著者 成毛 眞
発行所 ダイヤモンド社
発行年月日 2018.08.08
価格(税別) 1,700円
● 陳腐すぎる言い方だが,壮大な叙事詩を読んだような気分。読後に爽快感が残る。いやいや,amazonという企業は途方もない。
もっとも,本書の刊行後に,著者の成毛さんはヨドバシドットコムにフランチャイズを移したと書いていたのを読んだ記憶がある。
● ぼくもamazonプライム会員だ。昨年の1月22日からだから周回遅れもいいところの会員だけど,amazonで買物をするのは年に数回しかない。金額も大したことはない。もっぱらプライムビデオのために会員になった。プライムビデオには筆舌に尽くし難いほどお世話になっている。
それあればこそ,隠居暮らしができていると言ってもいいくらいだ。年会費は4,900円。たとえば月額千円のTSUTAYAプレミアムに比べれば,格段に安い。
著者も指摘しているが,会費はいずれ1万円程度に値上げされるだろう。それでも,プライム会員をやめることはできない。
● amazonがユーザーの購買履歴をはじめ,多分野にわたる業務のそれぞれにおいて膨大なビッグデータを集積している。それがまたamazonの大いなる強みであるわけだが,地球上の人間の1人としてamazonに向き合うときには,そんなのはどうでもいいことに属する。
SNSやブログを使っているということは,自分のプライバシーを自らが不特定多数に公開しているということだ。ぼくにしても同じだ。ぼくのTwitterから,ぼくの好み,趣味,居住している場所,年齢,性格,家族構成,収入額,職業,ライフスタイル,人生観を正確に把握することは容易なはずだ。資産や頭の良さ(悪さ)まで,見る人が見れば丸わかりだろう。
● その状況で,amazonに購買履歴やプライムビデオの視聴履歴を握られることを問題視する意味はない。どうぞご自由にお使いくださいということだ。
amazonから受けるベネフィットの方が大きい以上,amazonとは付き合い続けるほかはない。
● 以下に転載。
ママゾンは,酷悪の望みを叶えるために,テクノロジーでインフラを整えてきた。いまや,AI,自動運転,顔認証や翻訳システムにまで投資している。アマゾンの投資先を知れば,この先の世界がわかるといってもいい。(p11)
企業経営者が人格すべてをさらけ出す必要もないし,有能な経営者の多くは外向きの人格を備えている。(p29)
アマゾンは自社に有利な情報ですら沈黙を続けるのだ。その理由も推測するしかないが,顧客の利益を掲げるアマゾンにしてみれば,そもそも報道機関などの第三者と接触するのが,時間の無駄であると考えているのかもしれない。簡単に言えば,多くの事業を手がけすぎて,本業に集中したいあまり関わるのが「面倒くさい」のだろう。(p30)
マーケットプレイスに参加する企業の中には,事業規模を拡大できたことで,アマゾンの提供する情報システムであるAWSを利用しはじめる企業も出てくる。さらに仕入れのための資金が必要になり,これまたアマゾンが行なっている融資サービスを使う企業もあるかもしれない。企業がアマゾンを一度利用し始めると,便利すぎて他のサービスも横展開で利用する可能性は大きい。(p32)
アマゾンの大きな特徴は,新しい事業を立ち上げるときに,赤字覚悟で投資をいとわないことだ。これは,明確なアマゾン全社での戦略である。(p33)
アマゾンの場合,完全に独立しているように見える。事業部門のひとつひとつの責任者は,おそらくアマゾン全体のことまで考えていない。(中略)そして,特筆すべきは,ベゾスもそれぞれの事業をコントロールする気がないところである。これこそが,アマゾンが新たな事業をどんどん横展開しやすい理由であり,これがアマゾンが何の会社かをわかりにくくしている最大の理由かもしれない。(p56)
驚くべきは,その圧倒的なスピードだ。そこに需要さえあれば,それは購買需要であれ,サービス需要であれ,企業からの需要であれ,敏感に感じ取り,まさに光速で実現していくのだ。(中略)アマゾンからすると地球上のすべての存在が顧客に見えているのかもしれない。(p69)
たとえば,ある出店企業がマーケットプレイスを利用して,アマゾンが自ら取り扱っていない商品を売り,それがヒットしたとしよう。当然,支払いを管理しているアマゾンにはそれが筒抜けなので,アマゾンは売れ筋商品と判断する。アマゾンはその商品を仕入れ,直販で取り扱いを始めるだろう。(中略)マーケットプレイスは便利な一方,気づけばアマゾンに情報を吸い取られ,身動きできない状況に追い込まれる危険もあるのだ。実際,アマゾンに自社の売れ筋商品を知らせたくないという判断でマーケットプレイスを敬遠する企業も存在する。(p78)
