2020年1月29日水曜日

2020.01.29 伊集院 静 『一生に一度旅してみたいゴルフコース 世界の名門22コース』

書名 一生に一度旅してみたいゴルフコース 世界の名門22コース
著者 伊集院 静
発行所 日本経済新聞出版社
発行年月日 2019.12.13
価格(税別) 1,500円

● ゴルフはやらないんだけども,読んでみた。文章の調べや勢いを味わう。

● 以下にいくつか転載。
 プロゴルファーはあまい好きではないが,彼(トム・ワトソン)は数少ない人格者のプロゴルファーである。(p13)
 優雅にプレーするゴルファーなど一人もいない。自らのミスショットに,唖然,茫然,憤怒,絶望。ゴルフは辛いことを強いるスポーツである。(p32)
 ゴルフには挑むプレーもあるが,己を律して耐える精神も必要である。アマチュアゴルファーの大半は傲慢である。なぜならほとんどの人が,反省というものを知らないし,練習をしようとしない。(p38)
 夜明け前,独りで黙々と重いカメラ機材を背負って歩き,凍てつく海風の中で震えながら,一瞬の時間を待っていたカメラマンの姿を想像する。美しいものに巡り逢うためには人は苦境に身を置かねばならない。(p44)
 記憶に残っているのは,なぜか,むなしく消えていったショットばかりである。短い半生を振り返ってみると,なぜか苦しかったり,辛かったりした日々ほど懐かしく思い出されることと似ていなくもない。(p104)
 普段,懸命に働き,週末くらいは思い切って派手に明るい服装で一日を楽しみたいという考えもあっていいだろうが,私にはそれができない。なぜか? 私にとってゴルフは人生の大切な友であるから,せめて礼節,礼儀を持ってむかいたいからだ。私にとって礼儀のひとつは,他人を驚かせることはしない,というモットーがあるからだ。(p127)

2020年1月27日月曜日

2020.01.27 出口治明 『100分de名著 呉兢 貞観政要』

書名 100分de名著 呉兢 貞観政要
著者 出口治明
発行所 NHK出版
発行年月日 2020.01.01
価格(税別) 524円

● NHKのEテレ「100分de名著」のテキスト。25分の放送が4回で,100分de名著。4回とも見ることができた。テキストを読んでから視聴するという律儀さで対応。
 出口さんが講義する方式かと思ったら,そうではなくて,司会者や朗読者がいて,雑談ではないけれども,質疑応答的な感じで進行する。

● で,その質疑応答において,伊集院光の存在は本当に大きい。野球で言えばキャッチャーの役どころ。彼のさじ加減で進行方向が決まるのではないかと思うほどだ。
 実際にはシナリオがあって,そこを大きく踏み外すことはできないようになっているのだと思うが,だとすると彼の演技力が称賛されて然るべきだ。

● この番組は,かつての「市民大学」「人間大学」と続いた教育テレビの系譜を継ぐものだ(と思う)。「人間大学」までは講師の“授業”を放送するというふうだったと記憶しているのだが,だんだん軽量になってきた。
 どちらがいいという話ではない。そういう流れなのだ。判断がつかないのなら,とりあえずは流れにしたがった方がいいと思っている。

● 以下に転載。
 昔の人ができたものを,なぜ今できないのだという考えは,脳は進化していて人間は賢くなっているという前提に立ったものです。その考えが間違っていたのですね。(p7)
 リーダーとフォロワー,あるいは上司と部下は,チームにおいて単に違う機能を担っているだけという関係にあります。この機能の違いを十分に認識した上で,リーダーがフォロワーの仕事を奪わない,必要以上に干渉しないということも非情に重要です。(p31)
 リーダーは,自分の得意なことや好きなことをやってはいけない。これも『貞観政要』が説く実に大切な教えです。(p34)
 これが正史を残さない国であったら,太宗とて楽をしようと思ったことでしょう。中国が歴史を書き残す国になったのは,「漢字」と「紙」があったからです。(p39)
 過去のケースを見るときには失敗のほうが参考になります。これは今でも通じることですが,うまくいった事例というものは,たいていみんなが話を盛っていますから,あまり役に立ちません。(p41)
 だらしない服装をしていないかもさることながら,僕が非情の重要だと思うのは,部下が付いてくる「いい表情」をしているかどうかを確認することです。僕は,人の上に立とうとする人間は,いつも元気で,明るく,楽しい表情をしているべきだと考えています。(p47)
 若者がだらしないとしたら,それは大人がだらしないからです。(p61)
 コミュニケーションというものは,突き詰めて言えば,すべて共通テクストの存在によって成り立っています。(中略)とにかく他者とコミュニケーションを図るには,まずお互いの共通項は何かを探すことが大切なのです。(p68)
 部下を信用しない上司は,部下からも信用されません。上司を信用できないと感じた部下が,上司に対して誠実に振る舞うことはありません。(p73)
 これを三十人でやったらどうなるでしょうか。打順は回ってこない。ボールも飛んでこない。これではうまくなりません。少数だから,精鋭になるのです。(p75)
 人間の器というものはだいたい決まっている。どの部署に行かせても,鍛えれば何とかなるというものではないのです。(中略)ダルビッシュはショートではなくピッチャーを,分析が得意な人は営業ではなく分析をやったほうがいいのです。そして,それぞれの能力を存分に発揮するさまざまな人が集まったほうが,平均的な力を盛った人ばかりが集まったチームより強くなるのは明白です。(p80)
 世の中には,ベンチャー企業をつくるには周到な準備がいるという物語が流布しています。でも僕に言わせれば,そんなものは出来の悪いビジネス書の影響です。歴史を見ていると,最大のベンチャーは国をつくることです。新しい王朝を興すことです。新しい王朝の始祖に,大きな国をつくるという目標を立てて周到に準備した人は皆無です。みんな偶然なのです。(p84)
 中国の古典の素晴らしいところは,とにかく比喩が秀逸なことです、(中略)比喩があることで話が具体的になり,イメージが喚起されるため,内容が断然腹落ちしやすくなります。(p91)
 リーダーは部下にとって労働条件のすべてです。(p97)
 僕も三十歳ごろに『貞観政要』を読んで以来,この本を常に自分の手の届くところに置いています。(中略)本を開けば,あの魏徴が叱ってくれる。これほど贅沢なことはないと思います。(p102)

