2018年3月26日月曜日

2018.03.26 茂木健一郎 『アタマがよくなる勉強会』

書名 アタマがよくなる勉強会
著者 茂木健一郎
責任編集 田原総一朗
発行所 アスコム
発行年月日 2010.04.02
価格(税別) 1,400円

● 茂木さんのような脳科学の研究者がなぜこういう本を出すか。しかも,茂木さんは矢継ぎ早に出している。その答えを茂木さん自身が語っていたような記憶もある。
 出版社にしてみれば,売れる目算を立てやすいからだろう。固定ファンが付いていて,この程度は売れるという目安が立つ。安心して出版できる。

● ぼくも茂木さんのその手の本をずいぶん読んできたけれども,本書はその決定版的な存在かも。

● 以下に転載。
 実は脳ブームには,安易な偽薬作りや偽薬売りみたいなものが多い。人びとが不安を感じている時代は,不安につけ込んで偽物がいろいろ横行しますね。脳ブームは,それに近い状態だと思うんです。(p16)
 大学が淘汰される時代とおっしゃったけど,大学それ自体には何の権威もないということが,みんなわかってきた。だから,どの大学も必死になっている。大学が権威にふんぞり返っていた時代よりいいでしょう。(p18)
 いろいろな方にお目にかかって,僕がああ輝いているなと思う人は,みんなフリーランスなんですよ。(中略)組織に守られている人は,かなりの部分時代遅れになっちゃっている。官僚やビジネスマンも同じで,かなりいい人でもほとんどそうです。この感覚が,僕の中に絶対的にあるんですよ。(p18)
 それなのに,日本の親たちが考えることは,いかに「百ます計算」をやらせて,わが子を一流中学に入れるか。いかに東大生の美しいノートの書き方をマネさせて,一流企業や役所に入れるかだけ。みんな沈みかけた船に必死で乗せようとしている。そのために脳をこう使えと,偽薬を売るヤツがいる。(p21)
 脳を成長させるのは,楽しちゃダメです。やっぱり脳に負担をかけることですよ。現実に立ち向かうのはつらいことだけど,それが脳をいちばん成長させます。(中略)それこそが「生命力」です。脳が喜ぶし,その人にとってもっとも価値のあるものを生み出すことにつながると思います。(p23)
 この本を読んだだけで万事わかったと思う人は,もうダメなんですよ。そんなはずはないだろう,もっと先があるだろうと思えるかどうか。ここが極めて重要です。(中略)この対談も,もちろんほかの僕の本も,書いていることは全部本当です。だけど,それを鵜呑みにすることは,頭がよくなることにあまりつながらない。本には手がかりやヒントが書いてある。それを自分なりに咀嚼し,自分に合った方法を工夫しないと。(p26)
 誰かの作ったパターンは,自分には必ず限界がある。パターンをあてはめるのは楽だけど,楽しちゃダメです。(p28)
 苦しいことや辛いこと面倒くさいことなどをいろいろやって脳内の快楽物質が出ると,その面倒くさいことで学習した内容がちゃんと定着する。しかし,麻薬で快楽を得ると,麻薬をやることしか覚えない。(p30)
 脳は暗示にとても弱いので,とにかく「大丈夫だ」「何の問題もない」と楽天的な暗示をかけること。(p33)
 脳に関するどんな本を読んでも構いませんが,自分で自分の責任が取れない人は,頭というか脳が伸びません。これは極めて重要なことで(中略)つまり,自分の意見を持ち,それを表明し,その結果を自分で受け止めることができなければ,頭はよくならない。脳は他人まかせではダメです。(p40)
 田原 そう。使えるネタや資料は限られている。昔はインターネットなんて便利なものもないし。自分の考えや経験をもとに,集中してダーッとやっつけるしかないね。 茂木 そんな「瞬発力」みたいなものが,僕は知性の本質なんだろうと思います。脳の本質,脳の本当の力と言ってもいいですね。(p51)
 ゲーム脳に関しては,僕はインチキだと思っています。IT時代に知能指数は上がっているという証拠もある。(p67)
 楽観的なときに脳がもっともよく機能することは,もともとわかっています。ただし,楽観とは「ま,何とかなるだろう。きっといい方向にいくよ」という,実は根拠のない自信ですね。裏付けに欠けた自分勝手な思い込みと言ってもいい。だから,その根拠なき自信を,自分の努力で裏付けなければならない。(p68)
 0.1秒くらいの間に,脳のかなり広い範囲にわたって神経細胞が一斉に活動します。その活動の結果,脳の神経細胞の結びつきのパターンが変化し,一瞬にして世界の見え方が変わり,新しい学習が成立している。これがひらめきです。パラダイムシフトが起こるような学習は,ひらめきが起こすんです。(p81)
 田原 一時パソコンでやろうとして書いてみたんです。でも,これは何となく違うなと思って,手書きに戻りました。 茂木 脳のためには手書きのほうがいいですね。(p84)
 日記を書くのは,脳にとてもいいことです。(中略)思い出そうとすればするほど,使えば使うほど脳にはいいんです。(p90)
 若いときのような意欲が出ないと嘆く人がいるけど,やる気や意欲は欠乏から生まれるわけで。(中略)やる気や意欲を出すには,自分には持っていないものがこんなにある,こんなに空白だらけだと認識する必要があります。高齢者がいかに意欲を保つかは,自分の経験をいかに捨て去るかと同じことだ,とも言えますね。(p95)