それでは,もうアマゾンには絶対に勝てないのだろうか。そんなことはない。奮闘している企業もある。共通するのは,アマゾンの逆張りだ。たとえば,書店である。(中略)成長を続けるのがツタヤチェーンを持つカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)だ。(中略)躍進の象徴が「蔦屋書店」である。書店をカフェや家電と融合させ,居心地の良い空間を創る。(中略)こうした空間,体験の提供はオンラインでは展開しにくい。(p108)
CCCとは仕入れた商品を販売し,何日間で現金化されるかを示したものである。(中略)アマゾンの場合,このCCCがマイナス28.5日。約30日前後で推移しているのだ。極論すれば,物流倉庫にある商品が販売される30日前にすでに現金になっているということになる。CCCのマイナスが大きいことこそ,アマゾンが巨額の投資や新たな事業を次々と展開できる源泉なのである。大量のキャッシュが動いていれば決算書の赤字など,どうでも良いことだ。(p128)
普通,10兆円規模の企業になれば成長が鈍りそうなものだが,そんなことはお構いなしに年間20%以上の成長を保っているのだ。(p139)
アマゾンは,1997年の上場から20年間の累積利益が約50億ドルほどだ。(中略)これほど少ない利益でこの規模に達した企業は歴史上,他にない。(中略)この決算上の利益の小ささこどがアマゾンの強みなのである。(p142)
現在,アマゾンの株価は当初の1252倍だ。もしも100万円アマゾンの株を買っていれば,現在12億5000万円ほどになっていた計算になる。しかし,きっと20年間アマゾン株を持ち続けた投資家はいないだろう。ダウ・ジョーンズの報道によると,アマゾンは上場後の20年のうち,16年の間で年間20%超株価が下落した。(中略)ウォーレン・バフェットですら,2017年に自身が経営する投資会社の年次株主総会でベゾスについて「すばらしさを過小評価していた」とし,同氏が成功するかどうかは「まったくはっきりしなかった」と述べたほどだ。(p144)
各社はCCCを縮めようと必死だが,忘れてはいけないのは,モノを仕入れてから売るまでの機関を短くすることが最も重要であることだ。そのためには当然,物流への投資が必要だ。アマゾンは物流センターやトレーラー,航空機を保有するまで,きめこまかい兵站線を構築している。ベゾスは事業を伸ばすというより,兵站線の充実に力を注ぐことで巨大な経済圏を構築してきたのだ。(p146)
この2000年がアマゾンの窮地だった。(中略)アマゾンも危機を囁かれ,アマゾン・ドット・ボム(爆弾)と揶揄されるようになる。いつ破裂するかわからない存在だったのだ。(中略)ここで驚くべきなのは,当時アマゾンは利益を生み出していないのにもかかわらず,1999年からの1年間で倉庫を2ヵ所から8ヵ所に急拡大していることだ。(中略)赤字を垂れ流しても,事業拡張に投資を続けるという現在のアマゾンの原型はすでにできあがっていたのだが,(中略)外部からの評価が低い中でも,当時からベゾスの姿勢はまったくぶれていない。(p149)
そんな時代の2000年,ベゾスはずっと「投資が必要だから」を強調していた。(中略)私も,どう肯定的に捉えても,苦し紛れの発言だったという印象がぬぐえない。(中略)窮地を強気な「言い訳」で乗り切った後のAWSの大成功が,ベゾスのそれまでの発言を正当化させたといえよう(p153)
現在ではアマゾンにAWSを利用する申し込みをしてから15分程度で数千台のサーバーを利用する体制が整うという。自前のサーバーを大金をはたき,何年もかけて用意するのが馬鹿らしくなってくる。システムも,ジャンルを問わず豊富な種類で用意されている。(中略)アマゾンは小売りのノウハウもすごいから,AWSがモテ要るシステムの方が,自社で開発するよりも便利だったりもする。(中略)こういったクラウドサービスいおいて,もはや,この分野でアマゾンに対抗できるのはマイクロソフトだけだといい切ってもいい。(中略)価格競争力も高い。サービス開始からの約10年でなんと60回以上値下げしている。(中略)このジャンルでも,アマゾンお得意の規模のメリットを最大限に発揮し,顧客への還元を続ける。これでは,競合他社に勝ち目はない。(p161)
