書名 138億年の人生論
著者 松井孝典
発行所 飛鳥新社
発行年月日 2018.11.09
価格(税別) 1,000円
最初に「斉一説」という言葉が出てくる。均一に斉一に物事は進んでいくという考え方。しかし,それは間違っていると言う。地球はこれまでも特異な変化をしてきたし,これからもする。したがって,過去に学ぶという態度ではダメだ,と。
● 以下に転載。
本書で私が伝えたいことはいくつかあるのですが,1つだけ先取りして申し上げると,「斉一説から逃れましょう」ということです。「斉一説」とはもともと地質学の言葉で,平たく言えば「過去は現在の鏡。過去と現在と未来はゆるやかな地続きになっている。したがって,過去に何が起きていたのかは,現在目の前に起きていることから類推できる」という考え方です。(中略)でも,ほんとうにそうでしょうか?(p3)
この世界は斉一説ではなく,予期せぬ出来事によって成り立っている--。そうとなれば,「わからない未来」に思い悩むことほどムダなことはなく,いまのこの一刻一刻を精一杯生きることこそが人生において大事だとわかるわけです。(ついでに申しあげれば,年配の方がしばしばおっしゃる「歴史に学べ」という斉一説的なお説教が,全くナンセンスだということもわかるわけです)。(p4)
この理論(相対性理論)が明らかにした,もっとも衝撃的な原理は,「この世界の時間と空間は運動や重力で伸び縮みする」ということでした。(中略)しかし我々がその原理を肉眼で確認することは不可能です。法則とか原理とか呼ばれるこうした概念が姿を現すとすれば,それは言葉や数式において以外にないのです。(p19)
科学的に「わかる」といった場合,それは,科学のルールに基づいて外界を脳のなかに投影し,その結果構築されたモデル,すなわち「内部モデル」に基づいて解釈することを意味します。とは言え,科学と科学技術が圧倒的に発達してしまった昨今,「わかる」ことが問題となる世界は,より細分化され,専門化されすぎてしまいました。よほどそのことに精通した専門家でないかぎり,本当の意味で「わかる」ことはもはや不可能なのかもしれません。(p21)
人間の脳は,その瞬間ごとにさまざまなことを認知しています。言い換えれば,脳が認知した瞬間だけ,その現実というものが存在しているということ。つまりそれが現在です。(p25)
明日突然,地球環境が大きく変わるような出来事が起こるとしたら,斉一説的に未来のことなど考えていても意味がありません。大切なのは,瞬間瞬間の決断であり,人生は,瞬間ごとの決断の積み重ねです。(p29)
私たち自然科学者にとっては,「問題をいかにしてつくるか」がもっとも重要です。問いを立てられるかどうかが,何を考えるにしても,最初のステップというわけです。(p33)
考えるというのは,きちんと答えの見出せる問いを立てることです。(p37)
人生とは,脳のなかの内部モデルの蓄積そのものです。脳の働きが止まってしまったら,それがホモ・サピエンスとしての人生の終わりを意味するということです。(p45)
うまくいっているときの方がかえって不安です。スラスラとうまくいくということは,そこにこれまでとはちがう斬新なアイデアがないと考えるべきでしょう。(p49)
もし,いま,自分の人生が思うようにいかないと考えている人がいるとしたら,それは最初から何かをきわめようとすることを諦めているからでしょう。そして私にとってそれは,考えることをやめるという,ホモ・サピエンスという種にとってもっとも致命的な過ちを犯すことと,ほとんど同義なのです。(p51)
それは,宇宙誕生から10のマイナス43乗秒という,普通の人にとっては意味がないような時間で瞬時に起こる出来事ですが,ゼロではないという点が物理学にとっては重要です。(p53)
全部が見えるというのは,そお基本過程の因果関係から結果まで,1本の流れでスッキリととらえることができるということです。その光景はとても「美しい」(合理的と言うか,その背景をつらぬく法則性の表現の美しさ)ものです。(中略)「わかる」快感とはこういうことです。もし,何かの物事に対し,「美しい」と言えるほど気持ちの良いイメージで捉えることができないのであれば,それはその物事の本質を,まだよくわかっていないからかもしれません。(p54)
もともと人間には,どうにもならないことも多くて,そのつらさを乗り越えるために思考停止状態をつくりだす必要がありました。その方法の1つが,宗教です。宗教は,見える世界以外を神という概念に置き換えて,考えないですむようにする,と考えることができます。(p57)
現在の世界のかたちにしても,それがどうしてそうなのかも悩む必要はありません。この宇宙の進化から個々の人の歴史にいたるまで,「実現の可能性が高かったことが実現した」としか言いようがありませんから,これも悩むには及びません。(p58)
