著者 出口治明
発行所 日本実業出版社
発行年月日 2019.02.20
価格(税別) 1,500円
● 『知的生産術』というタイトルながら,カードを使えとか,フィールドノートはこう書け,という話ではない。組織論,リーダー論だ。組織体の生産性を上げるにはどうすればよいのかという話だ。それ以前に,なぜ生産性が上がらないのかを考察した本だ。
● 自分が仕事を通じて成長できなかったのはなぜなのか。見につまされる話も出てくるんですよ。
ぼくはもう隠居老人だ。知るのが遅すぎたわけだけども,では若い頃に知っていたら今とは違っていたかというと,おそらく同じようにしか生きられなかったろうなとも思うんですよね。
● 以下に多すぎる転載。
椎名悦三郎の座右の銘は,「省事」という言葉でした。(中略)「余計なことを言ったりやったりすれば面倒になるばかりだから,余分なことはしなくていいんだ! 手抜きをしてもいいんだ!」と,とても感動したのをよく覚えています。(p2)
僕の成長の原動力は,幼少期からさほど変わっていません。「もっと遊びたい」「もっとラクをしたい」「もっと手を抜きたい」という不真面目な気持ちがエンジンになっています。(p3)
知的とは,自分が成長するために社会常識や他人の意見を鵜呑みにせず,原点にさかのぼって「自分の頭で考えること」です。(中略)したがって,知的生産とは,「自分の頭で考えて,成長すること」だと僕は定義しています。(p6)
サービス産業を中心とする社会においては,労働時間ではなく,「生花」と,それをもたらす「アイデア」こそが,生命線になります。労働者が長時間労働をしていたら,画期的なアイデアは生まれません。長時間労働の工場モデルは,現代の働き方にまったく見合っていないのです。(p35)
一所懸命働けば所得が2倍になる時代では,転職願望が生じにくい。「おもしろくない仕事をするからこそ,給与がもらえるのだ」という妙に説得力のある珍論も生まれました。しかも,同じ業界では「引き抜かない」慣行が維持されてきました。(中略)そんそため,青田買いで採用された新卒社員は,行く所がなくなるので,そのまま「終身雇用」されることになります。したがって企業側でも,雇用調整を行う必要がありません。(p36)
そもそも自分の頭の中にさまざまな情報や知識がなければ,アイデアは浮かびません。イノベーションやアイデアは,自分の仕事を深堀りするだけでは生まれないのです。(p46)
「いろいろな知識を身につける」×「自分の頭で考える」=「おいしい生活」 になると僕は考えています。食材が知識であり,調理する力が,考える力です。(p54)
他人と同じことや,昨日までの自分と同じことを考えていたら,知的生産は横ばいのままです。何事もゼロクリアな状態に戻して,根源から自分の頭で考え,自分の言葉で人とは違うアイデアを紡ぎ出さないかぎり,未来は開けません。(p75)
数字には無限大という概念がありますが,この世の中のたいていのものは,有限です。(中略)ですから,「無限大」という考え方を捨てて,「無減代」にあらためることが大切です。「無減代」とは,・無=なくす(無視する)・減=減らす・代=代用するのことで,日東電工株式会社の柳楽幸雄会長に教えていただいた言葉です。(p79)
たくさんの時間を調査や検討などに費やすよりも,「上限枠」うあ「規制」を設けたほうが,まちがいなく時間当たりの知的生産性は高まります。何かを決断しなければいけないときも,たとえば「10分で答えを出す」とはじめに時間の上限を決めてしまいます。(p91)
子育て中のワーキングマザーは,知的生産性がとても高いと思います。彼女たちは,保育園や小学校(学童保育)に子どもを迎えに行く時間までに,必ず仕事を終わらせています。(中略)無駄がありません。(p93)
この構想(ゾーニング)に異議を唱えたのが,アメリカのジャーナリスト,ジェイン・ジェイコブズでした。ジェイコブズは,「都市の活力は,その多様性によって維持されるので,さまざまな用途が混在することが必要である」と主張したのです。僕は,職場も都市と同じで,「多様性」や「混在」こそが生産性を上げると考えています。たとえば,仕事と子育てを一緒にしたほうが,生産性は上がるのではないでしょうか。(p95)
人間は,自分が見たいものしか見ない生き物です。あるいは,見たいように変換する習性があります。(中略)世の中を素直に見るための要諦は,「数字,ファクト,ロジック」で考えることです。(中略)自分の成功体験や主観(根拠なき精神論)に頼らないこと。数字,ファクト,ロジックを踏まえて,ゼロベースから新しく発想することが求められているのです。(p97)