AWSの死角をあげるとすれば,アマゾンがあらゆる産業で大きくなりすぎたことかもしれない。小売りや物流で強大な存在になったために,それらの分野で競合する企業が,クラウドを使うときはアマゾンの利用を避ける動きが出てきている。(P180)
今や,コンピューター業界に人びとは気づいている。アマゾンの本当の敵は出版社や書店ではない。我々コンピューター業界だと。書店は文化施設として生き残るかもしれない。しかし,下手をすると,機能と価格だけで勝負するコンピューターの世界ではアマゾンしか生き残らない可能性すらある。(p185)
小売業にとっては顧客との継続的な関係性こそ資産であり,生命線である。この会員制サービス(プライム会員)は顧客のロイヤルティ獲得だけでなく,金銭的にも大きな意味を持つ。年会費は前払いだ。アマゾンには,1年前にお金が入ってくる。キャッシュフロー経営を掲げるベゾスにとってはこの金脈を見逃すわけがない。(p195)
アマゾンの日本市場への期待は,プライム会員の年会費に如実に表れている。米国が119ドル(約1万2000円),イギリスが79ポンド(約1万4000円)。ドイツがちょっと下がって49ユーロ(約6500円)で,日本はさらに安い3900円だ。世界的に見ると破格の値段設定だ。(p199)
米国のスタートも39ドルだった。会員数の増加に伴い,2014年に99ドル,2018年に119ドルに引き上げたように,日本でも段階的に価格を引き上げるだろう。おそらく3900円から最終的には1万円前後に上げる可能性が高い。すでにアメリカでは年会費を引き上げても会員は減るどころか増えているので,あとから年会費を上げても会員が減少することは少ないことが予想できる。(p199)
一度入会させてしまえば,プライムは,便利すぎるが故に脱会するきっかけを奪う機能を多く持ち合わせている。(中略)会員をやめる影響は,通販の使い勝手が悪くなるなどにとどまらない。プライム・サービスは,すでにリア不スタイルの一部となってしまっているのだ。(中略)会員拡大のいちばん魅力的なものは,日本では2015年9月に始まった「プライムビデオ」だろう。(中略)豊富なコンテンツを考えると,動画サービスだけ使ったとしてもすごい。(p200)
しかし,アマゾンの強みは,オリジナルコンテンツの充実ぶりだ。(中略)ここまでくると,すでに映像制作会社だと言っていいだろう。視聴者のテレビ離れという潮流にものっている。(中略)これまでテレビや映画のコンテンツを流していたアマゾンが,自らのコンテンツをテレビ向けに逆に売る可能性も大きい。(p201)
アマゾンの成功を見ているとシェアを重視することが本当に「悪」なのかと思えてくる。アマゾンのシェア重視は採算性を完全に度外視しているといっても言い過ぎではない。(中略)自分が撤退するか相手が撤退するかの極端な勝負に出る。(p224)
アマゾンは現在はNVOCCとして海上輸送を手がけるが,輸送量が増え,自前で船を持つ方が合理的と判断すれば,船を保有するだろう。(中略)顧客に安く商品を届けるには手段を選ばない。それがアマゾンなのだ。(p233)
物流では,このラストワンマイルの費用が最も大きく,ここのコスト削減ができるかどうかが鍵を握っている。(p235)
ヤマト運輸がアマゾンに自前化の引き金を引かせている。(中略)アマゾンは日本でのサービスを開始した時点で,米国での事例を参考に,将来はヤマトを使わない状況をおそらく見越しているだろう。(中略)実際,ヤマトから当日配送の撤退検討を受けても,アマゾンは冷静だった。(p248)
アマゾンは新しいサービスへの参入が早く,また撤退も早い(p259)
日本の出版物は,卸である「取次会社」を通して書店に流通されるのが伝統である。しかし,アマゾンは取次会社を介さずに本を出版社から仕入れる「直接取引」を拡大する方針に舵を切っている。(中略)アマゾンと直取引すると,出版社にもメリットがある。取次を通す時間がなくなる分,アマゾンの在庫がなくなった場合の時間が短くでき,機会損失を防ぐことができるからだ。(中略)出版業界でアマゾンが黒船扱いされてきたのは,見たこともない手口を使って業界に殴り込みしているように見えるからだろうが,じつはこの「卸の中抜き」は,小売り業者にとっては当たり前のことだ。(中略)アマゾンは,小売業として新しくもない当たり前のことをやっているだけだ。(p262)
万引きの問題も見過ごせない。(中略)書店の万引きロス率は1.41%である。一方,大手取次の日販によれば2017年の書店の営業利益率は0.11%だ。つまり万引きさえなければ書店の利益は10倍以上になることになる。(p264)
