書名 期待値を超える
著者 松浦弥太郎
発行所 光文社新書
発行年月日 2020.03.30
価格(税別) 760円
業務内容が変わったのに軸はまったくブレない,なんてあり得ない。ブレていない=新しい仕事に対応できていない,ということになるだろう。松浦さんに限ってそれはないでしょ。
少なくとも,デジタルツールを自身で使う前と後とでは,デジタルツールに関する見方だけは変わっているはずで,これが変われば他にも影響を及ぼすだろう。
● しかし,以上のことはぼくの想像であって,本書にはそういう話は登場しない。
本書は松浦さんの仕事論の最新バージョンなのだが,ツールや個別の方法論ではなく,仕事哲学あるいは心構えについての話だ。
● 以下に転載。
いま思えば,当時の僕G売りものにしていたのは,若さと体力,そしてひたむきさだったのでしょう。どこの職場でも真面目に働けば働くほど重宝されました。だけど,「ひたむき」という,ありきたりのものに高い値段はつきません。(p4)
自分だけが得をするような商売は決して長続きしません。人の期待値を超えること-とにかく,人に尽くし,相手が喜び,得をして,そのおかげで自分も最後に利益を得ることが商売の基本です。(p7)
仕事とは,困っている人を助けること。何に困っているかを見つけること。これは,どんな仕事であっても同じです。(p24)
僕は編集長に就任したとき,編集思考ではなくビジネス思考に切り替えたことで,自分が何に詳しくなるべきかがわかりました。それは「人の感情」です。それがわかるようになれば,どんな商売だってできる。どんなときに,どんな気持ちになるのか。つらいときにどんな言葉をかけてもらいたいのか。ひとりで映画を観たいと思うのはどんなときか。引越しのときに手間だと思うのはどんなことか。そういう思考方法を身につければ,どんな商品やサービスが求められているかを予測できるようになります。(p27)
ビジネスには相手が必要です。コミュニケーションで大切なのは,自分都合ではなく,常に相手目線で考えること。これは当たり前のようで,意外と見落としがちなことです。(中略)あらに言えば,深く理解した上で,相手の未来をどこまで語れるか。(p29)
会社に所属していたとしても,あなたが話をするとき,相手が見ているのは,あなたという「個人」です。(中略)セルフブランディングとは,自分をどう見せるか,人からどう見られたいかではなく,自分を好きになってもらったり,ファンになってもらったりすることです。自分を大きく見せる必要はありません。(p31)
商売人は「面白い話」「新しい話」が大好きです。(中略)僕がこれまで仕事で会った人たちを見ていると,たくさん稼いでいる人ほど面白いことと新しいことに興味がありますし,会社でもトップに行く人ほどそうです。(p34)
収入は,感動する人の数に比例します。世の中の商いは,すべてその原理で動いているので,自分の収入を増やしたければ,喜ぶ人,感動する人を増やすことを考えるといいのです。(p36)
企業のトップには,周囲から天才と揶揄されるくらい強い信念をもつ人もいますし,優秀な人ほど手ごわいのは,どの業界でも共通しています。(中略)こういうときに大きな力を発揮するのが楽しむというコミュニケーションです。「会いたくない」で止まってしまっては仕事になりません。いっそのこと開き直って楽しんでしまいましょう。(中略)人と人との関係性は,変化するのです。自分が避けたいと思っているとうまくいきません。(中略)が,自分がアクションを起こすことで,関係が変わっていくのも楽しいものです。(p37)
断られると「話を聞いていただいてありがとうございました」とお礼を言って,帰ってきて終わりです。(中略)僕にとって失敗とは,何もしないこと。かけた時間や労力はムダではありませんし,落ち込むこともありません。(p41)
世の中では,得意なことを仕事にした人より,仕事をしていくうちに自分の得意を見つけた人がほどんどです。僕もそうでした。(p43)
いわば上司は取引先です。(p47)
相手に理解してもらうためには,うまく話す必要はありません。どれだけ自分たちの熱意を伝えられるかです。そのためには一人のほうがいいと僕は感じています。(p54)
発言しない人,自分をわかってもらう努力をしない人は,次に何かをしようとするときに,その場に呼ばれなくなるのです。(p67)
僕は誰かから突然,面白い話をしてほしいと言われたときに,三十分でも一時間でも話し続けられる自分でありたいと思っています。(中略)そこで思い切って何かやることには,想像以上の価値があるのです。(p69)
