2018年3月22日木曜日

2018.03.22 天外伺朗 『経営者の運力』

書名 経営者の運力
著者 天外伺朗
発行所 講談社
発行年月日 2010.09.15
価格(税別) 1,600円

● 「運力」とは,自らの運命に対するマネジメント力(p56)だと定義される。ただし,このマネジメントを日常用語のマネジメントとして理解するのは,ちょっと違うようだ。
 本書を読んでわかるのは,運命はマネジメントできないものだということ。運命に対するこちら側の対応の仕方をマネジメントしろということのように思われる。

● 以下に転載。
 運命には周期性があること,自分に起こっていることをすべて受けとめること,運命に直面すること,どん底状態でもブレないでしっかり準備をすれば,次の飛躍の種が潜んでいること,準備にひたむきさがないと運は呼び寄せられないこと(p40)
 逆境でものをいうのは,経営学の知識や,孫子の兵法や,ランチェスター戦略とかいった方法論ではなく,表面的な商売の才覚でもない。もっと人間の土性骨に近いところの実力であり,それこそが「経営者としての土台」になるのだ。(p45)
 MBAなんて,ピザでいえば,トッピングのようなものさ!(p48)
 人間の中で,知識として頭から入ってきたものと,実際の活動を通じて体験として入ってきたものは,まったく異質の体系になっている(中略)言語で記述された知識というのは,ロボットのプログラミングと同様,平板で,質感や情動を伴っていない。(p51)
 人や集団や社会の動きの底には,宇宙の流れがあり,その自然な流れに沿って,あるべき方向に落ち着かせることが大切なのだ。(p57)
 運命というのも海の波と同じようなものではないかということだ。たしかに目で見るとピークが在り,ボトムもある。しかしながらボトムといえどもエネルギーがない訳ではない。ピークとまったく同じエネルギーを保有する。(p75)
 ピークだろうとボトムだろうと,私たちが遭遇する出来事は,本当はどれも「宇宙のはからい」なのだ。「悪い運命」というのは外からやって来るのではなく,本人の精神的未熟さが,それを捏造してしまうのである。(p77)
 私自身は,(卦は)「当たるからすばらしい」という心境には到底なれない。あまりにも多くの闇を見てきてしまったからだ。いまの心境は,「当たるから恐い」「当たるから危険」「できれば近寄りたくない」というのが,正直なところだ。(p81)
 私は「易」に頼って会社をつぶした経営者を二人知っている。ひとりは名の知られたベンチャー企業の社長で工学博士だったのだが,どうしたわけか「易」に凝ってしまった。(p83)
 占いというのは,どうでも良いことは心が乱れないのでいくらでも当たる。どころが,人生の勝負を賭けたとき,危機に瀕したとき,欲がからんだとき,あせっているときは邪念に支配されてしまい,当たらなくなってしまう。結局,いちばん必要なときに当たらないという困った傾向があるのだ。(p86)
 たしかにね。並のボトムでもジタバタしない人は,「これは何かいいことの予兆に違いない」と,心の底から思える人ですよ。この心の底からというのがミソで,心の底からそう思えない人が,表面だけ真似をするもんだから怪我をする。だからね,波のボトムでジタバタしないようになりたかったら,まずはしっかり心の底からジタバタする以外に道はない。(p93)
 ボトムであせりまくり,絶望してジタバタしている人が,次のピークに向かって有効な手を着実に打てる訳はない。必死な努力というのは,未来に希望をもっているからこそできるのだ。(p105)
 山あり谷ありの波乱万丈の人生を歩んでいる人は,進行する運命のエネルギーが大きい。つまり,成功が大きいほど,失意のボトムも深くなる。逆に,山も高くなく,谷も浅い平穏無事な人生を歩む人は,エネルギーが小さいといえる。(p120)
 ヒンズー教の僧侶は,たとえ交通事故で重傷を負ったとしても,あるいは愛する家族が惨殺されても,会社が倒産したとしても,ひたすら「ああ,それは良かったね」という。あらゆる出来事に対して絶対的に肯定するのだ。(p130)
 アメリカ流成功哲学は,原理的な部分をヒンズー教の競技からつまみ食いしているが,その深遠な哲学はまったく無視されており,何とも安直なハウトゥーものにアレンジされている。そのほうが,人々が飛びつき,本が売れるのだ。(p131)
 当時私は上席常務で,部下には部長も課長も大勢いましたけど,評価シートなんか無視しろ,と宣言しました。会社の方針に,公然と反旗をひるがえしたのです。評価というのは命をかけて独断と偏見でやれと。それ以外に,まともな評価はあり得ない,とね。この,命をかけてというところがミソなんですね。(中略)評価シートなんか使って,これは何点,これは何点,合計すると・・・・・・なんてやっていたら,命をかけて,というところがどこかにいってしまう(p136)