2020.01.27 伊集院 静 『一度きりの人生だから 大人の男の遊び方②』

書名 一度きりの人生だから 大人の男の遊び方②
著者 伊集院 静
発行所 双葉社
発行年月日 2019.04.14
価格(税別) 926円

● このタイトルを著者はあまり気に入っていないようなのだが,かといって編集者に文句をつけることもない。大人の男とはそういうものなのだろう。
 著者は女性にも男性にもモテる人だけれども,その理由がわかるような気がする。かといって,凡人が迂闊に真似ようなどとは思わない方が見のためだとも思う。

● 以下に転載。
 毎週,読者が感心するようなものを書くと,どうも嘘っぽくなる。人が感動したり,涙するものはどこかに企みがあると私は考えている。(p4)
 男が自立をする折,一番大切なのは,自分がまだどこの何者でもないことを,いつの時期に知るかということである。たとえその若者が,王の子供で,王子であっても,実は,その若者はただの若者でしかないことを知ることができるかどうかが肝心なのである。(p15)
 人類の歴史がはじまって以来,人間が平等なことは一度だってあったためしはない。(p17)
 若い時に度に出なかったら,それは人生の中のかなり大切なものを失うことになるのは事実である。(p17)
 なぜ荷物は最小限の方が良いか? それは旅というのはいつも危険を孕んでいるからである。(中略)危険を察知すれば,逃げるしかないのである。そんな時に,荷物をまとめなくてはいけないという状況は,愚か者の旅なのである。(p19)
 近頃の雑誌がよく特集しているような,度に必要なアイテム,なんてのはバカがやることである。(p20)
 現役時代に人一倍働き,仕事で成果を上げ,会社からも評価され,部下も育てたという人が,実は,潔く退職してから上手く行かなくなるケースが多い。(中略)なぜか? 再出発ができないのである。(p22)
 人生は晩年をどう過ごせるかで,当人の生きざま,死にざまが決まるケースが大半なのである。(p24)
 だいたい私には的中車券以外,欲しいものがない。家,車,時計,洋服・・・・・・まったく興味がない。だから家も,車もすべて私のものはない。(p25)
 私は貧乏たらしいギャンブルが嫌いなので,競輪でもそうだが,開催地へ着くと,まずその街で一番美味い料売を出す店へ行き,一番酒が美味い,バーなり,クラブへ行く。そのくらいの金を使っても何と言うことはない勝ち方をするのが“旅打ち”だと思っているからだ。(p61)
 私が言いたいのは,一人のギャンブラーがいたとして,そのギャンブラーが勝ち得る金額は限度があるということである。(中略)それは,その人の生まれ持った度量である。(p74)
 人間の手でこしらえるものの量には限界がある。それがウィスキー,スコッチの本来の姿なのである。(p93)
 私が知り得る限り,ギャンブルをする人,ギャンブルが何より好きな男たちはお洒落な音尾が多い。(中略)大前提に,--くたばる時にみっともない格好をしない。ということがあったのではないかと思う。(p116)
 まずユニホームの着方を覚えなさい。どんな格好のユニホームの着方をしても勝てばいい,という発想をするな。勝つ者は,勝つかたちをしてるんだ。(p118)
 やたらと光り物(装飾品)を付ける男で,格好のイイ男はほとんどいない。だからち言って光り物だらけの男でも,そこにバランスがあれば,それはそれで良いと私は思う。(p119)
 お洒落の基本は,何事においても無頓着にならない姿勢を持っていることが大切である。(中略)流行を追う必要などはならさらないが,流行に無頓着であったり,これを自分の中に受け入れない姿勢では,お洒落がおかしくなる。(p124)
 ほとんどの人は,スーツの上着なり,ジャケットを着た後,背中をきちんと直さない。(p126)
 私は,今でもそうだが,基本としてパーティー,宴会,慶事で人が集まる場所へ行かない。結婚式もほとんど欠席する。そういう関は苦手なのである。フォーマルと呼ばれる服装をすると,それだけで着せかえ人形をやらされているようで嫌になる。(p135)
 肝心なのは主旨がきちんと書いてあることで,基本としては簡単で,明瞭で,余計なことを言わぬことである。長い手紙にロクなものはない。(p143)
 手紙だけではなく,絵画も小説も,音楽も・・・・・・すべてにおいて“上手くやろう”と下こころを抱くとまず上手くいかない。(p148)
 手紙は夜半に書くものではない。むしろ朝早く起きて仕事の前に書く方が良い。なぜか? 夜半はどうしても人間が情緒的になる。(p148)
 目上の人へ書く時は,いつもより大きな文字で書くようにした方がよい。相手が読み辛いこともあるが,文字というものは,ちいさく書くものではない。(p149)
 それよりも少し,先を見てやれば,羨ましい,とか妬み,嫉妬というつまらない感情はなくなる。(中略)嫉妬の対象である金持ちのボンボンと自分の先ゆきを見ればいいのである。(p163)
 今から四十年近く前,作家デビューをした頃,色川武大さんから,「伊集院君,週刊大衆を支持して読んでくれている人こそ,私は本物の大人の男だと思います。そういう人たちに面白いと思われるものが書けなくちゃいけませんよ」と言われた。(p164)
 人間の身体というのは少々のことではくたばらないようにできているのだが,いったんマイナスの領域に入ると,驚くほど呆気なく一巻の終りになる。(p174)
 (ゴルフの)スロープレーに関しては良い点がひとつとしてない。(p184)
 “出逢い”こそが,もしかして生きることの,すべてかもしれないと,私が思うようになったのは,自分のこれまでの歳月を思い返してみてのことである。誰一人,出逢わなくて済んだ人がいないのである。(p191)
 プロスポーツにとって素晴らしい新人の登場ほどありがたいことはない。一人のルーキー,新人が,その世界を,今まであった常識を,こともなげに変え,そのスターを中心として,プレーヤーたちも,ファンも変わっていくのである。(p197)
 私は器用より,不器用な方が将来,大成する確率が高いと思っているし,ゴルフに限らず,ひとつの仕事をきちんとこなせるようになり,やがてその分野で素晴らしい仕事をする人の大半は,不器用なタイプだ。(p220)
 なぜ星野はあれほどのチーム作りができたのか? その答えは,情熱しかない。(中略)いったん情熱というものがひとつのかたまりになると,技量,才能を超えてしまう。(p244)
 本を読む愉しみというのは,人間に生まれて来て,かなり贅沢な趣味なのだなとあらためて思った。(p285)
 私は食とか味の話はほとんど書くことがない。それはグルメと称する評論家や,その道のエキスパートの書く文章と,当人たちの面が気に入らないからである。この連中の文章はまあひどいもので話にならないが,面はもっとひどい。(p289)

