著者 岸見一郎
発行所 ポプラ新書
発行年月日 2019.02.07
価格(税別) 800円
● 私はこう読んでいるという具体的な回答を示しているというよりも,自身の読書歴を語っているようであり,さらには自叙伝のようでもあり。
外書購読の指南でもあり,たくさん読めばいいと考えることや速読に対する戒めでもある。
● 以下に転載。
私は本を読むことは他の何かの目的のためにされることではなく,ただ楽しいから読むというのでいいと考えています。生きるということも本来楽しいものです。人は何かのために生きるのではありません。何かのためにでなく生きられることが幸せです。(p7)
対人関係はこのように悩みの源泉であるかもしれませんが,他方,生きる喜びや幸福もまた対人関係の中でしか得ることはできません。そこで,幸せになろうと思うのであれば,対人関係の中に入っていく勇気が必要です。(p10)
ただ黙って話を聞いていればカウンセリングになるわけではありません。(中略)絶えずなぜ今この人はこの話をしたのだろう,次はどんな話になるだろうかと推測しながら話を聞くのでなければ話を聞くことにはならないのです。(p26)
相手を理解するためには,「もし自分だったら」と考えるのではなく,「もしも自分がこの人だったら」と可能な限り相手の立場に身を置いて考えることが必要です。(p27)
本を読むのは,ちょうどグライダーが他の飛行機や車に引っ張られ,飛び立った後にロープを切り離して滑空するように,考える最初のきっかけとして必要なことはあります。しかし,いつまでもロープを切り離さないようでは駄目なのです。(p37)
未来はまだきていないというより,ただ「ない」のです。(中略)私はこれからどんな人生を送るかを神が知るような形では何も決まっていないと考えていますし,何も決まっていないからこそ,この人生は面白いと考えています。(p63)
自分が賛成し納得できることばかりが書いてある本を読んでいると,日常の生活においても異論に対して不寛容になります。(p68)
読み始めて面白くなければ本を閉じる勇気を持たなければならないと思います。面白くないというのはその本がよくないほんだからというわけではなく,多くの場合,今の自分には必要ないからです。(p124)
大学院を終えると,奈良女子大学でギリシア語を教えることになりました。四月にα,β,γから学び始める学生が秋には『ソクラテスの弁明』を読めるようになりました。(p160)
外国語で読むということはゆっくりしか読めないものです。(中略)ゆっくり読まないと力はつきませんし,著者が時間をかけて書いたものを速く読んでもあまり意味がないように思います。(p160)
私の場合は絶えず複数の本を読んでいます。多い時には同時に十冊ぐらいは読んでいます。(p172)
家にいると意外に本を読むことはできません。なぜ通勤や通学の時には本が読めるかというと,本を読むこと以外のことはできないからです。(p184)
批判以前にこの本で著者が何をいいたいのかを理解するのが先決です。そのために,私は「まえがき」と「あとがき」を丁寧に読むようにしています。(p195)
トロイアの遺跡を発掘したハインリヒ・シュリーマンは,多くの言語を習得しました。彼の学習法は声に出して読むことで,そのために近所の人から苦情が出て何度も引っ越しをいなければなりませんでした。(p206)
語学には終わりはありませんが,これだけのことができたらある言語を学んだという最低限の目安は,辞書を引けば本を読めるということです。辞書を引けるためには,文法を知っていなければなりません。(中略)後は,たくさん読んでいくしかありません。(p209)
一人で外国語を勉強するとどこまで覚えなければならないかわからず,細かいところまですべて覚えようとして途中で挫折することがあります。(中略)独学では何を覚えるべきか,覚えなくてもいいかという判断をすることができないのですが,エクスプレスシリーズ(白水社)は初学者に必要なことが最小限に書いてあるので,それだけをまず覚えることができます。(p219)
どんな言語を学ぶ時にも自分が読みたい本を選ぶと,やがて外国語を読んでいるというよりは,読書していると思えます。(p220)
原書を読むおはフルカラーの世界を垣間見るようです。それに対して,翻訳はモノクロ写真のようです。(中略)翻訳で読んでこれを原語で読みたいと思う本があるなら,そのためにだけその本が書かれた言葉を学んでもいいくらいです。(p220)
自分で考えられるようになるためには,読むよりも書くことが必要になってきます。(p238)
最近は本を読みながら書いてあることや思いついたことを書き留める時,音声入力をすることがあります。私はキーボードを打つのはかなり速いのですが,音声入力はそれよりも速いです。原稿を書く時も音声入力をすることがあります。(中略)とにかく話してみると内容はともかくたちまちたくさん書くことができます。(中略)最近はかなり正確に変換するようになってきたので使わない手はありません。(p242)
本を読むことで現実を超えることができました。これは現実から逃げるということではなく,本を読む時に感じる喜びの感情,生命感の高揚が現実を超える力になるということです。(p248)
ゆっくり本を読めば,慌ただしく駆け抜けるように本を読む時には見えなかったものが見えるようになります。生きる時も,急がず,後どれだけ生きられるかというようなことを考えなくなると人生が違ったふうに見えてくるでしょう。生き方と直ちに変えることは容易なことではありませんが,本の読み方を変えることならできます。(p250)

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