとき,アメリカが抜けたTPPに何の意味があるのだと突っかかっていた民主党(当時)の役立たずがいたけれども,そういう議員はそもそも長谷川さんの視野には入っていないようだ。
 小池東京都知事が誕生したばかりの頃,小池知事を評価していた,っていうか,石原元知事への反発が小池知事への評価につながっていたのかもしれないが。今,ご存命なら何て言うだろうかね。

● 以下に多すぎる転載。
 実体経済が振るわないなかでの金余りによって世界の株価の乱高下が頻繁に起こるに違いない。(中略)株価の乱高下が起こるとボラティリティ(銘柄の価格変動率)も大きくなる。個人の投資の面から見れば,株式投資で利益を稼ぐチャンスが拡大するということだ。しかし株式投資は投機ではない。(p3)
 中国からの輸入品の関税を払っているのは実際にはアメリカ国民である。(中略)トランプ大統領もそのことを知らないはずがない。だから関税の引き上げは,アメリカのダメージを上回る成果につながるとトランプ大統領は信じているのだ。(p17)
 主要な先端技術を制した国は世界の覇権を握ってしまうので今のうちに中国を叩いておきたい,という考え方がトランプ政権だけでなくアメリカの政界全体の総意となった。(p19)
 5Gで現在,世界最先端を突き進んでいるのはアメリカ企業ではなく中国企業のファーウェイ(華為技術)なのである。(p23)
 ファーウェイは海外での落ち込みを中国国内で補うという方針で進んでいるのだが,ファーウェイ製品は性能が高い割には価格が安い,つまりコストパフォーマンスが高いので海外でも依然として人気がある。(中略)資本主義市場経済の国の企業であれば,市場が求める以上,ファーウェイのスマホを取り扱わざるをえなくなるはずだ。(p45)
 ファーウェイは売上高の10~15%を研究開発費に振り向けている。(中略)だからこそ,コスパの高い製品を開発できるのだ。(中略)表向きにはアメリカ政府のファーウェイ排除に従っているような国においても実際にはいろいろな抜け道を考えてファーウェイ製品を使うはずだ。高い技術力を維持していく限り,ファーウェイはアメリカ政府の妨害が続いたとしても生き残っていけるだろう。(p47)
 中国が大幅な譲歩をしない限り,トランプ政権は現在の方針と施策を最後まで貫いていくだろう。また逆に貫くという姿勢をはっきり示さないと中国からの明確な譲歩も引き出せないと考えている。もちろん追加関税によってアメリカも返り血を浴びるが,アメリカは国力の大きさでその返り血の悪影響も吸収できるはずだ。(p48)
 中国がすぐにアメリカに明確に譲ってしまったら,中国国民はかつての南京条約と同じだと激しく反発するのが目に見えている。(中略)アメリカにあっさりと譲ったら,中国ではこの屈辱の歴史が蘇って習近平政権の基盤も揺らいでしまうという懸念がある。(中略)といって,中国が明確な譲歩をせずにこのまま米中貿易戦争を続けていくことができるかといえば,これも無理だろう。国力では軍事的にも経済的にもアメリカには絶対に勝てない。また,米中貿易戦争が持続すると,中国経済はどんどん落ち込んでいって中国国内がもたなくなる。具体的には失業が急増するということだが,もし失業者が1億人を超えたら中国国民は耐えられなくなるだろう。(p49)
 トランプ大統領は貿易交渉では多国間ではなく二国間交渉を好んでいるが,(中略)トランプ政権の二国間交渉というのは,相対で行う不動産取引のようなものだ。トランプ大統領は不動産業のビジネスマンだった。不動産業では,交渉相手の違う個別の案件同士には関連がない。(中略)しかし外交は違う。交渉相手が違ってもそれぞれの外交案件が密接に関連していることが少なくない。というより,すべての外交案件は多かれ少なかれ関連し合っていると考えておくべきだろう。このような認識がトランプ大統領にあるのかは疑わしい。(p66)
 トランプ大統領はすでに2020年の大統領選のモードに入っていて,支持者にアピールできる成果をできるだけ早く挙げたい。そういう姿勢であればあるほど外交の場では足元を見透かされる。(中略)日本はトランプ政権との貿易交渉で実利を得る基本合意を手にすることができた。まさにトランプ大統領の足元を見透かしたからだ。(p67)