仕事でよいアイデアを思いつくにはどうしたらよいか。学生時代からずっと考え続けてきた私の結論は,とにかく考え続けること。単純なようですが,これに尽きます。(p63)
メモを取ることはほとんどありません。考えるべきことは,頭のなかに全部あります。頭のなかの知識は断片的で混沌とした霧のなかのようなものですが,解くべき問題自体はきちんと整理されているのです。問題が整理されていれば,メモなどなくても,それを忘れることはありません。(p67)
一度波をつかんでその先端に立つと,その後はたいした努力をしなくともずっと先頭を維持できる。よく,時代の先頭を走るのはきついという人がいますが,それは実際に先頭を走ったことのない人がイメージで言っているだけか,本当は先頭を走ってなどいなかったのに,走っていたと勘ちがいしているだけなのではないでしょうか。(p76)
日本の学者,とくに人文系の学者の多くが世界的に一流になれないのは,知識としてはものすごい量を持っているにもかかわらず,人類の知の最先端を突き抜けるという意識に欠けているためではないかと思います。(p78)
宇宙が1つしかないのであれば,「この宇宙に私や生命が存在しているのは必然か」という問いに,ほんとうの意味で答えることはできません。たとえ答えたとしても,あくまで思弁的な領域に留まるものです。しかし,宇宙がどのような姿を取るのかという可能性が,10の500乗個あるとすれば,この宇宙がなぜこの宇宙なのかという問いが物理的にも意味をもつわけです。20世紀には,誰もこんなことは考えもしなかったのです。(p85)
二元論と要素還元主義に基づいて外界を内部モデルに投影するのが科学であり,研究者を目指すならそれをきわめないと先へ進めなくなると諭します。(p95)
大抵の自由は,家族によって阻害されるものではないと思います。自分の意欲が中途半端だったり,考える努力を怠ったりしたことを,家族のせいにするべきではないでしょう。(p100)
早く老いるかどうかの境目は,現役を続けているかどうかにあると確信しました。(p104)
若い頃と比べると,問題を解くためのアイデアが瞬時にひらめくことは少なくなりました。(p108)
そういう新しいチャレンジを自分よりはるかに若い人たちと一緒になってやるには,それだけの力を自分がもっていなくてはなりません。体力が必要なのももちろんですが,それ以上に必要なのは,執着心と集中力です。結局,仕事であれ勉強であれ,必要なのはこの3つにつきます。(p110)
エネルギーまで含めて考えれば,地球は開放系というシステムです。しかし物質的な観点としてみると,基本的に地球は「閉じて」います。そして,安定な閉じたシステムの特徴は停滞にあります。セロザムということです。(p115)
ある常識と言われている解釈が,別のものに変わることによって世の中も変わっていくわけで,それを我々人類は「進歩」と呼んできたのです。(p115)
科学の基礎が生まれたという意味でのルネッサンス運動が起こったのは,私見ですが,「新大陸」の発見が大きかったように思います。(中略)そのことを通じて,「古典に書かれていない知識」の存在が自明となったのです。(p116)
問題は,基本をマスターする段階で起きがちな思考の硬直化(科学の常識を100パーセント受け入れてしまい,懐疑の精神を失うこと)です。(中略)その壁を乗り越えられるかどうかが,学者として,一流と二流を分ける分岐点でしょう。(p118)
進歩をはばむ斉一説から逃れるにはどうしたらよいか? 私は,我々の世界を論理(数学)的に分析することが重要だと考えます。(中略)経験=見える世界だけに縛られ,進歩をこばむ生き方から我々人類が脱却するには,好むと好まざるとにかかわらず,論理・推論・演繹(数学)的思考を身につけることが絶対条件と言ってもいいでしょう。(p125)
世界で仕事をするためには,話す内容を持たなければならないことを痛感しました。(中略)ところが,日本人のほとんどは,あるいは日本の英語教育のほとんどが,伝える内容よりも,外国語を上手く操る単純なスキルにしか関心がありません。それでは誰も,耳を傾けてはくれないのにです。(p137)
文明の誕生には共同幻想が形成されることが条件で,それには言語という共通のルールが必要です。その言語が危うくなったら,日本人のアイデンティティとしての共同幻想は壊れてしまう。(p140)
宇宙,地球,生命の歴史を解読してわかったのは,それらの歴史に共通している点として,「分化」する方向に進んでいるということです。しかし,そのような長い歴史のなかで,いま文明においては,その流れに逆光する動きがあります。それが,ITを基盤とする情報ネットワークの発展です。(p142)

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