 鍛えれば鍛えるほど確かに脳は伸びていくんですけど,そのためには課題をつねに自分で工夫していかなければいけない。課題を見つけること自体が創造的なんだと思います。(p96)
 それを学者が老化だと定義したって,自分は変化だと思えばいいじゃないですか。脳には楽観が大事なんだから。(p99)
 面倒くさいことをやるというのがとても大事です。面倒くさいことほど,脳の回路を使いますから。(中略)自分がこれまでやってないことをやるのがいい。(中略)それがいちばんのアンチエイジングですね。(p100)
 僕は中曽根康弘さんに(中略)1回だけ会ったことがありますが,91歳なのにすごく元気だった。なぜこんなに元気なんだろうと思ったら,日常の細々したことをなんでも自分でやるそうです。(中略)中曽根さんが風呂に入ったきりなかなか出てこないので秘書の方が心配して見にいったら,洗い場で自分の下着を洗っていたと。(p101)
 くそまじめに「わが社のこの事業の意味は何であるか」と言っている人は,脳の潜在能力を全然発揮していない。だから,会社にほとんど貢献していない。(中略)ダメな芸人ほど「笑いとは何か」みたいな話を始める。(p108)
 そこ,とても大事です。野球に将棋盤を使うとか,サイコロにカードとか,パチンコ玉に鉛筆って,あり合わせで間に合わせていたわけです。その物本来の使い方ではなくて。実はこれ,脳の回路とよく似ているんですよ。(中略)脳って現場主義でして,その場その場のあり合わせで間に合わせるんです。(p117)
 遊びのなかでフロー状態を経験しておくと,仕事でもその状態が使える。ある脳の回路は,それをどういう文脈で鍛えたかということに関係なく,使い回しができる。(p124)
 人間の脳は孤立していると,潜在能力を発揮することができないんです。他の人と向きあうことによって初めて,異なる資質がかけ算されて,互いに高めあうことができるんですよ。(p133)
 日中戦争や太平洋戦争に反対した新聞は一つもなかった。反対すると弾圧されるからか? 違う。弾圧される前から賛成なんです。みんな賛成だから,少数の反対を弾圧するんです。(田原 p138)
 どんな場所のどんな境遇で育った人でも,自分の中に宝物が必ずあります。それを見出すことが,そても大事ですね。(p150)
 僕は堀田力さんという元検事に,容疑者を落とす技術,吐かせる技術って何だと聞いたことがある。すると,思いがけない答えが返ってきた。堀田さんは「それは相手に惚れることだ」と言ったの。(中略)「強盗殺人犯にも惚れられるか」と聞いたら,「惚れる」と。強盗殺人をした人間は,しない人間よりもギリギリのところまで追い詰められているから,その魅力があるんだと言っていた。(p153)
 われわれの人生の時間って,実はかなり切迫しているんじゃないですか。僕は,人生の時間って意外とそんなものじゃないかと思うんですよ。(中略)個人の生活でも,一度ゆっくり話を聞いて,それからおもむろに反論するという悠長なことをやっている時間は,いまはないんじゃないかと思う。(p170)
 親鸞が各地で説法したというけど,逆に多くの時間,人びとが言うことをただ聞いていたんじゃないかと思う。最後に短く決定的なことは言ったとしても。(中略)親鸞さんは30代半ばまでは京都ですね。京都を本拠地に考え続け,理念を作っていった。でも,理念は完璧なものに近づいていても,それは現実と食い違う。だから,むしろ全国を回り,聞いて回ったんじゃないか。(田原 p171)
 脳の中では同じ部分が喜んでいる。ということは,利己主義と利他主義は,まったく正反対のことのように思えるけど,脳にとっては,かなり近いことなんですね。だからこそ人間の社会は,これだけ発達してきたわけです。(p193)
 その「自分の利益」ということ自体が,そもそもよく考え抜かれていないんです。要するに,個々人が利己的に動くのが自由主義社会や資本主義社会だという考えそのものが,実は脳の仕組みからすると違うんです。(p194)
 おそらくこの国は,ドライに徹することができないと思います。(中略)徹底的にドライになれと強制したら,おそらく日本人は分解しちゃう。もう日本が日本ではなくなってしまう。(p208)
 竹下登という政治家が僕によく言いましたよ。「歌手1年 総理2年の 使い捨て」と。(田原 p213)
 ごく普通の人がフリーで生きられるような条件を考えればいいんじゃないですか。まずネットを活用する必要があります。僕がよく言うのは「グーグル時価総額」っていう造語です。自分の名前をグーグルの検索窓に入れて,検索してください。それでどれくらいの情報が出てくるか。それがあなたのグーグル時価総額ですよ,と。(p219)
 僕は09年6月以降,自分のことが書かれた日本語のウェブサイトを一切見ないことにしたんです。精神衛生上よくないし,時間のムダなので。(p226)

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