著者 出口治明
発行所 NHK出版
発行年月日 2020.01.01
価格(税別) 524円
● NHKのEテレ「100分de名著」のテキスト。25分の放送が4回で,100分de名著。4回とも見ることができた。テキストを読んでから視聴するという律儀さで対応。
出口さんが講義する方式かと思ったら,そうではなくて,司会者や朗読者がいて,雑談ではないけれども,質疑応答的な感じで進行する。
● で,その質疑応答において,伊集院光の存在は本当に大きい。野球で言えばキャッチャーの役どころ。彼のさじ加減で進行方向が決まるのではないかと思うほどだ。
実際にはシナリオがあって,そこを大きく踏み外すことはできないようになっているのだと思うが,だとすると彼の演技力が称賛されて然るべきだ。
● この番組は,かつての「市民大学」「人間大学」と続いた教育テレビの系譜を継ぐものだ(と思う)。「人間大学」までは講師の“授業”を放送するというふうだったと記憶しているのだが,だんだん軽量になってきた。
どちらがいいという話ではない。そういう流れなのだ。判断がつかないのなら,とりあえずは流れにしたがった方がいいと思っている。
● 以下に転載。
昔の人ができたものを,なぜ今できないのだという考えは,脳は進化していて人間は賢くなっているという前提に立ったものです。その考えが間違っていたのですね。(p7)
リーダーとフォロワー,あるいは上司と部下は,チームにおいて単に違う機能を担っているだけという関係にあります。この機能の違いを十分に認識した上で,リーダーがフォロワーの仕事を奪わない,必要以上に干渉しないということも非情に重要です。(p31)
リーダーは,自分の得意なことや好きなことをやってはいけない。これも『貞観政要』が説く実に大切な教えです。(p34)
これが正史を残さない国であったら,太宗とて楽をしようと思ったことでしょう。中国が歴史を書き残す国になったのは,「漢字」と「紙」があったからです。(p39)
過去のケースを見るときには失敗のほうが参考になります。これは今でも通じることですが,うまくいった事例というものは,たいていみんなが話を盛っていますから,あまり役に立ちません。(p41)
だらしない服装をしていないかもさることながら,僕が非情の重要だと思うのは,部下が付いてくる「いい表情」をしているかどうかを確認することです。僕は,人の上に立とうとする人間は,いつも元気で,明るく,楽しい表情をしているべきだと考えています。(p47)
若者がだらしないとしたら,それは大人がだらしないからです。(p61)
コミュニケーションというものは,突き詰めて言えば,すべて共通テクストの存在によって成り立っています。(中略)とにかく他者とコミュニケーションを図るには,まずお互いの共通項は何かを探すことが大切なのです。(p68)
部下を信用しない上司は,部下からも信用されません。上司を信用できないと感じた部下が,上司に対して誠実に振る舞うことはありません。(p73)
これを三十人でやったらどうなるでしょうか。打順は回ってこない。ボールも飛んでこない。これではうまくなりません。少数だから,精鋭になるのです。(p75)
人間の器というものはだいたい決まっている。どの部署に行かせても,鍛えれば何とかなるというものではないのです。(中略)ダルビッシュはショートではなくピッチャーを,分析が得意な人は営業ではなく分析をやったほうがいいのです。そして,それぞれの能力を存分に発揮するさまざまな人が集まったほうが,平均的な力を盛った人ばかりが集まったチームより強くなるのは明白です。(p80)
世の中には,ベンチャー企業をつくるには周到な準備がいるという物語が流布しています。でも僕に言わせれば,そんなものは出来の悪いビジネス書の影響です。歴史を見ていると,最大のベンチャーは国をつくることです。新しい王朝を興すことです。新しい王朝の始祖に,大きな国をつくるという目標を立てて周到に準備した人は皆無です。みんな偶然なのです。(p84)
中国の古典の素晴らしいところは,とにかく比喩が秀逸なことです、(中略)比喩があることで話が具体的になり,イメージが喚起されるため,内容が断然腹落ちしやすくなります。(p91)
リーダーは部下にとって労働条件のすべてです。(p97)
僕も三十歳ごろに『貞観政要』を読んで以来,この本を常に自分の手の届くところに置いています。(中略)本を開けば,あの魏徴が叱ってくれる。これほど贅沢なことはないと思います。(p102)

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