著者 為末 大
発行所 SBクリエイティブ
発行年月日 2016.08.02
価格(税別) 1,300円
● 為末さんのTwitterを見ていると,誠実な人柄が伝わってくる。真面目であり理を追求する人のようにも思われる。かといって,いわゆる堅物ではないし,声高に語る人でもない(と思われる)。
その為末さんの著書を読むのは今回が初めて。
● 以下に転載。
歴史上「天才」と言われる人たちは,ある年代,特定の場所に集中的に登場することがわかっています。(中略)僕は,才能がひとつの時代に片寄って登場するのは,「時代の空気」の影響を受けたからではないか,と考えています。(p20)
限界はあると思っています。しかし,その限界は,力を出し切った人の前にしか,あらわれないものです。人間は本気で挑んだときにしか,自分の範囲を知る事ができません。(中略)限界を超える経験をした人は,「このあたりが限界かな」と思った先に,本当の限界があることを知っています。だから,簡単にはあきらめず,限界を超える努力をするのです。ところが,陸上競技の経験がない人は,息が上がった時点で限界に達したと思い込み,早々とあきらめてしまします。(中略)つまり自分の能力を低く見積もってしまっているのです。(p23)
タイムを競うスポーツの世界で限界をつくる要因のひとつが,「十進法」だと言われています。(中略)本当はもっと遠くに自分の限界があるのに,キリのいい目標を設定したことによって,その数字が限界の檻をつくってしまうことがスポーツの世界では起こります。(p35)
走・跳・投といった単純な動作能力を競う種目は,人間がもともと持っている身体能力の差がそのまま結果につながりやすい。だから先天的な身体能力で劣る日本人は,なかなか勝つことができません。ですが,ハードル,3段跳び,ハンマー投げ,競歩のように,「走る」「跳ぶ」「投げる」の基本動作に技術が加わり,複雑な動きが求められるようになれば,身体能力以外の要素-技術や戦略など-がモノをいうようになります。(中略)その意味では,人生こそ,究極の複雑系の競技といえるかもしれません。なにも持って生まれた才能がないからと,限界の檻に入ることはない。(p51)
アインシュタインは,「常識とは,18歳までに身につけた偏見のコレクションである」と喝破しました。僕たちの限界の多くも,思い込みや偏見の産物なのです。(p57)
世の中の人の期待は,たいてい世の中の「想像の範囲」内にあります。ということは,期待に応えようとすると,想像の範囲内でしか活躍できません。(p63)
世界的に活躍し続ける選手の中に,マイペースで,多少わがままに見える選手が多いのは,自分のやりたいことに軸を置いていたほうが,期待以上の結果を残せることがわかっているからでしょう。(p65)
ただ「自分らしさ」にこだわる人こそ,限界の檻に入りやすいことも知っておいた方がいいでしょう。自分らしさを見つけることは,自分の限界を設定することに似ています。(p67)
当時の僕は,自分のことを「考えるより先に行動するタイプ」だと思っていたのですが,海外には僕以上に無鉄砲な選手がいて,彼らに比べたら,僕はまったく逆の,「考えてから行動するタイプ」だったのです。僕があのまま日本に留まっていたら,自分は行動派であるという間違った自分らしさを捨てきれなかったでしょう。(p68)
真似をすればするほどスピードが出なくなって,僕は,深刻なスランプに陥ってしまったのです。今になってわかるのは,僕と伊東(浩司)さんには,身体的な特徴に違いがあって,僕は足が流れてしまうという特徴があったからこそ,ハードルが向いていたということです。(中略)身体能力とは,生まれたときから与えられた条件のようなものです。あくまで,本来の自分の延長線上にしか成長はないのに,あのときの僕は憧れの人の真似ばかりして,自分がどういう選手なのかに目を向けようとしなかった。(p77)
成功者の真似をしても再現できないのは,成功法則は,高いレベルに行けば行くほど,その人自身に特化したものになるからです。(p79)
梅原大吾さんは(中略)「あまり大きな目標を立てず,目の前のできることにのみ集中していれば,ふとしたときに信じられない高みにいることに気づく日が来るだろう」と述べています。僕も,同意見です。憧れやなりたい自分に意識を置かずに,今の自分にできることに集中するほうが,力を発揮しやすくなります。(p81)
再現性がないものは,実力ではありません。(中略)「なぜできたのか」を理解して,再現する。何度も再現ができて,はじめて限界を突破したといえるのです。(p83)
目標を「変更しない人」と,「変更することを繰り返す人」では,前者のほうが選手生命が短く,後者のほうが選手生命が長いと感じます。継続の限界値が高い人の特徴は,スケジュール変更が多いということです。(p88)
「その日の目標をまっとうしないと気がすまない人」「決めたことをきちんと守らないと許せない人」 そんな人は,実は継続ができずに,モチベーションが長続きしません。(p91)
