書名 ヘタウマ文化論
著者 山藤章二
発行所 岩波新書
発行年月日 2013.02.20
価格(税別) 720円
● 「ヘタな人間」が「ヘタ」に描くのはやさしい。しかし「ウマさを志した人間」や「ウマい技術を身につけた人間」が,「ヘタに見える絵」を描くことは非常にむずかしい。
「ヘタウマ派」とはその困難をのり越えた人たちのことで,一朝一夕になれるものではない(p82)
● そのヘタウマについて語っているわけだけれども,著者もことわっているように,本書の話題はそれに限定されない。そっちこっちに飛ぶ。で,飛んだ先が,それぞれに面白くて,あっという間に読めてしまう。
山藤さんのアンテナに引っかかった文学,演劇,落語,絵画,漫画,物真似芸などが,ポンポン飛びだしてくる。こちらはたんにそれを楽しめばよい。
本書に副題を付けるとすれば,戦後サブカル史とでもいえばいいか。ぜんぜん違うね。伝統文化の話題もたくさん出てくる。いわゆるサブカルの話題はそんなにない。
● 山藤さんが語るエピソードに登場する人物は,次のような人たち。このうち,寺山修司だけは自分には合わなかった生真面目な人として言及している。
岡本太郎,糸井重里,井上ひさし,飯沢匡,立川談志,ピカソ,タモリ,南伸坊,伊東四朗,山口瞳,寺山修司,東海林さだお。
● このなかで最も濃い登場の仕方をするのが立川談志。彼について,次のように書いている。
立川談志はウマい落語家だった。それも百年にひとり出るか出ないか,というレベルの落語家だった。なにしろ,志ん生,文楽,柳好,三木助,円生,小さんという昭和の名人といわれる人に囲まれて育った。 彼が「破壊と創造」などという,芸人にあるまじき能力を持たなかったら,一途にウマい芸人を目指していたら,間違いなく「平成の名人」になれたはずだ。 ところが芸の神のいたずらで,彼に余計な能力を与えた。 そのために彼は,落語家人生のあいだ中,自分の中で騒ぎ立てる「創意の虫」と格闘をし続けなければならなかった。 人並み外れて「ウマい」のだから,何も苦労することはあるまい,と普通の人は思うだろう。 しかし天才には天才にしかわからない苦労があって,終着点のない旅に出てしまったのだ。(p72)
0 件のコメント:
コメントを投稿