2019年6月1日土曜日

2019.06.01 伊集院 静 『いろいろあった人へ 大人の流儀 Best Selection』

書名 いろいろあった人へ 大人の流儀 Best Selection
著者 伊集院 静
発行所 講談社
発行年月日 2018.03.12
価格(税別) 926円

● 『大人の流儀』既刊7巻からの抜粋。著者はご意見番というか,現代版長屋のご隠居というかな。ご隠居にしてはずいぶん精力的ではあるんだけど。
 たまにはこういう文章も読まないと。嘘を書かない人だよね。

● 以下にいくつか転載。
 いい時と悪い時は交互に訪れるという人がいるが,それは嘘である。運のいい人間と,運の悪い人間は明らかにいる。昔から人間が何か,誰かに祈ったり,頼み事をするのは,運,不運の存在を知り,運の悪い方に自分が入らないように願うからである。(p120)
 一度,談志の楽屋を訪ねたことがある。高座に出る直前,談志がふと真顔になった瞬間を見たことがある。ハッ! とするほど艶気があった。その折,楽屋口で談志の履物を見た。綺麗なものだった。お洒落なのだと感心した。(p125)
 幕末から明治にかけて,日本人を初めて目にした欧米の外国人が,総じて語っている日本人の印象は,“好奇心が強く,人に対して好意的で,よく笑う人々である”というものだ。この印象は多分に先進国の人々が途上国の人間を見る時に言われるものであるが,私は日本人の印象としては,そう間違っていないと思う。(p159)
 若い人の特権に,-未だどこにも所属せず ということがある。青春時代の君たちの目は,すでに私たちが失いつつある視点である。(p160)
 旅は旅することでしか見えないものが大半である。これは決して若い人だけへの提案ではなく,大人にも言える。(p161)
 「こんな酷いことが起こるなんて・・・・・・」 母親は悲痛な顔をして少年と二人で歩き続けた。母親は何度も手を合わせていた。少年はその母親に手を合わせる必要がないと言った。母親は少年が周囲の日本人から苛められ,いつも喧嘩し,彼等を憎んでいることを知っていた。だから死体を見て「いい気味だ」と口にした時,母親は少年の頬を叩いた。初めて母親に殴られた。(中略)三日後にあんなに元気だった母親が死んだ。(中略)男は別れ際に言った。 「母は自分の命を賭して,少年の私に許すこととは何かを教えてくれたんです」 やがて私は,自分が許せなかったことなど,たかが知れていると思えるようになった。(p175)

0 件のコメント:

コメントを投稿