情報を集め,期限を決めて考え,それでも結論が出なければ,あみだくじかコインの裏表で決めればいい。長々と考えるのは時間の無駄です。なぜかと言えば,AとBについて情報を集め,集中して考えても結論が出ないということは,AとBとの間にはそれほどの差がないということです。つまり,どちらに決めても大した違いはないということ。(p101)
以前,エコノミスト懇談会に出席した際,ひとりの記者から,「来年はどんな1年になると思いますか?」という質問を受けたことがあります。僕は,正直にこう答えました。「そんなことはわかりません」(中略)10年先,20年先,100年先のことなど誰にもわかりません。それはもう人智を超えたところにあるので,そんなことを考えてもしかたがないと思います。(P102)
僕はダーウィニストですから,「将来何が起こるかは誰にもわからない。人間にできることは,運(適当なときに適当な場所にいること)と適応だけ」と心底思っています。わからないことをあれこれ詮索するよりも,過去の教材(歴史)を勉強するほうがはるかに性に合っています。(p104)
僕は,元来,ものぐさな人間です。個々の事柄についていちいち考えるのは面倒ですから,自分の行動基準をあらかじめルール化して,機械的,自動的に行動するようにしています。(中略)ルールに適合するかどうかだけが,「やるかやらないか」の唯一の判断基準なので,考える時間とエネルギーを省略できます。(p110)
ルール化するときのポイントは,「例外をつくらないこと」です。(中略)(例外を作ると)ルール化の意味がなくなります。(p114)
同じようなことを話してしんどいと思うのは,自分を基準にして考えているからです。聴衆が違えば,すべてが一期一会です。(中略)そう思えば,自然と「この1時間半,集中力を高めて一所懸命やろう」という気持ちになります。(中略)全力投球する体力や気力が続かないのであれば,仕事を辞めることを考えればいい。人生,すべて「オール・オア・ナッシング」です。(p116)
「これは自分で決めた自分の仕事である。だから一所懸命やらなければならない」と腹落ちすると,自己暗示がかかりやすくなります。(p119)
実は,「僕の情報源のほとんどは新聞である」と言っても決して過言ではありません。(中略)新聞は,昨日,世界で起こった出来事に価値の序列をつけて,重要度に応じて紙面上の扱いを決めています。(中略)新聞を読めば,世界で何が起きていて,どのニュースが大事なのかがひと目でわかります。(p125)
「新しい企画を考えなければいけないが,なかなか思いつかない」「決断を迫られても,とっさに決めることができない。つい先延ばしにしてしまう」「論理的に考えたり,話したりするのが苦手」といった悩みがあるとしたら,その主因はおそらく「インプットの絶対量が少ない」からです。(p132)
「記憶力」は,詰め込むもの,覚えるもの,入力するものではなくて,出力しないと鍛えられないそうです。(中略)インプットした情報を,意識の部分で取り出すには,マザータング(母国語)に直してアウトプットすることです。(p138)
書くことでも自分の頭が整理されるので,(中略)ツイッター,ブログ,フェイスブックなどに書いて発信したらどうですか。ただし,日記はおすすめしませんが。日記はそもそも「自分しか読まない」ことが前提なので,あまり整理されないまま書いてしまうことがよくあります。(p140)
締め切りのあるまとまった量の課題に対し,ある程度の質のアウトプットを続けると,人の実力は格段に上がるのです。(p142)
ゼロから考えて,新しい価値を生み出す時代では,もうスピードでラン&テスト,すなわち試行錯誤を繰り返すことが重要です。(p145)
スピードは,その人の生産性を決定づける重要な要因です。(中略)人間の能力にはそれほど大差はない。能力に差がないのなら,スピードを上げるしかありません。(中略)「1週間後に100点の仕事を提出する」よりも,「70点でいいから,明日提出する」ほうが,相手に与える影響力は大きくなります。(p146)
人間が一番刺激を受けやすいのは,ロールモデル(具体的な行動や考え方の模範となる人物)を真似ることです。(中略)孫正義さんをロールモデルにするよりも,自分の観察できる範囲の中で,「学び取りたい行動ができている人」をお手本にしたほうが具体的です。(p153)
