著者 下川裕治
発行所 新潮文庫
発行年月日 2011.11.01
価格(税別) 710円
● 買ったのは2年前。なかなか読めないでいた。
● 骨身を削るようにして書いている。この書き方では大量生産はできないはずだ。下川さんの作品は編著を含めても60冊程度だろうか。
昔ならたいした数だとなるんだろうけど,世知辛い現在ではどうなんだろう。
● デビューが『12万円で世界を歩く』で,その印象が強烈。ビンボー旅行の元祖ではないけれども,中興の祖というイメージを,ぼくは下川さんに抱いていた。
もちろん,ビンボー旅行だけではない。アジア(特にタイ)を旅先として広く認知させたのも下川さんの功績のひとつだと思う。週末旅の提唱も下川さんを嚆矢とするのではないか。
なんだけど,ビンボー旅行の人というイメージがとにかく強い。
世間の期待がそこに集まっている以上,ご期待にお応えしましょうというわけで,バスだけでユーラシアを横断するとか,いろんな試みをして,それを作品に残してきた。
● が,どうも世間の空気がビンボー旅行から離れてしまったように思われる。LCCは料金こそ格安だけれども,LCCを使って安宿に泊まる旅がビンボー旅行として成立するかどうか。
● そうであっても,文章で読ませることのできるほとんど唯一の紀行作家だとぼくは思っている。未読本があと3冊ある。わざと残しておいたわけではないけれども,手元にその3冊を用意してある。楽しみだ。
● ハルビンの(関東軍防疫給水部本部の)旧本部大楼,ウイグルの民族問題,チェチェン紛争,ベオグラード空爆・・・・・・。
こうしたところにさしかかると,シメタという思いがどこかに出るんだろうか。枚数が稼げるぞ,的な。下司の勘ぐりか。問題は,こうしたところから古くなるということ。
旧本部大楼の話にしたって,推測でしかモノが言えないわけで,その推測の前提もどれだけ確かなのかわからない。
● ひとつだけ転載。
自分がなんとかしなくてはいけない世界に入ったようだった。(中略)これまで乗ってきた列車は,一車両に必ずひとりの車掌がいた。ときにうるさいおばさんだったり,威圧感たっぷりの男性だったりもしたが,それなりに頼りにはなったのだ。(中略) グルジアからトルコへ。そこがひとつの境界だった。車両も変わり,乗客と車掌の関係も密度が薄まった。(中略)列車が特別な乗り物ではなくなったのだろう。ようやくその世界に戻ってきたのだが,それは心のなかに秋風が吹き込むような感覚でもあった。(p333)
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