著者 マイケル・ポラード
訳者 五味悦子
発行所 偕成社
発行年月日 1998.04.01
価格(税別) 2,000円
● 本書では,チャイコフスキーが人並みはずれた悲観的な性格の持ち主であったことが,しばしば指摘される。成功したあとも,「自分の才能を疑う気持ちが,頭のすみからどうしてもはなれなかった」(p141)とか,「なにかにつけて,破滅がせまっていると考えがち」(p148)であるとか。
同性愛者であったことも与っているのかもしれない。
● 著者はかなりの諧謔家あるいは皮肉屋であるのかもしれない。その代わり,チャイコフスキーの生涯と作品を平明に俯瞰してみせてくれる。
平明ではあるんだけど,このシリーズは小学生向けと思われるところ,これを読める小学生がいると思うと,小学生はすなわち大人だ。侮ってはいけない。
● 以下にいくつか転載。
キュンディンゲルは,音楽を職業とするべきかどうかというチャイコフスキーの父親からの質問に,こんな意見を書き送った。「あなたの息子さんには,才能のかけらもない。音楽家の道を歩むことは,とてもおすすめできません」と反対したのである。(p20)
チャイコフスキーの音楽が,多くの庶民的な聴衆に訴えたのは,まさにその《きまりをふみはずした》点である。アメリカでもヨーロッパでも,コンサート会場をうめるのは貴族たちではなく,ごくふつうの人たちになってきていた。(p78)
自分と結婚したことで妻がどんな苦痛を受けることになったか,チャイコフスキーが本当に理解した様子はない。チャイコフスキーをはじめ,創造的な,才能のある人たちは,世界が自分のまわりをまわっていると考えがちだ。(p104)
アントニーナは,チャイコフスキーと別居したのち,一八八一年に父親のはっきりしない子どもを生む。一度再婚を試みたこともあったが,これも失敗に終わる。その後,死をむかえるまでの二十一年間を精神病院の中ですごした。ロシア革命が達成される一九一七年,病院の中で,アントニーナはむなしい一生をとじる。(p113)
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