 トランプ大統領は気まぐれだし人権問題にもさほど関心がないので,星条旗を持つ香港市民がトランプ大統領に香港の民主化への支援を期待しても空振りに終わる可能性は高い。(p77)
 トランプ政権の保護貿易体質はやはり今の時代にそぐわない。世界最大の経済大国であり,世界最大の消費市場を持つアメリカめがけて世界中から製品が押し寄せてくる。だが,どの国に対しても貿易赤字は許さないとなると,結局,貿易ができなくなる。それで最も不利益を受けるのはアメリカ国民だ。(p85)
 電力の大量消費時代になった現代では電力料金の安さはさらに重要になってきた。製造業の工場なら特にそうである。というのも最新の工場ではIT化,AI(人工知能)化,ロボット化が急速に進んでいるからだ(p91)
 軍事費を増やして組織改革を実施したからといって人民解放軍が軍隊として本当に強くなったのかどうかはわからない。というのも,今の人民解放軍は実戦経験がほとんどないからだ。(中略)実戦経験のない軍隊が弱いというのは軍事専門家の常識である。(p101)
 軍隊というものはその国の地形的な特色の影響を受けるものだ。中国は広い国土を持つから軍隊も広域に展開することになる。であれば軍隊の隅々まで統制を利かせるのも難しい。(p102)
 中国の歴史を振り返ると,西暦960年にできた宋朝以降,中国の軍隊が外国の正規軍と真正面から戦って勝利したことは1度もない。(中略)歴史は侮れない。予算を増やし組織改革を行い近代兵器を取り揃えたとしても,人民解放軍などそれほど恐れる必要はないのである。(p103)
 基軸通貨の機能維持が世界経済には欠かせないという認識のない人物がアメリカ大統領であってはならない。ところが,トランプ大統領は基軸通貨の機能を維持するという重大な責任を自覚しているかどうか疑わしい。というのもトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を敵視しているからだ。(中略)基軸通貨国である限り貿易赤字になる。つまり,アメリカは貿易赤字を通じてドルという基軸通貨を全世界に提供しているのだ。アメリカの貿易赤字がなくなると世界にドルが供給されなくなって世界経済はうまく動かなくなる。(p108)
 経済規模の小さな国や地域ではGDPに対する輸出比率はきわめて大きい。逆にいうと,経済規模の大きな国はアメリカ,中国,日本に限らず輸出比率は小さいのだ。こうした国では輸出が多少不振でも国内経済への打撃はそれほど大きくない。経済規模の大きな国の輸出が多少不振に陥っても国内経済への影響が小さいのなら,世界経済への影響も限定的だと考えられる。(p124)
 品質の高い製品を生産,販売するためには,素材・部品のところが非常に重要だ。素材・部品の品質が悪いと品質の高い製品もできない。その素材・部品の品質の高さを誇っているのがまさに日本なのである。(中略)それで韓国政府は慌てて,(中略)重要な素材・部品の20品目は1年以内に日本から調達しなくても済むようにする,という開発計画を表明したのだった。1年以内に開発できるような素材・部品なら韓国企業でとっくの昔に完成している。開発するのが非常に難しいから,これまで日本企業に依存してきたのである。韓国政府の開発計画は画餅に終わるだろう(p128)
 日本の技術力の高さはどこかの研究所や大学の研究開発で得られたのではない。中小の町工場の生産現場で小さな工夫を積み上げて少しずつ技術水準を上げていった結果だ。(中略)その主役は一握りの技術者や研究者ではなく現場の工場で働いている人々だ。このような人たちは長い現場経験と深い知識の両方を持っているので,短期間には養成できない人材でもある。だから海外の企業もなかなか追いつけない。(p130)
 トランプ大統領に対しては,気が変わったら何をするかわからないという声もある。(中略)しかしトランプ大統領が新しい日米貿易協定の基本合意をひっくり返すことはありえない。ひっくり返して困るのはもっぱらトランプ大統領のほうだからだ。(p138)