2020年1月25日土曜日

2020.01.25 本の雑誌編集部編 『絶景本棚』

書名 絶景本棚
編者 本の雑誌編集部
発行所 本の雑誌社
発行年月日 2018.02.25
価格(税別) 2,300円

● ワッハハハ。これは“淫する”の例だろうな。ギャンブルに淫する,酒に淫する,女(男)に淫する,というのと同じく,本に淫している人たちを集めたものだ。
 だってね,2日に1冊のペースで38年間辞書を買い続けた人とかが紹介されているんだよ。ワッハハハ,とんでもないことだよぉ。

● 都筑響一さんは,電子書籍が出てから紙の本を買う頻度は激減したという。最終的には蔵書をゼロにして,もっぱらデータをクラウドにあげておくのが理想だという。
 が,それもなかなか容易じゃないだろうね。この夥しい紙の本を電子書籍に置き換えるだけでも,相当な出費になってしまうよ。

2020年1月24日金曜日

2020.01.24 渡邉哲也 『ヤバイほどおもしろい台湾見聞録』

書名 ヤバイほどおもしろい台湾見聞録
著者 渡邉哲也
発行所 ビジネス社
発行年月日 2015.01.01
価格(税別) 1,000円

● 台湾,まだ行ったことがない。香港には何度も行っているのと対照的。これはね,うちの奥様が中国がお好きじゃなくて,香港とシンガポールは許せるけど台湾はってところがあったのが第1の理由ね。
 最近はその見方を変えているようなんだけど,今度は人気があるのでマイルで取れるチケットが出てこない。

● 目下のところ,ぼくの旅先はもっぱら東京なんだけども,台湾には必ず行く。台湾を見ないで死ぬのはちょっとという思いがある。
 ので,それまで本書のようなガイドブックを読んで行きたい欲をかきたてる。

