著者 山口由美
発行所 新潮社
発行年月日 2019.03.30
価格(税別) 1,550円
● 先日泊まった東京ステーションホテルも紹介されている。自分はこのホテルのどこも見ていなかったかもしれない。今度はちゃんと味わってこよう。
前作の『クラシックホテルの歩き方』には日光の金谷が主役格で登場する。その金谷にまだ泊まっていない。悔いを残さぬよう一度は泊まってみないと。
● 以下に転載。
若いクラシックホテルファンは,ウェディングがきっかけであることが多い。(p7)
クラシックホテルだって,未来永劫存続する保証はどこにもない。だが,歴史を重ね,都市や地域を象徴する存在になったクラシックホテルは,何らかの事情で経営が終わっても,また別の会社が経営を継承することが多い。(p8)
クラシックホテルは,どの国であっても特別なものだけれど,日本の場合は,ホテルのスタイルを海外から学んだからこそ,ホテルが一般的ではなかった時代,プライドと誇りを持って,旅館ではなく,ホテルであることにこだわり続けた。その矜持が建築やデザインにあり,料理にあり,サービスにある。そして,時代を超えて,それらが継承されることにつながった。欧米のクラシックホテルと比べて,日本のクラシックホテルが,より保守的に昔ながらのスタイルを守っている理由でもある。(p8)
日本のクラシックホテルの特徴として,内観は西洋ふうなのに,外観が日本の寺社建築を思わせる点があげられる。だが,こうした建物が建てられたのは,ほどんどが昭和初期で,たとえば富士屋ホテルや日光金谷ホテルでも,明治期に建てられたものは,白い洋館ふうの建物が多い。(p44)
昔のままの味を忠実に伝承しているのは,実は少数派らしい。それでも日本のクラシックホテルは,海外のクラシックホテルほど大胆に料理を革新していない。(p41)
夏になると大挙して押し寄せたのが,上海に住む外国人だった。上海航路が賑わった当時,雲仙から一番近い大都会は,鉄道を乗り継ぐ東京ではなく上海だったのだ。(p54)
行き交う人々を見ていると,物語が立ち上がってくるような感じがあった。幾多の作家が,東京ステーションホテルに泊まり,作品を生み出した理由がわかった気がした。ここは物語が始まる場所なのだ。(p81)
クラシックホテルの朝食というと,テーブルサービスの洋食が定番で,ブッフェを毛嫌いする人もいるけれど,東京ステーションホテルの朝食を一度体験すれば,そんな偏見は吹き飛んでしまう。(中略)この朝食だけでも,東京ステーションホテルに泊まる価値は充分にあると思う。(p81)
東京ステーションホテルは,復元工事にあたり,六年半休業した。そのため今のスタッフは,ほとんどが再開業にあたり入社してきた人たちだ。(p81)
都市のランドマークとなるクラシックホテルは,最高のロケーションに建っていることが多い。そこにタワーが建つことで,最高の眺望が手に入る。(p83)
重要なのは,外国人の目線を意識したことだ。日本そのものというよりは,彼らから見た,彼らが期待する日本を表現したのである。日本だけでなく,東洋全般の意匠が見られる点も興味深い。(中略)日本のクラシックホテルは,東洋が西洋をお迎えする装置だったのである。(p113)
全体の雰囲気もさることながら,とにかくディテールが面白い。(中略)ディテールの面白さは,知識や見識があると,なおさら面白くなる。(中略)こうした魅力を「ラグジュアリーでありアカデミック」と称したのは,東京ステーションホテル総支配人の藤崎斉さん。(p114)
最近のラグジュアリーホテルは,客室面積の広さなど,とにかくスペックで価値がはかられる。歴史あるクラシックホテルは,その基準で判断すると,最新の外資系ホテルに負けてしまうところが多い。でも,ホテルをめぐるストーリーならば,決して負けない。(p117)
日本のクラシックホテルの取材時,ホテルスタッフにこんなことを言われたのだ。「客室の面積は,あまり広くないかもしれないけれど,天井は高いんです。平方メートルではなく,立方メートルで量ってもらったら負けませんよ」(p118)
広さが料金に反映する客室よりも,こうしたパブリックスペースが広いのは,経営の視点から見れば,効率的ではないかもしれない。でも,そうした一見「無駄」にみえるゆとりこそが,クラシックホテルならではの贅沢なのだ。(p119)
朝食のオムレツは,どこでも間違いなく美味しい。しかも見た目も完璧である。そして,オムレツの美味しさ,美しさは,海外と比べて日本のクラシックホテルに断然軍配があがる。(p121)
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