 中国はアメリカとの関係が悪化したときには露骨に日本に接近してくる。今回の日中首脳会談も例外ではない。(中略)日中の関係改善で最も印象的だったのは,習近平総書記が2020年春に国賓として訪日すると決まったことだ。(中略)2021年からのNEV規制でHVもNEVに入る可能性が出てきた。(中略)HVがNEVに入れば日本の自動車メーカーは中国市場で有利になる。NEV規制にHVが入る可能性が出てきたのは,やはり日中関係の改善が大きく作用したからである。米中貿易戦争によって中国は日本に秋波を送るようになってきたわけで,日本政府および日本企業としてはそれを大いに活用し自らの利益にしっかりと結びつけていけば良い。(p139)
 2017年1月に発足したアメリカのトランプ政権は直ちにTPP離脱を断行した。(中略)このとき,残った11ヵ国を取りまとめる努力を行ったのが日本にほかならない。2018年12月,日本の主導でアメリカ抜きのTPPを発効させた。まさに日本の外交史にとって特筆される大成果だ。(中略)日本はアメリカに代わって自由貿易の牽引役になったといえる。(p144)
 今や日本は元号を用いている世界で唯一の国になっている。では元号の意義は何か。やはり「歴史を一括りにしてそれを総括し特徴づける」という点で非常に有効な手段だということである。(p148)
 天皇の崩御に伴う大正から昭和への改元,同じく昭和から平成への改元が暗い幕開けだったのに対し,平成から令和への改元は祝賀ムードに溢れた。(中略)政府の見解では譲位による改元は例外的だとしているが,改元がこれほど明るく幕を開けるのなら,今後は譲位による改元のほうが定着するかもしれない。(p149)
 今後も天皇制は姿を変えてでも存続していかなければならない。それ以外には日本国民を統合することはできない。(p153)
 安倍首相はもうくたびれてしまっていて,自民党総裁の任期が終わるとともに首相も辞めざるをえないということなのだ。(中略)安倍首相が長期政権の延長を望んでいない以上,これから2021年9月までは憲法改正への意欲は衰えないとしても,ほとんどの政策については従来の方針の延長上で展開していくことになる。(p155)
 そもそも上場するのは株式市場から資金を調達するためなので,その企業が運転資金を大きく超える現預金を持っているならば株式市場はいらない。(中略)にもかかわらず1部にとどまるのは,企業としてのプレステージが高いとされる1部にいることそのものが目的化してしまっているからだ。そんな企業では肝心の株式市場の活用も後回しになる。(p168)
 特に大学の文系の授業内容はカルチャー教室で学ぶようなものとそう変わらないし,このネット時代であればほぼ独学できる。ということで,すでに新卒一括採用にこだわらないという意識が出てきている企業では,文系でもプログラミングくらいは教えてほしいと大学側に希望するようになっている。(p179)
 通年採用となると(中略)仕事が実力主義になっていくということだ。この実力主義には3つの特徴があって,まず実力があれば昇進し昇給していくので正規社員と非正規社員の差もなくなる。(中略)次に,実力主義になれば,その実力を評価してくれる企業に移りやすくなるから,大企業間であっても雇用の流動化が促進されていき,中途採用も増えていく。最後に,実力主義では賃金もそれぞれ違うので,一律に呻吟の引き上げを目指す春闘のような労働運動もなくなるのである。(p180)
 これまで日本では大企業の社長の多くが,口では実力重視といいながらも新卒一括採用と年功序列を強く支持してきた。そういう社長こそ年功序列のなかで社長にまで昇進したからである。実力主義だったら社長になれなかったかもしれない。また,実力主義だと経営者としての能力も問われることになる。(中略)大企業の社長もこれまでのようにぬるま湯に浸かってはいられない。(p181)
 トランプ大統領は目立つパフォーマンスが大好きである。(中略)だが,米朝の首脳は板門店で短時間会っただけで,実のある話は何もなかった。(中略)単なる政治ショーに終わったのである。(p196)
 北朝鮮のミサイル発射は完全な国連決議違反だから北朝鮮はますます国際的に孤立していく。また万が一,北朝鮮が核兵器を使いそうな気配になれば,アメリカの前に中国やロシアが動かざるをえず,北朝鮮に対して軍事的な制裁を行うことになるはずだ。いずれにせよ,アメリカ自身は軍事行動を起こすことなく,このまま兵糧攻めを続けて静観していれば良い。(p187)