僕は30歳ごろに,「無駄だ」と思って2つのものを捨てました。手帳と,腕時計です。(p157)
この世の中では,「いいとこ取り」は,不可能です。(中略)世の中のすべての物事は,トレードオフの関係にあります。すなわち,何かを選ぶことは,何かを捨てることと同義です。たとえば,「長所を伸ばして,短所をなくす」ようなことはありえません。(中略)何か新しいものを得ようと思ったら,何かを捨てなければなりません。その捨てた場所に,新しいものが入る余地が生まれるのです。(p163)
全部の書類に目を通してから優先順位の高いものからやっていくなんて,プロ根性が足りない。そんなことは小学校レベルの話です。(p167)
僕は,健康に関する諸説をまったく参考にしていません。なぜなら,睡眠も食事も,個人差が大きいからです。(p179)
会社の経営理念を明文化すれば,組織は自ずとまとまる(p184)
会社が大事にしているコアバリューをホームペーjで公開すると,社員募集のスクリーニングコストを下げることにもつながります。なぜなら,その経営理念に心から賛同できない人は,最初から受けに来ないからです。(p185)
人間は傲慢な動物なので,「カラダは衰えても頭だけは進化する」などと思いがちですが,頭もカラダの一部ですから,頭だけ進化するのはおかしい。だから,カラダも頭も「10代ごろがピークで,20歳を過ぎたら余生みたいなもの」だとむしろ考えるべきです。人間は,20歳を過ぎたら,もうそれほど変わらない。(p190)
上司の仕事は,部下を育てることではありません。なぜなら,人の能力が劇的に伸びることはないからです。上司にできるのは,部下に対して「今持っている能力を最大に発揮できる仕事」を上手に与えて,見守ることだけです(p191)
「マネジメント」とは,突き詰めると,「人を上手に使うこと」です。(中略)人の能力がそれほど変わらない以上,組織の生産性を上げるには,上手に「組み合わせること」しかできないと思っています。(中略)そのためには,普段から部下とのコミュニケーションを大切にして,部下一人ひとりの適性をよく把握しておくことが必要です。(p192)
部下とのコミュニケーションは,基本的に,「労働時間内にやるべき仕事」です。ある講演会で,「管理者になってからこの10年来,ほぼ毎日,飲みニュケーションをやっている」という参加者に会いましたが,即刻,辞表を出すべきでしょう。(p196)
長所も短所も,その人の「尖った部分」。人は誰しも,はじめは尖った三角や四角です。それが,人に合わせるkとを覚えていくうちに,尖った部分がなくなり,丸くなっていきます。(中略)「尖った部分は削ってはいけない」と僕は考えています。「小さい丸より大きい三角や四角」です。尖った部分を削られた人は,その分だけエネルギーが小さくなるのです。(p198)
人間は元来,怠け者であり,易きに流れる動物でもあるので,議論をしようと思えば,いくらでも議論ができる。決断を先延ばしにできて,そのほうがラクだからです。(p208)
「フランクリン・ルーズベルト大統領は,日本が真珠湾を攻撃することを事前に知っていたのに,ハワイを防衛している司令官たちには何も知らせず,あえて日本軍に奇襲させた。それによって,アメリカの世論を『参戦』へと変えた」といった陰謀論がありますが,僕は信じていません。なぜなら,こうしたトンデモ論には,相互に検証可能な信頼に値するデータが存在していないからです。(p211)
日本人同士の場合,同質性の高いコミュニティであり,「こう言えば,こういう返事が返ってくる」と予想できるため,ディスカッションというより,単なる確認で終わってしまいがちです。(p225)
リーダーに決断力は必要です。しかし,イーダーの資質としてもっとも大切なものは,決断力よりも「正直さ」だと思います。正直で裏表のないリーダーなら,ハシゴを外されることはまずないので,みんなが安心してついていくことができます。(p245)
日本人の価値観や人生観は,職場や仕事に偏りすぎている気がします。努力と根性と我慢を評価するのは,時代錯誤もいところで,根拠なき不毛な精神論です。努力も,根性も,我慢も,かつての日本の文脈ならいざ知らず,これからの新しい時代では何ひとつ人生の糧にはならないような気がしています。(p258)

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