● 以下にいくつか転載。
 ちょっと前までの台湾では,国内旅行をするという習慣がほとんどありませんでした。島の面積がたいして広くないせいもあってか,「旅行といえば海外旅行」という風潮がどちらかというと強かったのです。(p34)
 日本をよく知るようになった人たちには,国民党が当時教えてた反日教育は嘘である,と気づいた人も多くいます。(中略)なかなかそれを認めるわけにはいかないのです。自分たちが信じていたものを完全に否定すると,ある種の自己否定につながりますから,それを認めない人たちもいます。それが反日と言われる人たちの本音ではないでしょうか。(p80)
 台湾人の言語は基本的に中国語です。中国語圏であるがゆえに,ビジネス上のプラットフォームが日本より大陸のほうが向いているんですよね。(p81)
 グローバル企業の多くは,実は台湾人でない客家を中心として国際的なビジネスネットワークで動いています。民進党の蔡英文さんがその典型で,実は彼女は客家であって本省人でも外省人でもないんです。(p84)
 日本でもいま路線バスの旅が流行っていますが,世界のなかでもその感覚が味わえる数少ない街が台北だと思います。(p90)
 世界的に見ても,約束の時間を正確に守る習慣があるのは日本とスイスぐらいだと言われています。(中略)つまり日本人が特殊なのですから,他の国の人たちは「時間を守れない」と思ったほうがいいわけです。台湾の人たちは,約束をした場合にはそれほど時間にルーズでなく,きちんと行動しますから日本人としては付き合いやすい面があります。(p145)
 韓国は選択と集中の結果,多様性を失いました。台湾へ行くと分かりますが,昔の日本の商店街のように小さな個人商店や町工場がたくさんあります。世界的に見ても小さな町工場が生き残れる国というのは日本と台湾,ドイツなど限られた国しか存在しません。(p146)
 (台湾は)日本以上にリアリストでマーケット中心主義であることが感じられます。(p160)
 1999年9月21日,台湾時間の1時47分18秒に台湾中部の南投県集集鎮付近を震源としたマグニチュード7.6の大地震が発生しました。(中略)このとき日本側は,政党間外交という建前の下に支援を決め,大地震の発生当日の夜,合計125名の緊急救助隊を送りました。ファイバースコープや生存者の呼吸を電磁波で探知するハイテク機器,赤外線探知機,さらに大型の切断器具などの最新鋭設備を携えて日本が一番乗りしたことを台湾の地元マスコミは称賛し,発見された遺体に敬礼を捧げる救助隊員の姿勢が好感を持って報道されました。(中略)日本の支援を恩義に感じていた台湾の人たちが,東日本大震災に対して200億円を超える巨額な義援金を贈ってくれました。金銭感覚で言うと,台湾の物価水準は日本の3分の1程度,人口は5分の1ぐらいですから,単純計算で200億円の10倍に相当する2000億円近い金額になります。(p163)
 外交って本当に難しいですよね。組織とか国同士が付き合うよりも,そのなかにいる人と人とがつながっていないと物事がスムーズに進まないという話をいろいろなところで耳にします。(p175)

2020年1月19日日曜日

2020.01.19 野口悠紀雄 『「超」AI整理法』

書名 「超」AI整理法
著者 野口悠紀雄
発行所 KADOKAWA
発行年月日 2019.06.29
価格(税別) 1,500円

● 副題は「無限にためて瞬時に引き出す」。いらないものを捨てるという発想をやめて,検索で必要なファイルを引きだすということ。

● 本書の肝は2つ。スマホ&音声入力による「超」メモ帳の提唱。Googleレンズの勧め(写真を撮るだけで紙の文書をテキスト化できる。外国語で書かれたものが格段に読みやすくなった)。
 著者の野口さんは御年79歳。それでこの柔軟性。これからロシア語の勉強も始めるという。爪の垢をいただきたい。