 本来であれば,北朝鮮から拉致被害の慰謝料を受け取るべきだが,北朝鮮が日本に慰謝料を支払うはずがない。常識的には理不尽でも,拉致被害者を取り戻したいなら,ここは逆に日本が身代金を払わざるをえない。政治ではそういう理不尽なことがしばしば起こる。(p189)
 金正恩委員長も国交回復では韓国と同じ形での資金提供を日本に要求するに違いない。現在の日本の国家予算は約100兆円だから,資金提供は5%であれば約5兆円ということになる。(中略)この投資には日本企業にも大きなメリットがある。というのは北朝鮮は鉱物資源が豊富だからだ。(p190)
 日本政府は,韓国向けの輸出品の規制を強化したのではなく,これまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのだ。(中略)逆にいうと,輸入管理がしっかりしていれば日本政府は必ず許可する。(p194)
 韓国の反発が強いのは1つには,韓国経済もそれなりに大きく発展したにもかかわらず,半導体の素材・部品に象徴されるように韓国経済の生殺与奪の権を握っているのが日本であることに改めて気づかされたからだ。裏を返すと,韓国では経済人を除いて,一般国民はもちろん政治家でさえ,これまで韓国経済に対する日本の影響力の大きさに自覚的な人々は少なかった。(p197)
 日本がこれまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのに,それと引き換えに韓国は重要な軍事情報を得られなくなったわけだ。どう考えても韓国の損である。(p203)
 これまでの日本政府は韓国政府に甘かった。韓国政府が多少無理なことをいっても,結局,受け入れてイズム会うところが日本政府にはあった。それで味をしめて韓国政府は前言を翻すようなことをたびたび行ってきた。だが,さすがに日韓基本条約と日韓請求権協定を守らないのを日本政府は許すわけにはいかない。今後もこの姿勢を堅持していくべきである。(p204)
 イラン軍がイラン政府の統制下にあるのに対し,革命防衛隊はハメネイ師が統制している。しかしハメネイ師が安倍首相と会談する日に日本のタンカーを攻撃するというのでは,革命防衛隊はハメネイ師からしっかりとコントロールされていないことになる。この点でイランの政治体制には緩みがあるのだ。(p207)
 イランがホルムズ海峡を閉鎖できなことをほとんどの国は知っている。有志連合への賛同は各国にまったく広がらず,アメリカも軍事色の薄い「海洋安全保障イニシアチブ」に切り替えざるをえなくなった。(中略)賛同する国があったとしてもおそらくいつの間にか立ち消えになるだろう。(p209)
 多くの日本人はロシアと中国は同等の大国だというイメージを持っているかもしれない。だが,2018年のGDPで比べると,ロシアは中国の12%しかない。(中略)このまま一帯一路に関わっていくと,中国と対等のつもりだったのが,ロシアは中国の影響下に置かれるようになるだろう。(p214)

2019年10月12日土曜日

2019.10.12 増田明子 『無印良品 MUJI式』

書名 無印良品 MUJI式
著者 増田明子
発行所 日経BP社
発行年月日 2016.11.21
価格(税別) 1,500円

● 副題は「世界で愛されるマーケティング」。無印は国内でデザイン,生産し,それをローカライズしないで世界で売る。で,世界で売れる。それはなぜか。その答が本書にある。ただし,その答に納得するかどうかは別の話。
 日本発がそのまま世界で通用するのは,無印良品のほかには,神奈川の大和研究所が開発するLenovoのThinkPadしか知らない。

● 以下に転載。
 無印良品というのは,日本国内はもちろん,世界中のあらゆる情報を吸収することが商品開発の原点にある。たとえば,世界のどこかで昔から使われている道具や衣料品などには,ずっと使い続けられている理由がある。(p1)
 国や地域によって,人々の生活の文化には違いがある。しかし,生活習慣や文化という,人間が作り出したものの前にある,人間が生物として「快適だ」「心地よい」「不快だ」と感じる生理的な快・不快は,世界中どこでもだいたい共通する。(p15)
