著者 小沢昭一
永 六輔
発行所 ちくま文庫
発行年月日 2007.06.10(単行本:1972.04)
価格(税別) 840円
● これまた大変面白く読めた。殿山泰司に『三文役者あなあきい伝』という名作があるけれども,テイストが似ているように思った。軽くて飄々としている。飄々としていられるのは強靱でしたたかだからだ。あきれるほどのインテリジェンスも裏にある要素のひとつだと思う。
こういうのが週刊誌に連載されていたんだから,日本の大衆文化というのはなかなか大したものだ。
● 「裏街道」というのは,いつの時代でもどこの国にでもあるものだろう。ところが,今の日本はどうなんだろう。裏といえるほどの裏があるんだろうか。
風俗産業はある。数年前になるが,山谷から吉原あたりを歩いてみたことがある。いやいや,さすがは東京だと感じ入った。しかし,これは裏なのか。
本書で登場するストリップなどはすでに崩壊したと言っていいような気がする。宇都宮にひとつだけあったストリップ小屋もとっくの昔になくなっている(ぼくが知らないだけで,場所を変えて健在なのかもしれないけど)。いわゆるエロ雑誌も売れなくなっているだろう。インターネットの影響だけではないと思う。
裏が裏でいることが難しくなっているんだろうか。表に引きずりだされて,表とないまぜにされるようになった。そんな印象を持つんですけどね。
● ぼくは実直に(というと聞こえがいいけど,臆病に)生きてきたので,この世界はあまりよくわからない。しかし,今どきは表の世界の自由度がかなり上がっていて,それが裏の存立を難しくしているような気がしている。
いい女っていうのも,表にいるじゃないか。ぼく一個は,裏に向かう動機を(怖いもの見たさ以外には)あまり感じることはない。
● 以下にいくつか転載。
男性のほうが真剣味があるといいますか,薄情じゃないですね。ですから,薄情という言葉は女性に通じるものであって,男性に通用しないと思うんです。(p60)
そりゃ,ホステスの世界では,わたしがお客と寝ようとなにしようと,自分のふところが大きくなって,いいものを着て,いいものをはめてりゃ,そのほうが勝ちなんですよ。でも,そういう人は絶対一本立ちはできない。一匹オオカミで終わりです。結局,お客さんが認めないわけです。あれはすぐ寝る女だからって。そうなったら終わりですね。(p64)
警察の取り締まりがなくなれば,ストリップの客入らなくなる。取り締まりがあればこそ,客が来ると思うんですよ。(p112)
彼女(一条さゆり)はふだんはおとなしいけど,なにかそういうほとばしるようなものが出るんですね。だから,踊り子仲間にピンと感じるわけです。それでイケズされる。 わたしは,よくイケズされますね。衣装を破られたり,先週は使っている傘をお便所に捨てられたり,靴のなかにガラスのびんを入れられたり,そういうことはしょっちゅうあります。(p114)
男が働くのは女房以外の女とやりたいからですよ。これは断言できますね。女房とだけやるくらいなら,あたしゃ死んじゃうよ。(p222)
でも格式が高いのっていうのは,疲れるだけで考えものですよ。やっぱり,遊びっていうのは馬鹿馬鹿しくなきゃいけません。(p230)
テレビ以前では,恵まれた環境で育ち,恵まれた環境でスターになるということはあり得なかった。女をだますことぐらい平気でやってきた人の笑顔にこそ,共感を抱いてきたのである。正義の味方ぶるマスコミが,芸人の私生活をあばきたてる。そんなことではビクトモしない悪党であるべきだ。やっぱり芸の世界というのは,気の弱い奴のいられる場所ではないところでありたいと思う。(p285)
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