編者 小寺 聡
発行所 山川出版社
発行年月日 2011.04.20
価格(税別) 1,500円
● 高校の教科書を一般向けに補整して出版されているシリーズの中の1冊。ぼくもはるかな昔,高校で「倫理社会」の授業は受けている。その当時の教科書よりだいぶ厚いような気がする。
● 内容は哲学史ですよね。相当に高度で盛りだくさん。高校でここまで教えているのかと,ちょっと以上に驚いた。
レイチェル・カーソン,レヴィナス,ハンナ・アーレント,ロールズなど,ぼくが高校生だった頃の教科書には載ってなかった(と思う)人たちも登場しているのは,生きた時代の違い。ポパー,ハーバマス,フーコー,レヴィ・ストロースやアメリカのウィリアムズも,昔の教科書には登場してなかったと思う(これは記憶の脱落の可能性も大)。
● 半ばは戯れ言として言うんだけど,並みの大学の文学部哲学科の学生なら,これ1冊で卒業できちゃうんじゃないか。
自分が高校で受けた授業もこういうものだったのだろうか。当時の記憶なんて残っているはずもないけれど,たぶん違ったろうな。万が一,このレベルだったとしたら,とてもじゃないけど消化できなかったことは確実。
● 現在の政治や社会のありようについて批判を展開する場合も,その切り口のほぼすべてを,この本から拾えるのではないか。ま,そんなことをしたければ,だけどね。
考えるための素材集めも本書で充分。あとは自分の頭で考えなさい,ってところかなぁ。
● 最初に次のような説明がある。
「倫」とは「なかま」のことであり,「理」とは「筋道」のことをさしますから,倫理とは要するに人びとの永年の経験が積み重なってできあがった,人間集団の規律やルールのことをさすと説明できます。どういうわけか,この説明に感動。そうか,そうだったのか,って。
● カントとヘーゲルの解説は特にありがたかった。カントとヘーゲルが何を言っていたのか,ようやく少しわかった気がしている。かなり朧ではあるんだけど。
法然と親鸞の違いも,わかりやすく教えてもらえた。ずっとモヤモヤしていたのでね。
● ベルクソンについて,次のように紹介している。
フランスの哲学者ベルクソン〈1859-1941〉は,進化論を背景にして,宇宙に生まれた創造的な生命の流れの中に人間を位置づけた。ベルクソンによれば,宇宙に発生し,進化しながら展開する生命の躍進力こそが,真の実在である。その生命の躍進力がゆるむと固定した物質となり,高まると生命や意識の生き生きとした活動になる。(p168)おいおいおい,オカルトっぽくないか,これ。こういうのがちゃんとオーソライズされて,教科書に載るんだねぇ。
でも,なにがなしホッとする。ひょっとしたらそうなのかもしれないと思ってみるのも楽しい。「生命の躍進力」については,ベルクソンの原著にあたってみる必要があるんだろうけど。
● まぁ,今の高校生はすごいことを勉強しているものだ。これだけのものを週に1回か2回の授業で伝えなければならない教師も大変だな。いや,そんなことができる教師がいるのか。
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