 MUJIは,日本で決定したデザインや香りなどの商品仕様をそのまま海外へ展開しており,海外市場での個別のローカルな嗜好にほとんど合わせていない。(p21)
 MUJIの商品が世界的な普遍性を持つ大きな理由はシンプルさにある。そのシンプルさとは,使い勝手の良い「一番普通」の形を目指したデザインである。(p23)
 一般のブランドは,他社とは異なる自分の特徴をデザインしていく。その中でMUJIは,「それ以外」というポジションにある。(p24)
 MUJIの商品開発の基本姿勢は,最大公約数的に多くの人が「良い」と思う商品を作っていくことだ。個々の人や,個々の文化に合わせすぎない。(p34)
 「これ『で』いい」という考え方は,別の言い方をすると,「個性の一歩手前」で止めるということだ。(p40)
 用の美という考え方は,日本だけでなく,世界中で見つけられるのだ。(p86)
 MUJIの商品は,誰がデザインしたかということを明らかにしていない。これは商品にブランド・ロゴを付けないのと同じ意味がある。(中略)MUJIは,ブランド名やデザイナー名ではんくて,商品そのものの本質である使い勝手で選んでもらうことを大切にしているからだ。(p102)
 なるべくデザインの個性を取り払ったシンプルな商品というのを,商品づくりのルールにしている。(p103)
 製造を委託して商品を調達するからこそ,品そろえの多様化が可能になっている。(p106)
 MUJIの開発時に学んだことは,ゼロからは何も生まれないということである。何か課題があったり,何か疑問に思うことがあったりすると,何かを考える。既にあるアイデアとアイデアを結びつけたらどうなるか,と考える。(中略)そして誰かに伝えることで,何か別の良い情報が伝わってくることもある。そのような人との出会いは大事である。(p163)
 関心がない場合は直感的に対象を知ろうとするが,関心がある場合には,システマティックに分析的に知ろうとするため,説明は文章のほうが適しているという。(p179)
 従来,中国の消費者は,金や赤など派手な色のついたものを好むといわれていたため,MUJIの商品は支持されないのではないかと懸念する声もあった。しかし中国人の生活スタイルも先進国のスタイルに似てきた。(p190)

2019年10月6日日曜日

2019.10.06 成毛 眞 『一秒で捨てろ!』

書名 一秒で捨てろ!
著者 成毛 眞
発行所 PHPビジネス新書
発行年月日 2019.10.02
価格(税別) 850円

● 小気味いいほど論旨明快。この内容は成毛さんにしか書けないもの。それを読んで自分も実行できるかというと,できるところもないではない。
 が,その部分はすでにやっている。やっていないことは,やらないままかな。でも,いいのだ。

● 以下に転載。
 この先,ビジネスの世界で生き残っていきたいならば,悪いことは言わない。古いものを捨てて,新しいものをどんどん使うべきだ。なぜか。それは,古いものを積極的に捨てる意識を持たないと,世の中の変化についていけなくなるからだ。(p17)
 私自身も,新しいものはガンガン買って使うようにしている。(中略)見たことのないような画期的なサービスや商品を目にしたら,よほどの金額でなければ,値段を気にせずに試してみる。(p22)
 iPhoneの最新型はいま現在のトレンドの集大成と言っても過言ではない。(中略)HDDレコーダーも,全録レコーダーをフル活用している。(中略)私はとにかくテレビをよく見るので,いまやこれがないと話にならない。(p23)
 さらに不思議なのは,日本がなぜ,そのデジタル途上国のマネをするのかということだ。誰がどう考えても「タッチ,ピッ」が便利に決まっている。いちいちQRコードを表示させるなど,バカの極みである。(p28)
 わかっているにもかかわらず,現実的には,新しいものを取り入れるのに消極的な人が多い。消極的になる理由は,「捨てない」からだ。(p29)
 「捨てる」ことが重要なのは,ものだけでなく,考え方や知識も同様だ。(中略)いまの時代に合った考え方や知識を身につけるには,これまで学んだ考え方や知識に上書きをするのではなく,いったんそれらを捨て去って,新たに学び直すことが必要という考え方だという。私は,中高年の学び直しに関しては否定的だが,この考え方には同意する。(p31)