ビジネスでは,いかに相手と深いつながりをもつかが重要です。どんなことにも一生懸命取り組むこと。プライドは自分の内面にとどめておくものです。(p70)
練習をするのは保険のようなもので,不安を取り除くためです。失敗は命取りにはなりませんが,不安は命取りになります。完璧を目指すのではなく,やれることはすべてやったと思えるように練習してください。(p79)
たいていの不安は,情報収集で解決するのです。(p81)
人は完璧な人には票を入れたがらないのです。それより言葉を噛んだり,手もとが震えていたり,途中でセリフを忘れたりするところに共感します。わざとそうする必要はありませんが,そのほうが一生懸命さが伝わることは事実です。(p86)
一度にたくさんの情報を提供するよりも短く伝えるほうが相手の感情に訴えることができるのです。(p87)
質問に答えられないときの一番いい答えは「わかりません」です。いい答えが返せない時点で失格ではなく,相手は不測の事態にこちらがどう対応するかを見ていますから,誠実に対応すれば何も問題はありません。(p89)
交渉するときは,自分の立場を主張するだけではうまくいゆきません。むしろ相手の立場をどれくらい理解できるかが大切です。そのためには相手側からの質問項目をできるだけたくさん考えてみてください。(p122)
どんなにタフな交渉でもいつも相手の顔を立てるつもりでいます。(中略)交渉ごとでは主導権を握る必要はなくて,むしろ負けているくらいでいいのです。(中略)戦うことがムダだと思っているからです。勝ち負けにこだわると,小さなことが気になって仕事が前に進まなくなります。仕事とは,決して勝ち負けではありません。(p126)
問題になるのは起きたことそのものではなく,向き合い方,切り抜け方です。(中略)だからまずは正直になりましょう。(中略)ビジネスパーソンに必要なのは,優秀さよりも勇敢さ,そして誠実さです。ミスしたとき「ミスしました」と報告できる勇敢さがあれば,なんとかなることがよくあります。(p131)
トラブルで求められるのは我慢する力です。(中略)その場の感情に突き動かされてしまうと,事態はより悪化します。怒りの沸点は,七秒しか持たないと聞いたことがあります。だからどんなにカッとなっても七秒やり過ごすことができれば,あとは自然とおさまります。(p136)
自分たちの思惑を前面に押し出そうとすると,どうしても近視眼的になります。それでは大局をつかむことができず,長い目で見るとあまりいい傾向とは言えません。一歩弾いたコミュニケーションを心がけていると,相手のことや仕事のことがよく見えます。(p158)
ビジネスにおいては,全戦全勝もあまりいい傾向とは言えないでしょう。いいことには必ずマイナス面がついてきます。(中略)八勝七敗くらいがちょうどいいと思っています。(p158)
観察は,商売を支えるヒントやアイデアになります。ただぼんやり眺めているだけでは仕事につながりません。コツは「なぜ」を素早くつかまえることです。(中略)自分が疑問に思って調べたことは,貴重な一次情報ですから,ずっと自分の中に残ります。それがアイデアの種です。(p161)
僕は週に一,二回走ってますが,これは運動不足の解消のためというよりは,むしろ心のため。身体を動かして汗をかくという単純な礬水を続けることで,心が整うのです。(p166)
くじけそうな気持ちを奮い立たせてくれるのは,自信です。自信とは,立派な自分にだけ宿るものではありません。どんな自分であってもいいのだと自分を信じることです。(p170)
失敗は,ある意味では「おいしい」経験です。それで注目されたり,一発逆転のチャンスでもあります。人は順調な人生より失敗の多い人生に共感しますから,そういう意味でも悪いことではありません。優等生が成功するより,劣等生が成功するほうが,注目を集めます。そして失敗はとてもいいネタです。(中略)失敗しても怒られても,それをネタにして話をすれば,楽しんでくれる人はきっといます。(p171)
マネジメント側にいる人間は,何があっても安定していないとダメです。自分の底を見せるようなことをしてはいけません。安定しているから,周囲は信頼してくれるのです。(p173)
その人生に,足がすくんで前に進めないような緊張や世界が終わったかと思えるほどの落胆,何かを成し遂げたときに味わう世の中のすべてを味方につけたような喜びは,あるでしょうか。(中略)「ほどほど」とは成長を諦める言葉のように思えます。(p180)

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