 一九九五年にトップが替わり,それまでのソニーの伝統だった「フロー経営」を捨て,アメリカ流の合理主義経営を導入してしまった。(中略)その結果はどうなったか? 外部には二〇〇三年春のソニー・ショックとして知られているが,ソニーは凋落の一途をたどり,社内は地獄の様相を見せ,心身をこわす社員が続出した。(p149)
 出井伸之さんのことだが,著者と出井氏はソリが合わないのだろうね。出井さんが社長のときのソニーは,前半は好調で後半は失速したイメージがあるが。
 このとき精神的にも不安定になったことから,成功体験というものは,それがどんなに世間から評価されようとも,まったく心の支えにはならないことを思い知った。心の平穏というのは,成功体験を積み重ねれば自動的に得られるのではなく,それとは全然別のアプローチが必要なのだ。(p160)
 人数が半分以下になれば,残った人たちの覚悟は定まる。つまり,「変容」に対する準備が整うのだ。「大きな変革をするときには,人数を減らすべきだ」というのは,マネジメントの世界ではよく知られている。(p165)
 モンテッソーリ教育では,教師は,子どもたちに指示・命令を一切しない。それどころか,手助けすることも,間違いを訂正することも,褒めることもほとんどない。子どもたちは,いつ,どこで,何をするか,まったく自由であり,すべてが本人の判断にまかされている。じつは,それくらいの自由が与えられていないと,人はなかなかフローには入れないものだ。(p168)
 企業でも,下手な報奨制度は「燃える集団」の火を消す。ソニーの創業者の井深大氏は,ことあるごとに「仕事の報酬は仕事だ」というメッセージを発信していた。いい成果を挙げれば,もっと面白い仕事に取り組めるようになる,という意味だ。そういう雰囲気があれば「燃える集団」は生まれやすい。(p170)
 どうも,求めると与えられないんだね。それを僕らは,「執着の呪縛」といっている。(p186)
 科学というのは,新皮質の論理で全部記述しようとするから,古い脳の知恵にはまったくお手上げ。だから,科学的に説明できる世界だけで生きていると,古い脳の知恵にアクセスできない。(p187)
 プロジェクトを信念を持って,しっかり遂行すれば,専門家はすぐ育つし,ノウハウもあっという間に蓄積できる。(p193)
 士気が高ければ成功するし,低ければ失敗する,と思われている。これは基本的に間違いだ。(p194)
 謙虚でなければならない。どんなに自信があっても,それを絶対と思い込んで発言してはならない。もう一つは,笑いがなければならない,ということだ。どんなにきちんと正しく身を処していても,その過程でまったく笑いがない場合には,どこかで破綻が生じる(米長邦雄 p197)
 事実にもとづいて常識があるのではなく,常識にもとづいて事実が起きてしまうこともあり得るのだ。(p203)
 「癌になったら死ぬ」という常識が定着している。逆に,「想いを変えれば癌は治る」などといおうものなら「そんな馬鹿な!」と反撥されてしまう。つまり,癌患者は藁をもつかむ心境でサイモントン療法を受けに来るのだが,心の底のほうではそれを否定するという傾向がある。それは,治療法や個人というよりは社会全体の問題だ。(p207)
 祈りには感謝のことば以外はいらない,という師匠の教えは,いまの私は確信を持って語ることができる。(中略)人はすべて,自分を中心として宇宙全体の秩序を形成しているように思う。一人ひとりがその秩序の責任者なのであって,誰かが作った秩序に受動的に参加しているわけではない。(中略)人間という存在は,一人ひとりが宇宙全体の秩序の支配者であり,一瞬一瞬の言動により,その秩序がゆれる。(中略)感謝の祈りというのは,まさにその秩序を強力にし,整える力を持っている。(p218)
 天外塾では,あらゆる問題は一〇〇%,自分の内側にある,と教えています。それを掘り下げていくと,結局死の恐怖に行きつくことが多い。だから,死と直面できている人は,悩むことが少ないんです。一般の経営学では逆ですよ。問題は全部外側にあると教えている。それをよく観察して,分析して,合理的に論理的に解決策を考える。僕も昔はそういうやり方をやっていたけど,あまりうまくいかない。(p228)
 「プラス思考」を説く人はきわめて多いが,これはかなり危険な方法論だ。表面的な意識レベルの想いと,無意識レベルの認識が大きく食い違って苦しんだり,自己否定に陥ることがある。しばしば,うつ病を誘発することもある。「運のいい人の真似をしなさい」と説く人も多いが,このアドバイスはでたらめだ。運力の弱い人が,強い人の真似をするのは危険だ。(中略)逆に,運力の弱い人は,まずそれを自覚しないといけない。(p248)

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