2017年11月4日土曜日

2017.11.04 茂木健一郎 『東京藝大物語』

書名 東京藝大物語
著者 茂木健一郎
発行所 講談社文庫
発行年月日 2017.03.15(単行本:2015.05)
価格(税別) 590円

● 東京藝術大学がどんなところなのか。二宮敦人『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(新潮社)を面白く読んだ。音校(音楽学部)より美校(美術学部)の方が破天荒のようだ。
 著者はその美校で授業を持った。数年間続けたらしい。そのときのあれやこれやを小説仕立てにしている。

● ジャガー,杉ちゃん,ハト沼といった「永遠の幼児たち」が織りなすエピソードの数々は,それだけで面白い。キャラクターが魅力的だ。
 彼らにしてみれば,世の中に折り合いを付けていくのにひと苦労もふた苦労もしなければならず,厄介な才能,厄介な嗜好を持ってしまったものだと嘆くときもあるのかもしれないけれど。
 町田康さんが解説を寄せている。

● 以下にいくつか転載。
 「確かに,ぼくたちは,絵さえ描いていればいい,本なんか読まなくていい,とにかく描け,という教育を受けますからねぇ。」 (中略)難しい本を読むよりは,実技を大切にするという校風なのだと,ジャガーは言う。(p30)
 芸術は,結局,自分の手を動かして,何が描けるかだ。 「狩野派の画家たちは,一日何千本も,線を引く練習をしていたそうですね。村上隆さんのカイカイキキも,そこを目指していて。」(p31)
 何しろ,何十倍という入試をくぐり抜けて,東京藝術大学に合格した彼らではあるが,その中で,作品を売って食えるアーティストになるのは,ほんの一握り。一説には,十年に一度出れば良い,とも言う。(中略)下手をすれば,東京藝術大学に合格した時が,人生の頂点だった,ということになりかねない。イヤ,実際,大抵はそうなんだろう。(p37)
 「人生,基本,不穏」とでもいうような藝大生たちを組み伏せて,彼らに感銘を与える講義をするのは,全くもって並大抵のことではない。 その点,三木茂夫さんは,伝説的な,藝大の先生だ。「うんちを握れ!」と叫ぶなど,とてもユニークだったと今日に伝えられる三木茂夫さんの講義。 そして,藝大生の不穏な個性の持つ勢いと言えば,本当に,うんちを握りかねないほどなのだ。(p53)
 東京藝大の入試,つまり,デッサンや油絵といった実技の巧みさで受験生を選別するシステムは,結果として,アーティストとしてのすぐれた資質を見分ける機能を果たしていないのかもしれない。(p63)
 表現者が持つべき資質の第一は,飽くなき継続だろう。(中略)これでもかっ,これでもかっ! そんなエネルギーを持って継続できるということが,結局は最大の才能である。(p125)
 「浪人してまで東京藝大に入るようなやつは,その時点でもうダメだっ!」 大竹伸さんご自身は,現役の時に東京藝術大学を受けて落ち,武蔵野美術大学に入った。そして,すぐに休学して,北海道の別海町の牧場に住み込みで働き始めたのだという。そんな大竹さんから見れば,ジャガーやハト沼は,所詮ぬるま湯なのだろう。(p127)
 科学とは,実は,他人の心を思いやることに似ている。科学の正反対は,「無関心」である。(p136)
 アートというものは個の思いが結実したものであり,最大公約数を求めるものではありません。それに対して,東京や,東京藝大のようなところは,最初から中心や,最大公約数を求めすぎるんじゃないのかな。(p143)
 大衆を鼓舞し,先導し,この素晴らしい国を創るために,アートは存在するんだっ! 下手くそな画学生よ,君たちの芸術には,本当は,世の中を変える力がある。それほどアートは人を扇動する,そして洗脳する。そんな力がある。君らは,アーティストになりたいのか,それとも,作品を通して,世の中を変えたいのか。(p145)
 アーティストにとって,美術大学なんて,意味がないんだ。ましてや,こんな,東京藝術大学なんて,通ってもしょうがない学校に,お前ら,よく頼まれもしないのに来ているな! 今すぐ,この校舎,自分たちの手で爆破しちまえ!(p151)
 アーティストは,良い絵を描くためには,不道徳なことさえやりかねない。凡庸な作品をつくるいい人であることと,悪い人でも傑作を描くことのどちらかを選べと言われれば,芸術家の答えは決まっている。問題は,選ぼうとしても,心と体の自由が,案外利かないことだ。(p200)

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