購入時の総量はゾゾタウンが一律200円であるのに対し,アマゾンは2000円以上で無料になる。(中略)巨大なキャッシュと物流網を持つアマゾンとの体力勝負になれば,ゾゾタウンもユニクロも勝ち目はない。(p287)
銀行は,融資を決めるときは一般的に決算書で判断する。しかし,アマゾンは決算書など見ない。自分で持っているデータの方が確かだからだ。マーケットプレイスを通して得た,種品している商品や日々の売上など膨大なデータを分析して融資する。(中略)あとは融資の判断のための基準を決めれば,融資は全自動で行える。(p291)
アマゾンから,融資の提案がきた時点で,審査はすでに終わっている。借りたい出品企業はオンラインで金額と返済期間を選択するだけで,最短で翌日に手元にお金が入る。通常んお金融機関での融資は1カ月以上の期間を要することを考えれば,その短さは常識を塗り替える。このスピードは小規模な事業者がビジネスチャンスを逃さないためには,大変ありがたい仕組みだ。(p294)
金利は年率6~17%とも言われており,銀行融資より高い。(中略)しかし,零細や小規模業者の中にはアマゾンレンディングでしか借りない業者もいるという。面倒な書類手続きからも解放されるため,商品企画や仕入れに専念できるからだ。(p295)
クレジットカードが儲かるのは,リボ払いやカードローンなどだ。クレジットカードの利用者のうちの1%が10万円のカードローンを利用すれば,すごい数字になる。(p298)
アマゾンゴーの真の脅威とは,万引きがゼロになることだ。(中略)リアル店舗が増えれば,おそらく店頭でのプライム会員向けの特典なども提供される。(中略)店員を少なくすることで小型店舗を多数展開し,売れ筋だけを最安値で販売する。これが実現したときの,既存コンビニへのダメージは計り知れない。(p314)
アマゾンゴーのすごさは,店舗自体の売上ではなさそうだ。おそらくアマゾンも,売上には大して期待していない可能性が高い。アマゾンゴーの本当の意味は,そのテクノロジーだ。(中略)アマゾンがこのシステムを作り上げることこそ,プラットフォーマーとしては重要なのだ。このシステムは,他の店にも使える。(中略)「作ったシステムを売る」というのは,プラットフォーマーにとっては必要条件だ。(p316)
すでにアマゾンは2015年9月に「アマゾンフレックス」を始めている。これは,配送の専門業者ではなく「個人」が荷物を配達する仕組みだ。こうすることで,注文からお届けまでの時間を30分以内に短縮しようとしている。(中略)アマゾンゴーが街中に普及すれば,自転車や徒歩で気軽に個人が配送代行を手がける日は遠くないのかもしれない。(p320)
ECサイトでのアパレル各社も,顧客の販売履歴を持っている。いつ誰が何を買ったかは把握できるのだが,アマゾンはエコールックを通じて,この情報に,「買った服がどの程度着られているか」,「どのような組み合わせで着られているか」を把握することも可能になったのだ。(p333)
ベゾスが求めるのは,協調などするよりは個のアイデアが優先される組織である。つまり,権力が分散され,さらにいえば組織としてまとありがない企業が理想だという。たとえば,AWSを開発している部署はアマゾンゴーには興味がない。それがいいというのだ。(p356)
ベゾスは,理系のトップらしいところが出ているように思う。たとえば,経営数値にあまりとらわれないところだ。(中略)当然のことながら,AIなどテクノロジーへの感性も理系の方がある。たとえば,理系には実験がつきものだ。実験したら失敗することがよくあることを,経験的に知っている。(p357)
企画会議では,6頁にまとめられたプレスリリースを模した史料を用意するらしい。それを,出席者が最初の20分をかけて読むことから始まる。パワーポイントなどは使わないらしい。(p358)
アマゾンはKPI(重要業績指標)至上主義とも言われる。(中略)恐ろしいのは,このKPIの目標管理を0.01%単位(通常は0.1%単位)でしていることだ。(中略)日本では楽天がこれを真似たが3カ月くらいで自然消滅したとか。(p359)
ベゾスは英単語で「情け容赦ない」を意味する「Relentless」という単語を非常に好んでいたからだ。ちょっと恐い。しかし,ベゾスは本当にこの言葉が好きなようだ。(p362)

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