● 以下に転載。
 整理はそれ自体は何も生み出さない仕事なので,いかに整理に時間を使わずに仕事をこなしていくかが重要です。(p5)
 世の中には,ノウハウでないノウハウが多すぎる(p5)
 デジタル情報について重要なことは,「いらないものを捨てる」という努力をやめて,「必要なものを検索する」という方針に転換することです。(p6)
 不要と分かっているものを捨てないで溜め込んでおくというのは人間の本能に反することなので,決して容易ではありません。(p74)
 音声入力によって,キーボード入力に比べて文章を書くスピードを飛躍的に向上させることができます。ただし,速さより重要なのは,いつでもどこでも,思いついたことをすぐにメモにとれるようになったことです。(p7)
 音声入力が可能になったので,われわれは2000年前の権力者と同じことができるようになりました。いや,同じではありません。それ以上です。なぜなら,カエサルといえども,真夜中に思いついたことを即座に口述筆記させることはできなかったろうと思われるからです。それに対してわれわれは,スマートフォンを枕元に置いて寝るだけで,真夜中であっても,簡単に口述筆記ができます。(p28)
 グーグルレンズは,印刷された文字を読み取って,テキストに変換してくれます。これによって,検索が実に簡単にできます。(中略)どんな国の言葉も簡単に翻訳や検索ができます。いまやわれわれは,どんな外国語も読め,森羅万象と歴史と文学とあらゆる学問に通暁した世界一の物識り博士を,いつでも引き連れているような身分になったのです。(中略)グーグルレンズを使っていると,「カメラというのは眼にすぎず,重要なのはその後ろにある脳なのだ」ということがよく分かります。(p31)
 整理法の本にあるもう1つの大きな間違いは,「整理は分類である」としていることです。しかし,分類とは思想です。思想によって分類は変わります。(p54)
 パスポートを収納した封筒を,新聞記事を収納した封筒の隣に置くことは,どうしても心理的抵抗が働きます。「重要なものは,隔離して別のところに置く」というのは,人間の本能だからです。別の場所に置くために紛失してしまうにもかかわらず,この本能を克服できません。「超」整理法の実行は,一見したほど簡単ではないのです。(p59)
 『アルゴリズム思考術』では,「図書館では,返却された本を完全にソートして書架に戻すという作業を行っているが,これは,実は秩序を乱しているのだ」と指摘しています。返却された本がまず置かれる分別用の棚には,最後に利用されてから最も時間が短い本が集まっています。これらこそ最も重要な本なのですから,「そこから本が運び去られるというのは,犯罪行為に近い」としています。そのとおりです。(p65)
 ファイルを名前の順に並べるのは,住所録の発想です。デジタル情報にはまったく適していません。(p75)
 「捨てる努力をやめて,検索で目的のファイルを引き出す」「ファイルの数は,いくら多くなってもきにしない」という方針に転換したのです。すると,用途が一挙に広がりました。(p79)
 私はこれまで,音声入力で長い文章が書けることに注目していたのですが,それだけではなく,検索に音声入力が使えるというのが重要な点です。(p86)
 重要なことがあります。それは,「いらないものを捨てる」「重要なことだけを書き残す」という考えから脱却することです。これは,人間の本能なので,克服するのは容易ではありません。この本能を克服して初めて,「超」メモ帳を駆使することができます。(p88)
 庭は,少しずつでも毎日手入れをしていれば,美しく保つことができます。しかし,放置すれば荒れてしまいます。情報を蓄積するアーカイブもまったく同じです。作っただけで使わなければ,荒廃します。毎日使っていれば,効率的なシステムを維持できるのです。(p129)
 音声入力機能の最も有効な使い途は,長文のテキスト化であると私は考えています。長文を簡単に入力できることは,知的作業において新しい可能性を開きつつあります。(中略)ところが,不思議なことに,長文入力がきわめて有用であることに気がついている人は,あまり多くないように思われます。(p134)
 音声入力が使えるようになってから,スマートフォンは入力装置になりました。この変化は非情に大きなものです。なぜなら,PCと違ってスマートフォンは,いつでもどこでも使えるからです。(p136)
 メモはきわめて重要です。(中略)メモは,あらゆる知的活動の基礎です。メモが必要なのは,人間の脳は,短期記憶の保持について,能力が低いからです。そのため,思いついたことをメモに取らなければ,すぐに忘れてしまします。(p142)
 「メモすべきかどうか」などと思い悩まず,何でもメモするほうがよいのです。「考えがまとまってから入力しよう」と考える必要もありません。後から編集はいくらでもできるので,思いついたことをどんどん入力していくべきです。(p144)
 私は,「文章を書く際に最も重要なのは,とにかくスタートすることだ」と考えており,「全体の構想がまとまらなくても,とにかく書き始める」ことを心がけていました。(p152)
 適切な構造は,全体がかなりの程度でき上がってからでないと,分からないのです。(中略)この点から見ても,とにかく書き始めることが重要なのです。(p163)
 せっかく文章の形に整えたものを捨てるのは,いかにも惜しいことです。しかし,不要なものが残っていると,文章が弱くなります。(中略)音声入力を利用するようになると,さまざまなことを簡単に書けるため,このことの正しさがさらに増します。(p164)
 まず,思いついたことをツイートします。これは思考の断片でしかありません。しかし,保存しておきたい思考の断片です。(中略)同じ内容のことを何度もツイートしてしまうこともありますが,あまり気にしないことにします。(p188)
 文章に残すことによって,時間を隔てた自分との間で伝達をすることができます。つまり,1人の人間が2人分,3人分の仕事をできるようになるわけです。これはきわめて大きな効果です。(中略)文字は,時間を隔てて別人になってしまった自分自身との間の,伝承や継承をも可能にするのです。(p193)
 グーグルレンズの画像認識を用いて,独学を進めることができます。とくに,外国語の勉強には有用です。(中略)具体的には,つぎの方法によって,正確な翻訳が得られます。まず,ある程度長い範囲を訳させます。一部は間違っていても,全体としておよそ何を言っているかは分かります。そこでとくに知りたいところを訳します。すると,正解に近づきます。さらに細かく取り出すと,正解を出します。専門分野の文献については,こうした「分解法」で,文献をかなりの程度,読みこなすことができます。(p198)
 グーグルレンズを用いれば,グーグル翻訳の読み上げ機能を利用して,音読が聞けます。(中略)これは,外国語を勉強するための最強の方法です。(p206)
 新聞(とくに一般紙)の紙面は,もともと,詳しいニュースを伝えるというよりは,ニュースの入り口としての意味が大きいと考えられます。(中略)印刷物の役割は,詳細な情報を伝えるというよりは,ウェブの世界への魅力的な入り口を作ることになっていくでしょう。(p219)
 いくらストックしても,必要なときに引き出せなければ,宝の持ちぐされです。というよりは,単にゴミの山でしかありません。(p251)
 重要なのは,「ほぼ目的が達成でき,しかも簡単に実行できる仕組み」を考え出すことです。「完璧に機能するが,実行するのが面倒な仕組み」では意味がありません。(p252)
 既存の知識と問題意識のぶつかり合いでアイディアが生まれるのです。(中略)新しい情報に接したとき,それにどのような価値を認めるかは,それまで持っていた知識によります。(p272)
 一般に,文学作品は,原語でしかその価値がわかりません。詩はとくにそうです。(p273)

2020年1月14日火曜日

2020.01.14 出口治明 『50歳からの出直し大作戦』

書名 50歳からの出直し大作戦
著者 出口治明
発行所 講談社+α新書
発行年月日 2016.09.20
価格(税別) 840円

● 50歳を過ぎてから起業した人たちと出口さんの対談集。これなら自分にもできるかもと思う人は,どのくらいいるんだろう。ぼくは自分にはとても無理だと思った。
 正しいはずだ。サラリーマンもまともにできたかどうか,かなり疑わしい人間が起業して上手くいくわけがない。

