書名 定年バカ
著者 勢古浩爾
発行所 SB新書
発行年月日 2017.11.15
価格(税別) 800円
● たいていの本と同じように,本書も「はじめに」と「あとがき」を読めばそれで良し,という気がしなくもない。要は,あんたの好きにすればいいんだよ,いい歳して人に訊いてんじゃねーよ,と説いている。清々しいばかりの正論だ。
教えを垂れるふうのいくつかの定年本を取りあげて,それをあげつらう(?)形で,その正論を何度も説く。空海がやった優劣比較の手法もこういうものなのかね。
● 以下に転載。
定年後どう生きたらいいかについては,一言で足りる,と私は思っている。「自分の好きにすればよい」である。(p4)
いちいちごもっともな提言を参考にするのはよい。(中略)しかし,「そうなのか。こりゃ大変だ,なにもしてないぞ」と過剰にプレッシャーを受けすぎて狼狽え,人にばかり教えてもらおうとする者はよくない。(p6)
好きでする,何もしない生活は,自由の生殺しではない。自由そのものである。(p7)
いったん不安に襲われたら,それを取り除くことはけっこう難しい。最初から無駄な不安にとりつかれないこと,それが一番である。これはけっしておざなりではない。(p41)
「おまえはなにもしなくていいというが,二十年間なにもしないのかね」といわれたりもしようが,錯覚しないでいただきたい。二十年間が一度にどっとやって来るわけではない。来るのは一日一日である。人になんといわれようと,その一日一日を好きに暮らせるならそれで十分である。(中略)まだ見ぬ二十年間を先取りしてずっと「充実」させようと思ったり,二十年間持続する「生きがい」を考えるのは無意味である。(p59)
わたしには「活き活きと輝いている人」というのがどうにもウソくさくて,うっとおしいことこの上ない。(p61)
健診・検診そのものにも問題がないわけではないが,そこに医者が関わってくる「医療介入」が行われると,検査をしなければわからなかった「検査病」が見つかる。その結果,今朝までピンピンしていたわれわれはいきなり病人予備軍にされ,再検査,薬処方,精密検査,はては即入院,手術ということになってしまう。(p89)
切れたのは会社との「つながり」だけである。社会といっても,たかだか「会社という社会」にいたにすぎない。(p117)
ほんとうはみんなわかっているのではないか。はやめの準備など,ほぼ無理なことだと。それに,準備をしさえすれば,何年か先の自分の状況をある程度コントロールできるのではないか,という考えが,虫が良すぎる気がする。(p135)
どうなるのだろうという不安があっても,実際にその時空の「中」に入ってみれば,なんとかなるものである。(p135)
いったい読者は,ハウツー本になにを期待して読むのだろうか。希望,だと思われる。「なりたい自分になる」ことであり,「成功」であろう。書き手はそのことを察するがゆえに,読者にほんとうのことがいえない。無理にでも希望を示したいと思う。(p136)
思い出として残っているものには不朽の価値がある。そんなものと戦って,勝てるはずがない。現前の人物や風景のほとんどは思い出になりきれず,ただ消えていくだけのものである。(p148)
わたしは,リタイアしていようが,現役であろうが,みんな「ただの人」だと思っている。(p151)
道徳教育批判はいいのだが,では本を読み,映画を観て,人を見て,話を聴いて,考えて,自分で自分の身を修めるように自己教育をするのか,といえば,そんなことはほったらかしである。そこにこの社会には,不まじめなオレは大物,まじめなやつはバカにしていい,というわけのわからん伝統的な価値観があるものだから,自我のコリ押しをしては自己陶酔する。そういう人間から人が離れ,嫌われた挙句に「ひとり」となっても,自業自得である。(p165)
六十年も生きてくれば,多少は自分の身を修める術くらいは心得ていてもいいのではないか。-と思うが,この社会では,人間が成長できるようにはなっていない。むしろ,成長しなくていいというメッセージがマスコミ上で溢れている。無知であることがなんの恥でもなくなったのである。(p166)
ふつう(自然,伝統)が一番,そこに自分らしさなどでごてごてと飾りたてるな(「演出」するな)(p180)
わたしの定年後の生活は,わたしだけに固有な定年後の生活である。(中略)形だけもっともらしい正しさや,口先だけの無責任な一般論は,一人ひとりの生活に届かない。そんな柔な一撃は到底一撃たりえず,自我から一枚のウロコも剥がれ落ちない。(p193)
元々,世界は無意味なものである。そこに人間は無数の「意味」をつくりだし,それをみんなで承認しあうことで,世界は成り立っている。(p200)
自分が好きなら,世間などかまうことはないのである。(p209)

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