 自分がどうやったら勝てるかを考えた場合,何かを加えることよりも,むしろ何かを捨てて,一つに集中したほうが良い場合もある。中途半端に得意としている仕事を思い切って捨ててしまい,ほかの人よりも秀でる可能性のある仕事だけに,自分の持てるリソースを集中投下するのである。(p33)
 先日,テレビで,来日した外国人がコンビニのカツ丼を食べて,「これが3ドルなのか」とショックを受けていたが,その外国人の感覚が世界標準なのだ。たかだか500円の弁当で,一流店と遜色ないクオリティに仕上げる技術にこだわるのはどうかしているのである。このような職人気質は日本人のDNAに組み込まれているのかもしれない。ならば,一個人も,それを活用すればいい。(p34)
 仕事のムダをなくし,生産性を高める最良の方法は何か。それは,「仕事を捨てること」。作業効率を改善するのではなく,作業全体を止めてしまうことだ。(p48)
 日本マイクロソフトの社長に就任してから,私は,会議をなくすことにした。部下たちに「君たちで勝手に会議するのは,構わない。だが,絶対に俺を呼ぶな」と伝えたのである。(中略)社長主催の会議を一つもしないので,アメリカ本社から「会議ぐらいやれ」と言われ,ビル・ゲイツから「お前,普段,何やってんだ?」と聞かれていたが,意に介さなかった。(p51)
 メールでコミュニケーションできないのは,思考が整理されていない証拠。つまり,伝えるべきことを的確に伝えるのがヘタなのだ。電話は仕事のできない人間がするものであり,そんなヤツらに,仕事のジャマをされたくない。(p54)
 いずれも「営業は足で稼げ」を愚直に実行しているわけだが,ネット証券がこれだけ全盛の時代に,こんな昭和時代のやり方を続けていたら稼げるわけがない。(p59)
 若い頃からマナーでがんじがらめになっていると,自分が管理職になったときに,部下をマナーでがんじがらめにするので,ろくなことはない。(p64)
 「フリーアドレス」はデメリットもあるので,導入には注意したほうがいい。少なくとも開発系の仕事の場合は,フリーアドレスは逆に捨てたほうがいい。開発者には自分の城を築かせないと,独創的なアイデアが出ないからだ。(中略)オフィスに余計なものを置かないのもダメで,くだらないオモチャやガジェットなど自分が好きなものを仕事場に持ち込ませて,クリエイティブ性を発揮させようとしている。(p66)
  かつて早稲田大学ビジネススクールの客員教授をして改めて感じたことだが,大半の人は,セミナーや研修,スクールなどの座学では成長しない。なぜかというと,そこで学んだことを実践するなら良いのだが,そんな人はほとんどいないからだ。「ためになることを聞いた」と言って,それだけで満足してしまうのが,関の山なのである。これほどムダなことはない。(p69)
 ビジネススクールで習うような分析方法やフレームワークなどを学んだことで,独創性を失ってしまうのは,よく聞く話である。(p70)
 私は,前任者のやり方は何もかも変えるようにしてきた。日本マイクロソフトでも,前社長のやり方をすべて変えてしまった。オフィスの場所まで変えてしまったくらいだ。(中略)後任の社長にも,「俺のやり方は全部捨てろ」と言っていた。それぐらい,私は思い切って変えることが重要だと考えている。(p72)
 人生を振り返り,私が最も捨ててきたのは何かといったら,おそらく「人」だ。(中略)転職するたびに,それまで付き合っている人間をバッサリと捨ててきた。転職した翌日から,まったく会わなくなるのだ。(p76)
 過去を語り合っても意味などない。私が語りたいのは明日だ。明日を語る知り合いや友達は,時代と自分の年齢に合わせてどんどん変わっていくものなのだろう。(p79)
 フェイスブックでは,友達の誕生日に「おめでとうございます」のメッセージを送ると,他人も読むことができるが,はっきり言って,自分はいかにつまらない人間かということを何千,何万人にさらす最高の方法だと思う。(p82)