● 以下に転載。
 「今が人生で一番いい時期だ」僕はつねにそう考えています。(中略)過去が変えられるなら,いくらでも頑張りますが,変えられない以上は無駄なことはしたくない。それが僕のモットーです。加えて,今が一番若い。明日になれば一日歳を取ってしまう。(p3)
 若い人の中には,時代はどんどん変わっているから過去の経験など価値がないという人もいますが,けっしてそのようなことはありません。むしろ今のように世の中が激変している時こそ,豊富な経験が大きな武器になります。(p18)
 生きのいい連中と親しくなるためには,あなた自身にも魅力が必要です。あのおじさんと話をすると面白いと思ってもらわないと,誘っても誰もついてきてくれません。そのためには,つねに自分に付加価値をつける努力を怠らないこと。たくさん本を読んで知識を増やし,いろいろな現場をこの目で見て知見を深め,さまざまな人と積極的に会って刺激を受け続けましょう。(p25)
 (ハローワークで)ふと周りを見ると,気軽に会社を辞めて失業保険で海外旅行にでも行こうと思っているような若者か,私から見てもこの様子では再就職は難しいだろうと思うような人たちばかり。それを見た瞬間,「ここは自分が来るところではない」と感じ,話しんお途中で席を立ってしまいました。(中村勝 p37)
 長く続くいい会社のトップは質素で倹約家が多い気がします。(中村勝 p40)
 部下に信頼されるかどうかは,君自身のフィロソフィーで,そこに魅力がなければ,どんなにドラッカーの本を読んでマネジメントの勉強をしても意味がないよ,と。(中村勝 p42)
 好奇心が強いということは,知りたがり屋ということでもあり,それは裏を返せば自分は何も知らないことをわかっておられるということです。そうした気持ちはとても大切です。(p48)
 サービス業とは突き詰めればお掃除と土下座だ,というのが私の解釈です。(大嶋翼 p57)
 諦めて別の世界に移れば,それはつねに素人からのスタートになることを覚悟する必要があるのでしょうね。(p63)
 経済が成熟している国内で急拡大を目指すとどこかに歪みが出ますが,国自体が急成長している今の中国では,のんびりしていたらすぐに手遅れになりますね。(p66)
 自分が心からそうだと思うことしか話さず,やらなければ,ノーストレスです。かっこつけてみたり,反対に卑下してみたりすると,とたんにストレスがたまる。(p69)
 ハローワークの職員に尋ねられるのは,なにか資格を持っていますか? です。いくら営業を一〇年やっていますと言ってもダメで,信用されるためには資格を取るしかないとわかりました。(牧野克彦 p80)
 うちも近所の商店で売っているものは必ずそこから買うようにしています。中には,もっと安い店がありますよと言う社員もいるのですが,それはダメだと言ってします。近所に可愛がられない会社は,たとえ世界に進出するグローバル企業であったとしても,地域に受け入れられるはずがありませんよ。(牧野克彦 p84)
 グローバル企業のトップは,なんでもできて社内で一番業務に詳しい。だからこそトップの機能を果たせるのであり,高い給与をもらえるのも,それがあるからなのです。これに対して,日本の大企業の社長では,こういうタイプはむしろ稀です。講演やパーティーでの挨拶台本も社員が書く場合がほとんどでしょう。(p90)
 どんな商売でも一生懸命やれば食えないことはない。なぜかと言えば,ほとんどの人は真剣にやっていないだけ。実際,そういう人が多すぎる気がします。(石塚眞一郎 p99)
 古いお札の注文が増えたかと思うと二~三年でピタッと止まる。すると今度は寛永通宝などの穴銭が人気になる。科学的には説明できないのですが,示し合わせたように好みが変化するのは,本当に不思議です。(石塚眞一郎 p108)
 集めるならいいものが欲しいんですよ。多少質は落ちても安いもののほうがいいというコレクターは長続きしませんね。(石塚眞一郎 p111)
 相手の気持ちを察知できない人は独立すべきじゃないでしょう。(石塚眞一郎 p112)
 コレクターをやめれば,いいものから売れる。お客さまが喜んでくださるからです。そして,それがお店に対する信頼につながり,顧客増に結びつく。すべてが理にかなっていると思いました。およそ合理的でないものはビジネスではないのです。(p115)
 人生は強い目的意識をもって努力していくことも大切だけど,流れに任せるのも意外にいいことがあるな,と。(鈴木哲也 p127)
 なかには一個一五〇円の商品にそこまで求めるか? ということをおっしゃる方もいます。でもそこでそんなことできるはずがないと切り捨てるか,そのままでは難しいけれど別の方法があるかもしれないと追求するか。その差は大きいと思います。(鈴木哲也 p132)
 規模とか,ましてや利益の拡大を目指すとなると,お客さまからどうしても離れて,「ニーズは作るものだ」などと傲慢なことを言い出す。(鈴井哲也 p134)
 お客さんはどんな常連の方も永遠ではありません。今日が最後かもしれませんが,そこまでの責任は絶対に取らないといけない。万が一でもお客さまに満足していただけない危険があることは,やるべきではない。(鈴木哲也 p135)
 信頼関係を築くのは長い時間が必要ですが,失うのは一瞬です。時間をかけて築いた信頼関係ほど価値のあるものはありません。(p136)
 五〇過ぎの転職ではストライクは一球しか来ないという覚悟が必要だと感じましたね。(寺田淳 p149)
 うまくいっていない事務所は「待ちの商売」に終止していると感じました。(中略)決まった時間しか営業しない。お客のほうが自分に合わせろというスタンスです。これは商売として普通ではない。それをお客さん本位に変えれば,それだけでお客さんは必ず集まるはずだと確信しました。(寺田淳 p156)
 しかし私は絶対に断りません。とりあえず受けて,そのあとで勉強すればいいんです。どうにも手に負えない時はその分野に明るい先輩を頼ればいい。(寺田淳 p157)
 ダーウィンの「進化論」で語られる,「適当な時に適当な場所にいること」が運だと僕は解釈しています。(p168)
 トップが決断する段階まで来た案件は,どちらを選んでも大差がないのです。明らかな優劣があれば,もっと下の段階で決まっているに違いないからです。(p173)

