著者 井上ひさし
発行所 文藝春秋
発行年月日 19979.04.10
価格(税別) 952円
● 1997年の刊行。本に仮託して自分の生い立ちを語ってるところあり,読書術を指南しているところあり,の盛り沢山。
が,良い本(コンテンツではなくて,本)の寿命は人間よりも長く,人間を使って自らを移動させるというところに納得。
● 以下にいくつか転載。
やや大きめの手帳を用意して,本でも新聞でもなんでも,これは大事だと思うことは書き抜いていく。その日,自分の目に触れて「ウン?」と思ったことを,ただ順番にずーっと書いていくだけなんです。あとで参照できるように,出典とか頁数とかも書いておきます。そんな手帳が,一年にそうですね,五,六冊になりますか。それに番号さえ振っておけば,不思議に「あれは三冊目のあの辺にあったかな」ってわかるんです。手が覚えているんですね。(p60)
整理するから忘れる。整理なぞしてやるものかと決心して,ただただ自分の生活時間に合わせて,分類などしないで写していく。これだと情報はなくならない。つまり,情報のポケットを一つだけにする。そしてそのポケットの中身を単純に時間順に並べる。このとき妙な整理をするから,逆に不整理が始まっちゃうんですね。(p62)
どんな本でお最初は,丁寧に丁寧に読んでいくんです。最初の十頁くらいはとくに丁寧に,登場人物の名前,関係などをしっかり押さえながら読んでいく。そうすると,自然に速くなるんですね。(p64)
戯曲を楽しむコツがあって,それは自分でキャスティングすることなんですね。たとえば「ハムレット」初めて読むとしたら,自分の好きな俳優をハムレットにしてしまう。(p74)
黄表紙というのは方法論の宝庫なんですね。どうやって速射に面白く読ませるか,ありとあらゆる工夫が試みられています。(p112)
まったくあの頃は,国会図書館なぞは特に,本を見せてやるんだからありがたく思え,という雰囲気でした。昭和三十年代の前半頃までは,役人と国民の関係というのは全部そうでしたけれど。(p120)
こうやって,本が人の手から手へと渡っていくと,おもしろいことがいろいろ起こりますね。本もそのたびに新しい読者を迎えて,生き返る。ですから,いい本というのは寿命がとっても長い。(p128)
「子供の本離れ」は,大人の側の問題です。子供は,基本的に大人が面白がっているものに興味を持つんですね。(p135)
よく,「本棚が死んてる」という言い方をします。本棚の本が動かなくなって,ということは持主が本を読む情熱を失い,ホコリが積もっていって,何年も手を触れないままになってしまう。これはたまらなく寂しい景色です。(中略)本というのは絶えず触ってあげなくてはダメなんです。(p168)
生活の質を高めるということを考えると,いちばん確実で,手っとり早い方法は,本を読むことなんですね。本を読み始めると,どうしても音楽とか絵とか,彫刻とか演劇とか,人間がこれまで作り上げてきた文化のひろがり,蓄積に触れざるを得ない。(p186)
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