 何らかのSNSで自己発信することはいまや必須だが,そのとき,最重視すべきなのが,プロフィール写真だ。私のように名前を忘れる人でも,プロフィール写真に特徴があると,ビジュアルとして記憶されるからだ。(中略)一度設定したら,プロフィール写真を変えないことも重要だ。(p91)
 会社は仕事をする場であり,ウエットな人間関係なんて関係ない。(中略)私は,飲みニケーションに限らず,会社関係の付き合いは,とことん排除していた。慶事ですら断っていたぐらいだ。部下の結婚式や披露宴に招かれることは何度もあったが,じつは一度も行ったことがない。(p92)
 ただ,そんな式嫌いの私でも,葬式だけは顔を出す。かつて仕事をしたことのある人や知り合いの経営者が亡くなったときは,必ず行くようにしている。(中略)「結婚式に行くバカ,葬式に行かぬバカ」という有名な言葉があり,経営者の多くはこの言葉を知っていて,実践している人も多い。(p97)
 私は,スターバックスやタリーズなど,ちょっとおしゃれなコーヒーショップにはほとんど行かない。その理由は,それらの店のコーヒーが嫌いだからではない。そこにいる,気取ったヤツを見たくないからだ。具体的に言えば,「MacBook Pro」を開いてスタイリッシュに仕事をしている(と思い込んでいる)ノマドワーカーが嫌いなのである。(中略)飲みに行くときも,客層が悪そうな店には行かない。(中略)要するに,“頭の悪い人”と同じ空間にいるのが嫌なのである。(p101)
 人間はバカとつるんでいるとバカが伝染るけれども,頭の良い人や気持ちの良い人と付き合っていると,良い影響を受ける。とくに,40代以上の人たちにすすめたいのは,自分より10歳も20歳も若い世代の人たちと交流することだ。(中略)何かを教えようとしないで,流行や視点など若い人から何でも吸収しようとする謙虚な姿勢をもつべきだ。(p106)
 最近,ビジネスをしていて,大きく様変わりしたと思うことがある。かつては同業者同士は変なライバル意識をもっていたのに,それがなくなってきていることだ。(p110)
 保険は,塵が積もってゴミとなる典型だ。(p129)
 蕎麦屋を推すのは,手間をかけるほど美味しいのが明確だからだ。寿司は新鮮なネタの仕入れルートを確保して,半年ほどの修行を積めばそれなりの味を提供できるが,蕎麦はそうはいかない。(p145)
 SNSを見ていると,毎日のようにミシュランの3つ星レストランのような場所に足を運んでいる人がいるが,愚の骨頂である。田舎者がルイ・ヴィトンのモノグラム・バッグを持つのと一緒で,所詮「ブランド信仰」だろう。(p146)
 穿いている下着が高級ブランドでもユニクロでも,ランチがホテルのレストランでも駅前の牛丼店でも,ほとんど自分自身は何も変わっていないことに気づくだろう。だったら,悩む時間は極力減らしたほうがいい。(p148)
 答えは,「良い本だろうが,つまらない本だろうが,どんどん捨てる」だ。分類などしている時間の余裕はないし,いまなら一度捨ててしまっても,読み返したくなったら,ネットですぐに購入できる。それに読み返すといっても,たいがいの本は読み返さないものだ。読んだ本は,遠慮なく捨てて良い。(p150)
 子供のオモチャは,湯水のように買い与え,飽きたらポイポイ捨てればいい,というのが私の持論だ。(中略)その理由は,子供には,とにかく多くの体験をさせてあげることが大切だからだ。(p163)
 中学・高校までに,好きなことや自分の才能を見つけることは,のちの人生を大きく左右する。その年頃に見つからないと,やることが受験勉強ぐらいしかなくなる。(p165)
 本来,インプットはアウトプットして,生産性を高めたり,イノベーションを起こしたりするために行うものである。しかし,インプットはそれ自体が目的になりがちだ。(p181)
 発信する内容は自由であり,ビジネスに限らず,趣味についてでも構わないが,絶対に避けたほうがいいテーマがある。大衆が取り上げそうなネタだ。(中略)私もフェイスブックでさまざまなことを発信しているが,令和ネタはいっさい発信しなかった。(中略)他人とは一味違う視点で発信できる気がしなかったからだ。一目置かれるようなことを発信しないと,意味がないのである。ありがちなのは,経済や政治関連の出来事の是非をあれこれ論じる人。これもやめたほうがいい。自分はいかに賢いかを誇示しようとしているのだろうが,残念ながら,周囲はそうは見てくれないからだ。(中略)そのように,大衆的なネタを避けてアウトプットをしていると,SNSのフォロワーから,「あの人の言うことは,ほかとは視点が違っていて面白い」と見られるようになる。たったこれだけで,SNS上では,凡人の領域から一歩抜けた存在になれるだろう。(p184)