2020年1月12日日曜日

2020.01.12 出口治明 『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅱ』

書名 仕事に効く教養としての「世界史」Ⅱ
著者 出口治明
発行所 祥伝社
発行年月日 2016.10.10
価格(税別) 1,800円

● ラテンアメリカの独立の契機がナポレオンにあったということ。先住民は(持ちこまれた病原菌によって)あらかた死に絶えたということ。その結果の労働力不足を補うための奴隷売買がアフリカを荒廃させたということ。いろんなことが繋がってくる。

● 以下に転載。
 ほとんどの人は次のことを直感的にわかっているのだと思います。「将来,何が起こるかは誰にもわからないけれど,悲しいかな,教材は過去にしかない」(p5)
 僕は,人間がつくったものは,総じて人間に似ていると思います。つまり王朝も企業も宗教も,それを創始した人間の人生をある程度までは反映していると思うのです。(p67)
 「イスラム教は砂漠で生まれた宗教だから,人を寄せ付けぬ峻厳さがある」ときおり日本では,そのような言葉を聞きます。しかし,おそらくそういう人たちはクルアーンを読み込まず,不毛の砂漠というイメージだけでクルアーンを解釈しているのではないでしょうか。(p71)
 イスラムの世界では言葉を声に出して詠うことをとても大切にしています。もっとも詩や歌というおのは,どこの世界でも声に出して詠唱することが本来の姿ですが。(p71)
 クルアーンは,ムハンマドの死が632年で,第三代カリフ,ウスマーンによる編集が650年ですから,その間,わずか18年です、(中略)したがってクルアーンには,異本は一冊もありません。揺るぎない正典がいち早くできたことが,イスラム教の求心力を著しく高めました。ムスリムは,異説に悩まされることがなかったのです。(p74)
 「降伏して納税せよ」という統治方針を貫徹するためには,イスラムの教えが他の宗教に対して寛容であることが前提となります。それはイデオロギーよりも現実的利益を優先する発想ですから,まさに商人の生み出した宗教らしい特徴です。(p77)
 多数派ではなかったモンゴルやアラブが広大な世界を支配するポイントは,いかに軍事活動による人的資源の損傷を避けながら広大な地域を統治するかにあったのです。(p78)
 イスラム教にはキリスト教や仏教のような専従者(司祭や僧)がいません。(p104)
 王安石の政策を宋がずっと継続していたら,この時代に中国は近代国家になっていたかもしれないという歴史学者もいます。しかし,あまりにも時代に先んじていたがゆえに挫折しました。(p217)
 悩んで決めないハムレット,夢ばかり追いかけるドン・キホーテ,異性が人生のすべてのドン・ファン。このような人物像は紙の意志によってではなく(信仰によって思考を止めるのではなく),人間の知力によって造形されました。この時点で初めて,人間は神の束縛から本当に自由になったのではないか。(p253)
 新大陸のインディオたちはスペイン人を始めとする旧大陸の人々の酷使と虐待,そしてなによりも病原菌によって,バタバタと死んでいきました。少なく見積もっても4分の3,中には90%が死滅したという説もあるぐらいです。広範囲に焼畑を行っていた先住民が死に絶えたため,新大陸では森林が再生して地球は寒冷化の方向に向かいました。アマゾンの熱帯雨林も原生林ではなくこの時代の再生林です。(p267)
 リマでは1614年に人口調査を行いましたが,20人の日本人が住んでいたのです。(中略)ポトシの銀をリマに運び,そこからアカプルコへ,そしてマニラへ,さらに中国や日本へ。太平洋交易というグローバリゼーションの大波が,日本人をも巻き込んで存在していたことを,記憶に留めておきたいと思います。(p269)
 白兵戦が勝ち負けを分ける当時の戦争では,敵軍の考えや行動がよくわかります。ナポレオンと戦うということは,国民国家(ネーション・ステイト)と民族独立の理念,そしてフランス革命の遺伝子「自由・平等・博愛」のスローガンがひしひしと伝わってくる,ということでもありました。(p276)
 南アメリカの解放に全身全霊と全財産を捧げた革命家ボリバルは,晩年に次のように語っていました。「アメリカ合衆国は自由の名において,アメリカ大陸を災難だらけにしようとしているように思える」と。(p290)
 アフリカ大陸の文明は他の大陸より遅れていると思われがちですが,それは近代に形づくられた印象論です。世界の四大文明が次々とピークを迎えている頃,たとえばヨーロッパにはほとんど何もありませんでしたが,アフリカにはすでに文明が存在していました。(p306)
 ここから,海洋国家ポルトガルとスペインの時代が始まるのですが,(中略)このきっかけのひとつはトンブクトゥの黄金伝説であったように思われます。人はお金のためなら,どこへでも出かけて行く。そんな気もします。(p312)
