著者 加藤 仁
発行所 講談社現代新書
発行年月日 2009.09.20
価格(税別) 720円
● “術”といっても,万人に妥当する方程式のような術があるわけでは,もちろんない。著者が取材した多くの人たちの,いうならエピソード集だ。
章立ては次のとおり。
1 地域発見!日帰りの旅
2 夫婦で行く旅
3 男も女もひとり旅
4 私家版「街道をゆく」
5 ライフワークとしての「大旅行」
● 以下にいくつか転載。
夫婦の旅を描いた古今東西の感動的な名著はないかとさがしてみた。ところが名著どころか,体験的な夫婦の旅の本がごくわずかしかないと知った。(p48)
杉原善之さん(取材時八十四歳)は,田山花袋の言上を体現するかのように,七十歳から旅に生きた人である。「それ以前の,七十年の人生については,克明に憶えていないのですよ」(p81)
ガイドブックには安宿は危険であると書かれていたりするが,藤本さんからすると,逆である。ロビーに雑多な人たちが入ってくる大きなホテルほど旅行者は狙われやすいということになる。(p95)
旅先では「単語を並べるだけのワン・ワード・イングリッシュ」であると言う。相手も英語が達者でないばあい,そのほうが通じやすい。(p95)
首都圏に住まいのある藤本さんはこくつづける。「東京の町歩きは,もっととしをとってからでいいよな,と妻には言っています」(p98)
カソリックの国は,中心街にある教会の周辺に好ましいホテルがいくつかある。ただし教会に近いほどホテルの宿泊料は高いので,そこから一,二本通を入り,こぢんまりとした宿に泊まるのがいいと,茅野さんは言う。(p101)
「ことばにはおカネをかけないの」 茅野さんのフランス語もイタリア語も,スペイン語も英語もNHKのテレビとラジオの講座から仕込んだ。とりわけ交渉ごとができる最低限の言葉だけはしっかりと憶え,相手につけ込まれないようにして旅立つ。「最初にナメられると,ろくなことはありませんからね」(p103)
あらかじめ宿を決めてしまうと,日本を発つ前からその旅が見えてしまい,こころが踊らない。宿が気に入れば長逗留をし,心豊かな時間の流れに酔いしれる。三ヵ月の旅であってもにもつは一泊旅行の鞄しか持たない。そうすると旅人から土地のひとになれるような気がするという。(p104)
私のばあい年金はわずか,カミさんもパートで働いています。金銭的な欲を言いだせばきりがないけれど,十万円を得たならば,それを“時間”で補って二十万,三十万の価値を生みだすようにつかう。そうしなければ“苦しい”“貧しい”と私らは嘆いてばかりいることになりますからね(p144)

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