 私も,フェイスブックで発信するときには,「人と違う見方」を意識するし,自分のアイデアが誰にどの程度受け入れられるかを日々試しながら,次作の企画のテストマーケティングをしている。したがって,フェイスブックへの投稿は,つねに真剣勝負だ。誰でも思いつきそうだが誰も考えてこなかったことや,誰でも知っているようで意外にホントのところは知られていないことをひねり出すように投稿するのは,これだけ本を出している私にとってもけっこう大変なのだ。(中略)たくさん投稿しようとすると,どうしても平凡なネタを投稿せざるをえなくなる。投稿するほど平凡な人に見えてしまうぐらいなら,思い切って頻度を減らすべきだ。(p186)
 コツはない。ともかく最初の1行を書き始めるのだ。全体の構成やら落とし所を考えない方がいい感じの文章になると思っている。(p189)
 ただし,私の場合,フェイスブックに投稿してからも,平均5回以上書き直している。本職の作家ならさらに推敲を重ねているだろう。文章は書いて,直しての繰り返し。訓練しかない。(p189)
 (インプット手段の)おすすめは,ズバリ「テレビ」だ。(中略)テレビは,素晴らしい番組が山ほどある,最強の情報源だ。それを知らないヤツこそ,完全に情弱だ。(p190)
 できるだけ効率良く見るにはコツがある。まず,リアルタイムではなく,録画で見ること。そうすれば,1.3倍速で見られるので相当な数の番組を短時間でチェックできる。(p197)
 見るべき番組は,自分の興味のある。興味のないものをいくら見ても頭に入ってこないが,興味のあるものは,子供が恐竜の名前を簡単に覚えてしまうように無限にインプットできる。苦もなく見続けられるので,ネタも見つけやすいというわけだ。(中略)逆に言うと,自分の興味のないことは,たとえ流行だろうがなんだろうが,情報をインプットする必要はない。私もそれを実践していて,ベストセラーは読まない。みんなが読んでいるものを読んでもネタにならないし,何よりつまらないからだ。(p199)
 私のように書評をルーティンワークにしている人は,電子書籍ではなく紙の本を読むべきだ。付箋を貼ったり,ポイントを書き込んでいくので,電子書籍だと作業効率が悪い。同じ作業をしても紙の本のほうがサッとできて,読書そのものに集中できる。(p201)
 友達だろうがなんだろうが,つまらないことを言う人は,どんどん「ミュート」することを強くすすめる。(中略)こうして,自分にとって欲しい情報だけを得られるタイムラインを編成するのが,SNSの魅力だ。気に入らない人をミュートしていくと,同じ思想・志向で偏りやすくなるが,気にする必要はない。SNSぐらい自由にやってもいいだろう。(p204)
 私がブログやメールマガジンでは発信せず,フェイスブックにしか投稿していないのは,SNSがメディア化しているからだ。最近は「note」を書く人が増えているようだが,いちいち好みの情報を探しに行くのは面倒くさく,今後,そこまで大きく広がることはないと思う。誰もが気軽に見られるメディアに無料で投稿し続けて,アナログの形でマネタイズ(私の場合は書籍化)する。これこそが,令和型のアウトプットだろう。(p206)
 アウトプットするときに,私がもう一つ意識していることがある。それは,できるだけほかの人が書いたものを見ないことだ。(中略)他の事例を参考にしすぎると,そちらに引っ張られてしまい,斬新な事業ができない。それよりは,思い込みで突っ走っていったほうが,面白い事業ができるし,その事業は発展する。何事も,駆け出しのうちは先人の真似をしたり,参考になる事例を勉強したりすることから始まる。しかし,オリジナリティを発揮したいなら,先人の教えや先行事例などを捨て去って,自分一人で考えることが大切なのである。(p209)