 ヴァスコ・ダ・ガマが150トン前後の小船でインド洋を渡り無事胃インドに到達できたのは,インド洋が安全な海だったからです。明の大船団,鄭和艦隊が海賊を根こそぎ退治していたのです。(中略)この鄭和艦隊が万里の長城に化けてインド洋から消え去ったのが,1433年のことでした。インド洋には権力の空白が突然に訪れたのです。ラッキーの一語に尽きます。見方を変えれば,中国(明)が鎖国政策に舵を切り替えたこのあたりからアジアの勢力がヨーロッパに押され始めたとも言えます。(p315)
 生産年齢人口を奴隷に取られ続けて300年,さらにそのあとはヨーロッパ列強に切り取り放題をされた結果,アフリカの精神風土は,眼前の大金を自分の欲望に使うことしか,考えられないものになったのではないか。その結果,振興独立国はテイクオフできなかったのではないか。(p332)
 ビスマルクはユンカー(大地主貴族)の出身で,保守派の政治家です。彼は誠にしたたかな人物でした。この人ほど国益を冷静に見据え,柔軟に思考し,前言を覆すことをためらわなかった政治家も少ないでしょう。ビスマルクにとっては,結果よければすべて良しで,そのためにはイデオロギーも方法論もすべて単なる手段に過ぎませんでした。(p357)
 第一次世界大戦後のドイツについて考えるときの大切なポイントは,ドイツ国内に敵兵が一兵も入っていなかったということです。(中略)ロシアには勝っている。英米仏軍もドイツ国内には入っていません。それゆえにドイツの市民は,第一次世界大戦で完全に敗北したとは考えていなかった。(p382)
 第二次世界大戦におけるフランスの死者は,第一次世界大戦ほどではありませんでした。両国にとって遺恨となるのは,何といっても第一次世界大戦のほうなのです。(p385)
 この4国は,世界の交易ルートに展開できる強い海軍力を持っていたのです。交易は人類史上,その大半が海の道を経由していたので,交易ルートを押さえることがすなわち世界の覇権を握ることに直結していたのです。現代における軍事力の考え方ですが,事実上使えない核兵器を除いて考えると,それは侵略を目的とする兵力よりも,むしろ警察力のイメージです。(中略)高速で紛争地へ移動できる兵力こそが肝要なのです。(p392)
 それほど簡単にアメリカは揺らぎません。なぜかといえあ,アメリカは人口が増えるからです。(中略)またアメリカの大学は国際競争力がとても強くて,常時80万人を超える留学生を抱えています。(中略)ベンチャーは主として大学から生まれますから,世界中から優秀で多様な人材が集まっていることは,将来への多くの可能性につながっていきます。(p394)
 中国の問題は何かといえば,ひとつには一人っ子政策の影響もありますが,人口が伸びずに早く高齢化社会に移行すると見られていることと,(中略)経済は自由だけれども政治は共産党の一党支配ですから,チャイニーズドリームがなかなかつくれない。これではやはり魅力的な社会にはなりません。(p395)
 ローマ帝国の時代から,市民が二極化すると社会が不安定になることを為政者はよく知っていました。ですから,社会の安定を維持するため,中間層すなわち普通の人々を増やして,頑張ったら上にのし上がれるという夢を,たとえ幻想であっても,特に若者に与えることが何よりも大切だったのです。それがないと社会の安定はあり得ません。(p399)
 このような地球有限説に立脚する理論(悲観論)は,これまではすべて誤っていたといえます。(中略)まだ人間には地球の大きさというものが十分理解できていなくて,資源がどれくらいあるのか,まだよくわかっていないのです。なにしろ大陸の大きさは寄せ鍋の灰汁のようなっものです。あの広大な海でさえ体積で測れば地球のわずか700分の1。人間には,地球の資源の総量などわかりようがないのです。(p401)
 将来を見据える最大の要素はやはり人口のような気がします。(p406)
 僕たちは歴史からさまざまな教訓を導き出すことはできるけれど,そっくりな時代というのは歴史上どこにも存在しない,そう断言してもいいと思います。(p408)
 歴史は決して一直線に進むものではありません。振り子のように左右に揺れながらジグザグで進むもの。短視眼的に世界を見て,一喜一憂することは避けたいものです。(p411)

2020年1月7日火曜日

2020.01.07 永坂嘉光 『天界の道 吉野・大峯 山岳の霊場』

書名 天界の道 吉野・大峯 山岳の霊場
著者 永坂嘉光
発行所 小学館
発行年月日 2006.11.20
価格(税別) 2,800円

● 盛大に護摩を炊くんだから火事が多かったんじゃないかなぁと阿呆なことを思いながら見ていった。
 修験者といっても,顔立ちはぼくらと変わらん。修験者がナンボのもんじゃい。が,「西の覗き」の行場を見て考えを改めた。高さ300mの絶壁に吊るされるのは勘弁して欲しい。この写真,撮る方も命がけ?