周囲のアドバイスを聴きすぎると,自分の頭で考える習慣が身につきません。コーチや監督の指示に従って練習をするだけだと,それは作業になってしまうからです。(中略)また,周囲のアドバイスには,当たり障りのない無難な意見が多い気がします。(p92)
反対に,周囲のアドバイスを,聴かなすぎるとどうなるでしょう。おそらく,行き詰まってしまい,限界の檻に入ります。人は,自分で自分のことを客観的に見ることができません。(中略)僕の場合は,「人の話を聴こう」という前提の上で,無難な意見は聴きすぎないように心がけていました。(p94)
情報や知識を集めすぎることで,新しい発想の邪魔をすることがあります。情報を最初に入れすぎてしまうと,余白の部分が少なくなり,ニッチな研究しかできなくなるのです。(p96)
実際に自転車に乗ってみたあとで,乗り方を教わったほうが,結果的に早く習得できるはずです。(p98)
量を増やすことで限界を突破しようとする考え方は,日本人的です。(中略)選手個人の習熟度によって,量が通用する段階と,通用しない段階があります。基礎固めの段階にある選手であれば,量を積むことは大切です。けれど,誰もが一定の量を積んでいるプロの世界は,頭を使う世界ですから,量を積むだけでは勝ち残れないでしょう。(p114)
積み重ねが効かなくなってきたなと感じたら,次に必要なのは,自分に「揺さぶり」をかけることです。(p118)
相手の出方によって,こちらの出方を変える競技の場合,応用力が求められます。応用力とは,積み重ねによる反復練習では,なかなか身につきにくいものです。(中略)日本のスポーツ界を見てみると,20歳以下のカテゴリー「U20」までは,メダルを量産していながら,それ以降の年代では,メダルの数は伸び悩んでいます。ろの理由んおひとつは,積み重ねを重視しすぎることにあるのではないでしょうか。すでに応用や変化の段階に入っているのに,そのことに気がつかず,いつまでも基本だけにこだわっているため,実践的な経験が身につかないのです。(p119)
選択肢を変えないかぎり,自分を大きく変えることはできません。やったことのないこと,知らないこと,興味がないことをやってみるからこそ,経験の幅が広がり,自分の可能性を開くことができます。それは,言葉でいうほど簡単ではありません。(p131)
限界とは,今いる世界での限界なのです。自分は,どの世界の,どんなルールだったら戦えるのかに気づいた人ほど,限界の檻から脱出できると思います。(p135)
好きなことに対して努力を投下するから上手になるのであって,嫌いなことに努力をしても,それほどうまくいくはずがありません。好き嫌いだけでは仕事にならないが,好き嫌いこそが仕事の原動力になる(p140)
好きなことに努力を投下するためには,自分の好きなことと嫌いなことをはっきりさせておく必要があります。(中略)日本人の多くは,少ない経験の中から,自分に合っていることを見つけようとしている気がします。(p141)
失敗の分析は,やりすぎてはいけないと僕は思います。(中略)原因を探りすぎると,本当は失敗の原因ではないものまで,失敗の原因だと勘違いして,変えてしまうことがあります。(中略)失敗の原因を真面目に考える人は,問題は必ずあるという前提で失敗を振り返るため,問題を見つけずにはいられなくなります。その結果,本当の原因かわからない問題にまでアプローチしてしまい,余計にスランプにはまってしまうことがあるのです。(p143)
僕自身の経験からも,部分的なマイナーチェンジより,思い切って技術の手直しをしたほうが,記録は伸びるような気がします。本人にしかわからない小さな変更ではなく,まわりからも明らかに跳び方が変わったといわれるくらい,大きな変化を加えたときに,ブレイクスルーは訪れるものです。また,思い切って変えてみないと,今までのやり方と新しいやり方の違いがわからないということもあると思います。(p152)
僕は,自分の身体を使って競技を行ってきた結果として,身体も,頭も,心も,大部分は,自分ではコントロールできないものであると感じています。(p160)
僕がメダルを獲れたのは,没頭する力があったからだと思います。(中略)その走力がレース当日に何%発揮されるかは,「没頭する力」=「集中して試合に入り込む力」に影響される気がします。(p170)
「心から信じれば,願いはかなう」「強く思い描くと現実になる」 僕は,そんな考え方に肯定的です。(中略)ですが,信じること自体がいちばんむずかしい。(中略)僕は,何かを信じる思いの強さには,3つのレベルがあると考えています。それは,低いほうから順に, ①「そうなってほしい」 ②「そうしてみせる」 ③「そうなることが決まっている」(中略)心から信じれば,願いはかなうという場合の信じる強さとは,③の状態にまで至ることです。(中略)信じようとしている状態には,願いをかなえるほどの力はありません。(p173)
0 件のコメント:
コメントを投稿